第70話 レーナとリーアは報酬を受け取りに行く

レーナとリーアの2人がブラックドラゴンを倒した後、俺達は【長距離転移】で冒険者ギルドに戻ってきた。

 転移で戻ってきたことに冒険者ギルドがざわついたが……そんなことはどうでもいい。

 2人が受けた討伐依頼の報酬を受け取るのが優先だからな。


「受付のお姉さん!ブラックドラゴンの討伐終わったよ〜!」


「お姉さん、冒険者証の確認をお願いします。報酬を受け取って早く帰りたいので」


 タタタッとレーナが元気よく受付カウンターに走っていった。

 リーアは速やかな報酬の受け取りを受付のお姉さんに要求している。

 受付のお姉さんは俺の方を見てビクッと身体を震わせた。

 ……なんなんだ、俺が毎回暴れるとでも思っているのか?

 失礼な。


「えっと……本当にブラックドラゴンを討伐したんですか?……2人だけで?」


 お姉さんは信じられないとでも言うかのように俺の方を見てきた。

 どうやら俺が2人を見守っていたと思って、俺に本当かどうか確認したいようだ。


「んー……?あぁ、本当に2人だけで倒したぞ?そうだなぁ……早く帰りたいし、ここでみんなに証明しようか。ギルドマスターを呼んできてくれ」


「は、はいっ!!わかりました!!!」


 そういって受付のお姉さんは慌ててギルドマスターを呼びに行った。

 若干涙目だったのは……俺のせいではないと思いたい。

 受付のお姉さんには酷いことをしていないはずだし。


「……旭さん。まさかアレを見せるつもりなのですか?」


「あぁ、そのつもりだ。あれを見せればレーナとリーアにちょっかいを出そうとしたり、2人の身体を触ろうとする不届きな輩もいなくなるだろうし」


「本当に旭さんは……いえ、ここはそう言うところも愛おしいと言うべき場面ですね」


 ルミアは一瞬心配そうな顔を浮かべたが……すぐに笑顔になった。

 ……何かを悟ったような感じに見えたのは……気のせいだろうか?

 ルミアの猫耳を撫でながら、俺はギルドマスターが来るのを待つことにする。


「ね……ねぇパパ?今から何をするつもりなの?」


「お、お兄ちゃん……?どうしてタブレットを準備しているのかな……?」


 ルミアの猫耳を撫でて反撃をしていたら、レーナとリーアが俺の服をくいくいしながら尋ねてきた。

 2人とも何をされるのか分からないといった感じだ。

 声音が震えている。


「あぁ、大丈夫だよ。2人の頑張りを証明するだけだから。安心してくれ」


「「逆に不安しかないんだけど!?!?」」


 レーナとリーアは大人しく白状しなさい!と詰め寄ってくるが……いまさらもう遅い。

 なぜなら……。


「……旭君。今度はどうしたんだい?まさか……また暴れるつもりじゃ……」


「お、ギルドマスター。ダイジョウブダイジョウブ。今回は暴れないから」


「カタコトで大丈夫と言われても不安しかないんだが!!」


 ギルドマスターの声に合わせて、冒険者達も騒ぎ始める。

 ……いや、本当には暴れるつもりはないんだが……。

 レーナとリーアに無茶な依頼を受けさせたら分からないけど。

 そんなことよりも、人数も揃ったことだし始めるとしようか。

 俺は両手をパンと叩き、場を静かにさせる。


「ではでは、皆さん。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。これよりレーナとリーアがブラックドラゴンを討伐したという証拠をお見せしようと思います。……ギルドマスター、この壁を使わせてもらうぞ?さぁ、とくとご覧あれ!!……【投影】!!」


 俺はタブレットの画面を壁に映し出す【投影】の魔法を使用した。

 再生するのはレーナとリーアがブラックドラゴンと戦っている時の録画だ。

 再生場所は……うん、この場所からでいいか。


 ▼


 場面はリーアがブラックドラゴンに向かって飛んで行くところからスタートした。

 もちろんパンツは見えないように編集済みだ。

 他の男にリーアの可愛らしいパンツを見せるわけにはいかないからな。

 もしみたのなら……殺すしかあるまい。


『さぁ、レーナのためにも足止めの役目をしっかり果たさないとね!……【魔力分身×10】を追加で発動!……そして、貴方達にも壁役になってもらうわよ……?【百鬼夜行】!!』


『『『ウォォォォォォォォォ…………!?!?』』』


「……リーアのお嬢ちゃんの影からなんか出てきたんだが!?魔物か!?」


「旭君!なんで死んだと言われているダマスクがいるんだい!?」


 観客が騒がしいな……。

 気持ちは痛いほどよくわかるが。

 そんな喧騒をよそに動画は再生されていく。


『まだまだ……こんなものじゃないんだから!!ちょっとダマスク!もっとしっかり足止めをしなさい!』


『……グッ。ウォォォォォォォォォ!』


『グ……グルァァァァァァァ!!!』


「……危ない!!」


 ブラックドラゴンがリーアにむけてブレスを放とうとした瞬間、女冒険者から悲鳴が響き渡った。

 小さい体であの巨体のブレスの直撃を受けたら悲惨なことになると思ったのかもしれない。

 だが、その前にダマスクがブラックドラゴンの首を無理やり曲げた。

 この時のダマスクの行動は正直いい判断だったと思う。

 次のセリフがなければ……だが。


『……あいつヲ攻撃されタラ俺が痛い目ニあうだろうガァァァ!!』


「「「「………………おいおい」」」」


 人間の時の意識があることに驚いた様子はなく、ただひたすらダマスクに同情の視線を向ける一同。

 今見ても……酷いセリフだ。

 思わず殺意が湧いてくるね。


『【深淵への誘い】!!……レーナ!準備はできた!?』


【深淵への誘い】を受けたブラックドラゴンが暴れまわっているシーンが流れ、場面はレーナに切り替わる。

 レーナは考え事をしていたが、リーアの言葉にハッと顔を上げる。


『……大丈夫!足止めありがとう!リーア、こっちに戻ってきて!』


『わかった……!』


 リーアが戻ってきたのを確認したレーナは両手を前に突き出した。


「……なんだ?なにをしようとしているんだ……?」


 冒険者達は固唾を飲んで画面を見ている。

 ブラックドラゴンを一撃で倒せるほどの魔法なんて存在するわけがない……。

 そういった声が聞こえてきそうなほどだ。

 そんな中、画面のレーナは魔法を発動させる。


『……付与効果【防御貫通】が適用されたのを確認……。じゃあ、これでトドメだよ……!【終焉の極光】!!』


『グルッ!?……ギャァァアァァァァァ!!』


『なんデ俺マデ!?』


 レーナは【狂愛】と【魔法威力向上】、そして【防御貫通】のバフが乗った【終焉の極光】をブラックドラゴンに向けて放った。

 今見てもかなりの威力だな。

 この攻撃なら訓練の時に展開した【聖域】を破ることができるかもしれない。

 まぁ、【防御貫通】があるからそれをどうにかしないと意味ないかもしれないけど。


「ダマスクまで攻撃を食らっているぞ!?」


「さっきのセリフがフラグになったな」


「バカだな、あいつは」


 冒険者達は攻撃に巻き込まれたダマスクに歓声を上げている。

 うん、その気持ちはよーくわかる!

 俺もざまぁみろ!と何度思ったことか。

 レーナとリーアの頭を優しく撫でながら、その様子を眺める。


 ブラックドラゴンを覆っていた【終焉の極光】の光が消えた。

 レーナの放った【終焉の極光】はブラックドラゴンの身体も骨も余すところなく消滅させたようだ。


『……レーナ』


『……リーア』


『『2人だけでブラックドラゴンを討伐できたーーーーーーッッッ!!!』』


 2人が抱き合ったところで動画の再生は終わった。

 うんうん。

 やっぱりレーナとリーアは最高に愛らしい。


 ▼


「さてさて……これでレーナとリーアが2人だけでブラックドラゴンを討伐したことが証明できたと思うが……ってレーナ?リーア?俯いてどうした?」


 動画の再生が終わった俺は冒険者ギルドの関係者にそう言ったのだが……。

 レーナとリーアは顔を真っ赤にして俯いていた。

 ルミアが2人を優しい表情で見守っているのも少し気になるな……。

 そんなことを考えていたら、レーナとリーアはバッと顔を上げた。

 その表情は……羞恥にまみれていた。


「「いつの間にそんな動画を撮ったの!!!!」」


 おっと?

 2人が勢いよく俺に抱きついてきたぞ?

 顔を真っ赤にしてプリプリと怒る2人も可愛いなぁ……。

 ただ……リーア?

【百鬼夜行】の発動準備はやめようか。

 ギルドマスターに今回は暴れないって宣言してるんだから。


「2人とも落ち着こうか。いつの間に動画を撮っていたのかという質問については……2人がブラックドラゴンと遭遇した辺りだな。2人の勇姿を残さないわけにはいかないと思って、すぐに録画を開始したんだ」


 俺はレーナとリーアを抱き寄せる。

 2人は真っ赤な顔のままうぅぅ……と唸っていた。

 ……そんなに恥ずかしかったのか?

 だが、俺の目論見はうまくいったようだった。

 冒険者ギルド全体の空気が静まり返っている。

 そんな空気の中、ギルドマスターが口を開いた。


「……全員、今の動画を見た通りだ!!ブラックドラゴンを2人だけで討伐するという実力は見ての通りだ!これからは今まで以上に不届きな輩が現れないように警戒していくぞ!!」


「「「「「おう!!!!!」」」」」


 ギルドマスターの叫び声と冒険者たちの叫び声が響き渡った。

 ……というか、そんなことしていたのか。

 まぁ、手を出す輩がいたら俺が暴れるから……当然の反応なんだろうけど。

 でもさ……流石にうるさい。

 プッツーンときましたよ。

 レーナとリーアも耳を抑えて縮こまってるし、ルミアなんて猫耳をペタンと倒して俺に抱きついてきている。


「よーしよし……。お前たちの意気込みは理解した……。だがな……3人が縮こまってしまってるだろうが!!今回は暴れないと言ったが……やっぱり止めだ!【眷属召喚:ハイエンジェル】!!お灸を据えてやれ!!」


「主の命だ……殺しはしないから安心しろ……!」


 俺はハイエンジェルを200体召喚し、事態を収束させるべく動き出した。


「……旭君が暴れ出したぞ!全員……散開っ!!」


 ギルドマスターの指示を受けて一斉に逃げ出す冒険者たち。

 その冒険者たちをハイエンジェルは追いかけ、拘束していく。

 俺……?

 レーナとリーアを抱っこしてその状況を空中から見てますとも。


「……あのぉ……ブラックドラゴンの討伐依頼達成の報酬はどうすれば……」


「では、今のうちにお願いします。レーナさんとリーアさんの冒険者証はこちらにありますので」


 回復したルミアは、カオスな空間に狼狽える受付のお姉さんと依頼の達成報酬のやり取りをしていた。

 ……報酬をもらったら転移で宿に戻るとしよう。

 ソフィアからそろそろ帰るという連絡ももらったしな。

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