第15話 閑話休題-ギルドマスターの憂鬱-

今回は(ほぼ)ギルドマスター視点となります


ーーーーギルドマスター視点ーーーー


旭達をギルドマスター室に待機させた俺は、冒険者証の手続きを行いに、作業部屋に向かう。

ちなみに、俺は冒険者ギルドマスターをしているアーガスだ。

……俺に名前なんてあると思わなかったか?

俺にだって名前くらいはあるさ。

職場のやつも街の人も「ギルドマスター」としか呼ばないから、名前を呼ばれることがないだけだよ……。


まぁ、俺のことはおいておくとして。

俺は三枚のステータスカードを見て、深いため息をつく。


「旭は最初からありえないステータスだったが……レーナちゃんとかたった数日離れていただけでなんでこんなに強くなっているんだ……!?普通ならこんなにすぐレベルが上がることはないってのに」


そう、旭がこの街[ダスク]にやってきてからまだ5日しか経っていないのだ。

旭がレーナちゃんを救い出した5日前は、まだレベル1のか弱き女の子だった。

それがダマスクの依頼で1日ちょっと離れただけで、まさかのレベル10まであがっているのである。

どうしたらそんな短期間でレベルを上げられるのか、真剣に問いただしたい。


「ギルドマスター、ため息ばかりついていると幸せが逃げちゃいますよ?」


3人の規格外の能力について考えていたら、秘書から声がかかった。

俺に声をかけてきたのは、冒険者ギルドで俺の補佐をしてくれているルミアである。

ロングの粟色をした髪に金色の目をした見目麗しい女性である。

猫耳族という大変希少な種族であるが、そんなことは関係ないとばかりに、いろんな仕事をこなしてしまうパーフェクトウーマンだ。

実際俺自身、何度も彼女には助けられている。

旭の件とか、ダマスクの依頼の件とか、旭の件とか……!

しかし、弱音を吐いてもいられないので、平素を装って彼女に答える。


「あぁ、すまない。旭達の冒険者証を更新する前に、衝撃の事実を目撃してしまってね」


「衝撃の事実ですか……。旭さんがダマスクの奴隷だった少女を連れていたことですか?」


「あぁ、そういえばあの少女……リーアだったか?ダマスクの連れていた奴隷にそっくりだな。そうかリーアは旭に引き取られていたのか……」


俺の言葉に対して、ルミアは若干引いたような顔する。


「……え?ギルドマスター今更気づいたのですか?……ギルドマスターはもっと周りに関心を持ったほうがいいかと思われます」


そんなこと言ってもなぁ……。

旭自身のインパクトが強すぎて、それ以外の情報が入ってこないんだよ……。

だからそんな蔑むような目で見るのはやめてくれ……。


「冗談はさておき。旭さん達の件で何かあったのですか?」


……冗談だったのか。

さっきの表情は真剣そのものだったぞ……?


「あぁ、ルミアもこれを見てくれればわかる」


俺はそう言って旭達のステータスカードをルミアに渡す。


「呼び捨てにするなと何度言えばわかるのですか……。では失礼して……。やはり旭さんの能力は桁外れですね。最初の頃よりかなりレベルも上がってますし、現在の旭さんに勝てる人間はそうそういないでしょう。レーナさんもかなり成長されたみたいですね。禁忌魔法も使えるとは……さすがはハイエルフといったところでしょうか?リーアさんは奴隷だったにも関わらず、前衛向きな能力なのですね。リーアさんが前衛でヘイトを集めて、レーナさんが攻撃を担当するだけでもかなりバランスのいいパーティでしょう。旭さんが加わることで、安定感はさらに増すでしょうし。これも旭さんの人格がなせる技でしょうか?旭さん自身も眷属が増えていますね。ナーガは禁忌級の召喚獣のはずですが……ゼウス?もしかして精霊の最上位の全知全能の神ゼウス!?だとしたら……歴史が変わりますね!旭さん達を害するようなことは何としても阻止しないといけません。……ダマスクの組織が壊滅した以上、この街の人間が旭さんに手を出すことはないと思いますが……。もう少し情報を集めてみるとしましょう」


ーーーーあの……、ルミアさん?

貴女いつもそんなに饒舌じゃないですよね?

むしろほとんど長文話さないですよね?


俺はルミアにむかってつい聞いてしまう。


「る、ルミア……さん?なんかいつもより饒舌じゃないですか……?」


「饒舌にもなるでしょう。旭さんは底が知れない御仁です。……本当ならギルドマスターなんかより私の方が適任だと思うのに……」


ちょっ!?

ボソリと怖いことを言わないでくれない!?

なに?俺じゃダメなの!?

俺ギルドマスターじゃなかったっけ!?


俺の心の焦りには気付かず、ルミアは話を続ける。


「ギルドマスター、疲れているようなら私が代わりに冒険者証の更新をしてきます。ギルドマスターは今日のところはゆっくり休んでください。後のことは私がやっておきますから」


側から見たら、ルミアが俺のことを気遣って仕事を代わってくれているように見えるかも知れない。

でもな!?今のを聞いたら、ギルドマスターでは役不足なので、私がやりますっていう風に聞こえてくるんだよ!

……あぁ、精神安定剤が欲しい……。

しかし、旭達とルミアは面識がない。

これは俺がやるべき仕事だろう。

俺は仕事ができる人間。部下に任せっきりにするわけにはいかない。


「気遣ってくれてありがとう。しかし、これは俺が引き受けた仕事だ。引き受けたからには最後までやり遂げないとな。それに部屋に戻った時に違う人物が現れたら驚くだろう?ルミアと旭達は面識がないんだし」


この言葉を言った途端に、嫌な予感が背筋に走った。

うっかり油に火を注ぐような発言をしてしまった……そんな恐怖心。

その発生源は目の前にいるルミアからだった。


「面識がない……。えぇ、確かに面識はまだありません。しかし、それはギルドマスターが旭さん達に会わせてくれないからでしょう?それなのに……よくもまぁぬけぬけと[俺が引き受けた]とか言えましたね……?」


「いや、会わせたら確実にレーナちゃんのヤンデレが発動するから……。俺の身を守るためでもあるんd「そんなことは会ってからどうにかすればいいだけのことです」……はい」


なんとか説得を試みようとしたが、あえなく撃沈した。

ルミアをそこまで動かす要因はなんだ?

会ってもいないから恋愛はないとして……憧れか?

歳を取っても女心を理解するのは俺には難しい。


「では、こうしましょう。ギルドマスターが更新を終えて、部屋に戻った際に私も一緒に連れて行っていただく。これなら私も旭さん達に会えますし、ギルドマスターの心配事も減るでしょう?」


うーむ……確かに1人で行かせるよりは、問題が少ないかも知れない。

それに……だ。

ルミアのようなできる秘書を従えていると知れば、旭の中での俺のイメージも少しは上がるんじゃないか?

そこまで考えた俺はルミアに返事をする。


「……わかった。更新が終わったら、ルミアを紹介する形で一緒に部屋に向かうとしよう」


「だから……呼び捨てにするなと何度言わせれば……。まぁ、いいです。それじゃあ旭さん達が待っていますから、さっさと冒険者証の更新をしますよ」


そう言ってルミアは俺を急かして、更新する場所へ向かう。

ちなみにステータスカードはルミアが持ったままで、返してもらっていない。


「ちょっ、ま、まて!そのカードは俺が持って行くから!俺の仕事だから!」


慌ててルミアの後を追いかける。

ちょっ……!なんでそんなに早足なの!?

そんなに旭達に会いたかったの!?

なんでそんな嬉しそうな表情をしているんですか、ルミアさん!?


俺は嫌な予感を引きずりながら、ルミアの後を追った。



ーーーー主人公視点ーーーー


ギルドマスターが冒険者証を更新しに行ってから1時間が過ぎた頃、ギルドマスターは1人の女性を追いかけるような形で戻ってきた。

俺たちの冒険者証は、先に入ってきた猫耳のお姉さんが持っている。

というか……この人は誰なんだ?

レーナとリーアも首を傾げて女性の方を見つめている。


新たな人物に戸惑っていると、ギルドマスターから言葉がかかる。


「旭、待たせてしまってすまない。俺の前にいる女性だが、るm「初めまして、旭さん。私は冒険者ギルドでこのギルドマスターの補佐をしております、猫耳族のルミアと申します。以後お見知り置きを」……というわけで、ルミアだ。」


ギルドマスターの言葉を遮って挨拶をしてくるルミアという女性。

言葉を遮られた前者は涙目だ。

というか、上司に向かってこのとか言っちゃうのか……。

ギルドマスターはよほどルミアという女性から信頼されていないらしい。


とりあえず挨拶は返さないと失礼だよな。


「初めまして、ルミアさん。冒険者の響谷旭です。両隣にいるのはレーナとリーアです。こちらこそよろしくお願いします」


「えぇ、存じ上げております。それと……私のことはルミアと呼んでくださいまし。私に対する敬語も必要はありません。……こちらお三方の冒険者証になります。旭さんのパーティはBランクに昇格しましたので、リーアさんも自動的にBランクとなります」


ルミアさん……いや、ルミアは俺たちに恭しく礼をして、冒険者証を手渡してくれた。

言っている内容に不備がないことを確認する。

ルミアの後ろでギルドマスターが青い顔をしているが……どうしたんだ?


「それではお言葉に甘えて。確かに冒険者証を受け取った。この更新はルミアが行ったのか?」


「はい、僭越ながら私が担当させていただきました。ギルドマスターが行ったのでは、時間がかかると思いましたので」


「ちょっ……!ルミア、幾ら何でもそr「呼び捨てはやめてください、虫唾が走ります」……すみません」


ギルドマスターに対してはかなり辛辣だな、この人。

よっぽど人望がないと思われる。

ご愁傷様。


「レーナ……あの人どう思う?」


「うーん……。今はまだ大丈夫かな?憧れの方が強い気がする……。でも、油断大敵だね」


レーナとリーアはルミアについてなにやらコソコソ話している。

……こういうときは放置しておくに限るな。

下手に突っ込むと逆に俺が責められる。

ここ数日間で俺が学んだ予防策だ。


ルミアはレーナとリーアをみて、微笑みながら話を続ける。


「旭さん、もしよかったら今後は私があなたの専属の受付になってもよろしいでしょうか?ギルドマスターが担当するよりも効率よくお役に立てるかと思いますが」


「「「えぇ!?」」」


レーナとリーア、ギルドマスターから驚きの声が上がる。

レーナとリーアの2人はなんとなく予想がつくけど、ギルドマスターはなんでだ?


「ちょ……ちょっとルミアお姉さん!そこまでするってことは……パパのことを……!」


「レーナさん、私は将来有望な冒険者の支援をしたいだけですよ?ギルドマスターが担当していたのでは、その才能がうまく活用されないですから」


「……確かに、ギルドマスターのおじさんでは力不足だとは思うけど……」


「レーナ、ここは折れましょう。言っていることはルミアさんの方が正しいわ」


「うぅ……嫌な予感がびんびんする……」


レーナとリーアは納得がいかないようだったが、ルミアが専属になることについては了承したようだ。

俺としてはどちらでも構わなのだが、どちらかというと女性の方がいいのは事実なので、特に反論はしない。

ちなみにここまでギルドマスターの意見はガン無視である。

最初は何やら文句を言いたそうにしていたが、いつの間にやらルミアの腹パンで気を失っている。

……本当に可哀想になってきたな。

今度お酒でも誘ってみるか。


「では、レーナさんとリーアさんからの了承も得ましたので……。これからギルドマスターに変わってよろしくお願いしますね」


「あぁ、こちらこそよろしく頼む。いい関係になれるように善処するよ」


「そう言っていただけると嬉しいです。私も旭さんのお力になれるよう精一杯尽くしますね。では、本日の手続きは以上になります。後はゆっくり休んでください」


「ありがとう。これからもよろしく」


そう言って俺たちはギルドマスター室を後にする。


部屋の中にはギルドマスターだけが取り残されていた。

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