第36話 旭は四神を召喚する

辺り一面を覆い尽くさんばかりの光の中から4つの声が響き渡る。


『『『『我らを呼び出したのはお主か……?』』』』


光が収まった場所に佇んでいたのは、インターネットで見たような姿の玄武、白虎、朱雀、青龍だった。

それぞれ4mはありそうな体格だ。

無事に呼び出せたことにホッとした。

しかしまだ試練があるだろうと思い、気を引き締め直す。


四神の朱雀がこちらを見て話しかけてきた。


『ほう……我らを呼び出したのは人間だったか。人間族には神霊魔法の言い伝えは伝わっていなかったと思ったが……。どうやって我らのことを知った?』


「ん……? 【叡智のサポート】のスキルが教えてくれたんだよ。神霊魔法についてもそのスキルから教わった」


俺が朱雀の質問に対して正直に答えると、朱雀は声を上げて笑い出した。


『ククク……。よもや今の時代に【叡智のサポート】を得る人間が現れるとは!!』


『いや、朱雀よ。そうだとしても異常だぞ。四神の内の聖獣を一体呼び出すならともかく、我ら4体まとめてなのだからな』


『玄武の言う通りだ。此奴は今までのやつとは違うのかもしれん。白虎よ、我らを従える為の試練は如何する?』


『我ら4体まとめて呼び出したなら、試練の難易度も倍にすれば良いだけではないか?青龍、お主日和ったか?』


『なんだと!?いくら白虎と言えどもその言葉はいただけないな!訂正していただきたい!!』


……あの、俺を無視して話を進めないでくれませんかね?

しかも、青龍と白虎は仲があまり良くないらしい。

今にも一触即発の空気なんですけど……。

俺本当にこの四神達を従わせることができるのだろうか……。


俺がこの空気をどうするか迷っているのを見た朱雀は、他の四神を窘め始めた。


『喧嘩するのは構わないが、召喚者を放置するのは如何なものか。そのようなことをするために呼び出されたわけではあるまい』


『『ぐぬぬ……』』


朱雀に怒られた(?)青龍と白虎は呻きながら離れていく。

そんな二匹をみた朱雀は改めて俺の方に向かって話し始めた。


『同胞がみっともない姿を見せた。さて、我ら四神は呼び出されたと言ってすぐに従うわけにはいかん。お主の力を見極め、従うにふさわしいかどうかを確かめさせていただきたい。それについて異論はないか?』


「あぁ、それで大丈夫だ。ゼウスの時も試練が必要だったしな。……で?試練って具体的にはどんなものなんだ?」


『なんとゼウスを従えていたのか。彼奴は精霊魔法の中では禁忌に分類されるはずだったが……。面白いやつよ。試練の説明は……玄武、お前からしてくれ』


朱雀は面白そうに俺を見つめて、説明を玄武に託した。

……もしかして説明が面倒だから他の四神に投げたのか……?

見た目によらず面倒臭がり屋なのかもしれない。


『面倒な役回りはいつも我な気がするんだが……まぁよい。試練について説明しよう。白虎が言ったかもしれんが、4体同時に呼び出すこと自体が異常だ。そこで、今回は4体分の試練をお主に受けてもらいたいと思う。具体的に言うと……。1つ。我ら四神の攻撃を連続で受け、完全に耐えてみせる。2つ。我らの内どれか一体にお主の攻撃を通すこと。普通の人間なら最初の1つで不適合の烙印を押されるが……どうする?』


ふむ……ゼウスの時はこちらが攻撃するだけだったが、神霊魔法級ともなると召喚獣の攻撃を完全に耐えることができないと主人としてはふさわしくないと……。なかなかにハードな試練なのかもしれない。

こちらからの攻撃はいずれか一体に攻撃が通ればいいから、最初の試練が鬼門だな。

そんなことを考えていたら、白虎が不敵な笑みをしてこちらを見つめていた。


『人間、それだけでは面白みに欠けるというもの。我ら4体をまとめて呼び出したのだから、主人にふさわしくないと判断した場合、後ろにいる女達に贄になってもらうとしようか。人質があったほうが全力で挑めるというものだろう?』


白虎の言葉を聞いたレーナとリーア、ルミアは絶望するでもなく、同情の視線を白虎に送っている。


「あーあ……。あの白虎?だっけ?パパに対して言ってはいけない言葉を言っちゃったねぇ」


「まぁ、お兄ちゃんの本気を見れるいいチャンスと思えばいいんじゃない?禁忌の召喚獣でも最初は図々しいものだし」


「リーアさんの言う通りだとは思いますが……まさか自分から命を捨てにいくとは……。四神というのは崇高な存在ではないのでしょうか?」


3人は白虎に対して哀れみの言葉を投げている。

その様子を見た朱雀が何かを感じ取ったのか、白虎に向かって叫び始めた。


『白虎よ!その提案を今すぐに訂正しろ!なにやら……危険な雰囲気が漂い始めているぞ!!』


『朱雀まで日和ったか!我らを従うためなら全力で来てもらうことは当然だろう!?我は先の言葉を訂正するつもりはない!それに若い女の贄なぞ今を逃したら次いつくるかわからんのだぞ!どうせ人間に我らの試練は突破できまいて!!』


白虎はレーナ達を見て不快な声で笑っている。

……俺の聞き間違いかな?

レーナ達を贄にするとか言っていた気がするんだが。


「……なぁ?誰の女を生贄にするって……?しかも俺への試練は失敗と断言していなかったか……?」


『ハッ!人間ごときが我らの試練を突破できるわけなかろうが!!試練失敗するのはもはや必然!我は早くお主の女を贄にしたいのだよ!もし試練を突破したなら、我の全てをお主に捧げると誓ってやろう!』


「……なるほど、俺の大切な女を生贄に…ね……。


あの白虎は俺を怒らせた。

素直に朱雀のいうことを聞いておけばよかったのに。

俺は殺気を抑えつつ、朱雀に確認する。


「……朱雀、1つ確認だ。四神は召喚主が倒した場合はどうなる?」


『……ッ!?主が召喚した我らを倒しても死ぬわけではない。今回は試練だから消滅したとしても、数分で召喚し直されるだろう……ってまさか!?』


「そうかそうか……。なら


『『『我らは巻き込まれただけなんだが!?白虎の馬鹿野郎!』』』


『試練を突破されなければいいだけだろうが!最初の試練で心をへし折ってやればいいだけだ!』


……白虎はまだ自分の境遇を理解できていないらしい。

というか、後に引けなくなった感じがしないでもないな。

まぁ、今更なので全力で試練とやらを突破しようじゃないか。


『……で、では試練を開始する。試練の内容は我ら四神4体の各種攻撃を完全に耐えることと、四神の内一体に攻撃を通すことだ。攻撃を開始する前に、防御結界等を展開する準備時間を与えよう。……嫌な予感しかしないんだが……』


朱雀はそう言ってげんなりした表情を浮かべる。

さて、防御魔法を展開する時間をくれたことだし……どうするかね?

叡智さん、【聖域】で四神の攻撃を耐えきれると思う?


ーーーー[疑問を確認。連続攻撃でなければなんとか耐えられるかと。安全面を考慮して【魔法威力向上】と【憤怒】を使って2枚展開したほうがいいでしょう。……スキル獲得を確認。【魔力消費軽減】を獲得しました。これにより四神の攻撃4回で【聖域】を貼り直しても、攻撃に十分な魔力を確保できます]


ほうほう……。魔力の消費量は懸念事項だったんだが……。

いいタイミングで最高のスキルを獲得したようだ。

思わず黒い笑みが浮かんでしまう。


「ねぇ、レーナ。パパの魔力消費量が減った気がするんだけど……気のせいかな?」


「リーアもそう思った?なんか黒い笑み浮かべてるし……あれはいい案が浮かんだろうね。黒い笑みを浮かべているパパもカッコいいんだけど……!!」


「レーナさん、落ち着いてください。……【鑑定眼】を使いましたが、【魔力消費軽減】のスキルが新たに増えていますね。恐らく今の四神とのやりとりで獲得したのでしょう。これで試練を失敗する可能性は低くなりましたね」


「「やっぱりパパお兄ちゃんは最高だね!!!」」


俺の張った【聖域】内でレーナ達がキャイキャイ騒いでいる。

……というか、攻撃がレーナ達に飛び火することはないよな?

俺は確認の意味も込めて四神に問いかける。


「ところで……試練の際にレーナ達に攻撃が飛び火するなんてことはないよな……?」


『ハッ!そんなことは知ったことではn……『『『それだけは絶対にないから安心しろ!!!』』』……チッ』


白虎は思いっきりレーナ達にも攻撃しようとしていたみたいだったが、他の四神が白虎を取り押さえて攻撃が飛び火しないことを確約してくれた。

ふむ……、白虎の攻撃の際に飛び火されても困るな。

俺は強化した【聖域】5をレーナ達のいる方に展開し直す。

……これで問題はないだろう。


さぁ、こちらも展開しようか。


「……【魔法威力向上】を使用……【憤怒】による魔法強化開始……【聖域】展開!!」


俺の周りに【聖域】が2枚展開される。

レーナとリーアが合同で放った神霊魔法すらも耐えてみせた防御魔法だ。

これを破れる攻撃ができるならしてみるがいい!


『……どんな魔法がくるかと思ったら、神霊魔法ではなく禁忌魔法の【聖域】か。人間にしてはやるではないか。おい、朱雀。我は最後に攻撃させてもらうぞ?楽しみは最後にとっておきたいからな!』


白虎は嘲笑うようにこちらを睨みつけている。

……そのプライドを逆にへし折ってやるのが今から楽しみだ。


『白虎はもう少し場の空気を読む努力をしたほうがいいな……。さて、お主の準備もできたようだし、試練を開始するとしよう。まずは青龍からだ。青龍の次は玄武、そして我、最後に白虎の順で攻撃を行う。攻撃を終えるごとに掛け直す暇を与えるから、それぞれの攻撃に万事備えよ』


「御託はいい。さっさと攻撃してくるがいいさ。誰がお前達の主人なのか……その身に刻み込んでやる」


『人間のくせに言うではないか!では、我から攻撃を仕掛けるとしよう!』


人間vs神霊級の四神4体。

ここに前代未聞の駆け引きが始まろうとしていた。


……ちなみにその頃のレーナとリーア、ルミアは……。


「ルミアお姉さん、これがパパが所持している画像だよ」


「ほうほう……これは……大きいのから小さいのまで範囲が広いですね……。守備範囲が広いのは男としての甲斐性も期待できると言うものです」


「レーナ、ルミアさん……。暇なのはわかるけど、お兄ちゃんの試練始まるよ?そっち見てあげないと……。ほら、お兄ちゃん少し寂しそうな顔をしてるし……」


俺のスマホの画像フォルダを見て何やら相談し合っていた。

リーアは俺の試練をみるように言っているが……リーアも画像フォルダに視線が釘付けである。


……別に寂しくないし……。

俺が今からやるのはレーナ達を守るためだし……。


ーーーー[スキル獲得条件を確認。スキル【悲哀】を獲得しました]


叡智さんのスキル獲得通知が俺の脳内に悲しく響き渡った。


もうヤケクソだ!

何としても試練を突破してやる!!


俺は血涙を心の中で流しつつ、攻撃が来るのを待機するのだった。

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