第73話 旭とマスターガーディアン再び

 それは家を建築した翌日の朝7時頃に起こった。


 ーーーードンドンドン!!


「……こんな朝っぱらから誰だよ……」


 俺は気怠げにドアの方へ向かう。

 昨日はいつも以上にハッスルしてしまったので、まだ2時間しか寝ていない。

 レーナ達はどうしたのかって?

 意識を失うくらい愛したせいなのか……まだぐっすりと眠っているさ。

【聖域】を乱暴に叩く音も聞こえていないらしい。

 ……なんか誰がきたのか見に行くのも面倒になってきたな……。

 そう思って寝室へ戻ろうとしていたのだが……。


 ーーーードンドンドン!

 ズガガガガガガ!!

 ドドドドドドドド!


「だぁーーーっ!!うるっせぇーーー!」


 なんなの!?

 叩くどころか【聖域】を壊そうと攻撃してきているじゃねぇか!!

 ……正直どれだけ攻撃しても意味はないんだけどな。

 今回は【魔法攻撃吸収】に加えて、様々なバフを重ね掛けした強度が半端ない【聖域】だ。

 しかし、それと騒音は別である。

 せっかく4人がぐっすり寝ているのに起きてしまう。

 俺は苛立ちながらドアの前に向かった。

 ドアを開けても【聖域】は展開されたままだから、相手がいきなり突っ込んでくる可能性もない。

 ……よし、迷惑行為をやめさせよう。

 最悪の場合……うるさくしている奴らを吹っ飛ばそう。


「こんな朝早くに誰だ!!……って、ニナのパーティかよ……」


「待って!!ドアを閉めないで!!私達の話を聞いて!!」


 朝早くからうるさくしていたのは丹奈達だった。

 俺がドアを閉めようとすると、慌てたように叫んでくる。


「…………チッ、何の用だよ。お前達がうるさくしたらレーナ達が起きてしまうだろうが」


「……言ってることがすでに魔王みたいなんだけど……。う、うるさくしたのはごめんって。ギルドマスターからあーちゃんが家を購入したと聞いて……至急話したいことがあってきたのよ。……なんで【聖域】を展開しているのよ……」


 丹奈は謝りながらもブツブツと文句を言っている。

 なんで【聖域】を展開したかって?

 そりゃあお前みたいな奴が来るだろうと思っていたからだよ!!


「ニナがこんな朝早くから訪ねてくれているんだぞ!少しくらい話をきいたらd「あ゛ぁ゛!?」……」


 イケメンには話を聞いていない。

 俺はイケメンを睨みつけて言葉をシャットダウンする

 というか、見るだけで自信をなくしていくから早く俺の目の前から立ち去ってほしい。

 俺は若干殺意を放ちながら、丹奈達に告げる。


「……何の用だか知らないが、アポなしで勝手に訪問した上に俺が展開した【聖域】を壊そうとしている時点で話を聞くつもりはない。というか、まだ寝て2時間しか経っていないんだ。どうしても話がしたいなら夕方に冒険者ギルドに来い。それができないなら……仕方ない。そのイケメン達を1人ずつ殺す」


 俺の言葉が冗談ではないと感じた丹奈は慌て始めた。

 本気で自分の彼氏を殺されるかもと思ったのだろう。


「わ、わかった……!!わかったからその殺意を抑えて!!……じゃあ、夕方15時頃に冒険者ギルドにいくから、あーちゃんもきてよ?ギルドマスターには話を通しておくから」


「……しょうがねぇな。だが、イケメン達は連れてくるな。連れてきても……そうだな。斥候だけにしてもらおうか。レーナ達がイケメンなんぞに惚れるとは思えないが、万が一があるからな」


「……それで対談の場を設けてくれるならその要求を飲むよ……。じゃあ、また夕方に冒険者ギルドで」


「お、おい、ニナ!本当にいいのか!?グランとかも連れて行ったほうがいいんじゃ……」


「そんなことしたら確実に貴方達は殺されるよ?大切なパーティメンバーをこんなところで失うわけにはいかない」


 丹奈は愚痴るイケメン達を振り切って帰って行った。

 イケメン達も慌てて丹奈の後を追いかけていく。

 ……ようやく静かになった。

 俺も二度寝するとしよう。

 約束?

 覚えてたらいくよ。

 ……覚えていたらね。

 イケメンを侍らせているビッチとの約束よりもうちのヒロイン達に癒されることの方が大事だし。

 俺は大きなあくびをしてレーナ達がいる寝室に向かうのだった。


 ▼


 そんなことが早朝にあった同日の夕方15時頃。

 俺はまだ屋敷の中にいた。


[旭、そろそろ時間では?行かなくてもいいのですか?]


 ソフィアは俺にお茶を入れながらそう質問してきた。

 ……あー、もうそんな時間なのか……。面倒くさいなぁ……。


「あー……やっぱり行かなきゃいけないのか?正直ソフィアがいるからニナが持ってくる情報はそこまで重要性を感じないんだよなぁ……。どうせ伊吹姫関連だろ?」


[それについては激しく同意しますが……。聞いたところによると、夕方に冒険者ギルドへ来るように言ったのは旭らしいじゃないですか。それならば一応行っておくべきかと]


「……それもそうか……。仕方ない、行くとしましょうかね」


 俺はソフィアに諭されて重い腰を上げた。

 正直言うとめちゃくちゃ面倒だ。

 行きたくはないが、ソフィアからそんな風に言われてしまったら行かないわけには行かない。


「旭さん、出かけるのですか?」


「パパ、どこかに出かけるの?」


 そんなことをソフィアと話していたら、夕飯の仕込みをしていたレーナとルミアが近寄ってきた。

 俺はそんな2人に経緯を説明する。


「いや、早朝に[マスターガーディアン]が来てな。なんか話があるから冒険者ギルドに来てほしいんだと。それで今から向かうところだ」


「なるほど……それなら私たちも付いて行きますか?何かお役に立てるかもしれませんし」


 ルミアが心配そうな表情で俺に尋ねてきた。

 以前のこともあるから気が気じゃないんだろう。

 俺はそんなルミアの頭を撫でつつ、首を横に振る。


「いや、今回は斥候1人だけを連れて来いと行ったから、俺も1人だけ連れて行こうと思ってる。顔合わせ的な意味も込めてソフィアに付き添ってもらう予定だ。……ごめんな?」


「パパ……もう1人連れて行かなくてもいいの?」


 俺がルミアにそう謝ると、レーナが疑念の声を上げた。

 その瞳の光は……消えている。

 自分を連れて行かないことに不満を感じているのだろうか。

 そんな嫉妬深いところも狂おしいほどにかわいいのだが……今回は2人で行った方がいい気がするんだ。

 俺はレーナを抱き寄せて、耳元で囁やく。


「今回は大目に見てくれ……。ソフィアに俺のセーブ役をやってもらうつもりなんだ。レーナ達がイケメン達を見ていると想像するだけで嫉妬で暴走しそうになるんだよ。……その代わり、俺とソフィアが帰ってきた時にとびきり美味しいご飯を用意して待っていてくれないか?……レーナの愛情がたくさんこもったご飯を帰ってきた時にすぐ食べられたら幸せだろうなぁ……」


「……ッ!!も、もぅ〜パパったら〜……。任せてッ!!パパを虜にしちゃうような料理を作っちゃうから!!……ルミアお姉さん!そうとなったらもっと仕込みをしないと!!リーアも呼んでこなきゃ!!」


「ちょ……れ、レーナさん!?そんなに引っ張らないでください!!って、ユニコーンをいつのまに召喚したのですか!?あ、旭さん!くれぐれも無理しないでくださいねぇぇぇ………………!!」


 俺の言葉を聞いたレーナは勢いよく立ち上がり、ルミアの手を引っ張っていった。

 まだ部屋でお昼寝をしているリーアを呼びに行ったようだ。

 無詠唱でユニコーンを呼び出すという俺に近い魔法の発動をしていたが。

 いつの間にできるようになったんだ?

 ……多分あれは無意識な気がしなくもない。

 ともかく部屋に残っているのは俺とソフィアだけになった。


「……じゃあ、冒険者ギルドに行くとしようか」


[旭……日に日にヤンデレに対する扱いが上手くなっていますね。帰ってきた時用の為にお腹を空かせておかないと大変なことになるかもしれませんよ……]


 ソフィアが俺のことを呆れた表情で見ているが……それは自分でもわかっていることなので軽くスルーする。


「まぁまぁ……。とりあえず、行くとしようか。冒険者ギルドに座標軸を固定……【長距離転移】!」


 俺とソフィアは冒険者ギルドに転移した。


 ▼


「…………!?あーちゃん、いつの間に来たの!?」


 冒険者ギルドに【長距離転移】で移動すると、丹奈が驚きの声を上げた。

 となりにいる……なんだっけ。電子レンジ?も驚いた表情を浮かべているようだ。


[旭……電子レンジでは家電ですよ。あの者の名前はレンジです]


 ソフィアが耳打ちして彼の名前を教えてくれた。

 いや、合っていたんじゃないか?

 電子レンジでもいいと思うんだ。

 仕方ないからレンジと呼ぶけどさ。


「ついこの間から転移が可能になってな。座標軸さえ固定できればどこにでもいけるんだよ」


「……なんかますますチートになってきてない?まぁ……いいけど。ところでとなりにいる美人さんは誰なの?てっきりレーナちゃんやリーアちゃんを連れてくると思っていたんだけど」


 丹奈は呆れた表情をしていたが、となりにいるソフィアを見て怪訝そうな顔をした。

 レーナ達ではなく見知らぬ女性を連れてきたことを不信に思っているようだ。

 ……お前だってイケメンをたくさん侍らせているだろうに。

 丹奈の質問に答えたのはソフィアだった。


[お久しぶりですね、笹原丹奈。私はソフィア。旭と貴方のところのイケメンが対決した時に声を聞いていると思っていたのですが]


「…………声……?まさか……!!」


「……おいおい。もし本当だとしたら……前代未聞のことだぞ……これは……」


 丹奈とレンジはソフィアがどういう存在なのか理解したようだ。

 ふむ……流石にこの2人は気がついたか。

 他のイケメン達だったら気がつくことはなかっただろう。


[えぇ、お二人の考えている通りです。私は固有スキル【叡智のサポート】が顕現した姿です。愛しのMy Masterよりソフィアの名前を承りました]


「……固有スキルが人間の姿になるなんて聞いたことねぇぞ……。旭の周りはどうなってんだ……」


「レンジ、それは気にしたら負けだと思うよ……。と、とにかく!あーちゃんもきたからギルドマスター室に行こう。早急に伝えたいことがあるから!!」


 丹奈はレンジを窘めてからそう言った。

 早急に伝えたいことね……なんとなく予想できているんだが……。

 俺はソフィアと肩をすくめ合う。

 どうやら話は長くなりそうな予感だ。

 この後に借りている宿のチェックアウトもしたいから、手短に済ませてくれよ?


 俺はため息をついて、丹奈の後を追いかけることにした。

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