第51話 旭はかつての元カノと対峙する
俺達[ROY]と丹奈のパーティ[マスターガーディアン]のメンバーは、冒険者ギルドの近くにある決闘場にやってきた。
決闘場の地面が抉られているのを見た[マスターガーディアン]の面々は、その悲惨な光景に息を飲んでいる。
悲惨な光景を目にした丹奈は俺に問い詰めてくる。
「ちょっとあーちゃん?この場所の地面……抉られているんですけど?あーちゃんがこんな状況にしたんじゃないの?」
……丹奈はこの惨状を俺がやったものだと勘違いしているようだ。
俺は溜息をついて、丹奈に白い視線を向ける。
「……はぁ。なんでも俺のせいにするのはニナの悪い癖だぞ?この状況は俺じゃなくて、レーナとリーアが合同で魔法を放った結果だ。俺が戦った時には既にこの状態だったわ」
「…………今なんて?」
丹奈は呆気に取られた表情を浮かべて、ギギギとレーナとリーアの方を見る。
視線があった2人は薄い胸を張ってドヤ顔をしていた。
「ふふん。強力な魔法を使えるのはパパだけじゃないってことだよ、元カノさん!」
「お兄ちゃんへの想いがあればこその力だけどね。ちゃんと全力で勝負に挑むから安心して?」
「……お手柔らかにお願いします」
丹奈はそんなことを呟きつつ、パーティの元へ戻っていった。
……さて、戦いの準備を始めようか。
俺は丹奈達のパーティの方を見る。
「さて、決闘場のこの現状は俺達が原因なのは間違い無いんだが……。ここで全力で勝負するとなると耐久が不安になってくると思う。そこで……だ。俺が今から結界とかの準備をしようじゃないか」
俺の言葉に、丹奈の側にいた男が声をかけてくる。
なんだっけ…………あぁ、レンジとかいう男だ。
「結界……?ゼウスでも呼ぶつもりか?」
「前までの実力ならゼウスでもよかったんだがな。今の俺達の攻撃だと、ゼウスとハイエンジェルの結界でも耐久不足なんだわ。だから……こうする」
俺は質問に答えてから魔力を集中させる。
「……【召喚魔法:四神】、顕現せよ……【全知全能の神】!!」
俺は魔法を発動し、四神とゼウスを召喚する。
いつものように光の柱が天まで伸びた後……、四神4体とゼウスが召喚された。
『『『『我らをお呼びか?ご主人』』』』
『主、何か御用ですかな?』
決闘場に巨大な生物が5体顕現されたのを見た[マスターガーディアン]の面々は絶句している。
そんな彼らを横目に俺は指示を出す。
「今からそこにいるパーティとルミアをかけての果たし合いと言う名の殺し合いを行う。四神達は昨日の打ち合わせ通りに全力で結界を張ってくれ。……っと、忘れるところだった。えーっと……【眷属強化】!これで結界の力も強くなるはずだが」
俺の言葉に朱雀が代表で答える。
『ふむ、これならご主人の攻撃も心配なく防げるだろう。各々聞いたな?配置は昨日の通りだ。結界を張る準備に取り掛かるぞ』
『……ほう。あの女がご主人の元カノとかいうやつか。……イケメンを侍らせておるな。ご主人、遠慮はいらん。我もあの輩は気に入らんな……全力でやるg……って朱雀!何をする!』
『そんなくだらないこと言ってないで早く持ち場につけ。お前も四神の一神ならご主人の意向に沿わんか』
『……チッ。分かったわ!……ご主人!手加減は無用ぞ!我を従えたのだからその力を元カノとやらに見せつけてやるがいい!』
白虎が丹奈の方を唸りながら、結界の持ち場に向かっていく。
白虎に睨まれた丹奈は身体を震わせながら俺に問いかけてくる。
「……あーちゃん。あれって日本で言うところの白虎……だよね?あんな召喚魔法……聞いたことがないんだけど」
「そりゃそうだろうなぁ……。禁忌魔法よりも上級の神霊魔法だし」
「……なんでそんな魔法をぽんぽんつかえんのよ……」
丹奈は訳が分からない!と憤慨しているが……、多分【全魔法適正】のおかげだろうなと考えている。
まぁ、そんなことをわざわざ敵に教える必要はないので黙っておくが。
『……主よ。神霊魔法級の四神を4体同時に召喚されておることにも驚きましたが……我は何をすれば?四神がいるのであれば我は必要ないかと思われるのですが……』
ゼウスが所在なさげに俺に尋ねてくる。
たしかに四神がいれば結界については問題ないからな。
しかし、ゼウスにはやってもらうべき役割がある。
「いやいや、ゼウスにもやってもらわないといけないことがあるんよ」
『……主。もしかして……ですが……またですか……?』
「思っている通りかな?ゼウスには蘇生魔法を頼みたい」
やっぱりそうだったか……とばかりに肩を落とすゼウス。
イケメンとの戦いの時に神霊魔法は控えてくれとか言っていたから仕方ないのかもしれない。
俺はそんなゼウスをフォローするように話しかける。
「まぁ、今回は強化してあるし、神霊魔法によるダメージでも蘇生はできると思うぞ?俺自身の能力も強くなったから強化魔法による恩恵も強いだろうし」
『それならば大丈夫……ですかね?主の言葉を信じるとしましょうぞ。では、我は待機しております故』
ゼウスはそう言って決闘場の観客席の方に飛んで行った。
……身長大きいままだが、そのまま座るのか?
と思ったら、170cmまで縮めてから席に着いた。
……そこは気にするのね。
ゼウスとそんな話をしていたら、[マスターガーディアン]の面々が輪になって会議していた。
「……ねぇ、今更なんだけどさ。喧嘩売る相手間違えたんじゃないの?」
「というか、ライアンがあんなこと言わなければこんなことにならなかった可能性が……」
「い、いや、だってよ……。ダスクの街ではBランクだった奴が、ウダルについた途端にSSランクとかいう新しいランクになってるなんて思いもしないだろ!?」
「ライアンはもう少し空気を読むってことを覚えたほうがいいと思う。一応【催淫強化】は使用してはあるけど……勝てると思う?」
「【全魔法解除】を使用しないように言えばワンチャンあるんじゃないか……?」
「じゃあ、レンジの案でいこう」
相談が終わった丹奈が俺の方に向かって駆け寄ってくる。
……全部聞こえていたんだけどな。
相談している間に丹奈へ【鑑定眼】を使っていたので、あいつに【ステータス反映】なるスキルがあるのは分かっている。
俺のスキルを封じるつもりならこっちも手札を切るとしよう。
「あーちゃん。戦うにあたって1つ条件というか……お願いがあるんだけど……」
「丸聞こえだったんだが……。【全魔法解除】を使用してほしくないんだろう?それは別に構わないが……ニナも【ステータス反映】を使用しないでもらおう。……その条件でよければそちらの要求を飲もうじゃないか」
俺の言葉を聞いた丹奈は驚愕の表情を浮かべる。
「……なんで私のスキルを知っているわけ!?」
「さっきの丸聞こえの話し合いの最中で調べたに決まっているだろう?……おっと、プライバシーの侵害とかいうなよ?対策していないお前が悪い」
俺の言葉にグヌヌという呻き声を上げていた丹奈だったが……俺がスキルを使わないことの方が重要だったようだ。
納得がいかないという表情を浮かべながらも俺に返事をしてくる。
「……分かった。それであーちゃんが【全魔法解除】を使わないなら、その条件を飲んであげる。……どうせ私がスキルを使っても対策はしてあるんでしょう?」
俺は丹奈の言葉に黒笑を浮かべる。
「当たり前だろう?ニナの【ステータス反映】を知ってから幾つか対策を考えた。それくらいは普通だろ?」
……実際には叡智さんが対策案を出してくれたんだが、教える必要はないよな?
今から戦うんだし。
俺はそんな内心を隠しつつ、丹奈に勝負内容について尋ねる。
「……で?勝負の形式はどうする?前に戦ったパーティとは俺と相手のリーダーが戦ったが。その形式を使うとなると、ニナのイケメンvsレーナとリーアになるな。さぁどうする?」
「……ねぇパパ?1つ提案があるんだけど」
俺が丹奈に続きを促していると、レーナが俺の前に来て話し始めた。
「レーナ、何かいい案があるのか?」
「うん。パパの元カノとは私とリーアが相手したいの。流石に1対2じゃ可哀想だからそこは相談してもらうけど。パパの魅力が分からなかった女なんかに負けるわけにはいかない」
レーナはそう言って丹奈に向き直る。
いつものほんわかとした雰囲気は消え、口調も大人びて聞こえる。
レーナが私と言う時は相当怒っている時だ。
そんなことを言われたらだめなんて言えないじゃないか。
俺はレーナの頭を撫でつつ、丹奈に確認を取る。
「……とレーナは言っているんだが、ニナはどうなんだ?俺としては誰と戦おうとも問題はないんだが」
「まさかあーちゃんの今の彼女にそんなことを言われるなんてね。そこの2人がどれほどの実力かは分からないけど、そこまで言うのなら受けて立つわ。……レンジ、私と一緒に戦ってくれる?」
「……ニナがそう言うなら一緒に戦おう。だが、ライアンじゃなくていいのか?俺はタンクは出来ないぞ?」
「敏捷値はライアンより高いでしょ?レンジはあのリーアって子の足止めをお願い。その間に……私はあのレーナっていう生意気な娘を攻撃するわ」
丹奈とレンジの言葉にリーアが嘲笑うかのように告げる。
「そのレンジって人は、お兄ちゃんに手も足も出なかった人だよね?そんな彼が私を足止め……。果たしてできるのかしらね?」
「言ってろ。この前のは本気を出せなかっただけだ。全力を出せるなら幼女ごとき敵でもないわ」
「……そう。なら分からせてあげる。お兄ちゃんを強く愛する私達の本当の実力を」
リーアとレンジがお互いに睨み合う。
俺はリーアを抱き上げつつ、話の修正を行う。
「リーア。熱くなるのは構わないが、まだ話し合いの段階だ。少し落ち着け」
「……お兄ちゃんが抱っこしてくれたから少しは我慢する……。頑張ったらご褒美ちょうだい?」
「分かった分かった。ご褒美はちゃんとあげるから」
「リーアだけずるい!パパ、わたしにもご褒美!」
仲間外れは嫌だとレーナも俺の足に抱きついてくる。
そんなレーナを片腕で抱き上げ、丹奈へと向き直る。
「じゃあ、最初の対決は丹奈&レンジvsレーナ&リーア戦としようか。残りのイケメン軍団は俺が直接相手するとしよう。あぁ、俺は1人で構わないぞ?正直ルミアより弱そうだしな」
「「「「「「「「なんだと……!?」」」」」」」」
俺の言葉に丹奈のイケメン達が殺気を放つ。
だが悲しきかな。
そんなのは殺気とは言わない。
レーナとリーアの殺気を参考にしてもらいたいな。
怒るイケメン達を宥めつつ、丹奈は俺に声をかける。
「……分かった。対戦方式はそのようにしよう。負けたら先の発言は撤回してもらうからね」
「OKOK。まぁ、本気を出して戦おうぜ。……俺が本気を出せればいいんだけどな。じゃあ、戦闘前の準備をしようか」
そう言って俺は朱雀の近くに歩き出した。
召喚したまま結界張る許可を出していないからな。
ちなみに俺に抱かれたレーナとリーアは……。
「リーア、あのレンジって人は隠蔽系が得意みたい。それをどうにかしないとダメかも」
「大丈夫よ。既に私の魔力をあの男の服に取り付けてあるわ。姿を消したところで意味はないよ。レーナは大丈夫なの?丹奈とやらはお兄ちゃん程ではないとはいえ、かなりの実力者だよ?」
「それなら大丈夫。バフ効果を最大限にすれば問題にもならないから。【聖域】もあるし」
既に戦闘についての相談をしていた。
この短い期間で守る側から攻める側に思想が変わったらしい。
出会った頃の2人が懐かしく感じる。
まぁ、今も昔も可愛らしいというのは変わっていないんだが。
俺はそんな2人を抱きしめるように腕を寄せるのだった。
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