第39話 旭は四神を従える

『……ハッ!?我は一体……!?』


 二度目の再顕現をした白虎が驚きの声を上げる。

 白虎以外の四神も顕現されていたが、いずれも疲れたような表情をしていた。

 再顕現にかかった時間は1時間弱。

【終焉の極光】によるダメージが大きかったらしい。


「お、ようやく再顕現されたのか。今回は時間がかかったな」


「パパ、そんなことより……。もういい頃合いだよね?お腹が空いたからもう食べたいよぅ……」


「お兄ちゃん、もうお昼も過ぎてるし料理もいい具合だよ?四神達なんて放っておいてお昼ご飯を食べよう?」


「リーアさん、四神を放っておくと言うのは本人達の目の前で言うのは流石にどうかと……。ほら、四神……特に白虎が絶句した表情をしていますよ……」


 そう、俺達は四神が再顕現されるまでの間、昼食作りをしていた。

 今回のメニューは豚肉をふんだんに使ったカレーとパンである。

 パンはウダルの街で買った白いふわふわのものだ。

 カレーの材料はルミアが街で買っておいてくれたものを使用している。

 本当はご飯で食べたかったが……ウダルに米が売っていなかったので仕方ない。


『……我らが再顕現されるまでの待機時間に料理だと……!?』


 白虎は憤慨しているようだったが、朱雀に叩かれていた。

 試練を2つとも突破した俺に対してする態度ではないと思ってのことだろう。

 朱雀は美味しそうな匂いにお腹の音を鳴らしながら、俺達に話しかけてきた。


『召喚主よ……ご飯の準備をしているところ申し訳ないが……先の試練の結果を伝えても良いか?』


「それについては問題はないぞ。というか、顕現されるまで暇だったからご飯の準備をしていただけだし。……それで?俺は四神の試練とやらに合格できたのか?」


 俺の言葉を聞いた朱雀は当然だと言わんばかりに叫ぶ。


『当たり前だッ!我らの攻撃を1つも通さぬ防御力、そして我らをまとめて倒すことのできる攻撃力!この2つを兼ね備えている者に対してどうして不合格の烙印を押せようか!我ら四神は召喚主を主人として忠誠を誓うことをここに宣言する!……白虎もそれで遺憾はないな?』


 朱雀は白虎をジロリと睨みつける。

 白虎は若干唸っていたが……観念したようにこちらに向かって話し始めた。


『納得はいかん……と言いたいが、あれほどの実力差を見せつけられてはそうも言ってはいられまいて……。我も朱雀と同じ思いだ。お主を主人として認めよう』


 まぁ、ダメージを与えられなかっただけじゃなく、こちらの攻撃になす術もなかったのだから仕方ないと言えるだろう。

 俺はそう考えていたのだが……レーナとリーアは違ったようだ。

【狂愛】を全開にして白虎の前に仁王立ちしている。

 仁王立ちといっても体格が違いすぎるから、ただただ可愛いだけなのだが。


「……ねぇ、パパに少しもダメージを与えられなかったのにその態度はどうなの……?バカなの?」


「試練の前から思っていたけど……貴方はお兄ちゃんをバカにしすぎじゃない?神霊魔法級の召喚獣として最低だとは思わないの……?」


 レーナとリーアは白虎の物言いに我慢の限界が来ていたようだ。

 そんな2人を見て白虎が怖気付いたように話しかける。


『……クッ、なんなんだこの殺気は……!?……先ほどの試練の際に召喚主に言った暴言については悪かったと思っていr「「……ならそれ相応の態度があるでしょう!?」」……はい』


 白虎の言葉を遮って怒鳴っているレーナとリーア。

 うーん……俺としては試練は突破できたからもうどうでもよかったりするのだが。

 そういえばルミアが静かだな……。

 そう思ってルミアの姿を探していると、なぜか白虎の頭の後ろからルミアの声が聞こえてきた。


「……悪かったと思っているなら、まずは旭さんに謝罪するのが普通なのではないですか?……私も貴方の態度や発言には我慢の限界が来ていたんです。どうしますか?今すぐ今までの発言と態度について謝罪しないのであれば……首を落としますが……」


 ルミアは時空間魔法で白虎に近づき、その首に刀を当てていた。

 ……どこから刀をだしたんだとか、召喚獣の首を一介の人間が落とせるのかとか色々突っ込みたいことはあったが、ルミアならできそうな予感がして黙っておくことにした。


『この刀は……まさか神刀!?……どこで手に入れた……!?』


「それを今の貴方に言う必要がありますか?……さぁ、どうするのですか?素直に謝罪するか、この神刀でもう二度と顕現されないように殺されるか……選ばせてあげましょう」


 ルミア、それは選択肢があるようでないって言うやつだぞ……?

 俺はそんなことを思っていたが、白虎も同じだったようだ。


『……ッ!!あ、謝る……謝るからその神刀を退けてくれ……』


「……なら今すぐに謝罪なさい。じゃないと……この神刀とレーナさんとリーアさんによる【終焉の極光】が襲いかかりますよ」


 ルミアの言葉に俺はハッとして2人を見る。

 レーナとリーアの2人は……。


「「ーーーー我らは人生で最高のーーーーー」」


 いつぞやの時のように2人で杖を持って、【終焉の極光】の詠唱を始めていた!

 俺は急いで2人に駆け寄り、その身体を抱きしめて詠唱を中断させる。


「パパ、邪魔しないで。パパの実力を見ても横暴な態度を取っている白虎を殺せない……」


「レーナの言う通りだよ、お兄ちゃん。四神は3体いれば問題ないでしょう?お兄ちゃんに従わない獣はここで駆除しないと……」


「いやいや、もしそうだとしてもそのまま放ったらルミアに当たるだろうが。俺のことを想ってくれての行動なのはわかっているから少しは落ち着こう」


 そんな俺達のやり取りをみた白虎は顔面蒼白となって、俺に話しかけてきた。


『……召喚主……いや、御主人様よ。試練前に言ったご主人様の女を贄にするという発言は、本気で挑んでもらうためとはいえども行き過ぎた発言でした……。申し訳ありませぬ……。今この時より、心を改めますのでどうかご慈悲を……』


 レーナとリーアの【狂愛】のオーラに加えてルミアの殺気を浴びた白虎は縮こまっていた。

 ……ゼウスの時もこんな感じだった気がする。

 うん、俺のヒロインは全員愛が重くなるようだ。

 重い愛が欲しい俺からしたら実に喜ばしいことである。


『御主人、白虎もこう言っておるので許してはもらえないか?御主人に対しての発言や態度は到底許されるものではないと思うが……我らからもお願いしたい。許してはいただけないだろうか?』


 朱雀は他の四神を代表して俺とレーナ達に向かって頭を下げる。

 俺としては試練を突破したことで問題はないと感じていたのでもう気にしていないんだが。


「レーナ、リーア、それにルミア。朱雀もこう言ってることだし、そろそろ白虎を許してやらないか?もしも俺に仇なす時が来たら、その時は全力で後悔させてやればいいだろう?」


「むぅ……」


「お兄ちゃんがそう言うならいいけど……」


「旭さんの意見に従います。しかし……旭さんを裏切ることがあったら……わかりますね?」


 レーナとリーアは不服そうではあるが納得してくれた。

 いつのまにか俺の横に来ていたルミアは俺の言葉に賛成した後、神刀を四神達に向けて脅しをかけている。


『『『『我ら四神の命に代えても御主人に忠誠を誓う!!だからその神刀をしまってくださいお願いします!!』』』』


 四神達の宣言を聞いたルミアは満足そうに神刀をしまった。

 ……本当にどこにしまっているんだろう?

 時空間魔法を使えるから俺の【無限収納】みたいな収納空間でもあるのだろうか?

 ……今度聞いてみよう。


 俺は四神達に向き直り、今後のことについて話し始める。


「さて、これで四神達は俺の召喚獣となったわけだが……。今後のことについて話したい。それについては大丈夫か?」


 俺の言葉に四神達は首を縦にコクコクと振っている。

 四神達の了承を得た俺は話を続ける。


「まず、今回四神を召喚した件について。俺達は今、俺と同じ転移者であり元カノである笹原丹奈との対決が起きるかもしれないと言う状況にある。場所はウダルの決闘場を予定しているが……相手はAランク冒険者だ。俺達と対決した場合、決闘場が無事で済むとは思えない。そこで四神達には決闘場に対して結界を張ってもらいたいと思って召喚した。……ちなみに、そう言う結界はあるのか?」


 俺の言葉に四神達は考え込んでしまった。

 ……難しいのだろうか?

 俺がそう考えていると、朱雀から意見があった。


『我ら四神が4体で実行する【四獣結界】であれば、問題はないと思われる。御主人の神霊魔法を防ぎきれるかと言われると自信はないのだが……』


 ふむふむ。神霊級の四神が同時に放つ【四獣結界】か。

 それを持ってしても俺の攻撃を防げるか自信がないと言うのは……俺自身がおかしいんだろうなぁ……。

 そう思いつつも、俺は打開案を提示する。


「結界を張る前に俺が四神達を強化すれば防ぐことはできるんじゃないか?ゼウスとハイエンジェルの結界も強化したら神霊魔法を耐えることができたし」


『ゼウスはともかくハイエンジェルが神霊魔法を防ぐことのできる結界を!?それならば我らでも大丈夫だと思われるが……御主人は大丈夫なのか?対決ということは魔力を使うのだろう?』


 朱雀は驚愕した表情を浮かべて、俺の魔力の心配をしてきた。

 他の四神達も似たような考えのようだ。


「魔力については問題はないと思う。前に更新した時は150000ほどあったし。【魔力消費軽減】もあるから強化をしたところで影響はない」


 俺の言葉に青龍と玄武が目を見開いた。


『魔力150000に【魔力消費軽減】だと!?もしそうなら魔力切れなんて滅多に起きないではないか!』


『御主人の防御魔法とあの攻撃から魔力が高いとは思っていたが……その魔力量なら納得だな。……朱雀よ、我らの御主人は心配するだけ無駄な存在のようだ。それならば、我らができる最大の力で御主人に使えるのが使い魔といえよう?』


 召喚獣であって使い魔ではないのだが……訂正が面倒なので黙っておく。

 青龍の言葉に何か考えている様子の朱雀。

 数分して朱雀が出した答えは……。


『わかった。御主人、もしその時は我らの強化をお願いしたい。我らは御主人の期待に応えられる様に全力で【四獣結界】を展開するとしよう』


 朱雀は力強い視線と言葉で俺に宣言した。

 これで決闘場の耐久性の心配は無くなった。

 俺は満足気に頷いて、レーナ達に向き直る。


「3人とも話しは聞いたな?これで決闘場の耐久性は心配なくなった。ご飯を食べた後はウダルに戻って依頼の達成報告、その後に決闘場で【四獣結界】の強度を確かめながら訓練をしよう」


「「「はい!!」」」


 レーナ達3人は元気に返事を返してくれた。

 さて、話が長くなってしまったがお昼にしよう。

 カレーのいい匂いがずっとしていたので、俺のお腹も限界なんだよ。


『……御主人、我らはこの後どうすれば……?顕現したままの方がいいのか、一度帰還した方がいいのか……教えていただけないだろうか……?』


 朱雀は申し訳なさそうに俺にそう聞いてきた。

 ……すまん、四神達をこの後どうするか考えていなかった。


「ウダルの決闘場についたらもう一度召喚し直すが……さっきから白虎からお腹の音がなっているのが聞こえているし……まずはご飯にしよう」


 俺の言葉に歓喜の声を上げる四神達だった。

 ……そんなにカレーが食べたかったのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る