第69話 幕間の物語−レーナとリーアの「2人だけで大丈夫だもん!」後編−
ーーーー[レーナ視点]ーーーー
「………………きたっ!」
【狂愛】のオーラを空に放ってから数分後、リーアの走る音とドラゴンの叫び声が聞こえてきた。
リーアは分身を15体出していたはずだけど……今はその数が5体まで減っている。
……ブラックドラゴンってそこまで強いの!?
わたしは思わず叫んでしまった。
「リーア、大丈夫!?怪我してない!?」
「私は大丈夫!とにかく、ドラゴンの誘導には成功したわ!ここからが本番だよ!気を引き締めてッ!」
……よかった。
リーアは怪我をしていないみたい。
でも、リーアの言う通りここからが本番だ。わたしは【狂愛】と【慈愛】を全開にして魔法を発動させる。
今回の【聖域】は【魔法攻撃反射】を兼ね備えた方にしよう。
少しでもブラックドラゴンにダメージを与えたいし!
「……リーア、結界を展開するよ!!【聖域】!!」
わたしの言葉と同時に【聖域】が2枚展開された。
……2枚?
重ねがけなんてわたしできたっけ……?
「レーナ、何を呆けているの!?私がヘイトを集めるから、攻撃の準備をお願い!」
そんなことを考えていたらリーアから怒られてしまった。
……うん、今はそんなことを考えている場合じゃないよね。
集中集中……!!
「さっきは油断しちゃったけど……今からが本番だからね……?【嫉妬】と【狂愛】、そして【能力強化】の同時使用を開始!それと……【魔力分身×20】!!さぁ、かかってきなさい!」
リーアはブラックドラゴンに【挑発】しつつ、特攻していった。
というか……使うたびに【魔力分身】の数が増えていってない?
リーアも十分チートになったよねぇ……。
……っと、そんなことを考えている場合じゃなかった。
わたしも準備をしないと。
「……私は戦闘の場を整えないとね!顕現して……【全知全能の神】!!」
パパが召喚できるようにしてくれたゼウスさんを呼び出す。
ゼウスさんは本人自らわたしに召喚されることをお願いしたみたいだけど……。
パパがいないこの状況ではゼウスさんの存在がかなり大きい。
『お呼びですかな、主……っと今回の召喚は主ではなく、レーナ嬢でしたか。どうかなされたのかな?』
「今回はわたしが召喚主でごめんね?ブラックドラゴンと戦っているから、リーアの回復をお願いしたいの。お願いしてもいい?」
『そんな滅相もない!レーナ嬢の頼みならいついかなる時も馳せ参じましょうぞ!……それにしてもブラックドラゴンですか……。我は回復だけでよろしいのですかな?』
ゼウスさんはそう言ってリーアの方を眺めた。
リーアはヘイトを稼ぐために、ブラックドラゴンに連撃を続けている。
今のところリーアにダメージはないみたいだけど……ブラックドラゴンの方もあまり体力は減っていないみたい。
「……今はまだそうでもないように見えるだけだよ。わたしもリーアもパパと比べると弱いかもしれないけど……ステータスは普通の人より高いし……」
『……御二方のみで討伐したいというその意思は理解しました。ただし、きついと感じたらすぐに我を頼ってくだされ。あの程度の龍なら我1人でも十分ですからな』
「……うん。その時はお願い……」
ゼウスはわたしの頭を撫でようとして……ビクッと震えてその手を引っ込めた。
……?
まぁ、いいや。
「リーア!!ゼウスさんを召喚したから、回復については安心して!距離もあるし、巻き込まれる心配もないけど、攻撃魔法を使うときは声をかけるから、聞いていてよね!」
「そういえば、レーナはゼウスを召喚できるんだっけ。……とりあえずわかった!ダメージを気にしなくていいなら……戦法を変えられるかな……ッ!……【吸生の死剣】!!」
わたしはリーアにゼウスさんを召喚したことを報告した。
その報告を受けたリーアは【吸生の死剣】を発動して、先ほどよりも激しく攻撃し始めた。
いくら物理防御が高いブラックドラゴンだとしても……能力を吸い取る【吸生の死剣】のダメージを相殺することはできないんじゃないかな。
「グルゥゥ……ッッ!!グルゥアァアアァァァッ!!」
ブラックドラゴンは忌々しく空にブレスを飛ばした。
よほどイラついているみたい。
一心不乱にブレス攻撃をしている。
「リーア!攻撃魔法行くよ!当たらないように気をつけて!!」
「了解ッ!」
リーアはわたしの言葉を受けてブラックドラゴンから距離を取る。
ブラックドラゴンは攻撃していた相手がいきなり距離を取ったことに驚いているみたい。
その油断が……わたしの魔法に対して無防備にさせる!
「いっくよー……?……【神々の黄昏】!!」
わたしが伸ばした両手から神々の炎がブラックドラゴンに向かっていく。
ドラゴンに対して炎はダメじゃないかって?
ふふん、この魔法は光魔法に分類されるから熱耐性は効果がないんだよッ!
「グルッ!?グァァアァァァ!?」
ブラックドラゴンも炎なのに耐性を貫通してきたことに驚いているみたい。
高い魔法防御のせいなのか、あまりダメージは通ってないみたいだけど……。
「リーア、今の状況どう思う?」
「……正直きついね。ブラックドラゴンの防御があそこまでとは思わなかったわ。どこか柔らかい部分があればいいんだけど……」
リーアの言う通り、現状のままでは討伐しきれるとは思えない。
魔力は【狂愛】の効果で逐一回復していくし、ダメージを負ったとしてもゼウスさんが回復してくれるからHPが尽きる心配もない……。
だからこそ、何かいい案があれば……いいんだけど……。
(防御が薄い体内からの攻撃……逆鱗を攻撃……眼に対する攻撃……尻にパイルバンカー……色々と案はあるぞ)
そんなことをリーアと話していたら、頭の中に声が響いてきた。
咄嗟にリーアの顔を見る。
「……その顔、レーナにも聞こえたみたいね」
「……うん。リーアも聞こえたんだね」
リーアにも聞こえていたらしい。
お互いにその声が聞こえたのを確認したわたし達はふふふと笑いあった。
今までも全力だったけど……ここからはやる気が違う。
だって……だって……!!
「「
そう、声だけしか聞こえなかったけど、あれはパパの声だった。
まったくもう……わたし達だけでも大丈夫と言ったのに……心配性なんだから……ッ!
でも、近くで見守ってくれているというだけで、力が溢れてくるから不思議。
……もう負けるわけにはいかない。
パパが見ているなら絶対に勝利をつかんでみせる!
「リーア、あの魔法を使いたいんだけど……ブラックドラゴンの足止めできる?」
「……ッ!あの魔法を使うの!?足止めは大丈夫だけど……1人で大丈夫?」
リーアはわたしの提案にかなり驚いている。
まぁ、その気持ちはわかる……けど!
「パパが見ているのにできないなんて言っていられないよ。ブラックドラゴンの高い魔法防御を突破するにはこの魔法しかないと思う」
「……そうね。お兄ちゃんが見ているんだものね。……わかった。レーナを信じる。足止めは任せておいて!!」
リーアはわたしの頭をぽんぽんとしてから空中に飛び上がった。
信じてくれるのは嬉しいんだけど……戦闘中に頭をぽんぽんされるのはちょっと恥ずかしい。
「さぁ、レーナのためにも足止めの役目をしっかり果たさないとね!……【魔力分身×10】を追加で発動!……そして、貴方達にも壁役になってもらうわよ……?【百鬼夜行】!!」
「「「ウォォォォォォォォォ…………!?!?」」」
空中に飛び上がったリーアがさらに10人増えて、ブラックドラゴンを取り囲む。
その影から現れた百鬼夜行の大群はブラックドラゴンに向かって落下していった。
数多の妖怪達は驚きの声を上げながらも、ブラックドラゴンの体にしがみついて動きを封じている。
「まだまだ……こんなものじゃないんだから!!ちょっとダマスク!もっとしっかり足止めをしなさい!」
「……グッ。ウォォォォォォォォォ!」
リーアに叱咤を受けたダマスクがブラックドラゴンの首に巻きついた。
……毎回思うけど、なんでダマスクは妖怪になっているんだろうね。
しかも人間として生きていた時の意思を感じられない……。
あれが悪徳奴隷商人のなれの果てなのかも。
「グ……グルァァァァァァァ!!!」
ブラックドラゴンは身動きが取れないのを不快に感じたのか、リーアに向けてブレスを放とうとした。
その瞬間、ダマスクがブラックドラゴンの首を無理やり曲げて軌道をそらした。
「……あいつヲ攻撃されタラ俺が痛い目ニあうだろうガァァァ!!」
……あ、人間としての意思はあったんだね。
なんか近くからパパの殺気を感じるけど……ダマスクはもう一度死にたいのかな?
まぁ、わたしが気にすることでもないか。
そんなことを考えながら、わたしは攻撃魔法の威力を上げるために集中する。
以前使った時はパパの【聖域】を破ることができなかった。
……でも、威力だけなら【神々の黄昏】よりも高いはず……。
あれ……?魔法に付与できる効果が追加されてる……これなら!
「【深淵への誘い】!!……レーナ!準備はできた!?」
リーアから叫び声が聞こえてきた。
視線を向けると、【深淵への誘い】を受けているブラックドラゴンが暴れまわっていた。
妖怪達も数が少なくなってきてる……。
限界が近いのかもしれない。
「……大丈夫!足止めありがとう!リーア、こっちに戻ってきて!」
「わかった……!」
リーアが戻ってきたのを確認したわたしは最終段階に入る。
「……付与効果【防御貫通】が適用されたのを確認……。じゃあ、これでトドメだよ……!【終焉の極光】!!」
「グルッ!?……ギャァァアァァァァァ!!」
「なんデ俺マデ!?」
わたしは【狂愛】と【魔法威力向上】、そして【防御貫通】のバフが乗った【終焉の極光】をブラックドラゴンに向けて放った。
防御を貫通するので、ブラックドラゴンは悲鳴をあげている。
足止めをしていたダマスクにも被害が出ているみたいだけど……わたしを奴隷にしようとしたことがあるし、気にしない。
【終焉の極光】は闇と光の混合魔法なので、以前はリーアと一緒じゃないと使えなかったけど……今のわたしには問題ない。
それはパパとの訓練で証明済みだ。
……リーアに内緒にしていたのは申し訳ない気持ちになるけど。
【終焉の極光】の光が消える。
ブラックドラゴンは……塵すら残っていなかった。
どうやら身体も骨も余すところなく消滅したみたい。
わたしはリーアの顔を見る。
リーアもわたしの顔を見る。
「……レーナ」
「……リーア」
「「2人だけでブラックドラゴンを討伐できたーーーーーーッッッ!!!」」
お互いの声がシンクロし、わたしとリーアはその場で抱き合った。
ゼウスさんが微笑ましそうにこちらをみている。
2人できゃいきゃいとはしゃいでいると、ゼウスさんの横から拍手が聞こえた。
「……2人だけでの魔物討伐お疲れ様。レーナもリーアも……強くなったね」
そう言ったのはパパだった。
パパの斜め後ろにはルミアお姉さんが微笑んでいる。
わたしとリーアはお互いに顔を見合わせて……。
パパに向かって一目散に駆け出した。
「……パパ!!」
「……お兄ちゃん!!」
「「いつから見ていたの!!!?【狂愛ノ束縛】!!!」」
抱きつかれると思って待機していたパパを拘束した。
だってだって!
パパの声が聞こえたということは戦闘シーンを見られていたわけで!!
2人だけで大丈夫と言った手前かなり恥ずかしいわけで!!
わたしとリーアは慌てながらパパに問い詰めた。
問い詰められたパパは冷静にこう告げた。
「ん?冒険者ギルドでブラックドラゴンの討伐依頼を受けた時からかな?今の今まで【透明化】をかけていたから、気が気じゃなかったよ」
……え?
冒険者ギルドでの依頼を受けるところから……?
それって……。
「「最初からみられてたのぉぉぉ!!?」
わたしとリーアの声が綺麗にシンクロする。
過保護すぎるくらいに愛してくれてるのは知ってたけど……ここまでなんて!!
気づかずに行動してたのが恥ずかしいッッ!!
そんなわたしとリーアを見たルミアお姉さんが頭を撫でてきた。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いてください。こちらもこちらで大変だったんですよ?お2人がブラックドラゴンの討伐依頼を受けたと聞いて、冒険者ギルドで大暴れしたり……ゼウスに対して【嫉妬】を発動させたり……。まぁ、旭さんをなだめるのは私からしたら役得でしたけど」
「ちょっ……!?ルミア!?それは言わないって約束だったろ!?」
拘束されたままルミアお姉さんに叫ぶパパと、それを優しい微笑みで見ているルミアお姉さん。
でも、その話が本当なら……わたし達はかなり心配させたことになる。
わたしとリーアは【狂愛ノ束縛】を解除して、パパに抱きついた。
「パパ……心配かけてごめんね?でも、わたし達も守られているばかりじゃないことを証明したかったの」
「レーナの言う通りだよ……。そこまで心配してくれているなんて思わなかった。……お兄ちゃんの愛を改めて感じたよ」
わたしとリーアは涙声でそう告げる。
パパはわたし達のことを本気で強く愛してくれている。
それを改めて感じた途端に涙が溢れて仕方なかった。
……あぁ、もう!
こんなに愛情をくれるなんて誰が想像できるの!
「まぁ、心配だったのは事実なんだけどな。2人がここまで強くなったと言うのも確認できたし、今後は2人にももっと頼ろうかな?とりあえず依頼報告して宿に帰ろう?そろそろソフィアも帰宅できるようだ。ルミアの美味しいご飯でも食べて、ブラックドラゴンのどこが強かったのか教えてくれないか?」
パパはそう優しく微笑んでわたしとリーアの頭を撫でてくれた。
ルミアさんも頭をよしよししてくれている。
わたしとリーアはそんな2人の手を握って、満面の笑顔でこう告げた。
「「うん!!たくさん話したいことがあるの!」」
……宿に帰ったらいろんなことを話そう。
パパとルミアお姉さんも最初から見ていたから、知っていることがほとんどだと思うけど……。
それでも話したいことが沢山ある。
どう言う思いでゼウスさんを呼んだのかとか、逆にあのシーンではどういう動きをすればよかったのか……。
わたしは話したいことを頭の中に思い浮かべながら、パパの転移で宿に戻るのだった。
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