第16話 閑話休題2-第1回嫁会議-

――――第三者視点――――

旭とレーナ、リーアの3人は、冒険者ギルドで冒険者証を更新した後、宿泊している温泉宿に戻ってきていた。


冒険者ギルドでルミアが手続きが終了したので帰っても大丈夫だと言ったからだ。

ルミアは旭達が去ってから意識を取り戻したギルドマスターのアーガスに詰問を受けていたが、空気が冷える程の毒舌によって、逆にアーガスの精神を追い詰めていた。


さて、旭達は温泉宿に戻ってから夕方までお風呂に入ったりのんびりとお互いのことを話したりしていたが、夕方になってからレーナが旭にこう言った。


「パパ、ちょっとリーアと2人きりで話したいことがあるから、夜まで時間潰してきてもらってもいい?居酒屋とか行ってきても大丈夫だから。……ごめんね?」


「お兄ちゃんを追い出すような形になって心苦しいけど……。大切な話し合いなの……。ごめんね……」


申し訳なさそうに謝るレーナとリーアの姿を見て、旭は仕方ないなぁと苦笑を浮かべる。


「ん、わかった。じゃあ居酒屋で異世界のお酒を楽しんでくるから、2人もちゃんとご飯を食べるんだよ?ハイエンジェルを2体召喚してドアの外に配備しておくから、男に言い寄られたら頼るようにね。……【眷属召喚:ハイエンジェル】。ハイエンジェル、2人のことを頼んだよ」


「「かしこまりました、主。お嬢様方の護衛はお任せを!」」


そう言って、旭はハイエンジェルを伴って部屋を退出する。

義妹と義娘の護衛のために上位の眷属を召喚する旭は過保護といってもいいだろう。


「あはは……。パパったら過保護なんだから。わたしだって禁忌魔法を使えるから問題ないのに」


「まぁまぁ。そんなところがお兄ちゃんのいいところじゃない」


「まぁね〜」


実際にレーナとリーアは少し困ったような顔を浮かべている。

しかし、自分たちのために力を使うことを惜しまない旭に対して、好感度がうなぎのぼりになっているらしい。

2人とも頬を赤く染めて嬉しそうにイヤンイヤンと腰をくねらせている。

ちなみにハイエンジェル2体はドアの外で待機している。

旭が自分には聞かれたくない話があるんだろうと思って、空気を読んだ結果だ。

眷属に話が聞こえると、テレパシーで旭に伝わってしまうからと言うのもあるだろう。


「さて……、パパも出かけたことだし……」


「えぇ……、始めましょうか……」


「「第1回!パパお兄ちゃんの嫁会議!!」」


突如始まったレーナとリーアによる旭の嫁会議。

今回の議題はこれだ!と言わんばかりに、レーナが1つの紙に項目を書き出す。


「えっと、第1回目の会議の内容は……こんな感じかな?」


そこに書き出された内容は下記の通りだ。


ーーー第1回嫁会議ーーー

・パパのハーレム(予想)について

・冒険者ギルドのルミアお姉さんについて(重要!)

・パパについて

ーーーーーー


「うん、いい会議内容だと思う。レーナ、まずはハーレムについてってあるけど……」


リーアは時間が惜しいとばかりに早速会議を開始する。

レーナは目のハイライトを少し消しながら、リーアの問いに答える。


「そう……認めたくはないけどパパは多分ハーレムの素質を持っていると思うんだ。この世界に来てたったの5日で私とリーアを嫁にしているくらいだからね……。本人は認めていないけど……」


レーナの言う通り、旭はまだ[アマリス]に転移して来てからまだ5日だ。

転移して来た初日に、レーナを救い、その4日後にリーアを救い出している。

チート級のステータスがあったとしても、異常な速さだと言ってもいいだろう。

リーアもレーナの言葉に頷くように言葉を続ける。


「そうね……お兄ちゃんは人知れずに女性を惚れさせるからなぁ……。私も一目惚れだったし」


「わたしもそうだよ〜。ゴロツキたちから助けてくれたって言うのもあるけど」


「お兄ちゃんは本当にいいタイミングで助けに来てくれるから、かっこいいんだよねぇ……」


「本当にその通り!……だから、ハーレムが展開される可能性は高いと思う」


「レーナはどうするの?私も【狂愛】手に入ったけど、レーナの方が【狂愛】の力は強いでしょう?私のことは認めてくれたけど……そんなに認められる?」


「リーアのパパに対する想いは真剣だったからね……。正直、すぐに認められるかはわからないかなぁ。私以外の女がパパに侍るの見ると、無性に殺意が湧いてくるからね……」


「まぁ、気持ちはわかるけどね。私の場合は【狂愛】と同時に【嫉妬】も発動するから……あれ?これ、レーナより私の方が大変なんじゃ……!?」


レーナは【狂愛】と【慈愛】である程度で自らを抑えられるが、リーアは【狂愛】と【嫉妬】の2つである。

リーアのスキルは両方とも負の感情を増幅させるもの。

レーナよりも感情を抑えるのが苦手なリーアなのである。


「まぁ、その時はパパに止めてもらおう?流石に流血沙汰になるようなことは避けると思うし」


「……うん、その時はレーナもフォローをお願いね……?


レーナとリーアは手を取り合って、そんなことを確認し合う。


「じゃあ、次は……。……本日の重要案件の冒険者ギルドのルミアお姉さんについて」


レーナがそう言った途端、リーアの目のハイライトも消える。


「冒険者ギルドでお兄ちゃんに羨望の眼差しを向けていたあの人だね?ギルドマスターには絶対零度の視線と毒舌を浴びせていたのに、お兄ちゃんに対してはかなりの信頼をしているみたいだったし」


リーアの話を聞いて、レーナも目のハイライトを消して答える。


「……そう。多分ルミアお姉さんは、パパに対して少なからず恋心を抱いていると思う。今日ははぐらかされてしまったけど……」


「レーナもそう感じたんだね……。多分あの人は強敵になると思う。大人だからっていうのもあるけど……、多分私と同じでお兄ちゃんの能力を見て興味を持って、会って一目惚れしたんだと思う」


レーナは9歳、リーアは11歳と2人ともまだ幼いが、ルミアは推定で10代後半から20代前半の容姿だ。

今日会ったばかりなので、詳しい年齢はわからないが。

リーアは自分と同じで一目惚れしたんだと推測している。

強大な力をもつ初心者()冒険者の旭に興味を持たないはずがない。

しかも他の男の人よりはかっこよく見える(リーアとレーナの主観)ので、一目惚れしてもおかしくないと考えているようだ。


リーアの言葉にレーナも重々しく頷く。


「リーアの考えている通りだと思う。とりあえず……今は様子見かなぁ?ルミアお姉さんを警戒し続けていると、パパに気づかれるかも知れないし……」


ちなみに旭はルミアと会った時の2人の様子から、なんとなくではあるが予想は立てていた。

とは言えども、旭はヤンデレが好きなので気づいていないふりをしているが。


「じゃあ、ルミアさんについては現状要観察ということで……。お兄ちゃんに色仕掛けを仕掛けて来たら、2人で引き剥がそう」


「今はそれが最善手かなぁ。その時は光魔法で拘束しないとね……?精霊も出した方がいいかな?」


「そういえば、レーナはどんな精霊魔法を使役しているの?」


「わたしは上級までの精霊と契約を結んでいるよ。これでもハイエルフですから!」


リーアの質問に対して、薄い胸を張ってドヤ顔で答えるレーナ。

それを微笑ましく思いながら、リーアは話を続ける。


「それなら、ドライアドとかどうかしら?木って拘束に向いていると思わない?」


「そのアイデアいいね!じゃあ、ルミアさんが色仕掛けを仕掛けて来たらドライアドで拘束するから、パパから引き剥がすのはリーアに任せるね」


「それくらいどうってことないわ!2人でお兄ちゃんを守りましょう!」


レーナとリーアはそう言って暗い笑みを浮かべる。

2人の体からは【狂愛】のオーラが溢れ出している。

そのオーラは外で控えているハイエンジェル達を震わせるほど。

ハイエンジェル達は命令に従い、2人の話を聞いてはいない。

しかし、部屋の中から溢れてくるヤンデレのオーラに当てられてびくびく震えている。

油断したら出てはいけないものが漏れてしまうかも知れない……そんな状況だった。

主の命令のおかげでなんとか保っている状態である。


外がそんなことになっている2人は、最後の議題に話題を移していく。


「じゃあ、最後にパパについてです」


「レーナ、最後だけ内容が大雑把なのには理由があるの?」


「何を言っているのリーア。パパのことについて話すならこれ以上の議題はないよ?ふふ……リーアもまだまだだねぇ」


「ちょっと……レーナ。それは聞き捨てならないわ。私ほどお兄ちゃんのことを理解している娘はいないと思うの。ダマスクの館にいた頃にどれだけの情報を集めたと思ってるの?」


レーナの挑発するような言葉に、ムッとしたリーアが反論する。

そんなリーアを見てもどこか余裕があるレーナ。


「ふふん。それはダマスクの部下が報告した内容だけでしょ?わたしはパパの隣にいていろんなことを知ってるんだから」


「それはそうでしょうけど……!いいよ、私がどれだけお兄ちゃんのことを愛しているか、この議題で証明してあげる!」


「その挑戦受けて立つよ!私以上にパパを理解しているエルフはいないってこと思い知らせてあげるんだから!」


2人は【狂愛】のオーラを全開にして睨み合う。

その雰囲気はまさに一触即発。


その後、レーナとリーアは旭本人が聞いたら悶絶するだろう内容について、真剣に論議し始めた。

白熱した話し合いは、旭が部屋に戻ってくるまで続くことになる。


ーーー一方で部屋を追い出されて、居酒屋に向かった旭は……。


「おい、旭!聞いているのか!?」


「ギルドマスター、うるさいです。永遠に眠ってください」


「どうしてこうなった……」


ルミアとギルドマスターの3人でお酒を飲んでいた。

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