第52話 レーナ&リーアvs丹奈&レンジ

 俺は朱雀の前に向かい、指示を出す。


「朱雀、待たせたな。結界を張ってくれ。耐久テストは昨日行ったから大丈夫だとは思うんだが」


『今回はご主人による強化もある。ご主人の本気の魔法でも破れることはないだろうて。……さて、結界を展開するぞ?各々準備は良いな?』


『『『当たり前だ!』』』


 朱雀の声掛けに他の四神達が力強く答える。

 どうやら本番になるとより一層力を入れるみたいだ。


『『『『……ご主人に強化された四神たる我らによる聖なる結界をこの場所に……【四獣結界】!!!』』』』


 なるほど。俺が強化すると詠唱が若干変わるのか。

 それで意味があるのかどうかは……置いておくとして。

 四神が魔法を発動し、決闘場の周りは結界で覆われる。

 俺は丹奈達の方に戻る。


「さて、これで決闘場の耐久を心配する必要は無くなった。俺達は今すぐにでも戦うことができるが……どうする?準備時間が欲しいなら与えるが」


 絶句しているイケメン達を横目に、丹奈は俺に告げる。


「……少し時間をくれないかな。パーティメンバーの戦意を戻さないと勝負にもならないから」


「わかった。レーナ、リーア。俺達は戦闘開始の場所に行っていようか。ルミアも一緒に来てくれ。念のために結界を張るから」


「「はーい」」


「旭さん、私なら大丈夫だと思うのですが……。旭さんはちょっと過保護な面がありますよね。……まぁ、私としては嬉しいんですけど……!」


 レーナとリーアは元気よく返事をして俺の手を握ってきた。

 ルミアは……過保護と言いながらも尻尾をブンブン振りながら喜んでいる。

 うん、やっぱりルミアは感情が豊かだな。

 どこが【氷の女王】なんだか。


「……レンジ。俺の見間違いか?あの【氷の女王】が旭に対して満面の笑みを浮かべているんだが……」


「グラン……それは見間違いじゃないと思うぞ……。俺にも同じ光景が見えている」


 ルミアの様子を見たイケメン達がなにかぼやいているが……無視だ無視。

 丹奈のパーティの戦闘準備ができるまで、3人の嫁に癒される俺ことにした。


 ▼


 丹奈達に戦闘準備の時間を与えてから30分後。

 若干気まずそうな顔をした丹奈が俺に話しかけてきた。


「あーちゃん、お待たせ……ってなにをやっているの?」


 丹奈は俺の方をみて青筋を浮かべつつ質問してくる。


「……ん?そっちの準備が整うまで暇だったから、ブレイクタイムしていたんだが」


 俺達は丹奈達を待っている間、【クリエイト】でテーブルを出して少し早いティータイムに洒落込んでいた。

 今回のメニューはルミアお手製のアップルパイである。

【無限収納】に入れていたので、熱々だ。


「……まぁ、いいや。準備できたよ」


 丹奈は突っ込むのを諦めたらしい。

 俺はテーブルを消して、改めて向き直る。


「じゃあ、勝負を始めようか」


 ▼


 1戦目はレーナとリーアvs丹奈&レンジだ。

 バランス的にはちょうどいいんじゃないだろうか?


「さて……レーナちゃんとリーアちゃん……だっけ?あーちゃんには悪いけどさっさと終わらせてしまうからね」


 丹奈は2人を挑発するが……レーナとリーアは黙ったままだ。

 俯いてブツブツとつぶやきあっている。

 その光景を見た丹奈はレンジに指示を出す。


「……レンジ。全力で行くよ。……【身体改造】!」


「勿論だ!我が身体の能力を向上させよ……【身体能力向上】!」


 レンジの魔法が発動したと同時に姿が消える。

 どうやら隠蔽のスキルを使用したみたいだ。

 レーナとリーアは大丈夫だろうかと視線を送ったのだが……。


「ふふふ……ふふふふ……。リーア、案の定隠蔽をしてきたよ」


「私の魔力が目印になってるとも知らずに……。じゃあ、レーナ。私があの斥候を引きつけるから元カノの方はお願いね?」


「りょーかい。まぁ、攻撃を仕掛けてくるまではのんびり過ごしているとするよ」


 黒い笑みを浮かべながらそんなことを相談し合っていた。

 ヤンデレのオーラは出ていないが……コントロールしているということなのだろうか。

 そんなことを考えていたら、リーアが攻撃に転じた。


「それじゃあ、お兄ちゃんにいいところを見せるためにも私も仕掛けようかな。【魔力分身】!そして……【吸生の死剣】!みんな……行くよ!」


 リーアは【魔力分身】を使用してレンジに向かって特攻していく。

 その数10。

 しかも10人が全員【吸生の死剣】を構えている。

 それにしても……どんどん分身できる数が増えていっている気がするな。

 いつか1000人まで分身できるようになるかもしれない。


「……レンジ!前衛のリーアちゃん子が来るよ!気を付けて!」


「……分かってはいるんだが……!なんで姿が見えない俺目掛けて攻撃できるんだよ!」


 その言葉と同時にレンジの姿が明らかになる。

 動揺しすぎてスキルが解除されたらしい。


 リーアはそんなレンジを鼻で笑いながら、連撃を繰り出していく。

 しかし、相手の敏捷値が高いのか、中々攻撃が当たらない、


「……レンジさん……だっけ?中々やるね。10人もの私の攻撃を全て避けるなんて」


「これくらい出来なきゃAランクは名乗れねぇよ!」


 レンジの言葉にリーアは納得したように頷き、その場に止まった。

 とは言えども、分身体は攻撃を続けている。


「どうした!?攻撃が当たらないから諦めたのか!?」


「……諦める……?……この私が?お兄ちゃんの前で……?……バカなことを言わないで。それよりもいつまでも分身体を攻撃していていいのかしら?


 リーアは【狂愛】のオーラを出しながらケタケタ笑っている。

 そんなリーアを見た丹奈が慌てたように、リーアの本体に魔法を使う。


「レンジ!早く本体を攻撃して!何かしてくる!……【魔法威力向上】を使用、【聖なるホーリーランス】!」


 丹奈が魔法を発動し、リーアに光の槍が向かっていくが……それをただ黙って見ているレーナではない。


「リーアに攻撃をさせるわけがないでしょ?【聖域】展開!」


 レーナが未だに立ち尽くしているリーアに【聖域】を展開する。

 丹奈の放った【聖なる槍】は【聖域】に当たって……反射された。


「……魔法が反射された!?どういうこと!?」


 そんな丹奈をドヤ顔で見るレーナ。


「パパへの愛情が強いからに決まっているでしょ!!」


「意味がわからないんですけど!?」


 レーナの言葉に突っ込みをいれる丹奈。

 その気持ちはよく分かるが……恐らくは俺の【魔法攻撃反射】を真似したのだろう。

 四神の試練の時にルミアが鑑定していたのかもしれない。

 それでもすぐに使用できるのは……レーナが天才だということなのだろう。

 流石はレーナだ。後でたくさん撫でてあげなければ。



 丹奈は反射された【聖なる槍】を避けて、レンジをサポートしようとする。

 ……が、そんなことをしている間にリーアの準備が終わったようだ。

 俯いていた顔を上げて高らかに宣言する。


「……【狂愛】と【嫉妬】のバフ効果を適用完了……。さぁ、宴の時間だよ……!【百鬼夜行】!!」


『『『『『ウォォォォォォ!!』』』』』


 リーアの影から数多の妖怪がレンジに向かっていく。

 鬼、猫又、河童……多種多様な妖怪を見たレンジは途端に慌て出す。


「なんだ……何なんだこいつらは!!っていうか、何でお前がここにいるんだ、ダマスク!!」


 ……いや、妖怪よりもダマスクがいることに一番慌てているような気がする。

 やっぱりそう思うよなぁ……。

 俺も同じこと思ったもの。

 当のダマスクはそんなレンジの問いかけに応えることなく、攻撃を繰り出していく。


「……ニナ、すまない!こいつらの相手で精一杯だ!何とか耐えてくれ!!」


 リーアの分身と妖怪達の攻撃を捌きながら、レンジが叫ぶ。

 ……というか、あの数を捌けるって凄いな。

 敏捷値はどれくらいあるのだろう?


「レンジ……ッ!!こうなったら……私の魔法であの妖怪達の数を減らすしか……っ!レンジ!範囲攻撃行くから避けてね!【凍てつく大地】!」


 丹奈はレンジを襲っている敵を少しでも減らそうと魔法を発動する。

 どうやら地面を凍らせて足を止めるようだ。


『『『『『グヌゥゥゥゥ!』』』』』


 数多の妖怪達は凍った地面に足を取られ、その動きを止める。

 リーアの分身体は……地面から少し浮いていた為、丹奈の魔法の効果を受けていなかった。


「レンジ!分身には効かなかったけど……これでいけるでしょ!?」


「あぁ!フォローサンキュー!!」


 丹奈とレンジは妖怪達の足止めに成功したことを喜んでいるが……そんな呑気なことを言っていていいのだろか?


 そんなやりとりをしている間にリーアは空高く飛び上がっていた。

 いつの間にか本体も合流している。


「レーナ、ここで斥候を倒そうと思うんだけど……いいかな?」


「大丈夫だよー。私は【聖域】展開してるし、全力でやっちゃって!」


「わかった!」


 リーアはレーナにそう返事をすると、空中で円陣を組み始めた。

 おや?あの陣形は……。

 訓練の時に使っていたやつかな?


「魔法の転移先を【吸生の死剣】に指定……魔力の圧縮開始……」


「…………ッ!?レンジ!リーアちゃんの魔力が強くなってる!阻止できる!?」


「クッ……!いつの間にあんな上空に!俺では届かない!ニナ、フォローを頼む!」


 リーアの様子に気がついた丹奈とレンジが慌てるが……時はすでに遅し。

 リーアの準備は完了したようだ。


「気づくのが遅すぎるね。まぁ、私の分身と【百鬼夜行】の攻撃を捌ききった事を評して、死なない程度に手加減してあげる。……【深淵への誘い】!!」


 リーアの魔法が発動し、剣先から漆黒の闇が地面に勢いよく向かっていく。

 レーナと丹奈の所までは闇が行かなかったようだが、妖怪達とレンジはその漆黒の闇に飲み込まれてしまった。


 闇が地面を覆って数分後……。

 闇が晴れた場所にはレンジが1人立ち尽くしていた。


「レンジ!大丈夫!!?」


 丹奈は大慌てでレンジの元に向かう。

 勝負の最中に相手を無視して仲間に駆け寄るのは……愚策なのだが、レーナとリーアは見守ることにしたようだ。


「レンジ……!レンジ…………!しっかりして!!」


「……あ……あぁ……ニナか……?声が聞こえるということは……死んではいないのか……」


 レンジの見た目は変化していなかったが、かなり憔悴している様子だった。


「……恐ろしい魔法だった……。真っ暗闇から聞こえてくる怨嗟の声……それと同時に内側から喰い破られる感覚……ッ!」


「一応言っておくけど、あれでも手加減している方だからね?【深淵への誘い】は禁忌闇魔法だし……本来なら会話する事も不可能な精神ダメージと四肢欠損があるんだから」


 いつの間にか分身を消して近づいていたリーアが、丹奈とレンジに告げる。


「……あれで手加減……!?嘘でしょ……!?」


 リーアの話を聞いた丹奈は絶句している。

 本気を出されていたらどうなっていたか想像してしまったらしい。


 そんな丹奈を無視して、レーナが話しかける。


「ねぇ?わたしはまだ攻撃魔法を展開していないんだけど……続けるの?」


 レーナは片手を前に出したままの状態で止まっていた。

 リーアが近くにいるから、攻撃魔法を唱えずに待っているらしい。


「…………降参よ。私一人じゃ二人を相手になんて出来るわけない」


 丹奈はがっくりと肩を落として、降参を告げた。

 まぁ、実力差は歴然だったからなぁ。

 ただ、リーアの攻撃が全く当たらなかったのは予想外だった。

 もっと訓練が必要なのかもしれない。


 そんな事を考えていたら、レーナが俺に向かって話しかけてきた。


「ねぇ、パパ。わたし攻撃できなかったから消化不良なの。元カノに放とうとした攻撃を受けて欲しいなぁ……。……お願いしてもいい?」


 ふむ。

 確かにレーナがしたことは【聖域】を展開しただけだ。

 攻撃しようとしたら降参されたからやるせない思いなのだろう。


「レーナちゃん!?それはいくらなんでもないんじゃないの!?あーちゃんも嫌だよね!?」


「…………?何を言ってるんだ?レーナが戦闘に消化不良を感じているなら、それを解消させてやるのが俺だろ?そこに何の問題がある?」


「……おかしい……おかしいよ……」


 丹奈はブツブツ言っているが……俺が重い愛が好きなのは知ってるだろうに。


 そんな丹奈は無視して、レーナに告げる。


「レーナ、いつでもこい!俺への愛情を全力で受け止めてやるさ!」


「流石パパ!!じゃあ……いくよ?……【神々の黄昏】!!」


 レーナの手から神々の炎を模した魔法が放たれる。

 俺はそんな炎を眺めながら、片手を伸ばして魔法を唱えた。


「うまく吸収してくれよ?【聖域:魔法吸収】!」


 俺の片手に球状の【聖域】が出現し、【神々の黄昏】を吸収していく。

 ぶっつけ本番だったが……うまく機能したようだ。


「……よし。レーナ、強くなったな。この魔法だとゼウスでも蘇生が難しかったかもしれないから対人戦では使用しないように気をつけろよ?」


「はーい。暴走したらパパが止めてね?」


 レーナは俺の言葉にたははと苦笑いを浮かべる。


 さて、1戦目は俺達の勝利だ。

 次は2戦目だが……どうなることやら。

 そんな些末なことを考えながら、俺は戦闘の準備を開始するのだった。


「……レンジ、他のメンバーがあーちゃんに勝つことはできると思う?」


「……絶対に無理だろ」


 丹奈とレンジがそう話し合っていたが……俺は聞こえないフリをした。

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