第75話 その頃のレーナ達は……

ーーーー[レーナ視点]ーーーー


 その異変に気がついたのは、パパがソフィアお姉ちゃんを連れて冒険者ギルドに転移してから数分後のことだった。

 わたしがルミアお姉さんを連れてリーアを起こしに行こうとした時……。


 ーーーードタドタドタ!!


 わたしの耳に多くの人間の足音が聞こえてきた。

 ルミアお姉さんもその足音が聞こえたらしく、それまで浮かべていた表情から何かを警戒するようなものに変わる。


「……レーナさん。念のためにゼウスを呼んでおいてください。どうにも……嫌な予感がします」


「……わかった。……顕現して!【全知全能の神】!」


 わたしはルミアお姉さんの言葉を疑うことなく、ゼウスさんを召喚する。

 ルミアお姉さんは神刀を構えている。

 ……普通の相手の場合はこうはならないはずだから……よっぽどの事態だと思う。


『レーナ嬢……今回はいかがなされました?……と、外が騒がしいですな』


「ゼウスさん、連日で召喚してごめんね。ちょっと外から嫌な気配がしているの。ちょっと見てきてもらってもいい?」


『……ふむ。ルミア嬢が神刀を構えていることからも事は重大のようですな。お任せくだされ』


 ゼウスさんはそう言って外の方に向かった。どうやらドアの前で透視をするみたい。

 というか……透視するならここから透視すればいいんじゃないかなぁ……?


『…………ッ!!レーナ嬢、今すぐ主が展開した【聖域】の内側に似た効果の【聖域】を展開してくだされ!!外に数百人規模と思われる男どもが集まっています!!結界に攻撃を仕掛けてきておりますぞ!!』


「「…………ッッ!?」」


 ゼウスさんの言葉にわたしとルミアさんは戦慄した。

 数十人程度ならわたし達だけでもなんとかなる。

 でも……数百人規模だと……数の暴力で負けちゃう可能性が出てきてしまう。

 しかも相手は男だけ。

 もし不用意に出て行ったら……すぐに捕まってしまうだろう。


「……!ユニコーン!今すぐにリーアを起こしてきて!バフ効果とかもつけてからの〜……【聖域】!!」


『か、かしこまりました!』


 わたしはユニコーンに指示を出して、すぐに【聖域】を展開する。

 まだパパが展開した【聖域】があるからいいけど……それが破られたら時間稼ぎにもならないと思う。


「ゼウスさん!外の様子を知りたいから玄関のドアを開けて!パパが展開した【聖域】は家全体を覆っているからすぐに突破される事はないと思う!」


『承知!!』


 ゼウスさんはそう言ってドアを開けてくれた。

 ドアを開けても仁王立ちして立ちふさがっている。

 ドアが開いた先にあった光景は……。


「見ろ、若い女だ!!!野郎ども!あの女神様が言ってくれたのを覚えているな!?この女達を犯すことができれば……俺達は一生遊んで暮らせるぞ!!!」


「「「「「「「ウオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」」」」」」」


 沢山いる男の人達の叫び声が響き渡った。

 ……あんなにも沢山の人が叫んだら地面が揺れるんだ……ってそうじゃなくて!


「パパがいない時を狙って攻めてきた……!?しかも女神って……女神がこんなことをしてもいいと思っているの!!?」


 いくらこの世界を管理しているからってこんなことをしてくるなんて!?

 そんなことが許されるの!?

 ……嫌だ……。

 こんな沢山の人達に犯されたくない……。

 でも……こんなに人数が多いなんて……どうしたら……。


「…………レーナさん!今は嘆いている場合ではありません!!!一刻も早くこの状況を打破しないと!!」


 わたしが泣きそうになっているのを見たルミアお姉さんは、わたしをギュッと抱きしめてくれた。

 口調は強いけど……ルミアお姉さんが本気でこの状況をどうにかしようとしていること、そして……わたしを本当に心配しているのがわかる。

 あんなに乱れていた精神が落ち着いていくのを感じた。


「……うん、……うん!そうだよね!これくらいで泣いていたらパパに心配をかけちゃう!」


 わたしは両頬をパシンと叩いて、気合いを入れ直す。

 ……そうだよ。

 わたしだってパパやリーア、ルミアお姉さん達のおかげで他の人より強くなった。

 MPの枯渇だって……【狂愛】や【慈愛】が補ってくれる!

 ゼウスさんだっているんだ!

 何を弱気になる必要があるというの!


「レーナ!ルミアさん!大丈夫!?」


 そんなことを考えていたら、ユニコーンに乗ったリーアがわたし達に合流した。

 わたしはリーアに状況を説明する。


「うん、まだパパが展開した【聖域】が破れらていないから大丈夫!!」


「それなら良かった!……にしても、ものすごい数がいるねぇ……。どうやって防衛ラインを死守しようか」


 リーアは嫌そうな視線を男の人達に向ける。

 そんな男の人達はといえば……。


「お、おい!あそこにいるのはダークエルフじゃないか!?あんなに幼いダークエルフがいるなんて……!野郎ども、気合いを入れろぉぉぉ!!まずはこの邪魔な結界をぶち壊すぞ!!魔法が使える奴は合同で魔法をぶっ放せ!あの結界を壊したら……あの女達で一晩中楽しもうじゃねぇか!!!」


「「「「「「「オォォォォォォォォォォォ!!!!絶対にあの女どもを犯してやる!!!!!」」」」」」」


 ……なんかさっきよりもやる気になっているんですけど。

 って、魔法攻撃と物理攻撃を同時に行うの!?

 味方が攻撃を受けたとしても……この結界を破壊するつもりなんだ……!


「あの男達の最終目標は私達の身体ですか……。……ゼウス!召喚主ではありませんが、旭さんの嫁として告げます!ドアの前を死守してください!私達も結界内から遠距離攻撃で支援します!!」


 ルミアお姉さんはゼウスさんに鋭く指示を飛ばす。

 パパ以外の男を毛嫌いしているから、負けた時のことを考えてしまったのかもしれない。


『承知した!!では……行くとしましょうぞ……!主の大切な女性を狙うクズどもめ……目にもの見せてやろう!!』


「なんだ!?あの爺さんの身体が……でかくなっていく!?」


「お、おい!あの爺さんに攻撃を集中させろ!多分奴らの切り札だ!」


 ゼウスさんはそう言って結界の外に出て行った。

 結界から出てすぐに5mを超えるサイズになっていく。

 男の人達はゼウスさんに攻撃を集中させ始めた。

 大きいサイズだとその分被弾も増えそうだけど……ゼウスさんは囮になってくれているみたい。

 結界に向けられていた攻撃の1/4ほどがゼウスさんに集中している。


「外に出られないのなら……!【狂愛】と【嫉妬】、【能力強化】を併用して……【百鬼夜行】!!!あの男達がドアを超えてこないように防衛ラインを死守しなさい!!」


「「「「グォォォォォォォ!!!」」」」


 リーアは妖怪達を呼び出して、男達の対処に向かわせた。

 今回は本気で呼び出したらしくて膨大な数の妖怪が外に向かって駆け出していく。


「なんだこの化け物!?」


「ええい、怯むな!!!こっちの方が圧倒的に人数が多いんだ!!屋敷を取り囲んで全方向から攻撃するぞ!」


 親玉らしき人がそう叫んだ途端、後方にいた男の人達が一斉に家を覆うように移動を始めた。

 ……やばい!

 早くパパに連絡しなくちゃ!!


 わたしは震える手でスマホを取り出す。

 ……早く、早く繋がって……!!


『もしもし、レーナ?どうしたんd「パパ、助けてッ!!」……レーナ!?』


 わたしは電話に出たパパの言葉を遮って助けを求める。


『レーナ、どうした!?大丈夫なのか!?』


「い、いきなり沢山の男の人がやってきたの!!多分だけど数百人規模はいると思う!まだパパが全力で張った【聖域】とゼウスさんのおかげで私達は無事だけど……数が多いから時間の問題かもしれない……ッ!男の人達はわたし達を犯すとか叫んでるの!!だからリーアもルミアお姉さんも男の人達に応戦できなくて……」


「なんだぁ……?愛しの男にSOSってか?今更連絡したところでもう遅い!諦めて俺達犯されるんだなぁ……!?」


「……いやッ!そんな粗末なモノを見せながらこっちにこないでッ!!」


 わたしは下半身を丸出しにしてドアに近づいてくる男の人に驚いてスマホを落としてしまった。

 一応パパに状況の説明はできたけど……伝わったかな?

 スマホは……あぁ!

 落ちた衝撃で画面にヒビが入ってる!!

 ……あとでパパに直してもらお……。


「そんなにパパとやらが助けに来なくて悲しいのか?ハハハ……安心しろ。俺が快楽に連れて行ってやるからよぉ〜!」


 ドアの外では粗末なモノをぶら下げてわたしに見せつけている男の姿。

 そんなポークビッツでわたしを快楽に連れていくとか……自信過剰にも程があると思う。

 でも、パパ以外のものは気持ち悪いとしか感想が出てこない。

 わたしが思わず後ずさりすると……。


[…………その粗末なモノをレーナに見せつけるとは……度し難い変態ですね。去勢してあげましょう。【聖域×2】]


「……どこから声が……?……ってギャァァァァ!!?お、俺の自慢のブツがァァァァァァ!!」


 わたしの目の前の空間が歪んだと思ったら、そこからソフィアお姉ちゃんの声が聞こえてきた。

 汚ならしいものを見せつけていた人は、噴水のように血を撒き散らしながら息を引き取った。

 ……まさか【聖域】で物理的にあの人のポークビッツを切り取った……!?

 こんな芸当ができるのは……ソフィアお姉ちゃんしかいないよね……!?


「まさか……ソフィアお姉ちゃん……?」


[えぇ、ソフィアですよ。帰宅が遅くなり申し訳ありません。レーナ、大丈夫ですか?」


「ううん……むしろかなり早い方だと思うんだけど……」


 ソフィアお姉ちゃんはそう言ってわたしの頭を優しく撫でてくれた。

 ルミアお姉さんとリーアの方にもソフィアお姉ちゃんの分身が駆け寄る姿が見える。

 ……そっか。

 パパはあの通話で事態を理解してくれたんだね。


「……でも、なんでパパは一緒じゃないの?」


 わたしは疑問に思ったことをソフィアお姉ちゃんに尋ねる。

【長距離転移】で戻ってくるだけならパパも一緒でいいはずだ。

 何か策があるのかな……?


[大丈夫ですよ。旭は空を飛んで帰ってきます。私が先に戻ってきたのは、レーナ達の回復と……旭が帰ってきた時の準備をするためです]


 ソフィアお姉ちゃんはわたしにそう優しく微笑んだ。

 パパの固有スキルだからなのか、その顔を見ているだけで安心する。

 もう心配しなくてもいいんだという気持ちになるから不思議。


[さて、レーナ達の無事も確認しましたし……。私はもう1つの任務を遂行するとしましょう]


 ソフィアお姉ちゃんはそう言って分身を集合させた。

 パパと同じで本体に意識を統一させているみたいだけど……何をするんだろう?


[ゼウス、一旦戻りなさい!]


『ソフィア殿!?……直ちに帰還致しますぞ!!……ヌゥゥゥゥン!!』


 ゼウスさんが敵を吹き飛ばしてから家に戻ってきた。

 だいぶ遠くまで飛ばしたみたいで、家の周りから一時的に男の人達の姿が消える。

 それを確認したソフィアお姉ちゃんはスキルの使用を開始した。


[……能力を向上させる魔法並びにスキルの使用を開始します…………All Clear。【紅き鎧】の展開を開始……完了しました。続いて……【魔法攻撃反射】と【魔法威力向上】を使用します。……全ての段階をクリアしました]


 パパと同じ【紅き鎧】のスキルの効果で身体が真っ赤になったソフィアお姉ちゃんは……その両手を空中に掲げた。


[[[3人分の全力の力でMy Masterの任務を遂行します。……【聖断】!!!]]]


 ソフィアお姉ちゃんが使ったスキルは【聖域】ではなく聞いたことがない魔法だった。

 魔法が発動された途端、家の周りは虹色に輝く結界に覆われた。


「な、なんだ……!?あの家の周りに虹色の……大きな城!?」


「お、おい……!俺達の後ろにも壁みたいな結界が展開されてるぞ!?に、逃げ道を塞がれちまった!!」


 ソフィアお姉ちゃんが展開した【聖断】はお城みたいな形状をしているらしい。

 男の人達の後方に現れた壁は……スマホで見た万里の長城?に似ている気がする。


「ソフィアお姉ちゃん。あの魔法って一体……」


 わたしがソフィアお姉ちゃんにあの魔法について質問しようとした時のことだった。


「レーナ!リーア!ルミア!ソフィア!無事か!!?」


 空中から大好きな人の声が聞こえてくる。

 聞き間違えようのないあの声……絶対にパパだ!

【紅き鎧】を使っているのか、パパの身体はきれいな赤色に包まれている。

 その声を聞いたわたし達は思わず叫んでしまった。


「パパ!!」


「お兄ちゃん!!」


「旭さん!!」


[マスター!準備は整っております!]


 そんなわたし達を見て安心したパパだったけど……なんかキョトンとした表情をしている。


「……なにこの虹色に輝くお城……。【聖域】じゃなくね……?ソフィア……なんの魔法を使ったんだ……?」


 あ、パパもそれ気になるんだ。

 というか……パパが出した指示は【聖域】だったんだね……。


 私は空中でポカーンと家を眺めているパパを温かい目で見つめるのだった。

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