第67話 幕間の物語−レーナとリーアの「2人だけで大丈夫だもん!」前編−
「ねぇ、パパ。今日は1日フリーなんだよね?」
神々との作戦会議が終わり、眠ってしまったレーナとリーアの2人を抱いて宿に戻った翌朝。
ふわぁぁぁと大きな欠伸をしたレーナが俺に尋ねてきた。
眠そうに目をこするレーナ……かわいいなぁ……。
だが、目をこする動作は眼の病気に影響しかねない。
俺は無言で【持続回復】をかけておく。
「いきなりどうしたんだ?……まぁ、ソフィアも戻ってきていないし、今日1日はフリーにしようとは考えていたけど…」
昨日ハーデスを引きずっていったソフィアはそのまま帰ってくることはなかった。
[予想以上にハーデスが冒険者ギルドで稼げないので、冥界に行ってきます。……今日中に帰るのは難しいかもしれません……。明日の夕方までには必ず帰りますので……ッ!ハーデス、もっとキリキリ稼ぎなさい!]
『い……Yes, Ma'amッ!!』
……と、ソフィアから連絡はもらっているので心配はほんの少ししかしていないのだが。
ハーデスの声が涙声だったような気もするけども……まぁ、彼の女達は消滅させられてないようだから大丈夫だろう。
「やっぱり1日フリーなんだ。リーア〜?今日は特に予定はないってさ〜」
「ありがとう、レーナ。……っと。お兄ちゃん、1日フリーならお願いしたいことがあるんだけど……」
俺の言葉を聞いたレーナはリーアに声をかける。
リーアは現在ルミアと一緒に朝ごはんの後片付けをしていたが、ルミアから許可をもらったのかエプロンで手を拭きながら俺の方にやってきた。
……褐色銀髪エルフのエプロン姿……!
危ないので流石に裸エプロンではないが、エプロン姿というだけで萌えてくるから不思議だ。
それにしても、お願いしたいこと?
何か欲しいものでもあるのか?
「……えっとね?……スー……ハー……。……よしっ!お兄ちゃん!今日1日、レーナと2人だけで冒険者ギルドの依頼を受けたいです!!」
「……すまん、今なんて?」
リーアは今なんと言った?
レーナと2人だけで冒険者ギルドの依頼を受けたい……?
……大丈夫なのか……?
一昨日の山賊の件もあったから心配なんだが……主に他の男にNTRれてしまわないかという意味で。
「パパ……わたし達が他の男に抱かれてしまわないか心配っていう顔をしてる……。その点は大丈夫!パパ以外の男に魅力を感じることは絶対にないから!大体、この世界の男の平均サイズはパパよりかなり小さいし、そうなる前に始末するから大丈夫!」
俺の表情から考えを読み取ったらしいレーナは、薄い胸を精一杯張ってそう宣言した。
……でもな?
そんな愛らしい表情で平均サイズとか始末するとか言っちゃダメだよ?
「レーナの言う通りだよ、お兄ちゃん。大丈夫だから!」
「「……だから……今日1日だけお願いします!!!」」
レーナとリーアはそう言って俺に頭を勢いよく下げてきた。
……そんなことを言われたらダメだなんて言えないじゃないか。
「……2人の気持ちはわかった。今日は何も予定がないし、冒険者ギルドの依頼を受けてきてもいいよ。……ただし!危ないと思ったらすぐに撤退すること!いいね?」
「「……うん、うん!!わかった!!」」
俺から許可をもらったレーナとリーアは急いで服を整えて、ピューッ!と冒険者ギルドに駆け出していった。
その様子を見たルミアが微笑ましいものを見るかのように、俺に近づいてくる。
「……旭さん、なんだか寂しそうですね?」
「……2人はあんな風に言っていたけど……心配は心配だな。……ってルミア?その表情はなんだよ」
ルミアは微笑んだまま、俺の頭を優しく撫でてきた。
少し冷たい手の感触を髪の毛で感じる。
……多分だけど、すべてお見通しなんだろうな。
「いえ、別になんでもありませんよ?……お二人の様子を見にいくのでしょう?」
優しい声音でルミアは俺の耳元で囁いた。
……やっぱりバレていたか。
そんなに表情に出ていたかなぁ……。
「やっぱり心配だからね。……ルミアも一緒にきてくれないか?1人で留守番させるのは心苦しいし……俺の側にいてほしい」
「ふふふ……。弱気な旭さんもかわいいですね。もちろん、どこまでもお伴しますよ」
「……ありがとう。じゃあ、2人よりも先に冒険者ギルドに行くとしようか」
俺はルミアの返事を聞いて、その身体を抱きしめる。
ルミアは小さく喘ぎ声をあげたが……俺はそれを無視して冒険者ギルドに座標軸を合わせる。
「じゃあ……行くぞ?【長距離転移】!!」
俺は無言で【透明化】の魔法を発動し、冒険者ギルドに転移した。
……陰ながら見守るのも大切だと思うんだ。
▼
ーーーー[リーア視点]ーーーー
お兄ちゃんから冒険者ギルドの依頼を受けてもいいと言われた私達は冒険者ギルドにやってきた。
レーナがバーンッと勢いよく冒険者ギルドの扉を開ける。
「……なんだなんだ!?……って旭のところの幼女2人じゃないか。旭はどこだ?」
「旭さんの姿は見えないわね……?また2人だけできたのかしら」
冒険者ギルドに入ってきた私達を他の冒険者達が珍しそうに見ている。
……おかしいわね……。一昨日も2人だけできたはずなんだけど……。
「リーア、何を考えているの?今日という時間は有限なんだから、早く依頼を受けないと」
私が納得いかないわ……と考えていると、レーナから声がかかった。
……確かに今日中に依頼を達成するためには早く受けないとダメだよね。
「レーナ、わかったから落ち着いて。私もすぐにいくから」
私は早く依頼を受けたいという気持ちを抑えられないレーナをなだめつつ、受付のお姉さんのところに向かった。
「おはようございます。……今日も2人だけできたのですか?一昨日の件で、旭さんからかなり怒られたのですけど……」
受付のお姉さんは私達を見るなり、震えた声でそんなことを言った。
……お兄ちゃん、あの山賊討伐の後にそんなことを言っていたの……?
まぁ……あの時のお兄ちゃんかなり怒っていたからなぁ……。
でも、今回はお兄ちゃんからの許可はちゃんともらってある。
私とレーナの2人だけでも依頼を達成できることを証明しないと!
「お姉さん、今回はちゃんとお兄ちゃんから許可を得ています。それを踏まえて何か依頼はありませんか?」
受付のお姉さんは私の言葉を聞いて、思案顔で悩み始めた。
多分だけど……どの依頼ならお兄ちゃんに怒られないで済むかを考えているんだと思う。
「……そうですね……じゃあ、この依頼なんかどうですか?」
お姉さんが悩み始めてから5分後、受付のお姉さんはある依頼を私達に見せてきた。
その依頼内容をレーナが読み上げる。
「……えっと。回復薬に使われる薬草の採取……って!これ初心者向けの依頼だよ、お姉さん!!!」
レーナが憤慨したようにお姉さんに依頼表を返す。
……流石に初心者向けの依頼を出してくるとは思わなかったわ……。
ステータスだけで言えばそこらの冒険者よりは高いと思うのだけど……。
「……じゃあ、この依頼なんてどうでしょうか?ドラゴンの生態調査です。近くの山にブラックドラゴンが棲みつきました。街に降りてきくるかどうかを調査してもらいたいのです。報酬金は金貨3枚。ただし、危ないと思ったらすぐに逃げてください。この依頼はAランク以上なのですが……って貴女達はSSランクでしたね……。いいですか?危ないと思ったらすぐに逃げてくださいよ?また旭さんとギルマスに怒られたくないのでッ!」
受付のお姉さんが新たに出してきたのはドラゴンの調査依頼だった。
ブラックドラゴン……確かダマスクの屋敷で見た情報ではかなり強かったと記載されていたはず……。
お姉さんが必死に逃げてくれという理由がお兄ちゃんとギルドマスターに怒られたくないから……というのがちょっと気になるところではあるけど……。
私はこの依頼について特に思うことはない。
ブラックドラゴンは強敵だし、生態調査だけなら1日で終わるだろうなと考えているから。
でも……レーナは違ったみたい。
目をキラキラさせているもの。
「お姉さん!このブラックドラゴンっていうの……別に倒しちゃってもいいんだよね!?」
「 …………はい?」
「だーかーらー!!わたし達で倒せるレベルの生物だと判断したなら倒しちゃってもいいんだよね!?」
レーナの言葉を聞いた受付のお姉さんは、何言っているのこの子……と言わんばかりに呆けている。
……その気持ちは私もわかるわ。私も同じ気持ちだもの。
「レーナ?この依頼は生態調査だよ?それにブラックドラゴンはだいぶ強い魔物……わざわざ危ない橋を渡る必要はないと思うんだけど……」
私の言葉にレーナはふふんとドヤ顔を浮かべる。
……その顔に若干イラっときたけど……かわいい妹だから許しちゃう。
「リーア……わたし達の能力を忘れてない?わたしは魔法攻撃が40000あるし、リーアも普通の冒険者に比べたらありえないステータスでしょ?ブラックドラゴンくらい難なく倒せると思わない?」
「……そっか。それもそうだね……。私達の能力の高さなら……いける……かなぁ?」
レーナの言う通り、私達のステータスは普通ではありえないくらいに高い。
お兄ちゃんの【成長促進】が私達にも適用されているからなんだけど……それでもブラックドラゴンは倒せるのかな……。
特にレーナは耐久が低い。
【聖域】でカバーできるとは思うけど、なるべくヘイトが移らないようにしないといけなくなる。
……あれ?【魔力分身】使うからそれも問題ないわね……。
じゃあ、大丈夫か。
「お姉さん。レーナの言う通り今の私達なら問題なく倒すことができると思うのですが。生態調査から討伐依頼に変えてくれませんか?……だめ……でしょうか……?」
私はまだ呆けている受付のお姉さんに上目遣いでお願いしてみる。
目尻に涙を浮かべるのも忘れない。
お兄ちゃんに対してはそんな演技はしない……というかお願いするときに自然に涙が出てきてしまうんだけど、今回はお兄ちゃん相手じゃないし。
ロリッ子の上目遣い+涙目のコンボは最強なの!
案の定、お姉さんはウグッと胸を押さえて、諦めたように言葉を発した。
……豊満な胸が押しつぶされたのを見た私は内心舌打ちする。
「……仕方ないですね。お二方の強さは重々承知していますし、今回は特例として討伐依頼として貴女達に依頼を受けていただきます。……ただ、本当に無理はしないでくださいね?お二人が亡くなったら旭さんが悲しむことをお忘れなく」
「「はーい!!ありがとう、受付のお姉さん!!」」
私とレーナは満面の笑みを受付のお姉さんに向ける。
お姉さんは「浄化されるぅぅぅ!」とか叫んでいるけど……精神大丈夫かな?
満面の笑みをもらって浄化されるって……失礼じゃない??
「じゃあ、リーア!依頼も受けたし、早速ブラックドラゴンを退治しに行こ!」
「そうね!ふふふ……ブラックドラゴンほど強い魔物を2人だけで倒したらお兄ちゃんも褒めてくれるよね?」
「もしかしたら、たっくさん愛してくれるかも……!!リーア、頑張ろうね!!」
「えぇ!!」
私とレーナはお互いに笑いあって、冒険者ギルドを後にした。
ブラックドラゴン……私とレーナがお兄ちゃんに褒められるために、その首を洗って待ってなさい!!
ーーーーレーナとリーアが冒険者ギルドを立ち去ったその後ーーーー
「……ギルドマスターを呼んでもらおうか」
「……ヒッ!?旭さんとルミアさん!?いつからそこにいたんですか!?」
受付のお姉さんは俺とルミアがいきなり現れたことにかなり驚いている。
【透明化】を解除したから当然の反応だが……そんなことはどうでもいい。
「レーナとリーアの2人が冒険者ギルドに入ってくる5分前からかな。……そんなことよりも……ギルドマスターを呼んでくれ。言いたいことがある」
「は、はいぃぃぃ!!」
受付のお姉さんは急いでギルドマスターを呼びに行った。
10秒と待たずにギルドマスターがやってくる。
「旭君!?一体どうしたと言うんだい!?」
「きたか……。……なんでブラックドラゴンの討伐依頼なんて危険なものをあの2人に受けさせたんだッッ!!?」
「なんの話なんだい!?というか、暴れないでくれ!!!おい、そこで面白そうに見てる冒険者達!命が惜しくなかったら急いで旭君を止めろ!ルミア君も楽しそうに笑ってないで止めてくれぇ!!」
「「「バカ言うな!!俺達が死んじまうだろうが!!!」」」
「……なら、旭君を取り押さえて被害が少なかったら特別報酬を出してやる!!」
「「「しょうがねぇなぁ!?」」」
俺は怒りに身を任せ、ギルドマスターを問い詰める。
金に目の眩んだ冒険者達が俺を取り押さえようとするが……そんなものしるか!
レーナとリーアが怪我でもしたらどう責任を取るつもりなんだ!!
冒険者ギルドは朝早くから怒声と悲鳴が響き渡るカオスな状況になったのだった。
レーナとリーアはその喧騒に気づくことなく、ブラックドラゴンの棲家に向かっていった。
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