第48話 旭はヒロインとの訓練を終える
俺とルミアの近接戦闘訓練は5日ほどかけて行われた。
最初は俺が優勢だったのだが、3日目からはルミアの反応速度が比べ物にならないくらいに上昇した。
ちなみに今日は【時間遅延】の魔法をお互いに使用していない。
その魔法空間だけで訓練すると、通常空間での攻撃に支障がでるとルミアが言っていたからだ。
「旭さん、攻撃が単調になってきています。せっかく私と同じ魔法が使えるのですから、もっとフェイントをいれませんと。私と同じ魔法を使えるものは滅多にいませんが、フェイントがあるのとないのとでは雲泥の差があります。次はそこを踏まえて行いましょう」
そう言ってルミアは攻撃を再開してくる。
俺はルミアの攻撃を受け流しながら考える。
推奨はされていないが、剣道にもフェイントがあると聞いたことがある。
俺が剣道をやったのは中学の体育の授業以来だが……いけるか?
(【叡智のサポート】に問う。今の俺にフェイント技は使えると思うか?)
ーーーー[疑問を感知。私のサポートと【赤き鎧】と【魔力分身】を併用すればフェイントにはなるかと。分身の数を増やせば更なる効果が期待できますが……どうしますか?]
確かに分身を増やせばルミアが対応するのは難しくなるだろう。
しかし、それではただのイジメだ。
これは訓練であって本当の戦闘ではない。
(いや、今回は分身を1体のみにしておこう。これは訓練だし、分身込みで2人でも問題ないだろう)
ーーーー[了解しました。ではそのように致します]
叡智さんとの相談を終えて、ルミアに語りかける。
「やはりルミアは近接戦闘のプロだな。参考になるよ。……俺が出した答えはこれだ。【魔力分身】を使用、続いて【赤き鎧】を発動。さぁ、合格点かどうか判断してくれよ……っと!」
俺は分身体に攻撃を仕掛けるように指示を出し、同時にルミアへと向かっていく。
分身体が攻撃をする瞬間にルミアの背後に転移し、挟み撃ちのような形で攻撃を繰り出す。
「なるほど。分身と同時に攻撃対象へ接近し、片方が攻撃を加える瞬間にもう片方は転移で移動したのですか。旭さんならではのフェイントですね。……しかし」
ルミアはそう言うと俺の目の前から姿を消した。
「……!?どこに行った!?」
なんてな……。
「驚きましたか?時空間魔法を使えば転移に似たことができます。こう言う戦い方をする人間はいないでしょうが、想定しておいた方がいいでしょう……ってえぇ!?」
ルミアが驚いた声を上げる。
それもそうだろう。
俺が攻撃したと同時に分身はルミアの背後に転移。
その隠蔽魔法を使い、ルミアの背中に密着、攻撃を避けた瞬間に体を拘束したのだから。
……分身体に意思がなくてよかった。
意思があったら分身であっても嫉妬していただろうから。
「まさかあの一瞬で背中に張り付かれるとは……。」
ルミアは分身に体を拘束されながら驚いている。
まぁ、魔法を無詠唱で発動することができるからこその荒技だ。
他の敵が同じ手法をしてくることはないだろう。
「旭さん、今のフェイントは良かったです。これで近接戦闘も問題はないでしょう。……というか、初日から合格点は取れていたのですが……ともあれ、お疲れ様でした」
ルミアから衝撃の事実が告げられる。
初日から合格点をもらっていたとは……。
まぁ、ルミアとの近接戦闘は叡智さんとの連携強化も図れたし、いいことずくめだったと言えるだろう。
ルミアを拘束していた分身体を消した俺は体の火照りを沈めるべく深呼吸をする。
火照りを沈めていたら、顔を真っ赤にしたルミアが上目遣いで声をかけてきた。
「旭さん……訓練はこれで終わりなわけですが……。ご褒美が欲しいなぁ……なんて……」
ルミアの猫耳はぺたんと倒れていて、尻尾は俺の腕に絡みついてくる。
元よりルミアにもご褒美をあげるつもりではいたので、そんなルミアの頭を撫でて答える。
「勿論だよ。というよりも、ルミアだけご褒美をあげないなんてそんな酷いことをするはずがないだろう?」
「旭さん……ッ!」
ルミアは感極まって抱きついてくる。
豊満な胸の感触を味わいながら、俺は言葉を続ける。
「ただ、時間的にお昼の時間だから……お昼を食べた後にな?日数は……明日の夜まででいいか?」
「勿論ですッ!!」
猫耳と尻尾をピーンと伸ばしたルミアは元気に返事を返してくれる。
さて、お昼ご飯を作りにいくとしますか。
先程からこちらをみているお姫様2人のお腹の音が聞こえてきているからね。
メニューは何にしようか……そんなことを考えながら、台所に向かった。
▼
ルミアへのご褒美を与え終わった翌日。
俺達[ROY]とギルドマスターはお互いに住んでいる一戸建ての間のテーブルに座っていた。
今後どうするかの話し合いをするためだ。
ルミアへのご褒美?
献身ぶりがすごかったですとも。
ただ、レーナとリーアみたいに性欲が強いわけではないので、無茶なことはしていない。
俺も今回は【色欲魔人】を使わなかったし。
ルミアは満足してたのでよしとしよう。
それはさておき。
俺の予想ではレーナとリーアの訓練に1ヶ月使うと思っていた。
しかし、レーナとリーアの2人は俺が思う以上に早くスキルを獲得し、その空いた時間で俺が苦手だった近接戦闘の訓練もできた。
……とはいえ、まだ1ヶ月も猶予がある。
誰もが無言の中、ギルドマスターがポツリと呟いた。
「旭君、残りの1ヶ月は療養に使うのはどうだろう?」
「どういうことだ?」
「旭君はこちらの世界に転移してきてから、ダマスクの組織を壊滅したりと中々にハードな日々を過ごしている。それに加えて次は丹奈との勝負だろう?まとまった休みというのは取れていないんじゃないか?」
ギルドマスターは俺の顔を見てそう告げる。
確かにこの世界に来てからまとまった休みというのは取れていない気がする。
俺は元より1週間フルで仕事していたので、まとまった休みがないのは別段問題ではないのだが……。
そう思いながら、レーナ、リーア、ルミアの3人の顔を見る。
3人ともギルドマスターと同じことを思っていたらしく、無言で頷いている。
「そうだな……せっかく【遅延空間】で勝負の日を延ばすことができたんだ。ここでまとまった休みを取るのもいいかもしれないな。……叡智さん、残り1ヶ月を療養に使ったとして、2日前に出たら元の世界での時間はどうなる?」
俺はあえて叡智さんに話しかける。
設定で叡智さんの声は周囲に聞こえるようにしてある。
ーーーー[そうですね……。2日前ですと、旭の元カノがやってくる前日の日没頃になるかと]
「なるほど……夜までに戻ってくることができれば気持ちも整えられるだろう。じゃあ、これから1ヶ月はゆっくり過ごすとしようかな」
「それがいいだろうね。では、私は先に戻らせてもらうよ。……久しぶりに妻に会いたいからね」
ギルドマスターはそう言って苦笑する。
まぁ、確かに1ヶ月何もしないで過ごすのはきついだろう。
外の時間では1日しか経っていないが、ここでは1ヶ月が経過しているから寂しくなったのかもしれない。
「了解した。……今出れば日付が変わる前には家に帰れるみたいだぞ?」
「それはありがたい。……旭君。君の能力は想像以上のものだった。改めて、ウダルの冒険者ギルドは君達の後ろ盾になることをここに誓おう。何かあったらすぐに頼ってくれ」
ギルドマスターは俺の瞳を見据えて手を差し出してくる。
俺はその手をしっかり握り返す。
「冒険者ギルドの後ろ盾があるのはとても心強い。これからもいい関係でいられることを祈るよ」
ギルドマスターと握手を交わした後、俺は内心で四神達に指示を出す。
(これからウダルのギルドマスターが【遅延空間】の中から出る。俺達はそのまま滞在するので、結界は維持してくれ。そちらは何か変わったことはあるか?)
(こちら朱雀。ギルドマスターの件と結界維持の件は了解した。こちらは特に問題は起こってはいない。何かあったら連絡するので、ご主人は安心して訓練に励んでくれ)
(了解。引き続きよろしく頼む)
朱雀との連絡を終えた俺はギルドマスターに話しかける。
「今外にいる四神と連絡を取った。いつでも外に出られるから、ギルドマスターのタイミングでいいぞ。ただ、荷物とかは忘れないように」
「あぁ、了解だ。あの一戸建てがちょっともったいない気もするが……【クリエイト】で創ったものだから仕方ないな。今回のことは私にとっても有意義な時間になった。……またストレスを発散したいときはお願いしてもいいか……?」
「それくらいならお安い御用だ。俺に敵対しない限り……な?」
「ははは。そんなことが起きるのであれば、私は妻を連れてこの街から逃げ出すさ」
ギルドマスターはそう言って【遅延空間】の中から外の世界へ戻っていった。
それにしても……俺と敵対することが起きたら街を逃げ出すのか。
神経が太いというかなんというか……。
まぁ、今のところは敵対するつもりはないみたいだから安心していいだろう。
そんなことを考えていたら、レーナとリーアが蠱惑的な表情で俺に迫ってきた。
「ねぇ、パパ。1ヶ月間ゆっくりできるんだから……これから愛し合ってもおかしくないよね……?」
「お兄ちゃん、ルミアさんとの行為を見て私も昂ぶっているの。これから4人で愛し合いましょう……?」
「いやいや、今からするのか?するのはいいんだが、せめてお風呂に入らせてk「旭さん、それならお風呂ですればいいのでは?」……」
発情しているレーナとリーアを落ち着かせるべく、お風呂に入りたい旨を伝えようと思ったのだが、ルミアに退路を断たれてしまった。
見るとルミアの尻尾は見えないくらいにブンブン振られている。
ルミアも発情してしまったようだ。
「わかったわかった。じゃあ、みんなでお風呂に行こう。3人相手だと優しくできないかもしれないが……誘ったのはそっちだからな?覚悟しておけよ?」
キャーキャー言って、レーナとリーアがお風呂場に向かう。
楽しんでいるのが目に見えてわかるが……、それが可愛いから俺もふざけて追いかける。
さて、残りの1ヶ月……十分に癒されるとしよう!
そんなことを考えながら、ルミアの手を引いてお風呂場に向かう俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます