第34話 旭はルミアを冒険者として登録する

冒険者ギルドに入った途端に、ギルドマスターから呼び出しを受けた俺達[ロードオブヤンデレ]はギルドマスター室に向かった。

……冒険者ギルドに来るたびに何かしらのイベントが起きているような気もするが……。


「旭君とそのパーティメンバーの諸君。急に呼び出してすまない」


ギルドマスター室に入ると、俺達を呼び出したギルドマスターが申し訳なさそうに謝罪をしてくる。


「いや、それについては問題ないんだが……。それよりも至急報告したい事って?」


俺の言葉にレーナとリーアがコクコクと頷いている。

ルミアは赤く腫らした目を拭いながら、1つの結果に辿り着いたのか驚愕の表情を浮かべていた。

ギルドマスターは咳払いを1つすると、報告したい内容とやらを話し始めた。


「実はだな……ダスクのギルドに出張している職員から連絡が入った。笹原丹奈が特別依頼を受注してダスクの街を出発したらしい。その特別依頼というのが……ルミア君をダスクの街に連れて帰ってくるというものだ」


「…………ッ!!」


ギルドマスターの言葉に息を飲むルミア。

まさかそんな依頼を出すなんて……!と言いたげな顔だ。

俺の仲間になった途端にダスクへの帰還をさせるために丹奈へ依頼をするとは……。

ダスクのギルドマスターはそれほどまでに追い詰められているらしい。

仕事が終わらないにしても、今までルミアに頼りっぱなしだったのだから自業自得だろうに。


「ルミアお姉さん……ダスクの街に戻っちゃうの?」


「せっかく仲間になったと思ったのに……ダスクに戻っちゃったら意味ないじゃない……」


レーナとリーアが寂しげな表情を浮かべてそう呟いている。

そうだよな……せっかく仲間になったのにすぐ離れるのは悲しいよな。

俺はギルドマスターに本来の要件を伝えて、依頼を破棄できないか聞いて見る事にした。


「ギルドマスター、情報の件は感謝する。……でだ。本来の目的を話したい。実は……ルミアを冒険者ギルドの職員から冒険者に変更したいんだが……できるか?」


俺の言葉を聞いたギルドマスターは驚愕の表情を浮かべる。


「この状況でルミア君の退職手続きをとるのか!?退職手続き自体は可能だと思うが……。今の状況でそんなことをしたら、最悪ダスクの冒険者ギルドと戦争になるぞ!?」


「……?そのことに何の問題があるんだ?俺は仲間を守るためなら、誰であっても容赦はしない。それにルミアもダスクの街に戻りたがっていない……理由は十分だろう?」


「旭さん……!そこまで言ってくれるなんて……!」


ルミアは俺の言葉を聞いて再び泣き始めてしまった。

レーナとリーアが頭……というか猫耳を撫でて慰めている。

……ちょっとまって、俺も触りたい。

ルミアの猫耳モフモフしたいんだけど……!


「……感動しているところ悪いが……続きを話してもいいかい?」


ルミアの猫耳を撫でているレーナとリーアを羨ましく見ていたら、ギルドマスターが申し訳なさそうに話しかけてきた。

……ごめん、まだ話は終わっていなかったな。


「あぁ、すまない。それで、ウダルの冒険者ギルドはどう対処するんだ?違う街とは言えども、同じ冒険者ギルドなんだろう?」


「まぁ、確かに冒険者ギルドっていうカテゴリーは同じなんだけどな……。俺達は旭の味方につきたいと思う。というより、旭を敵に回した方が被害が大きくなるのはわかっているし、旭達のパーティとは懇意な間柄になりたいからな」


ギルドマスターはそう言うと、いたずらを企むような笑みを浮かべた。

……冒険者ギルドの中で結構影響力を持っている人間が、私情で個人の冒険者を贔屓してもいいのだろうか?

そう思ったが……ダスクのギルドマスターも丹奈を贔屓にしているから問題はないのか。


「俺達の味方をしてくれるのはありがたいが……大丈夫なのか?」


俺はギルドマスターに確認をしておく。

途中で裏切られるなんてよくあることだし。


「何をそんなに疑心暗鬼になっているのか分からないが……。安心してくれ。ウダルの冒険者ギルドは何があっても旭達の味方になるとここに宣言しよう。なんなら誓約書を書いてもいい」


誓約書ときましたか。

ギルドマスターの味方になるという言葉は信じてもいいらしい。

レーナ達の方を見ると、同じ気持ちなのか首を縦に振ってくれた。


「そうか……それならお言葉に甘えるとしよう。ありがとう」


「まさか君からお礼の言葉を言われるとはな。……さて、冒険者へのジョブ変更の話だが、手続き自体は簡単だ。俺の権限を利用して書類を書けばすぐに終わる。ルミア君、これが最後の確認だ。君は今、冒険者ギルドのギルドマスター補佐という登りつめた地位を捨てて、一介の冒険者になろうとしている。……問題ないか?」


ギルドマスターの言葉にルミアは自信たっぷりに宣言した。


「えぇ、私は今まで得てきた地位を全て捨ててでも旭さんの側にいたいです。ダスクの冒険者ギルドマスターには嫌気がさしていましたし……もう戻りたくはありません。ギルドマスター、退職手続きをお願いします」


「……君の強い意志はわかった。これから冒険者になるための手続きと退職手続きを行ってくる。君達はここでしばらく待っていてくれ」


そう言ってギルドマスターは部屋から出て行った。

レーナとリーアはギルドマスターが出て行くまで猫耳を撫で続けていたが、ふとある事に気付いたように俺の方を見た。


「パパ、元カノがこの街にくるってことらしいけど……どうするの?」


「そうだなぁ……ルミアを連れ戻そうとするなら全力で抵抗してみるかなぁ。自称イケメン君と戦った時に使用した決闘場を使えば問題はないんじゃないか?」


「お兄ちゃん、あの決闘場の地面なんだけど……。私とレーナの合同魔法でクレーターができていなかった?それに丹奈達のパーティはAランクで私達はSSランク……。決闘場が私達の攻撃に耐えられないんじゃないかな?」


……リーアの言う通りかもしれない。

イケメン君との勝負の時は相手がCランクだったから、ハイエンジェルとゼウスの結界でなんとかなった。

しかし、今回は冒険者ランク上位同士の対決である。

俺達も本気でかからねば足元をすくわれてしまうだろう。


「そうなると……新しい眷属を従えるしかないか……」


「パパ……契約するなら早いほうがいいかも。元カノが来る前にわたしたち自身のレベルアップもしておきたいし……」


「そうね……お兄ちゃんだけでも対処は可能だろうけど……リスクは減らしておきたいもの」


「レーナさんとリーアさんの言う通りですね。丹奈さんのパーティの平均レベルは60と聞いています。こちらも強化しておかないと厳しいかもしれません」


俺の言葉に三者三様の反応が返ってくる。

それにしても、丹奈のパーティメンバーの平均レベルは60なのか……。

ルミアの冒険者証を発行したら急いで準備を整えないといけないかもな。


そんなことを話し合っていたら、ギルドマスターがいくつかの書類を持って部屋に戻ってきた。


「何やら物騒な話をしているが……退職手続きの書類を持ってきたぞ。ルミア君はここに必要事項を記入してくれ」


「わかりました。わざわざありがとうございます」


ルミアはギルドマスターから書類を受け取ると、淀みない手つきで書類に必要事項を記入し始めた。

その様子を見て、ギルドマスターは俺に話しかけてくる。


「さて、先ほど聞こえたが……丹奈との勝負の際は決闘場を使うのかい?」


「あぁ、冒険者同士の争いならそこがいいかなと思ってさ。ただ、耐久性が気になっているからどうしようかと話し合っていたんだ。話し合った結果、俺が新たに眷属を増やすのはどうかと言う話になったが」


「勝負となったら、冒険者ランクが高いもの同士の対決となるからな……。それにしても新たな眷属か……。もはや君に驚くことはないと思ったが、簡単に眷属を増やせるとはね……」


ギルドマスターは苦笑しながらそう答える。

簡単に眷属を増やせると言っているが、まだ何も決まっていないんだよなぁ。

まぁ、そこまで言うほどのことでもないので、黙っておくことにする。


「ギルドマスター、書類の記入が終わりました。確認をお願いします」


ルミアはそう言ってギルドマスターに書類を手渡す。

……記入終わるの早くない?

結構な書類があったと思うんだが……。


ギルドマスターはルミアの早すぎる記入に疑問を持つことなく、書類に目を通していく。


「……うん、不備はないな。流石ルミア君。退職手続きの書類であっても難なく終わらせてしまうとは。冒険者ギルドとしては惜しい人材だが……好きな人と過ごしたい気持ちはわかるからな……。よし、これで退職手続きは完了だ。次は冒険者登録の手続きに入ろう」


「よろしくお願いします」


ギルドマスターはそう言って、恒例のカードをルミアに手渡した。

どこのギルドでも同じカードを使って冒険者登録をするんだな。


「【ステータス】」


ルミアはカードを受け取ってすぐにキーワードを唱える。

カードは光を放ち、ルミアのステータスを反映していく。


ーーーー

ルミア Lv.25

称号【響谷旭の専属メイド】

種族:猫耳族(♀)


HP 7000

MP 5000

攻撃 6000

防御 800

魔攻 5000

魔防 800

敏捷 5000


スキル

【気配遮断】

【鑑定眼】

【算術(Lv.X)】

【家事全般(Lv.X)】

【献身】

【時空間魔法】

【詠唱省略】

【身体強化】

【成長促進(LV.III)】

ーーーー


「……旭さん、私のステータスはどうでしょうか……?お役に立てますか……?」


ルミアが不安そうにカードを俺に手渡してくる。

私も見たい!とレーナとリーアが駆け寄ってきたので、屈んで3人でルミアのステータスを確認する。


「パパ……ルミアお姉さんの能力高くない……?敏捷なんてパパと同じ数値なんだけど……」


「お兄ちゃん……ルミアさんのスキルに【詠唱省略】があるように見えるんだけど……気のせいかなぁ?」


「リーア、気のせいじゃないぞ、俺にも見えている。……ギルドマスター補佐ってチートの塊だったんだなぁ……」


ルミアの能力はアタッカー向きだ。

素早さが高く、攻撃も両刀型だが、耐久力は低い。

それにしてもLv.30の俺と同じ敏捷値とは……即戦力と言ってもいいのではないだろうか。


「旭さん、猫耳族は敏捷値にプラスの効果が入っています。私は他の人より能力が高いだけですよ」


「ルミア君、普通の人間はLv.25の段階で能力値が2000以上に到達しないからな?君も十分にチートキャラだからな?」


ルミアの謙遜した言葉に対して、ギルドマスターがツッコミを入れている。

それにしても……普通の人間はそんなに能力値が低いのか。

だとしたら、自称イケメン君達が弱かったのも理解できる。

【成長促進】のレベルが上がっているのは、俺自身のレベルアップによるものだろう。

おそらくだけど、レーナとリーアのスキルもレベルが上がっているんじゃないかと思う。


「さて……ルミア君のチートな能力は置いておくとして……。これでルミア君も冒険者ギルド側から冒険者になったわけだが……。旭君達はこれからどうするんだ?丹奈達がこの街にくるのは早くても5日後だとは思うが……」


「そうだなぁ……。まずは街の外で眷属を増やして来ようと思う。その後はレベル上げだな」


決闘場を安全に使うためにも、眷属を増やすことは必須だ。

その後はレベル上げをして少しでも丹奈達に対応できるようにしないといけない。

俺の言葉を聞いたギルドマスターは苦笑していた。


「了解だ。じゃあ、残りの手続きは俺の方でやっておく。後は任せておけ」


「助かる。3人とも、これから丹奈戦に備えるために街の外に行くよ。疲れているようならホテルで休んでいてもいいけど……どうする?」


「「「もちろん行く!!」」行きます!」


3人の力強い答えを聞いた俺は、満足げに頷く。


「じゃあ、行こうか。忙しくなるけど頑張ろう」


そう呟いてギルドマスター室を後にした。

決闘場を使わせてもらうし、ギルドの依頼を受けておくかな。

俺達は街の外にある依頼を確認するべく、掲示板に向かったのであった。

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