第45話 旭とヒロインの訓練-ルミア編-

【遅延空間】を使用して13日目の朝。

 俺は欠伸を噛み殺しながらルミアと朝食を作っていた。

 レーナとリーアはまだ起きていない。

 リーアは俺が2日間ずっと愛していたので電池が切れたように眠っている。

 レーナは……昨日の夜に俺とリーアの情事を覗いていたらしく、朝起きたらリーアと一緒に寝ていた。


 俺はリーアがスキルを獲得した後、ご飯の時を除いてずっとリーアを抱いていた。

 いつもはやられっぱなしの俺だが、今回は攻める側に転じた。

 リーアは照れながらもそれに応えてくれたが……疲れが出てしまったのだろう。

 ……で、今日起きてリーアに【鑑定眼】を使用したところ……。

 リーアも【サキュバス】のスキルを獲得していました。

 これは正直予想の範囲内。


 しかし、今回は俺のスキルにも変化があった。

 なんと【色魔】が【色欲魔人】に変わっていたのである。

 叡智さん曰く、[スキルが進化したのでしょう。いえ……本来なら進化する筈はないのですが……。旭は規格外だからなのかもしれませんね]とのこと。


 ちなみに【色欲魔人】はHP&性欲&敏捷の上昇・魅了効果付与・魔力急激回復の効果があるらしい。

 このスキルを使うことで魔力の永久機関が完成するようだ。

【魔力消費軽減】との相性がいいスキルと言えよう。

 まぁ、性欲も上昇するからあまり使えないかもしれないが。


「旭さん、パンの耳全部切り終わりましたよ……ってどうしました?そんな遠くを見つめるような目をして……」


 そんなことを考えていたら、朝食用のパンの耳を切っていたルミアが話しかけてきた。

 話は別になるが、今日の朝食はサンドイッチの予定だ。


「あぁ、すまない。俺のスキルについて考えていたんだ」


「スキルというと……失礼します。【鑑定眼】。……なるほど……ってえぇ!?なぜ【色魔】が【色欲魔人】に変化しているのですか!?これは一体……!?」


 ルミアは俺に【鑑定眼】を使用し、変化したスキルを見て驚いている。

 いろんな知識があるルミアでもスキルが変化するのを見たのは初めてだったみたいだ。


「リーアにご褒美をあげたことでスキルが進化したらしい。叡智さんも進化する筈はないって言っていたから俺がおかしいんだと思うよ」


「確かにスキルが進化するなんて初めて聞きましたが……。【色欲魔人】ですか……。私達からしたらいい傾向ですよ。……旭さんにたくさん愛していただけるということですから……」


 ルミアは顔を真っ赤にしてそんなことを呟いている。

 そんなルミアを見てたまらなくなった俺は、そのふっくらとしたピンク色の唇を塞ぐ。


「……んっ……んあっ。もう旭さんったら……。その続きは訓練のご褒美でお願いします……ね?」


 ルミアは嬉しそうにそう言いながらも料理に戻っていった。

 尻尾が見えなくなるほど高速で振られているので、よほど嬉しかったらしい。


 さて、俺も料理を再開するか。

 今日はサンドイッチだけではなくスープとサラダも作らないといけないのだから。


 ▼


 朝食を作り終わった頃、レーナとリーア、ギルドマスターが起きてきた。

 外にテーブルを創造し、朝食を開始する。


「パパ、今日はどうするの?わたしとリーアは【詠唱省略】を獲得したけど」


 レーナはもっもっとサンドイッチを頬張りながら今日の予定を俺に訪ねてくる。


「そうだなぁ。予想以上に2人が早くスキルを獲得したから、今日はルミアと対人訓練をしようかな。レーナとリーアは【詠唱省略】をよりうまく使えるように動く相手に当てる訓練をしてくれ。相手は……そうだな……ハイエンジェルを召喚しておこう。禁忌魔法でも耐えると思うが、今回は上級魔法までに制限すること」


「「はーい」」


「旭さん、私と対人訓練と言っていましたが……。私は対人戦得意ですよ?」


 ルミアは首を傾げながら俺に訪ねてくる。

 まぁ、裏のギルドマスターと言われるほどのルミアだし、戦闘経験は豊富なのだろう。

 しかし、今回は俺の訓練が主になっている。

 俺はそれをルミアに伝える。


「ルミアの実力はわかっているよ。俺自身が近接戦闘に自信がないから訓練をしたいんだ。ルミアからみて及第点だなと思った時点で訓練は終了とする。……それでいいだろうか?」


 俺の言葉にルミアは納得したような表情を浮かべる。


「分かりました。このルミア、親愛なる旭さんの為に近接戦闘のお相手をさせていただきます。私と同じ敏捷の旭さんとの手合わせは私も色々学べるでしょうし」


 ルミアからも賛成の意見をもらえたので、訓練の内容は決まった。

 後は俺がどこまでやれるかということだけだろう。


 そんな中1人無言で食べていたギルドマスターがポツリと呟いた。


「……旭君達を敵に回さなくてよかったよ……。ダスクのギルドマスターは本当に愚かなことをしたな……。これならSSSランクにしておけばよかったか……」


 ギルドマスターはこの空間に来てから俺達の訓練を見学している。

 最初は驚いていたが、流石に慣れたみたいだ。

 現在では一戸建ての中で悠々自適の生活をしているらしい。

 心なしか肌がツヤツヤしているような気がする。

 ストレスを解放するのは心に良い影響を与えるというのは本当だったんだな。


 ▼


 俺とルミアは家から近い場所に立っていた。

 その近くではギルドマスターが【聖域】に囲まれた空間で椅子に座って、俺とルミアの訓練を見学している。

 ちなみに奥の方では、レーナとリーアがハイエンジェルを相手に上級魔法を放っている。

 2人とも頑張れ。


「さて、旭さん。近接戦闘の訓練ですが……獲物はどうします?」


「んー……そうだなぁ。訓練だから木刀を使おうか。【クリエイト:木刀】」


 俺は【クリエイト】を使い木刀を二本創造する。


「ルミアはこれでいいか?神刀は日本刀に似ていたからそれに近い形状にしたんだけど……」


「……はい、大丈夫です。とっても持ちやすいですし、しっくりきます。旭さんの【クリエイト】は本当にすごいですね」


 ルミアは木刀を何回か素振りした後に、満足そうにそう頷いた。

 [氷の女王]のお眼鏡にかなってなにより。


「じゃあ、戦闘の準備をしましょう。……【身体強化】を使用開始……」


「了解だ。……【色欲魔人】と【身体強化】を同時使用する」


 俺とルミアはお互いにスキルで能力を強化する。

 俺は【身体強化】を獲得していなかったのだが、いつの間にか使えるようになっていた。


 ステータスの強化が終わった俺とルミアは真正面から対峙する。

 戦闘準備が整ったことを確認したギルドマスターが、訓練開始の声を上げる。


「それでは……戦闘訓練開始ッ!!」


 ギルドマスターの言葉と同時にルミアの姿が消える。

 どうやら時空間魔法を使ったらしい。

 俺は詠唱せず、【聖域】を発動させる。

 元より詠唱しなくても魔法が発動できるんだし、ルミア相手ならわざわざ詠唱する必要もないだろう。


 ーーーーガギンッ!ガガガッ!!


 展開したばかりの【聖域】に木刀がぶつかる音が聞こえる。

 ただし、ルミアの姿は見えない。

 俺はそんな状態の中で叡智さんに思念で指示を出す。


(【叡智のサポート】に告げる。即座にルミアの使用している魔法を解析。解析終了後にこちらもその魔法を使用し対応を行う)


 ーーーー[任務了解。マスターの命に従い、直ちに魔法の分析に移行します]


 俺の普段と違う指示にも狼狽えることなく、叡智さんが魔法の分析を始める。

 そんな中、周りからルミアの声が聞こえてきた。


「旭さん、防御ばかりでは近接戦闘の訓練にはなりませんよ?……もっと激しく行きますからね」


 ルミアの言葉が終えた途端に【聖域】にぶつかる音がより一層激しくなった。

 今回は強化していないので手数で【聖域】を打ち破ろうとしているのだろう。

 ……そして話している間にこちらの魔法解析も終了したようだ。


 ーーーー[解析終了。ルミアが使用している魔法は禁忌時空間魔法【時間遅延】と判定。旭の【遅延空間】の効果を自らのみ対象とした魔法です。同じ魔法を使えば通常通りの速度になるかと。敏捷は旭の方がひとまわり上回っています]


(解析結果把握した。これより攻勢に転じる。【聖域】を解除後、【時間遅延】の使用を開始、それに伴い近接戦闘の支援を頼む。……近接戦闘は慣れてないからな)


 ーーーー[Yes,My Master。開始時には合図を。合図があり次第、命令の内容を行使します]


 俺は叡智さんからの返事を聞いて、ルミアに話しかける。


「ルミア、待たせたな。今からは俺も攻撃に転じるとしよう。ルミアの胸を借りるつもりでいくからよろしくな」


「む、胸を借りるってどういうことですか!?」


 ルミアが慌てたように叫んでいる。

 ありゃ?

 俺の方が近接戦闘の実力は下だからそのように言ったんだけど……この世界には「胸を借りる」という言葉は直訳されてしまうのか。

 まぁ、いいや。

 あとで説明すればいいだろう。


「とにかく行くぞ?【叡智のサポート】に告げる。攻撃に転じる!打ち合わせ通りに」


 俺の言葉に叡智さんの言葉が空間に響き渡る。


 ーーーー[Yes,My Master。【聖域】解除、並びに【時間遅延】発動します]


【時間遅延】が発動し、周りの風景が止まったかのような感触に陥る。

 そんな中、ルミアは木刀を構えて待機していた。


「さすがは旭さんですね。無詠唱で唱えた魔法を解析してすぐに使用するとは。では、ここからは撃ち合いといきましょう……!……いきますっ!」


 ルミアは言い終わると同時に俺に切り掛かってくる。

 ……剣筋はなんとか見えている……が、避けることは選択しない。

 叡智さんのサポートに従い、自らの剣をルミアの剣に当てて攻撃を流す。


 ーーーーガキィィン!


 剣と剣がぶつかり合い、木刀とは思えない音が周りに響き渡る。

 ルミアはニヤリと笑い、空中を飛び回りながら連撃を重ねてきた。


 俺もリーアが使用していたように魔力を足に集中させ、ルミアの攻撃を受け流しつつ攻撃に転じる。

 俺とルミアが感じている時間の流れでは互いに飛び回りながらの攻防。


「……ねぇ、リーア。お兄ちゃんとルミアお姉さんの戦闘が始まったみたいだけど……あれどう思う?」


「……少なくとも普通じゃありえない光景だよね。私達が見えているのは剣同士のぶつかり合いの音と光だけ。……訓練を止めて見入ってしまうのも仕方ないと思う」


「主の戦闘はあのイケメン戦以降見ていなかったのですが……どこまで進化されるのでしょう……?もはや勇者という言葉も主を表すには役不足のような気がしてなりません……」


 ルミアとの攻防を続けていると地上からそんな声が聞こえてきた。

 意識をちらっとそちらに向けると、レーナとリーア、そしてハイエンジェルが訓練の手を止めてこちらを凝視していた。

 そうか時間が遅延しているということは、この速度の攻防は光と音だけが伝わるのか。

 ◯O◯ンダムの◯ラ◯ザムシステムみたいに見えているのかもしれない。


 俺はそう考えて叡智さんに指示を出す。


(叡智さん、俺の周りを赤い魔力で覆ってくれ。活動限界のないト◯ン◯ムシステムとして観客者を喜ばせようじゃないか)


 ーーーー[それなら新たな魔法として作成しましょう。【 紅き鎧】はどうでしょう?効果は攻撃・魔攻・敏捷の上昇……いかがですか?]


(それはいいな。じゃあ、早速使うとしますかね)


 俺は叡智さんとの相談を終え、攻撃をしながらルミアに話しかける。


「ルミア、新しい魔法を作成したから使用させてもらうぞ?ーーーー【紅き鎧】!」


「この攻防の最中に新しい魔法の作成ですか!?……いいでしょう。私も全力で向かい打ちます!」


 俺の魔法が発動し、俺の体は赤い魔力に覆われる。

 これが……擬似ト◯ン◯ム……!

 最高じゃないか!


「俺が……俺こそが◯ン◯ムだ!!」


 ーーーー[マスター、今は戦闘に集中なさるよう。ルミアの攻撃が来ます]


 わかっているさ。

 言ってみたかっただけだとも。

 ちなみに先ほどよりも敏捷が上昇しているため、ルミアの剣筋ははっきり見えるようになっている。

 隙をつかれない限りは当たることはないだろう。

 楽しくなってきたぞ……!?


「ルミア!ここまで楽しい訓練になるとはな!感謝するよ!」


「……私としてはッ!全力ッ!なんですがッ!?」


 攻撃がうまく決まらず焦り始めるルミア。

 そんなルミアを横目に剣戟の速度を上げていく。


「さぁ、まだまだ訓練は始まったばかりだ!お手柔らかに頼むよ?先生!」


「それはッ!私のッ!セリフですッッ!!」


 そう言いながら連撃を再開する。

 その頃地上では……。


「ねぇ……レーナ。お兄ちゃんの体が真っ赤に光ってない?」


「赤く光っているねぇ……。多分わたし達が楽しめるように演出を加えたんじゃないかなぁ?赤い光が流れていって……かなり綺麗……」


「レーナ嬢、リーア嬢。見惚れるのは分かりますが、あれは異常ですよ……。敵からしたら恐怖でしかないでしょうね……。主が味方で本当に良かった……」


 レーナとリーアが目をキラキラさせてこちらをみていた。

 ハイエンジェルは俺が敵じゃなくて心から安心しているようだ。


「……旭君の攻撃の凄さは書類で知っていたが……予想以上だな……。それについて行けるルミア君もすでに人の範疇には収まらない……か」


 ギルドマスターは畏怖した表情でこちらを眺めていた。


 さぁ、攻防に集中するとしよう。

 互いの敏捷がほぼ同じだとこんなにも近接戦闘が楽しくなるとは。

 まだまだ終わらせたくない。

 そう思いながら、ルミアに切り掛かっていく俺なのであった。

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