第65話 旭は神々を招集する
「まったくもう……今回だけですからね?レーナさんとリーアさんも朝早くから冒険者ギルドに行くのは控えてください。……ご飯はみんなで食べたいんですから」
ルミアは顔を真っ赤にして小声でそんなことを呟いた。
冒険者ギルドから戻った俺とレーナ、リーアの3人はルミアに必死に謝り、なんとか許してもらえた。
レーナとリーアによる泣き落としから始まり、ルミアへの愛を囁いたり……様々なことを試しましたとも。
朝食の時間に遅れてしまったのは事実だから、ちゃんと心から謝りましたけどね。
そんなルミアは今、感極まった俺に抱きしめられている。
……いやだってさ。
ルミアが「ご飯はみんなで食べたい」って言ったんだぞ!?
しかも上目遣いで!
抱きしめてしまうのは仕方ないと思う。
[……ところで……旭?転移魔法で戻ってきたようですが、どうしたのですか?]
ルミアに癒されていると、ソフィアが首を傾げて尋ねてきた。
練習中の転移魔法を使ったことについては特に問題はなかったらしい。
……というか、見ただけで転移魔法とかわかるのか。
「あぁ、それについてだが……ご飯の時に説明するよ」
「…………あ」
俺は抱きしめていたルミアを解放して、テーブルに向かう。
ルミアが俺から離れた瞬間に切なげな声を上げたが……なんとか我慢した。
そんな切なそうな声を出さないでくれ……襲いたくなってしまうだろ?
あ、ハーデスに遅くなることを伝えておかないと。
(ハーデス、聞こえるか?今からご飯を食べてくるから決闘場に行くのが遅くなる。どこかで適当に時間を潰していてくれ)
(『……そんなことだろうと思ったぞ、ご主人。人間界に興味があるので、時間については大丈夫だ。ゆっくりとご飯を食べてくるがいい』)
……ハーデスさん、人間界に興味があったのね。
▼
「なるほど……ギルドマスターが旭さんに確認したいことがあると……そう言ったのですね?」
ルミアはフォークとナイフを優雅にテーブルの上に置いてそう言った。
ちなみに今日の朝ご飯はなんとステーキだった。
なぜ朝から肉なんだと思ったが……美味しかったので特に問題はない。
「まぁ、確認したいことって言っても伊吹姫のことだと思うけどな。大方の予想だが、丹奈の奴がギルドマスターにも話したんだろう。個人的にはスルーしたいんだが……みんなはどう思う?」
「うーん……。パパは神々と転移の影響について話し合うって言っていたよね?ギルドマスターの話を聞いていたら、その時間がなくなると思う。わたしはそのまま決闘場に向かうのがいいと思うなぁ」
「レーナ、確かにその意見には同意だけど……。決闘場は冒険者ギルドが所有しているよね?……事前に許可は取ってあるとは言っても、冒険者ギルドに顔を出したほうがいいんじゃないかなぁ?」
レーナとリーアはウンウンと言いながら話し合っている。
レーナの言う通り、ギルドマスターの表情からして話は長くなるだろう。
普段なら問題ないんだが、今は時間が惜しい。
スルーしたいところだが、リーアも言っていたように決闘場は冒険者ギルドが管理している。
許可はもらってあるが、一言いれてから使用するのがマナーというものだろう。
……どうするべきか……。
[何やら悩んでいるようですが。……それならギルドマスターも一緒に話し合いの場に参加させればいいのでは?]
「「「それだ!!!」」」
どうしようかと思っていたところに届いたソフィアの鶴の一声。
そうか、そうだよ!
神々との話し合いにギルドマスターも混ぜればいいんだ!
そうすれば説明する手間も省けるし、貴重な時間を割くこともない。
「ソフィア……その案でいこう!さすが【叡智のサポート】だな!」
[……わぷっ。あ、旭……!せっかく髪型を整えたのに、そんなにわしゃわしゃ撫でられたらボサボサになってしまいます……っ!]
俺はそう言ってソフィアの頭をわしわし撫でる。
ソフィアは口では抵抗しているが……口元が緩んでいるのを俺は知っているぞ?
レーナとリーアの2人が羨ましそうにソフィアを見ているが……2人はさっき抱っこしてあげたから少しは我慢してくれ。
「じゃあ、方針も決まったことだし冒険者ギルドに行こうか。ソフィア、この人数での【長距離転移】って何か問題があったりするか?」
[問題なんてありませんよ。むしろ今まで使わなかったのが不思議なくらいです。今回は私もサポートに回りますから、座標軸の固定はしなくて大丈夫ですよ]
ふむ……実際に大人数で転移したことがなかったから確認したんだが……。
ソフィアが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
これで移動がとても楽になるな。
まぁ、行ったことがある場所に限られると思うけど。
「4人が準備できたらすぐに冒険者ギルドに向かうぞ。準備ができたら声をかけてくれ」
俺の言葉に4人は問題ないと返事を返してきた。
すでに準備が整っているとは……さすがは俺の愛した女達だ。
では……冒険者ギルドに転移するとしましょうかね。
俺は4人に近くへ来るように手招きをする。
「それじゃあ……いくか。念の為、俺の体にしがみついていてくれよ?ソフィア、座標軸固定を頼んだ」
[Yes,My Master。転移先の座標軸の固定を開始……冒険者ギルドに固定完了しました。いつでもいけます]
俺はソフィアの言葉を受けて魔法を発動する。
「……いざ、冒険者ギルドへ。【長距離転移】!」
▼
冒険者ギルトに転移した俺達は、すぐに確認したいことがあると迫るギルドマスターを拘束し、決闘場に集まっていた。
ギルドマスターを連行する際、受付嬢達が呑気に手を振っているのが気になった。
人は自分に関係ないことには楽観的になれるのかもしれない。
「…………で、旭君。新しい女性が増えているのは……今は置いておくが。決闘場に連れてきた理由を聞かせてもらおうか……」
ギルドマスターは血の気が引いた顔でそう尋ねてきた。
連行する際に空中飛行させたのが原因かもしれない。
まぁ、暴れられると面倒だったし必要な処置だったということで許してもらいたい。
「……説明を何回もするのが面倒だから、そこに座って眺めていてくれ。多分、ギルドマスターが確認したいことは伊吹姫のことだろうしな」
俺の言葉にギルドマスターは体をビクッと震わせる。
図星だったらしい。
そんなギルドマスターを見やり、呪文の発動準備に入る。
「ソフィア、これから召喚魔法を行使する。俺は四神を呼び出すから、ソフィアはゼウスを召喚してほしい。俺の能力の2/3だと言っていたが……できるか?」
[……旭、私を舐めないでください。私が愛する旭に頼みごとをされてできなかったことがありますか?ゼウスの召喚くらい難なくこなして見せましょう]
ソフィアはドヤ顔でそう宣言してきた。
……もしかして【叡智のサポート】として手助けしてくれた時もドヤ顔をしていたのだろうか。
そんなソフィアを愛おしく思いながら、俺は頼んだと一言ソフィアに告げた。
あ、ハーデスも呼び出さないと。
「じゃあ……やるとしますかね。【召喚魔法:四神】!それと同時に……来たれ!【冥府の神】!」
『『『『ご主人、何か御用命か?』』』』
『……ご主人、呼び出すならせめて一言入れてからにしてくれ。……まだご飯を食べていたんだが』
俺の魔法により、四神とハーデスが決闘場に顕現する。
ハーデスの方は……ファストフード店のハンバーガーを片手に持っていた。
……というか、そのお金はどこから出したんだ?
まぁ、それは置いておくとしよう。
山賊の残党を倒した報酬でももらったんだろう……多分。
俺の魔法が発動したのを確認したソフィアも詠唱準備に入る。
[……My Masterからの魔法使用許可を確認……。現在ステータスを確認……All clear。魔法を使用する上での問題はないことを確認しました。……今ここに顕現しなさい、【全知全能の神】!]
『主、何か御用か……って我を呼び出したのは主ではないな?お主は誰だ?』
召喚されたゼウスは呼び出したのがソフィアだったことに疑問を覚えたようだ。
まぁ、初対面だから仕方ないな。
[私ですか……?私は新しく旭の女になったソフィアです。……【叡智のサポート】と言えば、貴方達ならわかるでしょう?]
『『『『『【叡智のサポート】ですか!?いつもお世話になっています!』』』』』
ソフィアの言葉を受けたゼウスと四神が一斉にソフィアに向かって頭を下げた。
あの白虎までもが敬語を使っていることに違和感を覚える。
ハーデスも大声は上げてはいないが、ソフィアに向けて頭を下げている。
……頭を下げるのはいいんだけどさ。頭を下げながらハンバーガーを食べるのは行儀が悪いぞ?
「……な……な!?あの四神とゼウスが頭を下げた!?旭君!彼女は何者なんだいッ!?」
「あぁー……。ソフィアは俺の固有スキル【叡智のサポート】だよ。訓練の時に声を聞いただろう?先日人間の姿に顕現できるようになって、俺の女になった」
「……固有スキルの擬人化……だと!?そんな話聞いたこともないぞ……」
ギルドマスターは驚いたようにソフィアを眺めている。
……おいおい、あんまり見つめ過ぎるなよ?
嫉妬しそうになるから。
[そろそろ顔をあげなさい。旭に見られている状態でいつまでも頭を下げられるのは恥ずかしいので。それに貴方達の主は旭でしょう?いつまでも主を放置しておくのはどうなんですか]
『『『『『すみません!!!』』』』』
ソフィアが呆れた声をだして、ジト目で神々を見つめる。
ジト目で見られた神々は慌てて顔をあげて、俺の方に顔を向けた。
……いや、別に俺は気にしてないんだが。
だからその譲歩してくださいみたいな視線やめれ。
「リーア……あの横暴な態度の白虎ですらソフィアお姉ちゃんには敵わないみたいだよ」
「……みたいね。低階級の女神のステータスを鑑定した話の時からすごい存在なのかもと思っていたけど……予想以上だわ……」
神々を従わせているのを見たレーナとリーアはソフィアの認識を改めていた。
この世界では【叡智のサポート】は固有スキルとしか認識されていなかったから、尚更なのだろう。
俺は神々の方に向き直り、咳払いをする。
「……ごほん。俺が従えた神々の諸君。今日は篠田伊吹姫の転移の影響を与えなくするためにはどうすればいいか話し合うために招集させてもらった。それぞれの考えを聞かせてほしい」
俺の言葉に神々は深く頷いた。
ソフィアがいるからなのか、全員かなり真面目な顔をしている。
ギルドマスターだけが何か言いたそうにウズウズしているが……今話しかけると長くなるだろうから無視しよう。
さぁ……作戦会議をするとしようか。
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