第35話 旭のヒロインは討伐依頼を遂行する
俺達は街の外に出るという大義名分を得るために、依頼が貼ってある掲示板の前に来た。
ちょうどいい依頼がないか探しているんだが……。
「うーん……中々いい依頼がないねぇ」
レーナが呟いた通り、やりやすい収集依頼は全部出払ってるようだ。
残っているのは討伐依頼がほとんどか……。
眷属召喚のためにも魔力は温存したいのだが……。
「旭さん、この依頼はどうでしょう?このくらいでしたら私たちだけでも問題ないと思うのですが……」
ルミアが1つの依頼を持ってきた。
その依頼内容を確認する。
ーーーー討伐依頼ーーーー
依頼者:冒険者ギルド
ランク:Cランク相当
内容: ウダル周辺の草原にてバーサルベアが10体確認された。畑への被害が予想される。急ぎこの魔物を退治してもらいたい。
報酬:金貨5枚
(魔物をきれいな状態で持ち帰った場合は素材の買取も行う)
ーーーー
「ルミアお姉さん、このバーサルベアって聞いたことがないけど……強いの?」
「いえ、今のレーナさん達なら片手で捻ることができると思いますよ。依頼ランクもCランク相応ですし」
「ルミアさん、魔物の数が10体だからヘイトを稼ぐのが大変かなぁと思うんだけど……【魔力分身】使ったほうがいい?」
「このバーサルベアは正直言って名前負けの魔物なので、そこまでは必要ないかと。私とリーアさんの2人で十分だと思いますよ」
レーナとリーア、ルミアが依頼の内容について話し合っている。
というか、この依頼を受けるのは確定なのね。
俺は話に参加できていないが……自分たちで倒して見せるという決意の現れなのだろうか?
しかし、話の輪に加われないのは少し寂しいので、俺も会話に参加することにする。
「なぁ、その依頼に俺の力は必要ないか?眷属召喚といっても、魔力は結構あるから結界くらいは張れると思うんだが……」
「旭さんのお気持ちはとても嬉しいですが……丹奈さん達との戦いも想定して私達だけでも戦えるようにしないといけません。今回はその試験段階だと思って、見守ってもらえませんか?」
「そうだよパパ。わたし達もパパの最愛の女としてしっかり戦えるようになりたい」
「レーナとルミアさんの言う通りだよ。丹奈のパーティメンバーは人数が多いって聞いてる。あのイケメンもどきのパーティよりは少ないと思うけど、冒険者ランク上位と戦うのは初めてだから、やれることはやっておきたい」
……そんなこと言われたら反論できないじゃないか。
俺は苦笑を浮かべて3人に話しかける。
「わかったわかった。そこまで言うのであればお言葉に甘えるとしよう。3人が依頼対象の魔物を退治したら、新しい眷属のための召喚魔法を行うから、頑張ってほしい」
「「「任せて!!」」ください!!」
そう答えた3人は、バーサルベアの討伐依頼を意気揚々と受付に持っていった。
さて……能力値的には問題ないと思うが……。
見守ると約束したからには俺は信じることしかできない。
怪我したらすぐに治療ができるようにだけはしておこう。
そのくらいなら許容範囲だろうし。
▼
俺達は依頼にあったウダル近くの草原にやってきた。
依頼書によるとこの辺でバーサルベアなる魔物が現れたと言うことだが……見た感じはいなさそうなんだよなぁ。
探知にも引っかかっていないし。
「……ルミアお姉さん、バーサルベアいないねぇ」
「いえ、レーナさん。もう来るみたいですよ」
猫耳をピクピクさせたルミアがそう発言する。
レーナとリーアは首を傾げていたが、数分もしないうちに身体を強張らせた。
ドドドと地面を揺らしながら10体のバーサルベアがこちらに向かってくるのが確認できたからだ。
ルミアの猫耳は俺の探知範囲外からの足音が聞こえていたらしい。
ルミアはレーナとリーアに指示を飛ばす。
「レーナさん、リーアさん。バーサルベアがきます!リーアさんは私と一緒に前線に行きます。【挑発】の準備を!レーナさんは範囲魔法の準備を!使うのは……そうですね。上級魔法で1発だと思うのでそれで」
「「了解!!」」
リーアはルミアと一緒にバーサルベアが向かってきている前に立つ。
構図としては後衛職を守る配置だろうか。
リーアがこちらに走ってくるバーサルベアに向かって【挑発】を使用する。
「こっちにきなさい!バーサルベアって聞くからどんなに強そうなのかって思ったけど、思った以上に弱そうな存在よね!これなら私だけでも勝てそうだわ!」
人間の言葉を理解したのか、リーアの言葉を聞いた途端にバーサルベアのスピードが格段に上がる。
あんな小さい女に馬鹿にされてたまるか!と言わんばかりに、目からは殺気が溢れている。
そんな殺気をまるで気にしていないかのように受け流すリーア。
「リーアさん、ナイスです!……範囲固定……【空間固定】!」
ルミアがリーアの近くに空間の範囲を設定し、バーサルベアがその範囲に入った瞬間、魔法を発動する。
【空間固定】は限られた範囲内に入った敵を閉じ込める魔法のようだ。
結界みたいなものなんだろうか?
「レーナさん、今です!」
ルミアがレーナの方に視線を飛ばす。
レーナはリーアが挑発を使用する直前から杖を構えて、魔法の詠唱をしていた。
詠唱はすでに発動する寸前まで終わっているらしい。
「ーーーー我らの行く末を阻む愚か者共に光の鉄槌を!【光流星】!!」
レーナが魔法を唱えた途端、ルミアが使用した【空間固定】めがけて、光の流星が空から降り注いだ。
【光流星】は流星というよりも、光のビームといった感じだろうか?
外傷よりも内部からの崩壊を主としているらしく、バーサルベアは血反吐を吐きながらうめき声をあげる。
内部崩壊がメインのため、見た目は特に変化はない。
しかし、【光流星】が降り注いだ後には、血を吐いてどさりと倒れるバーサルベアの姿があった。
……これは素材買取でだいぶ儲けることができそうだな。
ルミアはバーサルベアの近くに行き、警戒しながら本当に息絶えているか確認する。
「……討伐対象の沈黙を確認。レーナさん、リーアさん。依頼達成です!」
ルミアはレーナとリーアにそう宣言する。
2人はルミアの言葉を聞いて、ホッとしたような顔になった。
「わたしの魔法1発で倒せてよかったよ……!【光流星】は素材確保の時に使えそうだね……!」
「私はレーナと違って【挑発】しかしていなかったのだけれど……いいのかしら?なんか消化不良だわ……」
「いえ、リーアさんの【挑発】があったからこそ私の範囲結界効果のある【空間固定】を使用できたのです。ヘイトを一気に稼いでくれたおかげですよ」
「そう言ってもらえると気が楽になるかな。ありがとうルミアさん」
3人は今の戦闘の反省会をしている。
数の多い魔物に対しては今の戦い方でもいいかもしれない。
しかし、対人戦では今のような戦いは厳しいと思われるので、戦闘のフォーメーションはもっと練習しないといけないかもしれない。
「3人とも初めてとは思えないほど連携が取れていたな。俺は見ているだけだったが……正直見事だったよ。ただ、リーアとルミアの近接戦闘は見られなかったから、今度はそこも練習していこう」
俺はバーサルベアを【無限収納】にしまいながら、3人を労う。
リーアとルミアも俺と同じ考えだったようで、それぞれ自分の思いを俺に伝えてくれる。
「旭さんの言う通りですね。前衛職としての訓練もしないと丹奈さんとの戦いでは不安になるかもしれません。……旭さん、街に戻ったら稽古をつけてもらえませんか?」
「お兄ちゃん、私もルミアさんと同じ考えかな。前衛職としての戦い方は魔物討伐ではなかなか難しいと思うから、お兄ちゃんに相手してほしい」
俺が相手するのか。
俺なんかで相手が務まるかはわからないが、大切な仲間からのお願いだ。
お願いを聞いてあげないなんてそんなひどいことはできない。
「わかった。ウダルに戻ったら決闘場で訓練するとしよう。俺なんかで相手になるかはわからないが、精一杯頑張る」
「パパ……多分パパ以上に強い人はいないと思うから問題はないと思う。わたしも魔法攻撃の威力を高めたいから稽古してね?」
レーナが仲間はずれは嫌だよぉと言わんばかりに俺の服を引っ張ってくる。
……あぁ、もう。可愛いなぁ。
今すぐに抱きしめたくなる……が、今は我慢だ。
俺はレーナの頭を撫でながら、レーナに話しかける。
「もちろんわかっているさ。レーナは【詠唱省略】のスキルが手に入るように俺と頑張ろう。ルミアが【詠唱省略】のスキルを持っているなら、レーナ達も手に入るはずだしな」
「……うんっ!」
レーナは満開の笑みを浮かべて、俺の言葉に頷いた。
やっぱり天使だわ、この子。
「旭さん、討伐依頼は終わりました。この場所であれば新しい眷属を召喚しても問題はないと思われます。……念のために時空間魔法で結界を張りますけど」
「頼む。俺は叡智さんにどの眷属がいいか検討してもらうから、その間に結界を張っておいて」
「わかりました」
俺の言葉を受けてルミアが結界を行使する。
さて、叡智さん。
神霊魔法級の召喚魔法でいい眷属っていますかね?
ーーーー[疑問を確認。神霊魔法級の召喚魔法となると四神でしょうか?神霊魔法自体、この世界の人間は認知していません。数も少ないので、神霊魔法級の召喚魔法は実質四神のみとなります]
四神?日本でよく聞くのは玄武とかそんな感じだが……そのイメージだろうか?
ーーーー[そのイメージで問題ありません。四神は朱雀、玄武、白虎、青龍の4つに分類されます。本来ならば1体召喚するだけでも厳しいのですが……。旭なら4体同時でも問題はないでしょう。恐らくはゼウスの時と同じように試練があると思われますが、力技で押し切ってしまえば問題ないかと思われます]
なるほどね。じゃあ、その4体を召喚するとしますか。
「レーナ、リーア、ルミア。召喚する対象が決まった。今回は危険だから俺から離れていてくれ。……【聖域】。大丈夫だとは思うけど、そこから出ないようにな」
「パパ、【聖域】を使うってことはそんなに危ない召喚をするの……?大丈夫?」
「お兄ちゃん、無理だけはしちゃダメだからね?」
レーナとリーアが心配そうにこちらを見上げてくる。
俺はそんな2人に大丈夫だと微笑みかけて、召喚魔法の準備を行う。
今回は神霊魔法級の召喚魔法の行使だ。
MPに関してはレベルも上がっただろうから問題ないだろう。
一応念のために【憤怒】のスキルも魔力に交えて召喚するとしよう。
「……今ここにまとめて顕現せよ……!【召喚魔法:四神】!!!」
俺が四神である朱雀、玄武、白虎、青龍をまとめて召喚するべく四神として召喚魔法を行使する。
魔法を唱えた瞬間、ゼウスの時とは比べ物にならないほどの大きな光が辺りを埋め尽くした。
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