第49話 旭は丹奈との戦闘に備える

 レーナ達3人と楽しくお風呂に入った後、俺とルミアは夕飯の準備をしていた。

 ちなみに、2人のお姫様はリビングで仲良くスマホでアニメを見ている。

 2人は料理が苦手だから仕方ない。


「旭さん、本日の夕飯はどうしますか?精のつく料理にしますか?」


「……それ夜通し搾り取られるパターンじゃないのか?それは構わないんだけどさ、そんなに材料あったっけ?」


 俺の【無限収納】は食材を腐らせる事なく保存できるが……そんなに精のつく食材があっただろうか?

 そんなに入れた覚えはないんだが……ルミアはとんでもないことを言い出した。


「その点については大丈夫ですよ?旭さんが寝ぼけている時、【無限収納】に入れてもらっていましたから」


「……ルミアさん、人が寝ぼけてる時に何やってるんすか……」


 思わず敬語になってしまった。

 え?俺が寝ぼけている時にそんなことされてたの?

 俺はルミアの言葉を聞いて、すぐに【無限収納】の中身を確認する。


「……本当だ。自分で入れた覚えのない物がたくさん収納されている……」


「私だけじゃなくてレーナさんとリーアさんも同じことをしていましたからね。たくさんあるのは無理もないかと。旭さんには毎回気持ちよくしてもらいたいのでそのようにしたのですが……だめでしたか……?」


 ルミアは上目遣いで俺の方を見てくる。

 ……そんな目で見られたら許したくなっちゃうじゃないか。

 というか、怒ってないからただただ可愛いだけなんだけど。

 俺はルミアの猫耳を撫でる。


「別に怒ってはいないから大丈夫。でも、今度からは事前に許可取ろうな?別に俺の【無限収納】を使うのは拒否しないからさ」


「……んぅっ。わ、わかりました……から……猫耳をそんなに撫でないでください……ひぅっ」


 ルミアは身体を小刻みに震わせながら、返事をする。

 猫耳族にとって猫耳は敏感らしい。

 そんなルミアを愛でながら、今晩の料理を考える俺だった。


「あー……ルミアお姉さんがまたパパになでなでしてもらってる……」


「レーナ、私達も頑張って料理を覚えましょう?そうすればルミアさんみたいに……!」


 ルミアの様子を見たレーナとリーアはそう話し合って、スマホで料理について検索し始めた。

 ……下手に隠し味を入れるとか覚えないでくれよ?


 ▼


 夕飯を食べ終わった俺達は椅子に座ったまま、元の世界に戻ったときのことを話し合っていた。

 ちなみに今夜のメニューは鰻の蒲焼きとバーサルベアの煮込みだ。

 バーサルベアの肉がトロトロで美味だったと表記しておく。


「確かパパはこっちの世界で2日前に戻れば、向こうの世界では日没頃って言っていたよね?」


 レーナが話し合いの内容を切り出してくる。


「叡智さんの話だとそうだな。俺はそのまま早めに就眠して次の日に備えようと思ったんだが……レーナには何か考えがあるのか?」


「うーん……なんとなくなんだけどね?もう少し早めに戻ったほうがいいんじゃないかなぁって」


「早めに戻る?」


「うん。パパの元カノはAランク冒険者だよね?戦闘前に外の世界での結界の耐久力を試しておくのもいいんじゃないかと思うの」


 なるほど。

 今現在も四神達が【四獣結界】を使用している。

【遅延空間】にも結界の効果が反映されているので、それを想定とした訓練を行ってきたのだが……元の世界での耐久も試しておいたほうがいいのだろう。


 俺はレーナの頭を撫でる。


「確かにレーナの言う通りだな。じゃあ、向こうの世界には10日前に戻るとしようか。叡智さん、10日前だと向こうの世界で何時頃か3人に聞こえるように教えてくれるか?」


 ーーーー[了解しました。10日前ですと……ちょうどお昼頃でしょうか]


「だそうだ。3人がそれでよければそのようにしたいと思うんだが……異論はあるかい?」


「わたしは大丈夫だよ、パパ」


「お兄ちゃんといちゃいちゃする日が10日少なくなるのは惜しいけど……。今はそんなことを言ってられる状況じゃないもんね。私も大丈夫」


「私は旭さんについていくだけですよ?異論があればその場で言っています」


 3人はそう言って強く頷く。

 俺はそんな3人に向かって1つ頷くと、意見をまとめた。


「じゃあ、【遅延空間】における訓練は残り20日とする。というか、訓練は終わっているから実際には長期休暇なんだが……。今回の埋め合わせはどこかでするつもりなので、安心してほしい」


 俺の言葉に再度頷くヒロイン3人。

 ……先ほどと違って若干嬉しそうなのは……気のせいではないだろう。


「じゃあ、意見もまとまったことだし、残りの日数はのんびり過ごしますか」


「……え?パパ、何言ってるの?」


 何をして過ごそうかなぁと考えていたら、レーナがありえないと言う感じで話しかけてきた。

 ……あれ?なんでレーナもリーアも目の光が消えているんだ?

 ヤンデレの発動条件に当てはまることあったか?


「パパ……さっきルミアお姉さんの猫耳を弄っていたよね……?ルミアお姉さんだけ構うのはずるいと思うの」


「そうだよねぇ……。お兄ちゃんは私達のことも平等に愛してくれなきゃ……」


「……旭さん、先ほどの件だと私は弁解できません……ご武運を」


「……分かった。後でレーナとリーアの頭を撫でてあげよう。……だが!俺は今お風呂に入りたい!というわけで……3人でゆっくり話していてくれ!俺は……先に風呂へ行く!」


【魔力分身】と【赤き鎧】を同時発動、分身はレーナとリーアの動きを止めておくように!

 その間に俺は離脱する!


 俺は分身体に指示を出して、その場を離脱する。


「!?パパったら急に抱きついてくるなんてダメだよぅ……!」


「レーナ、よく見て!それはお兄ちゃんの【魔力分身】だよ!?早く追いかけないと!」


 ふふふ……意思のない分身に翻弄されるといいわ!

 そんなゲスなことを考えながら、俺はお風呂場に全速力で向かうのだった。


 ▼


 様々な事(主に搾り取られるという意味で)がありながらも、【遅延空間】を解除する当日の朝になった。

 荷物とかをまとめた俺達は決闘場の中央に集まった。

【クリエイト】で創造した一戸建てなどは魔法の効果をなくした為、消失している。


「さて、【遅延空間】を解除するわけだが……準備はいいか?」


「わたしは大丈夫だよ、パパ」


「お兄ちゃん、わたしも大丈夫。いつでもいいよ」


「私もいつでもいけます。【四獣結界】の耐久テストはお役に立てないと思うので……戻ったら夕飯の準備とかをしていますね」


 三者三様の返事を聞いて、俺は魔法の解除を試みる。


「……【遅延空間】の効果を解除!」


 俺が言葉を発した途端に四神達の姿が見えた。

 俺の姿を発見した朱雀が話しかけてくる。


『戻られたかご主人。予定よりも早いみたいだが……なにかあったのか?』


「いや、丹奈との戦闘前に【四獣結界】の耐久を確かめておこうと思ってな。正直どこまで耐えられる?」


『恐らくはご主人の神霊魔法までなら耐えられるかと思うが……』


「じゃあ、レーナとリーア、そして俺の順番で攻撃魔法を仕掛けるから、結界を張り直しておいてくれ」


『了解した。各々聞いたな?ご主人達が攻撃魔法を使用する。各自気合を入れて結界を張り直すぞ?』


『『『了解』』』


 朱雀の言葉に応えた他の四神達は【四獣結界】を張り直す。


「じゃあ、最初はレーナから行こうか。訓練の成果を俺に見せてくれ」


「最初は私だね?わかった!パパに褒めてもらうためにも訓練の成果を全力で見せちゃうんだから!」


 そう言ったレーナは両手を前にかざして魔法を唱える。


「いっくよー?【神々の黄昏ラグナロク】!!」


 レーナが魔法を唱えた途端、結界へと強烈な炎が迸る。

 なぜだろう?かの有名な◯めはめ波みたいな既視感を覚えるのは。

 レーナがその構えをして魔法を放っているからだろうか?

 ちなみに叡智さん、【神々の黄昏】って炎属性なん?レーナの適正魔法は光だった気がするけど……。


 ーーーー[疑問を感知。【神々の黄昏】は光の神霊魔法ですね。見た目は炎ですが神々の炎ということで光魔法に分類されます]


 なるほど……神々の炎だから光魔法なのか……意味がわからん。

 それにしても……【狂愛】状態じゃないのに、そのバフが乗っているとは……。

 ヤンデレをコントロールするレーナはすごいと思う。


「あー……やっぱりわたしの神霊魔法じゃ【四獣結界】はビクともしないか……。次はリーアの番だよ!」


 レーナが悔しそうにリーアへバトンタッチする。

 リーアは自信がなさそうに呟いていた。


「バトンタッチされても……。私は近接戦闘が主だから魔法での攻撃には向いていないんだって。でも、お兄ちゃんの前だし、全力で行くしかないよね?お兄ちゃんからもらったスマホで得た情報をここで活かすよ!……【百鬼夜行】!あの結界を打ち破って!」


『ウォォォォォォ!!』


 リーアが魔法を発動した瞬間、リーアの影から日本でいう鬼や妖怪が出現し、結界へ向かって全力で攻撃を始めた。

 日本の妖怪達なので物理攻撃だが……数が多いためそれだけでも脅威となるだろう。

 なぜかダマスクの姿もあるが……。

 ……お前いつの間に妖怪になったんだ?


 さて……叡智さん。リーアの魔法はいかほどなものなのだろうか?


 ーーーー[事あるごとに質問してきますね……。まぁ、答えるのが我々なのですが。リーアが使った【百鬼夜行】はデータにありません。旭のスマホから得た情報と言っていましたから闇の創作魔法でしょう。しかし、あの数を召喚できるとなると……神霊魔法に分類されるのではないでしょうか]


 ……神霊魔法のオンパレードだな。

 神霊魔法って珍しいんじゃなかったっけ?


 ーーーー[確かに神霊魔法は一般には知られていない魔法です。旭とその嫁がおかしいのですよ]


 叡智さんにおかしいと判定されてしまった。

 レーナ達に限って言えば、俺が何かしたわけではないのだけれど……。

 リーアが召喚した妖怪達が影の中に戻っていく。

 あの数の妖怪達の攻撃でも結界はビクともしなかったようだ。


 そんな中、朱雀から声がかかる。


『……ご主人。レーナ嬢とリーア嬢の魔法の威力が想定外だったので、ご主人の攻撃を耐えられそうにない。結界再展開の許可を』


 レーナとリーアの神霊魔法によって結界が思った以上に損壊したらしい。

 俺はレーナとリーアの頭を撫でつつ、朱雀からの提案を許容する。


「了解した。新たな情報を丹奈に与えるわけにもいかないし、結界を張り直してくれ」


『『『『御意』』』』


 四神達は俺の言葉を受けて、結界を再度展開する。

 ……先ほどよりも力を込めているのは何故だろう?

 俺の攻撃でも1発では壊れないと思うのだが。


『ご主人、我ら四神の全力を持って結界を展開した。最高の攻撃をしてくれても壊れないと保障しよう』


「いや、俺の神霊魔法を耐えるなら先ほどまでの結界と同じでいいんじゃないのか?」


 俺が朱雀にそう告げると、白虎がなにをバカな!とでも言いたげに吠えた。


『ご主人の嫁ですらあの威力なのに、本気のご主人の攻撃をあの程度で防げるわけがないだろう!?』


 ……今回は訓練の成果だからバフをかけるつもりはなかったんだけど……そこまで言うなら本気をだそうじゃないか。


 俺は白虎に向き直り、話しかける。


「白虎、お前の思いは確かに伝わった。で魔法を放つとしよう。あ、レーナとリーアは俺の側にいろよ?巻き込まれる可能性あるから」


 俺の言葉にレーナとリーアはそれぞれ無言で足に抱きついてきた。

 ちなみに白虎は冷や汗を流している。


「さて……【叡智のサポート】に告げる。今の俺が全力で放てる魔法について教えてもらいたい」


 ーーーー[Yes,My Master。結界を考慮するならやはり【終焉の極光】かと。丹奈に情報が渡ることを考慮しないのなら、【災厄ノ流星群】が最高威力となります]


 叡智さんの言葉を聞いた白虎が驚いている。

 まぁ、自分が使った魔法を人間が使えるのだから驚くのも無理はないだろう。


「じゃあ、極光の方で行こう。……魔法発動準備!」


 ーーーー[Yes,My Master。各スキルのバフ効果を確認。【赤き鎧】の使用……All clear。いつでもいけます]


 叡智さんの言葉を受けて、俺は片手を結界に向ける。

 赤い光を纏った俺の手に光が収束していく。


「……【終焉の極光:改】!!」


 詠唱と同時に俺の手のひらから極太の極光が結界に向かっていった。

 なぜ[改]なのかって?

 ……カッコいいからさ!


 極光が消える。

 結界は……消滅せずに残っていた。


「……うん。耐久力は問題ないな。これで心置きなく戦闘ができるというものだ」


 俺は満足気に頷いたのだが……。


『『『『全力で張った結界が壊れる寸前なのですが』』』』


 四神達は真っ青な顔でそう呟いていた。

 ……丹奈との戦闘の時は俺も強化しておこう。

 そう心に誓った瞬間であった。

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