第74話 旭は夜叉の如き表情となる

ーーーー前書きーーーー

今回と次回は若干の胸糞要素を含みます。

苦手な方は注意してください。

ーーーーーーーーーーー


「おぉ、旭君。君がくるのを待っていたよ」


 俺とソフィアが丹奈達の後に続いてギルドマスター室に入ると、ギルドマスターが椅子から立ち上がって出迎えてくれた。


「本当は来るつもりはなかったんだけど……。ソフィアに言われたから一応……な」


 俺の言葉を聞いた丹奈とレンジは文句を言いたそうな顔をしていたが……軽くスルーした。

 いや、文句を言われる筋合いはないから。

 イケメンとビッチとの約束よりも、嫁優先なのは当たり前だろ? 

 ……ソフィアに感謝するんだな。


「それでもここに来てくれたのには変わらないだろう?……さて、[マスターガーディアン]代表の丹奈。メンバーは集まったことだし、早速君が旭君に伝えたいことを話してもらってもいいか?」


「わかりました。……あーちゃん、多分予想できているとは思うけど、私が伝えたかったのは篠田伊吹姫さんについて」


 ギルドマスターに話を促された丹奈は、俺の顔をまっすぐ見て話を切り出した。

 まぁ、話の内容は概ね予想していた通りだったが。


「昨日女神から連絡があってね?なんか予想以上に早く準備ができたから、明後日に転移させるらしいよ」


「……2週間後に転移させるんじゃなかったのか?」


 俺は冷静さを失わないように努めて平然と答える。

 それにしても……2週間の準備が必要な工程をどうやって短縮した?

 低階級の女神といえども個人情報を調べるのには時間がかかるはずだ。

 そんな俺を見た丹奈は話を続ける。


「あーちゃんは以前、伊吹姫さんの件で警察から事情聴取を受けたよね?……と言うことは、相手も事情聴取を受けていることになる。女神は警察のデータベースにハッキングをして、個人情報を抜き取ったみたい。転移までの期間が短くなったのはそれが原因だと思う」


「……俺の反応を見るためだけにそこまでやるのか……ッ」


 どれだけタチの悪い女神なんだろう。

 警察のデータベースにハッキングしてまで転移させたいのか……!?

 その女神……堕落してるんじゃねぇか!?

 俺があまりの理不尽さに拳を震わせていると、ソフィアがそっと俺の手を握ってきた。

 しかし、その瞳は怒りに満ちている。


[……旭。流石に今回のことは神としてやってはいけないことに分類されます。……転移させる前に連れてきて滅ぼしますか?]


「「「…………ヒッ!?」」」


 ソフィアの冷酷な発言に3人は身体を震わせた。

 ……正直なことを言うと、ソフィアが提案したように女神の存在そのものを消し去りたい。

 だが、それをすることで発生する弊害もある。


「……本当ならそうしたいんだけどな。あんな女神でもこの世界を管理しているんだろう?むやみに消し去ることは……俺の独断でしていいことじゃない。……俺の女を傷つけようとしたら分からないが」


「あーちゃん……それフラグになってない?」


 丹奈が小さく突っ込んだが……無視だ無視。

 そんなこと言われたら、家に残してきたレーナ達が心配になるじゃないか。

 そう考えたのがいけなかったのかもしれない


 ーーーーピリリリリリッ。


 突如俺のスマホから着信音が鳴り響いた。

 俺はギルドマスターに一言言ってスマホの画面を見る。

 宛先は……レーナか。

 わざわざ電話してくるなんて……。

 嫌な予感がする。


「……もしもし、レーナ?どうしたんd『パパ!助けてッ!!』……レーナ!?」



 俺の言葉を遮って聞こえてきたのはレーナの叫び声。

 電話の向こうから野太い男達の声と【聖域】を壊そうと攻撃している音が聞こえてくる。

 ……嫌な予感が当たってしまったか。

 丹奈がフラグとか言ったせいだ。

 きっとそうに違いない。


「レーナ、どうした!?大丈夫なのか!?」


『い、いきなり沢山の男の人がやってきたの!!多分だけど数百人規模はいると思う!まだパパが全力で張った【聖域】とゼウスさんのおかげで私達は無事だけど……数が多いから時間の問題かもしれない……ッ!男の人達はわたし達を犯すとか叫んでるの!!だからリーアもルミアお姉さんも男の人達に応戦できなくて……。……いやッ!そんな粗末なモノを見せながらこっちにこないでッ!!』


 ーーーーープツッ。ツーツーツー……。


 レーナが最後に叫んで……通話が切れた。

 多分……スマホを落としてしまったんだろう。

 ……そうだよな?そうだと言ってくれ。


「……おい、笹原丹奈」


「……ひゃい!?」


 俺は画面が暗くなったスマホを握り締めながら、丹奈の名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた丹奈は身体をピーンと伸ばした。


「まさかとは思うが……お前のイケメン達が関与してたりしないよな……?」


「と、当然でしょ!!そんなことをするような仲間は1人もいない!!……多分女神が転移の邪魔をされないように刺客を送りつけたんだと思う。あの女神は邪魔をされるのをとても嫌うから、レーナちゃん達を寝取ろうとしたんじゃないk……ヒィィィ!?」


 ……俺の女に手を出さなければ……と言った側からこれか……?

 しかも俺からレーナ達を寝取る……?

 そんなふざけた事を許していいのか?

 イイヤ……ユルシテナルモノカ。


 俺はギギギとギルドマスターの方をゆっくり向いた。


「ギルドマスター」


「な、なんだい……?」


「もしもの話だが……今レーナ達を襲っている人間がウダルの街の民だったとして……殺したところで罰則はないよな……?」


「あ……あぁ。まだ襲われていないなら強姦未遂になるな。……旭君は罪に問われないと思うぞ……?強姦未遂でもこの街では極刑だし……」


 俺の言葉にギルドマスターは冷や汗を浮かべながら答える。

 ……よし、言質は取った。

 女神をどうするかは……レーナ達を救出してから考えよう。

 俺は隣にいるソフィアに指示を出す。


「ソフィア、レーナ達を助けに行くぞ。ソフィアは先に【長距離転移】で家に戻って、【聖域】の再展開とレーナ達の回復をしてくれ。……俺は上空から男達を消し炭にする」


[Yes,My Master。……もちろん全力を出していいんですよね?]


 返事を返すソフィアの口調からも怒りが伝わってくる。

 俺は無言でソフィアを抱きしめた。


「……当然だろう?使えるスキルを全部使って【聖域】を使ってくれ。


[……任務了解しました。このソフィア、マスターの期待に添えるように全力で任務を遂行します!……【長距離転移】!]


 神妙な面持ちで答えたソフィアは【長距離転移】で家に戻っていった。

 これで準備は整う……はずだ。


 ソフィアが転移したのを確認したギルドマスターは恐る恐ると言った感じで俺に話しかけてきた。


「旭君……くれぐれもこの街を壊すことだけはやめてくれよ……?」


「……それは襲撃をしている男達次第だな。まぁ、場所は離れているし……被害はないんじゃないか?あぁ、窓は開けておいてくれよ?


「わ、わかった……!」


 俺の言葉の意味を理解したギルドマスターは急いで窓を開けた。

 ……うん、できることなら壊したくないからな。

 やはりできる男は違う。


「お、おい……旭。俺達も力を貸そうk「イケメンは黙ってろ。先に殺されたいのか?」……俺だけ扱いが雑すぎる……」


 レンジはそう言いながら丹奈の胸元に飛び込んでいった。

 イケメンに対する扱いなんてこんなもんだろ?

 一回イケメン以外に生まれ変わってその辛さを味わえばいい。

 丹奈はそんなレンジの頭を撫でて慰めているが……その行為はさらに俺を苛立たせるだけだと気付いて欲しい。

 俺の女が危ない目にあってるのにいちゃついてんじゃねぇよ……!


「待ってろよ……レーナ、リーア、ルミア。すぐに助けに行くからな……!【紅き鎧】と【時間遅延】を発動……!!」


 時が遅くなり、○ラン○ム状態になった俺は足に魔力を集中させる。

 フワリと浮かび上がった俺は家に向かって全速力で飛び出した。


 ーーーーードンッ!


「……窓を開けた意味がないじゃないか…………ッッ!!」


「まさに悪鬼羅刹の如く……ね……。女神もバカな事を選択しちゃったなぁ……。次連絡取った時生きていればいいけど……って、レンジ!?大丈夫!?」


 冒険者ギルドの方からそんな叫び声が聞こえた。

 ……そういえば【時間遅延】の状態での全速力って衝撃波が発生するんだったな。

 後で謝りに行くとしよう。

 丹奈の方は……無視でいいだろう。

 あいつも上級の回復魔法くらいは使えるだろうし。

 そんなことよりも、今はレーナ達のことが心配だ。

 ソフィアが先に戻って【聖域】を展開し直してくれてあれば、もう少しは持つはず……。


 ……だが、もし間に合っていなかったとしたら?

 俺が家についた時、レーナ達が沢山の男達に輪姦されていたとしたら……?

 考えるだけで殺意が湧いてくる。

 俺自身、丹奈と伊吹姫の2人が当時付き合っていたクズな彼氏から寝取った経験はあるが……無理やり犯すなんてことはしていない。

 あれは彼氏の方がクズだった。

 丹奈が当時付き合っていた彼氏は、その彼氏の友人に彼女を貸して目の前で犯させると言った最低の奴だ。

 2人は寝取りを望んだから結果的にそうなった。

 だが、今襲ってきている男達は自身の欲情のままレーナ達を犯し、孕み袋にしようとすることしか考えてなさそうだ。

 ……ゴブリンよりもタチが悪い。

 むしろ連中はゴブリン以下だ。

 その事をその身に刻み込んでやらなければならない。


 俺は逸る気持ちを抑えることなく、音速で空を駆けていく。

 辿り着いた時に男達をどう殺すか、どうして俺の女達を狙ったのか、女神に操られていたのか……etc.

 色々考えてしまうが、今はとにかく少しでもはやく家に戻ることを考えねば。


「……頼む!4人とも無事でいてくれ……!お前達が他の男共に輪姦されているシーンなんて俺は見たくないんだ……!」


 俺は【狂愛】と殺意のオーラを全身から放ちながら家に向かうのだった。

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