第40話 幕間の物語-丹奈達一行が見た光景-
ーーーー[丹奈視点]ーーーー
ダスクの街を出立した私達は、のんびりと馬車での旅をしていた。
現在、2日ほどの時間が経過している。
とは言えども、急いだところでウダルまでの道のりは変わらないし、魔物の索敵とかもしないといけないからのんびり進んでいるんだ。
いくらあーちゃんとはいえども、ウダルについてすぐに出発するということはないだろう。
……おそらく待ち伏せて勝負を仕掛けてくるに違いない。
「ニナ、そろそろ旅も半分ほどになるが……大丈夫か?」
馬車の御者台からグランが話しかけてくる。
黙っていたから疲れていると思ったのだろう。
「グラン、大丈夫だよ。ちょっと旭のことを考えてた」
「そうか……。あんまり思い詰めるなよ?ニナには俺達がいるんだからさ」
グランはそう言って白い歯を見せて笑った。
イケメンがこんな風に笑うと普通の女性は一瞬で落ちてしまうだろう。
私はイケメンの笑顔には慣れているので今更感はあるが、心配してくれたことには素直に感謝していた。
「ありがとう……。私はいいパーティメンバーに恵まれたよ」
「……よせやい。ニナにそんなことを言われたら恥ずかしくなるだろうが」
まさか私に反撃されると思わなかったグランは顔を真っ赤にして前を向いてしまった。
ふふふ……私を照れさせようなんてまだまだ早いってもんよ。
グランとじゃれ合いの会話をしていたら、偵察に出ていたレンジが戻ってきた。
「ニナ、この先にちょうどいい草原を見つけた。昼には少し早いが、休憩にしないか?」
レンジが言うようにお昼までには少し早い。
しかし、休憩するのにちょうどいい草原を見つけたのなら話は別だ。
私はレンジの言葉を聞いて他のメンバーに指示を出す。
「じゃあ、休憩にしようか。レンジは先にその草原に行って魔物がいないか索敵、ライアンはレンジのフォローをお願い。他の皆はダリルを中心として馬車周辺を警戒しながら進んで」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
私の指示にイケメン軍団は力強く返事をして、それぞれ持ち場に着く。
……私?このパーティでは姫みたいに扱われているから馬車でのんびりしていますけど?
本当は身体を動かしたいけど、身長が小さいから体力もあまりないんだよね。
できることなら皆の役に立ちたいけど、それを言ったら強く拒否されたのよ。
だから私は【
【宝物庫】は時間経過するが、その速度は比較的遅いために数日間なら鮮度を保つことができる。
10分くらいして私達は広めの草原に辿り着いた。
草原に着いた時、レンジが顔面蒼白になっていたので声をかける。
何かあったのだろうか?
「レンジ、顔色が悪いみたいだけど……大丈夫?」
「あ……あぁ、今は大丈夫だ。なんとなくこの草原を選んだんだが、この草原……旭達が休憩していた場所だったんだよ。それを今思い出して……な」
レンジはそう呟いて大きく息を吐いた。
多分また狂気に走らないように精神を落ち着かせているのだろう。
それにしても……偶然とはいえあーちゃんと同じ場所で休憩を取ることになるとは。
それとなくそうなるように神が仕向けているんじゃないかとすら思う。
私が転移前にあった神はそう言うの好きそうな感じだったし。
「……レンジ、無理はしないようにね?」
「あぁ……ありがとうニナ……」
レンジはそう言って、周囲の索敵に戻っていく。
草原に着いたとはいえども、いつ敵が襲ってくるかわからない。
昼食前に周囲の最終確認をしに行ったのだろう。
……精神を落ち着かせるためというのもあるかもしれないけど。
そんなレンジを見送ってから、私は他のメンバーに指示を出す。
「じゃあ、ここでお昼の準備をするよ。グランはご飯を作るための道具の準備、ライアンとダリル、アルケミストは近くで焚き火に使えそうな木材を集めてきて。カイルとユウ達は……食べられそうな魔物の調達をお願い。レンジのところに行って、魔物のいる場所だけ確認してきて」
指示を受けたメンバーはそれぞれ散っていく。
私は【宝物庫】からトレジャーシートなどのお昼に欠かせない道具を出していく。
グランは【クリエイト】が使えるので、今はかまどを創造している。
さて……今日のご飯はどうしようか……。
もうそろそろウダルに着くことも考えて精のつく料理にしようかな?
そう思い【宝物庫】の中にある材料を確認する。
「オークの肉……ブラックオニオン……鶏卵……この3つがあれば親子丼もどきは作れるかな……。後は……アボカドみたいな果実とアスパラガスとアーモンド……。うん、サラダもなんとかなりそう」
私はパーティメンバーのために精のつく料理を考えていると、グランが苦笑しながら話しかけてきた。
どうやら【クリエイト】によるかまどの準備は終わったらしい。
「ニナ、そんなに精力のつく料理を作ってどうするんだ?そんなのを食べたら俺も含めて理性が効かなくなるぞ?」
「グラン、その心配は大丈夫だよ。ウダルに着く前日まで寝る時には拘束魔法をかけるから」
私の言葉にグランは肩を竦める。
自分で精のつく料理を作ったのにそれは酷いんじゃないかって?
あーちゃんとの勝負のために限界まで溜めさせておいてから、【催淫強化】しないと負ける可能性があるかもしれないし仕方ないのよ。
「あー……そんなことを言われたら何とかして理性を保たなきゃいけないなぁ。ニナの高速魔法は強力だからウダルに着く前にそんなことで体力を消耗したくはないしな。……まぁ、ベランからしたらそれすらご褒美になるから、あいつに対してはその対応でもいいかもしれないが」
「「「「「戻ったぞー」」」」
グランとそんな話をしていたら他の皆が帰ってきた。
さぁ、お昼ご飯作りを始めよう!
ちなみに、今日のお昼ご飯のメニューを伝えたら、他の皆もグランと同じように苦笑していた。
解せぬ。
昼食後、私達は後片付けも終えて、のんびりと雑談をしていた。
「ご馳走さん。ニナ、ウダルまで後少しだが……着いたらどうするんだ?」
レンジが私に質問をしてくる。
私は他の皆の顔を見ながら質問に答えた。
「そうだなぁ……まずは冒険者ギルドに向かうとしよう。今回のも一応依頼だからね。ルミアさんをダスクの街に連れ帰るっていう普通ならありえない依頼だけど。旭もギルドに立ち寄っているはずだから、それとなく情報を収集するとしよう」
「そうだな……それが1番かもしれないな」
私の言葉にレンジが賛成してくれる。
本当にレンジは頼りになる人物だと思う。
私にはもったいないくらい。
そんなことを言ったら他のメンバーも同じなんだけださ。
そんな風に話していたときのことだった。
ウダルの方面を見ていたライアンが何かに気づいたかのように声を上げる。
「……なぁ、おい。あそこ……何か光ってないか?」
「光……?」
ライアンの言葉を聞いて、私達はライアンと同じ方角を見る。
その方角には……天を突き抜けんばかりの光の柱があった。
「……あの光の柱はなんなんだろうね?」
「……あれはまさか!……ニナ、あれは多分召喚魔法の光だ。しかもあの光の大きさからすると最低でも上級、最悪なパターンだと禁忌魔法級だろう」
光の柱を見たグランがありえないという風に目を見開いている。
最低でも上級……最悪なパターンで禁忌魔法級。
その言葉を聞いたとき、私はあーちゃんの存在しか思い浮かばなかった。
ライアンも同じだったらしく、緊張した声で私に話しかけてくる。
「ニナ、禁忌魔法級ってことは……あそこにいるのは旭なんじゃないか?」
「ライアンもそう思った?っていうか、禁忌魔法級の召喚魔法を使えるなんて旭しかいないよね」
私の言葉に他のメンバーも頷いている。
問題はどうして外で召喚魔法を使っているのかということ。
……もしかして私達がウダルに向かっているのがバレた?
私達が街を出たのは2日前。ダスクでレンジからあーちゃんの情報を得たのが4日前。
ダスクから離れた日時を考えると、ウダルについていても問題はない。
しかし、ダスクでアーガスさんから依頼を受けたのは3日だ。
その状態で私達の行動を知ったのだとしたら……。
「もしかして……ダスクの冒険者ギルドにウダルの冒険者ギルドの関係者がいて、そこから情報が漏れた……?」
私の言葉にレンジが重々しく頷く。
「……可能性はあるだろう。そうだとしたら旭達は更なる力を得るために召喚魔法を実行したのかもしれない。……どうする?」
「……急いでもいい方向に向かうとは思えない。ウダルに着く前日に最大の力で強化魔法をかけよう」
私の言葉に反対の意見はなかったのか、イケメン達は黙って頷いた。
そこから数分後のこと……。
「おい……!なんなんだ……!なんなんだよあの光景は……!!」
アルケミストが光の柱があった方を眺めて叫んでいる。
……叫びたくなる気持ちはよくわかる。
光の柱が見えた場所では、天変地異でも起きたんじゃないかと言っても過言ではないだろう光景が広がっている。
初めに大きな水の竜巻が発生し、その後に天空まで伸びていった槍のような樹木がまるでスコールのように降り注ぎ、燃え盛る炎が樹木が降り注いだ場所にこれでもかと注がれている。
……ナニコレ。
「グラン、あの状況を見てどう思う?」
「……少なくとも敵がいるから攻撃しているようには見えないな。あんな威力の攻撃を集中するほどの強敵はこの近くにはいない。可能性として考えられるのは……召喚魔法による試練だと思うが……」
グランはそんなことを言いながらありえないと首を振っている。
まぁ……ありえないよなぁ……。
あれだけの攻撃を連続で受けて無事でいられるとは思えない。
そんなことを考えていたときのことだった。
「…………ッ!?皆、衝撃に備えて!!」
私は嫌な予感がしてパーティメンバーに指示を飛ばす。
全員が衝撃に備えた次の瞬間……!
ーーーーズズズズズズズ!!!
空からありえないほどの大きさの隕石が降り注ぎ始めた。
降り注ぎ始めたと言っても降り注いでいる場所は、光の柱が見えた場所だけなんだけど。
その衝撃は十分に離れているこの場所にも伝わってきた。
「……なんなんだ……あの馬鹿げた威力の攻撃は……!あそこで何が起こっていやがる!!」
降り注いでいる隕石を見てレンジが叫ぶ。
十分に離れている場所なのに、ここまで伝わってくる衝撃の強さ。
降り注いでいる場所では防御するのも不可能なほどの衝撃が走っているに違いない。
連続した攻撃魔法と思われる光景から30分後……。
私達は警戒をしながら出立の準備をしていた。
早く街に行ったほうがいいかもしれないという私の意見に皆が賛成したからだ。
「……ニナ……、あそこを見てくれ……」
索敵のためにウダルの方角を見たレンジが震えた声を出す。
また天変地異でも起こったのか!?と思ってその方角を見ると……。
「……なにあれ……」
私も思わず声が震えてしまった。
先程の天変地異があった場所に見えたのは……攻撃が集中していた場所からほんの少し離れたところに伸びた禍々しい光の柱だった。
光が見えた数秒後にドズンという音が響き渡る。
そんな光を見たレンジが私にこんなことを聞いてきた。
「……なぁ、ニナ。もしあの攻撃魔法が旭によるものだとしたら……どうする?」
それは今考えられるパターンで最も最悪なものだった。
もしあんな攻撃を使えるのだとしたら、私達に勝ち目はない。
私はレンジの疑問に応える。
「……考えたくもないなぁ……。ねぇ……このまま帰ってもいいかなぁ……?……ってできないよねぇ……」
私の言葉に神妙な面持ちで頷くイケメン達。
いや、本当にあーちゃんに会わないでダスクの街に帰りたい。
しかし、アーガスさんから依頼を受けた以上、そういうわけにもいかないんだよなぁ。
私達は悲痛な面持ちでウダルの街に向けて出立した。
【催淫強化】で強化しても勝てるのだろうかという疑念を胸に抱きながら……。
ーーーーーーーー
その頃、四神を送還した旭達は……。
「そういえば、ルミア。四神の試練の前に時空間魔法で結界を張るって言っていたけど……あれどうなったんだ?」
「……あの魔法は四神が攻撃を開始した瞬間に破れてしまいました」
「ってことは、丹奈達がその光景を見ている可能性は……」
「十分に高いかと……」
旭は「俺も【聖域】を範囲を広げて展開しておけばよかった」と後悔していたのであった。
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