第43話 旭とヒロインの訓練-レーナ編-

【遅延空間】を使用して2日目の明朝。

 俺とレーナの二人は決闘場の中央にいた。

 傍観者であるギルドマスターはまだ一戸建てから出てきてはいない。

 夕飯を食べた後も日頃の鬱憤を叫んでいたのだろう。

 ……酒を飲んだ瞬間に泣上戸になったのは驚いたが。

 ちなみにリーアとルミアの訓練開始は朝食後なので、二人はまだこの場所にはいない。


「パパ、決闘場の中央にきたのはいいけど……どうするの?」


 レーナは若干眠そうに目をこすりながら質問してきた。

 時刻はまだ4時(叡智のサポート談)なので眠いのかもしれない。

 寝たのが1時だったのも原因かもしれない。


「当初の予定通り訓練をするんだよ。【詠唱省略】がどのように習得できるかはわからないから、魔法の練習をひたすらやろうと思ってる。……【叡智のサポート】の効果範囲を俺とレーナに指定。これで叡智さんからのアドバイスも聞こえるようになる。朝食の準備が終わるまでひたすら練習しよう」


「うえぇ……。今から朝食までって結構時間あるよね……?パパって意外と熱血だったんだ……」


 レーナは嫌そうな顔をしている。

 俺も本当はこんな熱血教師みたいなことはしたくないんだが……少しでも強くなるためだ。

 心を鬼にしてレーナと訓練しよう。


「まぁ、それほどまでに習得が大変ってことだよ。レーナには今まで以上に強くなってもらいたいからね。頑張ったらご褒美として何かしてあげるから頑張ろう?」


「ご褒美!?それっていいの!?」


「……ん?あぁ、俺にできる範囲ならなんでもいいぞ?」


「本当だね!?今言質とったからね!?」


 そう言ってレーナは俺の声が録音されたスマホの画面を見せつけてくる。

 ……いつの間に録音していたのやら。

 ってやめて!俺は自分の声があまり好きじゃないんだ!

 恥ずかしいから俺のセリフをリピートしないで!!


「……じゃあ、訓練を開始しようか。叡智さん、スキル習得にはどうすればいいと思う?」


 なんとかレーナを説得して俺の声が録音されたスマホをしまってもらい、叡智さんに尋ねる。

 心の中で質問してもいいのだが、今回はレーナのスキル習得が目的だ。

 自分の心のうちで質疑応答していたら、レーナのためにならない。


 ーーーー[そうですね……。魔法を使う段階で必要になってくるのは明確なイメージです。レーナにはその想像力を鍛えるのがいいかと思われます。方法の1つとして1つの魔法を繰り返し使用すると言うのがありますが……どうしますか?]


 ふむ、確かに俺も最初の頃は頭に思い浮かべたことが重力魔法として発動していた。

 叡智さんが言いたいのはそう言うことなのだろう。

 俺はレーナの方に向き、叡智さんからの意見についてどう思ったか確認する。


「レーナ、叡智さんはああ言っているが……どうする?訓練は15日を計画しているからゆっくりやってみるか?」


「うーん……1つの魔法だけだと他の魔法の発動に不安が残るかなぁ。1つの魔法のイメージが固まったら他の魔法も練習したい」


 ーーーー[それがいいかと思います。魔法のイメージが固まる度に【詠唱省略】のスキル獲得は近づくかと。それでは旭はレーナの攻撃をひたすら受けてください。使用するのは四神戦で使った強化版【聖域】1枚のみです。10回攻撃してもヒビが入らなかったら展開し直してもいいです。【聖域】にヒビが入った時、レーナはスキルを獲得しているでしょう。レーナは旭に対して全力で攻撃してください。]


「えぇ!?パパに全力で攻撃!?そんなことしたらわたしが嫌われちゃうじゃない!叡智さん、なんてことを言うの!」


「……いや、その程度で嫌いになることはないと思うんだが……」


 レーナは叡智さんの発言に対して憤慨している。

 俺は否定したのだが……どうやら聞いていないようだ。

 そんなレーナに叡智さんがトドメの一言を放った。


 ーーーー[旭が昨日、レーナ達が寝た後に元の世界のAVで抜いていたとしても?それでも全力で攻撃できませんか?]


「ちょ……!?叡智さん、何バラしてくれてんの!?そんなこと言ったら……!」


 叡智さんが俺の秘密の情事をバラしてしまった!

 しかも他の女で抜くことを許さないレーナの前で……である。

(アニメなどの二次元はなぜか許されている)


「…………パパ?」


 ほれ見たことかーーッ!!

 レーナの目から光が消えて、ヤンデレモードになってしまったじゃないか!

 心なしか体から【狂愛】のオーラが溢れている気がする……って本当に溢れてる!?


「い、いや……レーナ?確かに昨日は異世界転移する前に興味を持っていたAVがあって見ていたのは事実だけどな?それで抜いていたりは……!」


「……パパ。わたしあれほど他の女で抜かないでって言ったよね……?しかも昨日……?昨日もリーアとルミアお姉さんの3人であれほど搾り取ったのにまだ自家発電するなんて……。……パパ、わたしは本当は全力で攻撃したくないんだよ……?でも……わたしとの約束を破ったのはパパだもんね……?わたし達の方が他の女よりいいってことをわからせるためにも本気で訓練しないとダメだよね……?」


「あーーもうっ!俺の話を聞いてないなぁ!?」


 いや、ヤンデレが発動するくらいに嫉妬してくれるのは嬉しいんだが!

 今のレーナからは殺意に近いものが放たれているから安心できないんだよ!

 ……くそぅ……。こうなったら俺も全力でレーナの愛を受け止めるしかない!


 ーーーー[では、レーナのやる気も上昇したところで……訓練を開始しましょう。朝食までの時間は短いです。……では、訓練開始!]


「こうなったら仕方ない!レーナ!全力で来い!お前の狂うほど重い愛……俺が全部受け止めてやる!!……【悲哀】及び【憤怒】の効果確認、【魔法威力向上】使用……【聖域】展開!!」


「……アハハハハハ!!他の女なんて必要ないことをわからせてあげる!ーーーー我が魔力を糧にかの不届きものに鉄槌を!【太陽光照射】!」


 こうして俺とレーナによる訓練が始まった。

 ……というか、すでに詠唱省略されてないか?

 レーナは現在【詠唱簡略化】のスキルが付与された杖を所持していない。

【詠唱省略】のスキル獲得は思った以上に早そうだなぁ……とのんびり考えながら、レーナの【太陽光照射】の集中攻撃を受ける俺だった。


「ふわぁぁ……おふぁよぉ……お兄ちゃん……ってえぇ!?何この状況!?」


「朝ごはんできましたよ……ってレーナさん!?旭さん、これはどう言う状況なのですか!?」


 レーナの集中攻撃はリーアとルミアが起きてくるまで続き、叡智さんがバラしたことを2人にも告げて攻撃が激化したのは言うまでもない。


 ▼


 結論から言ってしまうと、レーナはたったの5日で【詠唱省略】のスキルを獲得してしまった。

 獲得してしまったと言うか……叡智さんが訓練の度にレーナのヤンデレが発動するように煽っていたのが原因というか……。

 5日目の明朝には神霊魔法である【終焉の極光】を1人で詠唱してそれを集中攻撃してきた。

 レーナの魔法攻撃は俺より低いので、もう少し時間がかかると思ったのだが……それは安直だったようだ。


「パパ……!わたしやったよ!!【詠唱省略】のスキルを覚えたよ!」


「あぁ、おめでとう!毎回ヤンデレ状態になって、全力で拘束せんと攻撃してきたのには驚いたが……。これで今後の戦闘でも有利に立ち回れるな!」


 俺は心の中で叡智さんに少し文句を言いつつ、レーナの頭を撫でる。

 頭を撫でた途端にふにゃふにゃと笑うのは卑怯だと思うんだ。

 あの異常なまでのヤンデレよりも愛が深まってしまうじゃないか。

 愛というより……庇護欲……?

 どちらでも構わないな。レーナは愛する天使、それだけだ。


「パパ、訓練開始1日目に言ったこと覚えてる?」


「ん?【詠唱省略】のスキルを獲得できたら、俺がレーナにご褒美をあげることか?」


 レーナは上目遣いで俺にご褒美の件について聞いてくる。

 確かなんでもとか言っていた気がするが……ご褒美に何を望むのだろう?


「そうそう、ご褒美!えっとねぇ……今日1日わたしだけを愛して欲しいっ!具体的にはルミアお姉さんとリーアの訓練が終わるまでずっと抱いていてほしいっ!」


 ……えーっと……。

 つまりレーナは今日1日自分だけを抱いてほしいと。

 思わず吹きそうになったが、それくらいなら許容範囲だろう。

 リーア達が文句を言うかもしれないが、訓練のご褒美だといえば問題はないと思う。

 俺は不安そうにこちらを見てくるレーナの頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


「じゃあ、レーナへのご褒美はそれにしようか。実際にたったの5日でスキルを獲得したのは凄いことだからな。明日からの訓練に支障がないように気をつけろよ?……【色魔】を使うからな」


「…………うんっ!!ありがとう、パパ!!愛してる!!」


 レーナは満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてくる。

 少女特有の温かい体温と柔らかい肌の感触がダイレクトに伝わる。

 レーナの心臓はバクバクとうるさいくらいに鼓動している。

 ……レーナは自分の言ったご褒美がもらえるか不安だったのかもしれない。

 そう思うと愛おしさが溢れてきて、その場でレーナを抱き上げた。


「じゃあ、家に戻ろうか。そろそろ朝食の時間だ。しっかり体力をつけておかないとな」


「うんっ!」


 俺はレーナを抱きながら家に向かって歩いていく。

 さて、1日体力が持つだろうか……。

【色魔】の効果に期待するとしよう。


 ーーーー一方、リーアとルミアの二人(ついでに近くにいたギルドマスター)は……。

「ルミアさん、今の聞いた?」


「ええ、しっかりと聞きました。レーナさんは五日で【詠唱省略】のスキルを獲得したようですね」


「いや、それもそうなんだけど……。重要なのはご褒美でお兄ちゃんに1日ずっと抱いてもらえるってことだよ!」


「大丈夫ですよ、リーアさん。その部分もちゃんと聞いていました。私達も頑張ったらご褒美をもらえるのでしょうか……?」


「多分ご褒美はくれると思う。レーナはスマホの音声録音で言質をとったって言ってた。それをすれば断ることはできないはず……!」


「では、そのようにしましょうか。ふふふ……今から楽しみですね……!」


「……だね!じゃあ……お兄ちゃんから1日ずっと抱いてもらえるように……頑張ろう!」


「えぇ!」


「……旭君の女性達は男以上に好奇心旺盛なのだな……」


 家の扉から旭とレーナを覗いて、自分達もレーナと同様のご褒美をもらおうと考えるリーアとルミア。

 その二人をどこか遠い目で眺めるギルドマスターという妙な絵面が構成されていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る