第47話 特別編 -旭一行は「珍獣屋」に向かう 後編|

ーーーー前回のあらすじ。

 居酒屋[珍獣屋]で乾杯!!


ーーーー

「お待たせしました!ヤギの◯玉刺しですっ!」


 マスターがキメ顔をして俺達の前に料理を置く。

 ……ほう……これがヤギの◯玉刺し……。

 鮮やかなピンク色が綺麗だ。

 上にかかっているソースはなんだろうか?

 ソースが気になりながらも、俺は一口食べてみる。


「……上手いッ!!」


 プリプリの肉厚で歯ごたえもちょうどいい。

 今までなんで食べる機会がなかったのだろうと疑問に思うレベルで美味しい。

 最初にこれを注文してよかった……。


「本当だ!旭お兄ちゃんの言う通り、おいしい!この添えられているのは辛いけど……」


「レーナ、それは多分生姜をすりつぶしたものだよ。味が似ているもの。それにしても……このソースとの組み合わせが絶妙だね、お兄ちゃん!」


 レーナとリーアも美味しそうに頬張っている。

 ルミアは……おぉ、無言で味を噛みしめるように食べている。

 夢中で食事をするルミアはなかなかレアだな……写真に収めておこう。


 マスターはそんな俺たちを嬉しそうに眺めながら、俺とルミアにお酒を渡してくれた。

 もしや……これがハブ酒?


「お客さん、ハブ酒お待たせしました。一気に飲んでくださっても構いませんよ?」


 マスターは悪戯そうな笑みを浮かべてそんな提案をしてくる


「いやいや、せっかくのハブ酒ですからのんびり飲みますよ」


「マスター、早速いただきますね」


 俺とルミアはハブ酒を一口含む。

 予想以上にマイルドな味わいだな……。

 ん?……この香りは……?

 俺が首を傾げていると、マスターが補足説明をしてくれた。


「このハブ酒にはハーブとかも入っているんですよ。なので、飲みやすいと思いますよ」


 なるほど、この香りはハーブだったのか。

 ……やばいな。とても飲みやすいからぐいぐい飲んでしまう。

 ルミアも同じようで、◯玉刺しと一緒に飲んでいる。


「うぅ……旭お兄ちゃんとルミアお姉さんが羨ましい……。なんでこの世界はお酒を飲めるのが20歳からなの……!マスターさん、このコーラっていうの1つ!」


「あんなに美味しそうにお酒を飲むお兄ちゃん初めて見た……。私が大人になった時にも連れてきてくれないかなぁ……。あ、マスター、私はグレープフルーツジュースのお代わりをお願いします」


 レーナとリーアがお酒を飲む俺とルミアを羨ましそうに見ながら、ジュースのお代わりをマスターに告げている。

 この日本では飲酒可能年齢が20歳なのだから仕方ない。


 ハブ酒を嗜んでいたら、次の料理が運ばれてきた。


「[虫の盛り合わせ]お待たせしました!本日のメニューはタガメ、ゲンゴロウ、トノサマバッタ、コガネムシ、蛾の幼虫の5匹となっております。」


 ……ついにきたか!

 インパクト大、初見では思わず食べるのを躊躇ってしまうと噂の虫料理が!

 うん、タガメのインパクトの強さがすごい。


 思わずゴクリと喉がなる。

 レーナ達はどう言う反応なのだろうか……と見てみると……。


「旭お兄ちゃん、このトノサマバッタっていうのサクサクした食感でかなり美味しいよ!」


「レーナ、トノサマバッタもいいけど、このコガネムシもなかなか美味しいよ。外はパリパリなのに中は柔らかくて……!私これ好きだなぁ」


「旭さん、ゲンゴロウという虫はかみごたえ抜群ですよ。保存食にも向いているのではないでしょうか?」


 レーナ達は嬉々として虫料理を食していた。

 すごいな、運ばれてきてまだ1分も経ってないぞ?

 エルフとダークエルフは森の中に住んでいるし、猫耳族はもともと虫に忌避感がないから躊躇うこともないのだろう。

 女性陣が食べているのに男の俺が食べないのはいかがなものか?

 よし、この1番インパクトの強いタガメを食べるとしよう。

 俺はタガメを頭からガブリと食べる。


「……お?おぉ……!タガメのインパクトに少し圧倒したけど、濃厚な味がジュワァッと染み出してくる!」


「タガメは輸入される時に塩漬けで入ってくるんです。塩抜きはしているのですが……それでも塩気が強いんですよ。お客さん、レモンをかけるのもオススメですよ〜」


 マスターからのアドバイスを受けて、レモンをかけて残りの半分を食べてみる。


「おぉ!マスター、レモンをかけるとまた味が変わりますね!日本酒が欲しくなります……!」


「お客さん……初めてなのにいい食べっぷりですね!……お客さんもこちら側の人間でしたか……!」


 マスターはそう言ってサムズアップをしてくる。

 俺も笑顔でマスターにサムズアップする。


「……お兄ちゃんがそこまで言うなんて……!わ、私もタガメ食べてみよう」


「リーア、レモンをかけたほうがいいのかもしれないよ?塩気が強いって言っていたし」


 レーナとリーアは俺が食べているのを見てタガメに興味を持ったようだ。

 2人同時にタガメを食べるが、反応は違ったようだ。


「うえぇぇ……レモンかけても塩気が強いよぅ……。旭お兄ちゃん、わたしタガメはあまり得意じゃないかも……」


「レーナは塩気が強いものはあまり得意じゃないもんね……。じゃあ私が食べてあげる!」


「リーア……あいがとう……」


 あまりの塩気の強さに顔を顰めるレーナを見たリーアが、レーナの皿にあるタガメを食べている。

 そんな2人が愛おしくて、頭を撫でながらとあるメニューを発見した俺はマスターに話しかける。


「マスター、今日はサソリの唐揚げあります?」


「サソリですか?今日は……大だけ入荷していますよー。もしかしてお客さん……サソリも行っちゃいます?」


 マスターが笑いながら問いかけてくる。

 桐谷さんの漫画を読んでサソリが食べたいと常に思っていた俺である。

 入荷しているなら食すしかあるまいて!


「勿論食べますよ!サソリの唐揚げ(大)1つお願いします」


「あ、旭さん。私もそれ食べます。名前からして美味しそうなので」


 俺がサソリの唐揚げを注文すると、ルミアも食べたいと言ってきたので2つ注文する。


「はい、かしこまりました!サソリ準備して〜!」


 マスターは店員の女の子に指示を出す。

 そんな中、レーナとリーアの2人もとあるメニューを見て話し合っていた。


「ねぇ、リーア。このツクツクボウシってなんだろうね?」


「文字からすると……蝉……という生き物なのかしら?ねぇ、マスター?このツクツクボウシってどんな生き物なの?」


「お、お嬢さん達…… いいところに目をつけましたね!そのツクツクボウシというのは、樹の高いところに生息しているなかなか取れない貴重な蝉なんですよ!今日は運良く入荷しましたので、素揚げで調理してみました。いかがですか?」


「旭お兄ちゃん、わたしこれ食べてみたい!」


「お兄ちゃん、私もレーナと同じでツクツクボウシがきになるの!一緒に食べよう!?」


 レーナとリーアはマスターの説明を聞いて、興味が強くなったようだ。

 ルミアも目を輝かしている。

 これは……4人分頼むしかない!


「じゃあ、マスター。このツクツクボウシを4人分お願いします!」


「かしこまりました!あ、サソリの唐揚げできたので置いておきますね」


 そう言ってマスターは俺とルミアの前にサソリの唐揚げ(大)を置いてくれた。


「おぉう……予想以上にサソリだ……」


 サソリの唐揚げは予想以上にサソリの原型を保っていた。

 数分前まで生きていたと言われてもおかしくない……それくらいに躍動感溢れる姿だった。


「ちなみにこのサソリは針も食べられますよ〜」


 なんとサソリの唐揚げは全身食すことができるらしい。

 なんという……なんという恵まれた食材!

 さて……まずは鋏からだな……。


「お……おぉ!?鋏はパリパリしているが……噛むごとに味が染み渡ってくる……!これは……◯揚げポテトの食感!?」


「お客さん、中々に面白い評価をしますね。結構いけるでしょう?」


 マスターは俺の感想に満足そうに頷いている。

 よかった的外れなことを言わなくて……。


「旭さん、このサソリというのは美味ですね。鋏と尻尾はパリパリなのに、身は柔らかく食べ易い……。これ向こうでも作れませんかね?」


「うーん……どうだろう?向こうに食用のサソリがいればいいけど……帰ったら探してみるか」


 俺とルミアの会話に首を傾げているマスターだったが、特に気にした様子もなく、次の料理を運んでくれる。


「……では、お待たせしました。本日のレア食材[ツクツクボウシ]です!お好みに合わせてレモンをかけてください」


 これがツクツクボウシか……。

 意外と小柄なんだな。

 俺達4人はそれぞれツクツクボウシを口に入れる。

 初めはレモンをかけずにそのままで。

 最初の食感は……スナック菓子……からの後から味が染み出してくる。


 なんだろう。

 見た目はまんま蝉なのに、全然違和感を覚えない。

 俺達が無言でツクツクボウシを食べていると、マスターから補足の説明が入る。


「満足してくれたようで何よりです!ちなみに……ツクツクボウシは一匹一匹育ちが違うので味が違うんですよ〜」


「一匹一匹味が違うの!?旭お兄ちゃん……わたしツクツクボウシを注文してよかったよ……!」


 マスターの言葉を聞いたレーナが、感動したように俺の体を揺すってくる。


「れ、レーナ……お酒飲んでいる時に揺するのは……や、やめて……」


「あぁぁ!パパぁ、ごめんなさいぃぃ!」


 うん、怒ってないから体を揺するのを止めてくれ。

 しかもパパ呼びに戻っているぞ……レーナさんや。

 叡智さん、とりあえず吐き気だけを治せる魔法を適当にかけておいて……。


 ーーーー[旭……飲み過ぎです……。一応命令なので吐き気用の治癒魔法をかけておきます]


 ……そんなに飲んでいないんだけどなぁ……。

 叡智さんが掛けてくれた治癒魔法のおかげで楽になった俺は、いまだ泣きついてくるレーナを慰める。


「レーナ、もう大丈夫だから。だからもう泣かないの。今度はレモンをかけて食べてみよう。味が変わるかもしれないよ」


「……ぐすっ。レモンかけてみる……。……っ!レモンかけるとまた味が変わった!!」


 よかった、レーナは落ち着いたようだ。

 しかし、俺のことをパパと呼んだのはマスターと聞いていたはず。

 大丈夫だろうかとマスターの方を見るが……。

 マスターは微笑ましい顔でレーナを見ているだけだった。

 ん?疑問に思わないのか?

 そう思っていたらルミアが小声で話しかけてくる。


「レーナさんの呼び方が戻った瞬間に認識阻害をしておきました。呼び方については疑問に思ってはいないかと」


「……ありがとう、助かった」


「いえいえ、旭さん達のためですから」


 どうやらルミアがうまく誤魔化してくれたらしい。

 俺は誰も見ていない隙にその額に口付けをする。

 ファインプレーのご褒美だ。

 これくらいは許されるだろう。


 そんなことがありつつも、ラストオーダーの時間になった。


「お客さん……そろそろラストオーダーですが……何か注文はありますか?」


「もうそんな時間ですか。俺は……[イルカのハラミ刺し]を食べようかな。3人は何かある?」


「わたしはこの[異物混入プリン]が食べたい!なんか虫がトッピングされているんだって!!」


「私もレーナと同じかな。食後のデザートも食べたい」


「私は[トド刺し]ですかね。トドという生き物は見たことがないですけど」


 見事に意見が分かれたな……。

 じゃあ、全部4人分で頼むとしよう。


「じゃあ、マスター。今言った3つの料理を4人分お願いします」


「プリンとイルカとトドですね?かしこまりました。プリンは最後にお出しする形で大丈夫です?」


「はい、それでお願いします」


 俺はそう言ってラストオーダーを終える。

 レーナとリーアはすでにプリンが楽しみになっているようだ。

 どんな虫がトッピングされているのかを話し合っている。


 数分も経たないうちに「トド刺し」が運ばれてきた。

 色は……ドス黒い赤と言ったところだろうか?

 獣感溢れる食材だ。


「ふむ……これは……!普通の獣肉と違って野性味を感じる味ですね。おつまみにあいそうです」


 ルミアが味を確かめながら食べている。

 レーナとリーアは初めはおっかなびっくりだったが、一口食べるとすぐに食べ終えてしまった。


「これがトド刺しか……。何というか……マグロ?みたいな味だな。海の生き物だからだろうか?」


 トド肉はマグロに近い味だった。

 山葵が欲しくなる味である。


 俺達が食べ終わったのを見計らって、マスターが次の料理を差し出した。


「お客さん、トド刺しで驚くのは早いですよ……?[イルカのハラミ刺し]です!味に驚くこと間違いなし!の一品ですよ!今回は皮ごとどうぞ!」


 そう言ってイルカのお刺身がテーブルに置かれる。

 見た目は何と表したらいいのだろうか?

 見た感じだけで言えばイカみたいにも思える。

 しかし、その肉厚は分厚い。

 俺は一切れを口に入れる。


「食べ始めはかなり食べやすいな……って、皮の弾力すごいな!噛み切れないほどだ!」


「そうでしょうそうでしょう!イルカは皮下脂肪が厚いので皮も分厚いのですよ。まさに一度で二度美味しい食材ですね!」


「ふむ……確かにこの後から来る弾力はクセになりますね。お酒を飲み終わってしまっているのが残念です」


 俺の言葉に対して満足気に答えるマスターと、お酒がなくて物足りなさそうなルミア。

 お酒に合いそうなのは俺も同意だ。

 ラストオーダーの時に頼んでおけばよかったか。


「旭お兄ちゃん、このお刺身にかかっているソースも美味しいね!」


「最初はトロけるような食感で最後は噛み切れないほどだなんて……。お兄ちゃんどうしよう。向こうでイルカを見かけたらすぐに捕獲しちゃうかも」


 レーナは味を噛みしめるように食べているが、リーアは何やら物騒なことを言っている。

 向こうの世界にイルカがいたら魔物であっても捕獲しそうだ。


「面白いことを言うお嬢さんだ。さて、お客さん。お待たせしました。[異物混入プリン]です!」


 マスターはリーアが言った言葉を冗談と捉えたらしい。

 ……普通はそう思うよなぁ。

 そんなことは横に置いておくとして、最後のデザートが運ばれてきた。

 ネットで見たように二種類の虫がプリンに刺さっている。


「本日の[異物混入プリン]はミールワームとイエコオロギです。当店ナンバーワンのこの料理……たんと召し上がれ!」


 マスターがそう言って補足の説明をしてくれる。

 ミールワームは知っているが、イエコオロギは初めて見た。


「旭お兄ちゃん!このミールワームっていうのなんかお菓子みたいな食感だよ!」


「お兄ちゃん、イエコオロギもスナック菓子みたいな食感だよ?これは人気ナンバーワンなのも納得ね」


 すでにレーナとリーアはプリンを食べ始めているようだ。

 スナックみたいな食感と聞いて、俺も食欲が湧いてくる。

 さて……早速一口……。


「マスター、このプリン見た目のインパクトも強いですが、プリンとの相性も最高ですね!これは来店する度に食べたくなる……!」


 俺の言葉を聞いたマスターは嬉しそうに笑う。


「でしょう?これを食べないとこのお店にやってきた意味がない!とまで言われる品ですからね!お気に召したようで何よりです」


 いや、これは本当に食べないと意味がないというくらいに美味しい。

 最後は無言でプリンを食べる俺達4人。

 食べ終わった後、俺達の口からほぅっというため息が出た。

 それほどまでに美味だった……。


「マスター、今日は美味しい料理をありがとうございました。新たな世界が開けた気がします。お会計をお願いします」


「はい、わかりました。喜んでいただけたようでなによりです。お会計は席についたままでいいですよ?」


 そう言って値段を提示したマスターにお金を渡す。

 4人で行ったので決して安くはない料金だったが、あれほど美味しい料理なのだから不満はない。


「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」


 マスターの言葉を聞きながら、俺達は珍獣屋を後にする。

 またお金が貯まったらくるとしよう。

 今度はオオクソグムシとか食べてみたいな。


 珍獣屋から出た後、誰もいないのを確認して【境界転移】を使用して、向こうの世界に戻っていく俺達だった。

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