第89話 旭は模擬戦について話し合う

 ソフィアとギルドマスターが白熱した論議を繰り広げた後、俺達は我が家に帰ってきた。

 ギルドマスターが模擬戦の観戦者の統計を取ってくると、足早に部屋から去ってしまったからだ。

 ……準備に意気込むのはいいんだが、招き入れた人間を放置していくのはどうかと思う。


 まぁ、ユミはたくさんのお菓子を食べることができて満足したみたいだからいいんだけど。

 ちなみにユミは現在ソファでお昼寝……夕寝か?をしている。

 夕飯までに起こせば問題ないのでそのまま寝かせておこうと思う。


「さて……と。模擬戦で戦う順番をどうしようか」


「パパ。わたしとリーアはざっくりとしか聞いていないんだけど……どうしてそんなことになったの?」


 俺が話を切り出すと、レーナが首を傾げて質問してきた。

 ……そういえば、レーナとリーアには模擬戦をやる経緯を話していなかったな。

 俺はギルドマスター室での出来事を簡単に説明した。


「前に話していたウダルの人たちに魔法を披露するため……か。お兄ちゃんごめん。そういう話をしたことをすっかり忘れてた……」


「わ、わたしは覚えていたよ!?本当だからねッ!?」


 俺の説明を聞いて素直に忘れていたと言うリーアと、なんとか取り繕うとしているレーナ。

 まぁ、俺も忘れていたから取り繕う必要はないんだが……。

 レーナが慌てながらも頑張って信じさせようと頑張る姿は……大変愛らしいのでそのままにしておこう。


「レーナさん、落ち着いてください。旭さんも忘れていたのですから、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。……旭さん、模擬戦で戦う順番ですが……ひゃん!?あ、旭さん!?突然何を……!?」


 そのままにしておこうと思った瞬間にルミアがネタバレしてしまった。

 俺は無言でルミアの猫耳を撫ではじめた。

 ささやかな俺の抵抗だ。


「さっきのレーナは見てて愛らしかったのに……。すぐにネタバレしてしまうルミアは俺にかわいらしい一面を見せる必要があるのだよ」


「い、言っていることが……ぁん。わかりません……よッ!?」


 ルミアは色っぽい声を上げながらも俺に抗議してきた。

 そんなルミアの抗議はスルーして、猫耳を撫でながら話を続ける。


「さて、模擬戦の順番だが……。俺としては出会った順にしようと思っている。他に意見があったら聞かせてくれないか?」


 出会った順に模擬戦をしていけば、誰がどの順番で仲間になったのかもわかるんじゃないか……そういう考えがあった。

 ただ強さを見せるだけなら問題はない。

 だが、俺はウダルの民衆にどういう順番で今の仲間達と知り合ったのかも知っておいて欲しかった。


[出会った順番であればわかりやすいですね。私は旭の意見に賛成です。それはそうと……そろそろルミアを解放してあげては?表情が蕩けきってますし、床が大洪水です。話に参加できなくなってますよ]


「ふにゃぁぁ〜……」


 ソフィアが俺の意見に賛同してくれた。

 が、ルミアの猫耳を撫ですぎたらしい。

 俺に猫耳を撫でられ続けていたルミアは、ペタンと座り込んでしまった。

 座る際にピチャという水温も聞こえてくる。

 ……やりすぎてしまったか。


「ごめんごめん、あまりにも反応がかわいかったもんで……。ルミア、大丈夫か?」


「旭さん……旭さぁん……」


「……発情モードに入ってしまったか……」


 ルミアは目をハートにして俺にすり寄ってきた。

 尻尾もハートになってるし……完全に発情してしまったみたいだ。

 無意識に【サキュバス】を発動させているのが恐ろしい。


「あーあ。お兄ちゃん、どうするの?このままじゃ話の続きができないよ?」


「リーアの言う通りだよ、パパ。どうするの?このままルミアさんを放置しておくの?」


 俺がどうしようか悩んでいると、レーナとリーアの2人が急かしてきた。

 まぁ、こうなってしまったのは俺のせいでもあるし……責任はとらないとな。


「とりあえずルミアの発情を抑えてくるよ。レーナとソフィアは夕飯の準備を頼む。リーアはユミが起きた時のために残っていてくれ。お願いしても大丈夫か?」


「まぁ、今回はパパが悪いからね……。ちゃんとルミアお姉さんを満足させてあげるんだよ?」


[旭……そう言うことは夜の時にお願いしますね。話が一向に進みませんから]


「じゃあ、私はユミが寝ている間に模擬戦の戦法でも練っていようかな。行ってらっしゃ〜い」


「すまん……頼んだ。ほら、ルミア。俺達は寝室に行くぞ」


「にゃあぁぁぁ……ゴロゴロ」


 俺は完全に発情した猫になってしまったルミアを抱き上げて、寝室に向かった。

 今回は短期決戦にしないといけないから、【色欲魔人】を全開にして挑むとするかな。


 ▼


「うぅ……ご迷惑をおかけしました」


 ルミアの欲情を発散させてから2時間後。

 俺とルミアは居間に戻ってきた。

 ちょうど夕飯が出来上がったらしい。


「ルミアお姉さんが悪いわけじゃないよ。猫耳を撫でるのをやめなかったパパが悪いんだから」


「まさかあそこまでとろけるとは思わなかったけどね……気持ちよかった?」


「それは……はぃ……」


 ルミアは先ほどの失態を謝罪していたが、レーナとリーアにルミアは悪くないと慰められている。

 いや、確かに事の発端は俺だけどさ。

 俺はレーナの責めるような視線を交わしつつ、夕飯を食べ続ける。


「じゃあ、2時間前の話に戻ろうか。ウダルの民衆に俺達の強さを披露するために、模擬戦を行うことになった。……ここまでは大丈夫か?」


「あ、自分が不利になったから話題そらした」


 レーナが呆れたような声を出したが、聞こえない聞こえない。

 俺は耳に両手を当てて首をブンブンと横に振った。


「あはは……。お兄ちゃん、なんか逆に子供みたいだよ?それはそれとして……模擬戦かぁ。対戦相手はどうするの?」


 リーアは苦笑しながらも俺に尋ねてきた。

 たまにはこういう表現するのも大事だと思うんだ。

 本音で語り合える関係性だからこそだと俺は断言したい。


「ギルドマスターは最初は俺達でランダムに戦ってもらう予定だったみたいだが……。俺とタイマンで戦ってもらうことにした。要するに勝ち抜き戦みたいな感じだな。だから対戦相手は俺固定になる」


「わたし達5人がパパと対決するの……?パパ、それ大丈夫?」


 ジト目を向けていたレーナが、一転して心配した表情で俺に尋ねてきた。

 いくら俺のステータスが高いとは言えども、連戦するのはきついのではないかと思ったのだろう。


「まぁ、一戦ごとにインターバルを挟む予定だから問題はないと思うぞ?まぁ……レーナ達に苦戦するようじゃ、5人を守り抜くなんて無理だからな。今回は怪我しないようには調整するけど……なるべく本気でいかせてもらう」


「「「……」」」


 俺の言葉にレーナとリーア、ルミアが静まり返った。

 なぜか【狂愛】のオーラが全身から溢れている。

 そんな中ユミとソフィアは我関せずで夕飯を食べているが……。

 ……何かおかしいことでも言ったか?


「パパ……それは宣戦布告と捉えてもいいのかな……?確かにパパよりは強くないけど、わたし達だって強くなっているんだよ……?」


「まぁ……さっきのはちょーっと言いすぎかなぁ……?なるべくじゃなくて本気できていいよ?昔と違うってことを……証明してあげる」


「旭さんの【成長促進】は私達にも適用されています。前回鑑定した時よりも……能力は強化されているはずです。油断していると……私達が勝ってしまうかもしれませんよ……?」


 3人はそう言って挑発的な表情を浮かべる。

 ……これはあれか。

 レーナ達を想っての発言が煽りとして捉えられてしまったパターンか。


[旭、どうするのですか?こうなってしまったら怪我しないように調整するなんて言っていられないのでは?]


 黙っている俺を見て楽しそうに話に参加してくるソフィア。

 ……たまにSっぽい言動をするよね、ソフィアって。

 しかし、黙ったままなのも状況が悪化する要因になるので、俺はレーナ達に向き直る。


「煽りみたいな発言になってしまったのは……正直申し訳ない。たしかに先ほどの発言は3人に対して失礼な言葉だった。……俺も男だ。愛するものが本気でくると言うのであれば……全力でそれに応えようじゃないか……!」


 そうだ。

 レーナ達は全力で俺と勝負したいのだろう。

 勝ち負けは関係なく、自分達がどれだけ強くなったのか知ってもらいたいんだと思う。

 もしそうなら、それに応えてあげるのが甲斐性のある男というものだろう。


「じゃあじゃあ、もしパパに勝ったら何かご褒美を頂戴!!!」」


「……え?」


 俺が決意を新たにしていると……レーナが素っ頓狂なことを言い出した。

 ……え?ご褒美?

 今以上のご褒美ってなにかあるのだろうか……?

 そんな俺を他所に嫁達の会話は盛り上がっていく。


「レーナさんの意見いいですね!もし旭さんからご褒美がもらえるのであれば……やる気もさらに上がるというものです!」


「ご褒美に関してはお兄ちゃんを倒したらでいいの?それだとかなり条件が厳しくなってくるような気がするんだけど……」


[それでしたら、旭が展開する強化版【聖域】を完全に破壊した人が、ご褒美をもらう形式にするのはどうですか?【聖断】は……流石に無理だと思いますが]


「ソフィアさん。それだと近接主体の私とルミアさんに不利じゃないかな。遠距離主体の人はそれでいいと思うけど、私とルミアさんは別の方法にしてほしい」


「リーアさんの仰る通りですね。それでしたら……旭さんにかすり傷でもつけたらにしませんか?ダメージを与えることさえ厳しそうですし」


[じゃあ、リーアとルミアはそうしましょうか。ユミはどうしますか?]


「ん〜……?にぃにといっしょにデート?したい!!」


「いや、そのご褒美をもらうためにどうするのかという話なんですけど……。まぁ、ユミはその時に考えることでいいかもしれませんね」


 いや……本当に俺を置いてけぼりにして話が盛り上がっているな。

 そしていつの間にか【聖断】を使用禁止にされるというね。

 いいさ、【聖域】だけで乗り切ってやろうじゃないか。


 俺はどの魔法を使って5人の対策を取るかを考えながら……5人の白熱している話し合いを眺めるのであった。

 ……なんか前回もこんな感じだった気がする……。

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