第68話 幕間の物語−レーナとリーアの「2人だけで大丈夫だもん!」中編

ーーーー[レーナ視点]ーーーー


「じゃあ、そのブラックドラゴンが棲みついた山に早く行こう!……来て!【ユニコーン】!」


 冒険者ギルドから出たわたしは上級精霊魔法のユニコーンを呼び出した。

 なんか冒険者ギルドの方から悲鳴とか聞こえる気がするけど……多分気のせいだと思う。

 私の言葉と同時に現れた精霊魔法特有の光が消えた場所にはかなり大きなサイズの一角獣ユニコーンが佇んでいた。

 前までは詠唱が必要だったんだけど……。

 パパとの訓練で【詠唱省略】を獲得した今なら詠唱しなくても召喚できる。

 ……うん、やっぱり【詠唱省略】のスキルはチートすぎるよ。

 パパの場合は……それだけじゃないんだけど。

 魔法適性がある人からしたら、このスキルはなんとしてでも手に入れたいものだと思う。


『レーナ嬢、今日はどういった用事ですか?リーア嬢もいますが……マスターがいませんね』


 ユニコーンはブルルッと軽く首を振ってからそんなことを言ってきた。

 パパとの宿での攻防以来、ユニコーンはわたしとリーアのことを嬢呼びで呼ぶようになった。

 契約したのはわたしのはずなのに、パパをマスターとして認めているみたい。

 ちょっと納得がいかないところもあるけど……、パパはゼウスやらナーガやら最上位の眷属を召喚しているからそのせいなのかも。

 背中に乗せてくれるのは私とリーアだけだし、あまり気にしない。

 ユニコーンは穢れなき乙女が好きみたいだけど……この子はそんなことはないので今でも乗せてくれる。

 わたしはユニコーンに召喚した理由を説明する。


「パパは今日はいないよ。今日はわたしとリーアの2人で討伐依頼に行くの。目標は……ブラックドラゴンなんだけど、近くまで連れていってくれない?」


『……レーナ嬢、ブラックドラゴンは魔物の中でもひときわ強力なやつですよ?御二方だけで大丈夫ですか?』


「あ、そのやり取りはもうやったからいいです」


『……あ、はい……。まぁ、お連れする分には問題ありません。お二人とも私の背中に乗ってください』


「レーナ……貴女も大概だよね。私は先に乗っちゃうよ?考え込んでないで早く行きましょ」


 ユニコーンは受付のお姉さんみたいなことを言っていたけど……何度も同じやり取りはしたくないの。

 そんなやりとりをしていたらリーアは呆れたような表情を浮かべて、先にユニコーンに乗ってしまった。

 私も気持ちを切り替えて、ユニコーンの背中に飛び乗る。


「じゃあ、ブラックドラゴンのいる山まで出発ッ!」


 わたしの言葉を受けたユニコーンは軽やかな足取りで駆け出した。


 ▼


 ウダルの街から出て、1時間くらいが経った頃。

 わたしとリーアはブラックドラゴンが棲みついたという山にやってきた。


『レーナ嬢、リーア嬢。こちらの方からブラックドラゴンの気配を感じます。すぐに向かいますか?』


 ユニコーンは気配の感じた方を向いたまま、わたし達に尋ねてきた。

 ブラックドラゴンのことは詳しく教えていないはずなんだけど……気配でどこにいるかわかるみたい。

 リーアも強さを知っていたから……結構有名な魔物なのかもしれないね。


「リーア、どうする?すぐに討伐しちゃう?」


「うーん……。正直様子だけ見ておきたいかな。サイズがどのくらいなのか、戦いやすい場所なのかどうかとか色々調べたほうがいいと思う。2人だけで戦うのは実質初めてだし。前の山賊討伐の時はギリギリでお兄ちゃんがきてくれたけど、今日はいないからね」


 わたしとしては早く討伐してパパに褒めてもらいたかったんだけど……リーアは慎重に進めたいみたい。

 確かに今回の依頼にパパはついてきていない。

 いないということは、危険な状況になった時に自分たちで身を守らないといけないということになる。

 ……そう考えたら、リーアの言う通り慎重に行動するべきなんじゃないか……と思えてきた。


「確かにリーアの言う通りかも……。じゃあ、ハイエンジェルを呼んで【透明化】をかけてもらおう?」


「うん、そうね。ハイエンジェルの【透明化】なら気づかれずに敵を観察できそうだし……いいと思う!」


「じゃあ、さっそく……【眷属召喚:ハイエンジェル】!!」


『おや……これはレーナ嬢とリーア嬢ではありませんか。主がいない状態での召喚は初ですね。……どうされましたか?』


 わたしはリーアからGOサインをもらったので、ハイエンジェルを召喚する。

 本来なら【眷属召喚】は召喚獣と契約した人しか使えないんだけど……。

 パパのゼウスさんとその配下のハイエンジェルはわたしでも召喚できることになっているみたい。

 ……特に何もしていないんだけどなぁ?


「これからブラックドラゴンを倒しに行くんだけど……どのくらいの大きさか調べたいから【透明化】をかけてほしいの」


 わたしは簡潔にハイエンジェルに用件を伝える。

 ……だって、またユニコーンみたいに同じ説明しそうになるのは嫌だし……。

 そう思っての発言だったんだけど……。


『…………主。レーナ嬢はこう言っておりますが……よろしいので?……はぁ、それなら大丈夫ですかね……。わかりました、主の命に従います』


 ハイエンジェルは明後日の方を向いて小声で何か呟いていた。

 ……?何か言った?

 わたしはリーアの方を見る。

 リーアも首を横に振っているから聞こえていなかったみたい。


『じゃあ、これから【透明化】をかけますね。攻撃魔法を使用したら解除できるようにしておきますので』


 ハイエンジェルはそんなわたしとリーアの疑念を紛らわすかのような声で説明してきた。

 ……まぁ、いいか。

 悪いことではないみたいだし……考えるのは後でもいいよねッ。

 ハイエンジェルの【透明化】によってわたしとリーア、ついでにユニコーンの姿が消える。

 リーアの姿は問題なく見えているから一人きりになると言うことはないから安心だね。


「じゃあ、リーア。準備もできたし、ブラックドラゴンのところまで行ってみよう。ユニコーン、お願い!ハイエンジェルもありがとうね!!」


『……ブラックドラゴンは強敵です。くれぐれも無理はなさらないでくださいね』


 ハイエンジェルはそう言って送還されていった。

【透明化】をかけてもらうためだけに召喚したのに、最後は微笑んでいた。

 ああ言うのを天使って言うんだろうなぁ……。

 わたしはユニコーンの上で風を感じながら、そんなことを考えていた。


 ▼


「グルルルル……」


【透明化】がかかったわたし達がブラックドラゴンのところに向かってからさらに30分後。

 わたし達は遂にブラックドラゴンの姿を確認することができた。


「……ね、ねぇリーア。ブラックドラゴンって……なんか大きくない……?」


「え、えぇ……文献で見たよりも大きい……ような……?」


 ブラックドラゴンを見たわたしとリーアは唖然とした。

 いや……だって……!

 ドラゴンだから大きいとは思っていたけど……これは大きすぎない!?!?

 青龍が4mくらいで……約2倍以上はありそうだから……約8m!?

 なんでこんなに大きいのに近くに行くまでわからなかったの!?


『レーナ嬢、ブラックドラゴンは自分の一定範囲に隠蔽魔法を使います。近くまで気がつかなかったのもそれが原因ではないかと』


 ユニコーンは絶句しているわたしとリーアにそう説明してくれた。

 そっか……隠蔽魔法か……。

 自分自身じゃなくて、周りの範囲につかうという使い方もあるんだね……。

 わたしはブラックドラゴンに気がつかれていないことを確認して、リーアにどうするか相談することにした。


「リーア。この場所での戦闘は支障がありそう?」


「そうだなぁ……撹乱するにはもってこいなんだけど……ブラックドラゴンが炎を吐いたら山火事になりそうなんだよね……。ユニコーン、ここら辺でひらけた場所はない?」


『そうですね……ここから近いところに川があったはずです。そこでなら山火事の心配もないかと』


「じゃあ、その場所までブラックドラゴンを誘導しよう。レーナ、私が誘導するから先に行っていてくれる?」


 ユニコーンからひらけた場所を聞いたリーアはそんなことを言い出した。

 いくらタンクが敵の注意をひきつけるものだとしても……1人は危ないんじゃないの?


「リーア……1人で大丈夫なの?ユニコーンを連れていってもいいけど……」


「私は近接戦闘に長けているけど、レーナは違うでしょ?レーナこそ1人で素早い敵に見つかったら対処が難しいんだから。ここはお姉ちゃんに任せなさい」


 リーアは胸を張って宣言した。

 うぅ……確かにわたしは後衛だから近接戦闘は苦手だけどさぁ……。

 心配するのは当然じゃない……ッ!

 そう思った私はいつのまにかリーアを抱きしめていた。


 ーーーーギューッ!


「れ、レーナ?いきなり抱きついてきてどうしたのよ……?」


 わたしは困惑するリーアに真剣な表情でこう告げる。


「絶対に怪我しないでよ!?リーアはわたしのなんだから!!」


「……大丈夫よ。こんなに可愛い妹からのお願いを断れるわけないじゃない。信じて川で待ってなさいな」


 リーアは一瞬目を見開いたが、すぐに優しい表情になってわたしの頭をぽんぽんと叩いた。

 ……むぅ……軽く流されているような気がするんだけど……。

 信じて待っててなんて言われたら、信じないわけにはいかない。


「……わかった。行くよっ、ユニコーン!先に川に行って戦闘の準備をしなきゃ!!リーア、着いたら【狂愛】を発動させるから、それを目安にして!」


『了解です、レーナ嬢。リーア嬢……どうかお気をつけて』


「えぇ、任せなさい。……気をつけてね」


 わたしはユニコーンの背に飛び乗り、川に向かった。

 リーアが来た時のために戦闘の準備をしておかないと!


「さて……と。可愛い妹のためにも少しは時間を稼ぎますかね。……【魔力分身×15】!さぁ……レーナが川にたどり着くまでの時間稼ぎをさせてもらうよ!!」


「グルォォォォォォッ!!」


 わたしの後ろからブラックドラゴンとリーアの戦闘音が聞こえる。

 急いで川にいかないと……!!


 ▼


『レーナ嬢、川に着きました。準備と言っていましたが……どうするのですか?』


 川についたユニコーンがわたしに聞いてきた。

 わたしは必死に頭を回転させる。

 今回の戦闘の相手は巨大な生物だ。

 ブラックドラゴンなら物理防御も魔法防御も高いんじゃないかなと思う。

 と言っても、周りに被害がでちゃダメだよね?

 そうなると……今のわたしが取れる策は……。


「とりあえず、【聖域】をこの近辺に展開させる!あまり派手な攻撃をして、パパを心配させたくないし!でも、その前にリーアに合図を送らないと。……【狂愛】の使用を開始……!オーラを空に伸ばすイメージで!!」


 わたしは【狂愛】を発動させ、リーアがわかるようにそれを空に向けて解き放つ。

 これで、気がついてくれるはず……。

 リーアがきたらすぐに【聖域】を展開させよう。

 私はリーアが来た時にすぐ【聖域】を展開できるように意識を集中させた。

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