第3章
第42話 旭は【遅延空間】を使用する
俺達は決闘場に辿り着いた。
相変わらず地面は抉られている。
レーナとリーアの2人が放った【終焉の極光】のダメージがよほど大きかったんだろう。
決闘場が崩壊しなかっただけでもましなのかもしれない。
「さて、旭君。見ての通り決闘場はご覧の有様なわけだが……。どうするんだ?」
「とりあえず四神を召喚しよう。四神が張る結界なら問題はないだろうし。ーーーー【召喚魔法:四神】」
俺はギルドマスターの言葉に召喚魔法で応える。
四神を初めて召喚した時と同様の光の柱が決闘場全体を包み込んだ。
『『『『ご主人、我ら四神に御用命か?』』』』
光の中から朱雀、玄武、白虎、青龍が姿を現わす。
四神の姿を見たギルドマスターは固まっている。
……予想していた通りの結果になったな。
「丹奈との対決に備えて、結界の強度を確認したい。【四獣結界】を使用してもらえるか?ついでに【遅延空間】の影響を受けるのかどうかを知りたいんだが……知っていたら教えて欲しい」
俺の言葉に朱雀が答えてくれた。
『結界の強度については了承した。それにしてもご主人。【遅延空間】とはまた珍しい魔法を使用するのだな。……【四獣結界】を使用しても【遅延空間】の影響は受けるだろう。結界の外側からは中の様子が見えなくなり、出入りができなくなるが』
「なるほど。じゃあ、俺とレーナ、リーア、ルミア、ついでにギルドマスターが決闘場の中に残るから、結界を張って欲しい」
「わかってはいたが、私はついでなのか……」
意識を取り戻したギルドマスターが後ろで何か言っているが……時間がないので放置する。
『了解した。……他の四神も聞いたな?今よりご主人の指示に従い、【四獣結界】を行使する。各々持ち場につけ!』
『『『了解』』』
朱雀の発言に他の四神が決闘場の四隅に散らばる。
決闘場の四隅にそれぞれの四神が立っているような状態で【四獣結界】を使用するらしい。
「……旭君。今更なんだが、本当に私も一緒でいいのか?」
「まぁ、ここまできたんだから見ていけばいいと思うぞ?SSランク冒険者の実力を知っておくのもギルドマスターの役目だろう?」
「それはそうなんだが……」
「ギルドマスター、ここまできたら覚悟を決めましょう」
まだ悩んでいたギルドマスターだったが、ルミアの言葉に覚悟を決めたようだ。
ギルドマスターの瞳から恐怖がなくなった。
その事を確認した俺は四神達に命令をする。
「よし、【四獣結界】の発動を頼む。発動を確認した後、俺も【遅延空間】を使用する」
『『『『了解した。ーーーー四神たる我らによる聖なる結界をこの場所に。【四獣結界】!』』』』
ーーーー[【四獣結界】の展開を確認。こちらの発動のタイミングは旭に一任します]
叡智さんが結界が展開されたことが教えてくれる。
よし、訓練開始の時間だ。
「ーーーー【遅延空間】発動!」
俺の魔法が発動し、外の景色が見えなくなる。
効果が発動しているなら時間の流れは遅くなっているはずだが……。
「パパ、これで1日が1ヶ月になったの?」
レーナが俺の服をくいくい引っ張って訪ねてくる。
俺はスマホで時刻を確認しながらレーナの質問に答える。
「そうみたいだ。スマホの時間が1分から動かない。【遅延空間】の効果は発動していると見ていいと思う」
俺の言葉に他の4人は驚いた顔を浮かべている。
気持ちはわかるが、せっかくできた時間だ。
無駄にしないためにも準備しないと。
「とりあえずこの空間で2ヶ月を過ごすんだし、準備を整えてしまおう」
そう、困った時の叡智さんだ。
前に言っていた時は【クリエイト】で一軒家は創造できないって言っていたけど……今ならいけるかな?
教えてプリーズ。
ーーーー[疑問を確認……というか最期の言葉は些かどうかと。現在の旭であればよほどの豪邸でない限りは問題はありません]
イケメン君を倒した時にレベルが上がったような気がしたので、聞いてみたのだが……予想は当たっていたようだ。
俺は防音完備の一戸建てを二軒思い浮かべながら、キーワードを唱える。
「ーーーー【クリエイト:一戸建て×2】」
俺の魔法が発動し、地球でよく見かけた一戸建てが二軒創造される。
二軒の距離は少し離れているが、決闘場を使用するに当たって邪魔にならない位置に創造されていた。
「……お兄ちゃん!?一戸建ては創造できないんじゃなかったの!?しかも二軒同時になんて……!」
「ん?あぁ、イケメン君を倒した時にレベルが上がった気がしたから叡智さんに確認してみたんだよ。そうしたら案の定創造できることがわかったから、試してみたんだ」
俺が一戸建てを創造したことに驚いたリーアが俺に尋ねてきたが、俺の予想を聞いた途端に何かを悟ったような表情をしてレーナのところに戻っていった。
…………解せぬ。
「……じゃあ、こっちの一戸建てはギルドマスターが使ってくれ。流石にうちのヒロインと一緒の宿というわけにも行かないからな。食事は合同にするから安心してほしい」
「旭君、使わせてくれるのはありがたいのだが……この家……豪華すぎやしないか?私の家よりも大きいのだが……」
ギルドマスターが創造で建築された一戸建てを見て呆然としている。
ただの二階建て建築なんだが……こちらの世界では豪華に見えるのだろうか。
俺は苦笑しつつ、ギルドマスターに話しかける。
「豪華ってほどでもないと思うけどなぁ。防音完備にしてあるから日頃の鬱憤を叫んでもいいぞ?」
「それはありがたい!早速使用させてもらうとしよう!」
……うん、冗談で言ったんだが……。
よっぽど鬱憤がたまっているんだな。
鬱憤を晴らせると知ったギルドマスターは意気揚々と一戸建ての中に入っていった。
「ところで旭さん。今後の活動はどうするのですか?」
ギルドマスターが一戸建ての中に入った後、今後どうするかについてルミアが訪ねてくる。
訓練の内容だよな?
正直何も決まっていないのだが……優先順位としてはレーナ>リーア>ルミアの順になる。
それも踏まえて……。
「そうだな……。最初はレーナに【詠唱省略】スキルの習得が最優先かな。俺と叡智さんでレーナにつきっきりで教えようと思う。その間、リーアとルミアは模擬戦で前衛の動き方を確認してほしい」
「まぁ、【詠唱省略】は戦闘する上でかなり便利だからね。お兄ちゃん、レーナが習得したら私も教えてくれない?私も使えた方が【終焉の極光】放つ時に便利だろうし」
俺の言葉にリーアが意見を述べてくる。
……確かにレーナとリーアが合同で【終焉の極光】を詠唱するんだから、リーアも【詠唱省略】のスキルがあった方がいいか。
俺はリーアの意見に賛同する。
「わかった。レーナが終わったら次はリーアな?期間は……15日を目安にしようか。残りの1ヶ月で実践的な模擬戦をするとしよう。ルミアとレーナもそれで異論はないか?」
「わたしは問題ないよ、パパ」
「私もレーナさんと同じ意見です。私はすでに【詠唱省略】も使えますし、冒険者としての経験もあります。私は主にレーナさんとリーアさんの戦術指南に精を出したいと思います」
俺がレーナとリーアのどちらかと訓練している間に、もう片方をルミアが見てくれるというのはとてもありがたい。
しかし、それではルミアの訓練にならないのではないだろうか?
そう思った俺はルミアに聞いてみる。
「ルミアの申し出はとても助かるんだが……それだとルミアが訓練できないんじゃないのか?」
「お気遣いありがとうございます。教える側というのも色々と勉強できることが多いですから大丈夫ですよ」
……ふむ。確かに教える方も色々と気づくことがあるだろう。
なら、その申し出はありがたく受け取るとしよう。
「じゃあ、最初の15日ずつはそのようにしていこう。ちなみに、前衛訓練にはハイエンジェルやデススネークも召喚する予定だから遠慮なく言ってくれ」
「ハイエンジェルとデススネークか……。私の攻撃が通るか楽しみになってきたかも……!」
「後衛のわたしは少し厳しいかなぁ……。パパ、わたしの時は前衛がほしいんだけど……いいかな?」
上位眷属と一戦を交えることに意欲的なリーアと1人では厳しいと感じているレーナ。
レーナの言う通り、後衛1人で上位眷属の攻撃をかわしながら反撃するのは厳しいものがあるだろう。
「そうだなぁ……それならリーアを前衛としてレーナを後衛でタッグを組んで訓練してみよう。イケメン君の女性達相手に戦ったような感じだな。今回はお互いに攻撃しながらになるから、いい訓練になるだろうし」
「「わかったっ!」」
俺の提案に元気よく返事をしてくれるレーナとリーア。
うん、俺の愛おしい天使達は今日も可愛い。
「さて、訓練の方向性も決まったことだし……。まずはこれから使う部屋の準備とかしようか。俺たちの寝室はキングサイズのベッドを用意しているけど、大丈夫か?」
「キングサイズのベッドってあのとても大きいベッドのことだよね?パパとの夜の訓練もできるってことだし……わたしは問題ないよ」
「ふふふ……私達3人を別の部屋にすることもできたのに、わざわざ同じ部屋にするなんて……!お兄ちゃん、この2ヶ月間搾り取ってあげるからね……?」
「リーアさん!表情がサキュバスになっていますよ!?……でも、私も期待していますからね……?」
俺の言葉に三者三様の反応が返ってくる。
3人ともキングサイズのベッドに対しては反対はないみたいなので一安心かな。
……搾り取られることが確定しているのは置いておくとして。
ーーーー[ 【色魔】のスキルがあるので大丈夫かと思われますが]
叡智さんが俺のぼやきに反応してくる。
……わかっているって。
色魔があるから夜の訓練(と言う名の搾取)は問題はない。
疲れが残らないようにすればいいだけなのだから。
俺はそう思いながら、3人と一緒に家に入っていった。
訓練開始は明日からにしよう。
今日はその前段階なのだから。
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