第17話 閑話休題3-大人達の飲み会-

「どうしてこうなった……」

俺は1人呟く。

俺の両隣には冒険者ギルドマスターとその補佐官のルミアが座っている。


「おい、旭!俺の話をちゃんと聞いているのか!?だいたいお前は……」


「ギルドマスター、先程からうるさいです。店と旭さんに迷惑です。静かにしてください」


俺は偶然居合わせたギルドマスターに絡まれていた。

どうしてこうなったか……時は1時間ほど前に遡る。



レーナとリーアの2人に頼まれて、温泉宿を後にした俺は居酒屋を探すためにスマホを起動した。

なぜか異世界の情報も閲覧ができるので、検索しようと思ったのだ。

ちなみにレーナに聞いて見たところ、この世界にはインターネットはないとのことだった。

……なら、誰が情報をアップしているんだ?と言う話になるが、俺は別に誰でもいいやと思っている。

便利ならそれでいいじゃないと言うのが俺のポリシーだ。


お金はまだ余裕あるので、夜まで時間を潰すためにも飲み放題のある居酒屋に行こうと検索をかける。

検索したところ、一軒の居酒屋がヒットした。

場所もここから近く、料理も豊富だ。

お酒もたくさんあると言うのは好印象を与えてくれる。

俺はその居酒屋に向かって足を向けるのだった。


店に着いたのは、スマホで表示されている時間で夕方5時ごろだった。

ちょうど店も開店したところらしく、俺の他に客はいない。


「お客様、注文はどうなされますか?」


「じゃあ、お酒の飲み放題と唐揚げをお願いします」


「かしこまりました。……飲み放題と唐揚げ一丁はいりまーす」


店員さんが元気よく厨房にオーダーを叫ぶ。


さーてと、異世界でのお酒を嗜むとしますか!

こっちに来てからお酒全然飲んでいなかったから、結構楽しみなんだよね。

えーっと……って、飲み物の名前は前の世界と変わらないんだな。

まぁ、ドライヤーがあるくらいだし、当然といえば当然か。


「店員さーん、芋のロックを1つ〜」


「はーい」


よし、芋焼酎のロックも頼んだことだし、スマホについてちょいと実験してみようかな?

俺はスマホを起動して、インターネットのアプリを開く。

読みたかったネット小説の更新がされている。

よかった、閲覧するのは問題ないようだ。


次は◯wi◯t◯rで更新でもしてみるか……。

アプリは難なく開くことができた。

さて、次は更新だが……。

結果から言うと呟いたりとかはできなかった。

ふむ、どこかのラノベみたいに閲覧だけができるらしいな。

心配するメールに返信できないのは心苦しい……。


そんな感じでスマホをいじっていると、頼んでいた芋ロックと唐揚げがきた。

異世界の芋焼酎も元の世界とあまり変わらない美味しさだ。

唐揚げは……なんの肉なんだ?あまり食べたことのない食感だが……芋ロックにあうからなんでもいいか。

それをモグモグ食べながら、ネット小説をのんびり読んでいたときのことだった。


「いらっしゃいませ〜。2名様ですか?」


「うむ、2名で頼む。……ん?あれは……旭じゃないか!?」


「本当ですね。よかった、上司のパワハラまがいの飲みの席より、旭さんがいた方がいい環境になりそうですね」


「相変わらず、俺に対しての毒舌がひどいな、おい!?」


なんと言う偶然なのか、ギルドマスターとルミアが入店して来た。

店員さんは俺と2人が知り合いであると気づいたのか、次のように言葉を続けた。


「お知り合いでしたか。では、相席とかどうですか?お客様もそれで大丈夫です?」


「まぁ、問題はないですよ。あ、次はこの清酒を熱燗でお願いします」


「ありがとうございます。清酒熱燗はいりまーす」


この清酒っていうのは、日本酒みたいなものなのかね?

熱燗って書いてあったからそれにしたけど。

池袋で飲んだ日本酒専門店……美味しかったなぁ……ホワイトレバーとか……。

そんなことを考えていると、ルミアが俺に話しかけてきた。


「旭さん、相席の許可ありがとうございます。今日は精神的に辛い飲みの席になると思っていたので、正直かなり助かりました」


ルミアはそういうと、恭しく俺にお辞儀をしてくる。

ギルドマスターには毒舌だけど、俺に対してはかなり物腰が低いんだよなぁ。

まぁ、こんな美人な猫耳の女性が俺に気があるなんてことはないだろう。

変な勘違いはしないようにしないとね。

前の世界でも付き合っても同い年までだったし。


「……補佐官のルミアがギルドマスターには厳しい件について……」


「呼び捨てはやめてくださいと言ってるはずですが」


「くそぅ……こうなったら俺たちも飲むぞ!他のものはなぜか来なかったが、お酒で日々の鬱憤を晴らしてやる!」


「いえ、ギルドマスターは酔うと面倒だから誰も来なかっただけです」


ギルドマスターはヤケ酒だ!と言わんばかりに、店員さんにお酒を注文している。

そんな彼をルミアはゴミを見るかのような目で睨んでいる。

……本当に人望がないんだな……。


「あれ、ルミアは飲まないの?1人だけお酒飲んでないの辛くない?」


「お気遣いありがとうございます。本当は飲みたいのですが……ギルドマスターが酔いつぶれた後に、ギルドマスター室に放り込まなければならない任務がありますので……」


ギルドマスターは酔い潰れるまで飲むのか……。

そんなことしてたら信用なんて失われるわなぁ……。

でも、お酒が飲みたいのに飲めないのは流石に可哀想だ。

俺が助け舟を出してあげよう。


「それなら酔い潰れたギルドマスターは、俺の眷属に送らせるよ。だからルミアもせっかく居酒屋に来たんだから、お酒を楽しもう」


「……いいのですか?私がお酒を飲んでも……。ありがとうございます、このご恩は必ず……!」


ルミアは涙を滲ませて、俺にお礼を言った。

やっぱり飲みたい時に飲めないのは辛いからね。

ルミアにお酒を進めたことで、3人での飲み会が始まった。


……というのが、冒頭から1時間前のこと。

今の現状は……非常に混沌と化していた。


「おい……おい!旭!さっきから俺のことを無視するなよ!お前まで俺に対して冷たくしなくてもいいだろう!?店員さん、ビールを1つ!」


俺の右側ではギルドマスターが真っ赤な顔をしながら、俺に詰め寄って来ている。

この人はビールしか飲んでいないのだが……ビールでここまで酔えるのもすごいな。

しかし、絡み酒なのか……。他の人が来たがらなかったのも理解できるわ。


「ギルドマスター、うるさいと言っているでしょう?今は私が旭さんと話しているのですから、1人で寂しくお酒を飲んでいてください。貴方は黙った方が価値があることに早く気がつくべきなのですよ。少しは旭さんを見習ったらどうなのですか?貴方よりも強いお酒を飲んでいるのにも関わらず、貴方のような絡み酒もない。本当、なんで旭さんが私の上司じゃないんでしょうか……」


左側ではルミアがやや赤みを帯びた顔で、お酒を飲んでいる。

ルミアはお酒が絡むと饒舌になるのな。

ギルドマスターに対しての毒舌も強化されているようだ。

ただ、俺の腕に抱きついてくるのは如何なものかと思うんだ。

年頃の女性がそんなことしちゃダメでしょ……。

抱きつかれることによって、ルミアの豊満な胸の感触が伝わってくる。

普通の男なら勘違いするんじゃないか?


「あー、ルミア?結構お酒飲んだんじゃないか……?俺の腕に抱きついてくるのはできたらやめて欲しいんだが……」


「……旭さんは私に抱きつかれるのは嫌ですか……?」


……涙目で上目遣いに聞いてくるのはずるいと思う。

美少女美女の上目遣いってなんでこんなに破壊力が強いんだろうな……?

そんな目で見られたら断れないじゃないか……。


「ま……まぁ、嫌じゃないが……他の男が羨ましがるだろうから今日だけな?」


「……他の男などどうでもいいのですが……ありがとうございます」


「……だからな?俺はギルドマスターとして……ってルミア!?なんで旭の腕に抱きついているんだ!?あの大の男嫌いで職場では氷の女王ブリザードプリンセスって呼ばれているお前が!?」


ルミアが男嫌い……?

こんなに俺との距離が近いのに?なんの冗談なんだろう?


「呼び方。というより、旭さんはそれだけ特別な存在ということです。貴方程度のチンケな存在と比較しないでくださいおこがましい」


「ギルドマスターの俺がチンケな存在……ギルドマスターってみんなこんな扱いを受けているのか……?」


いや、それはないんじゃないかなぁ。

ギルドマスターには悪いけど、全員がそうだったら冒険者ギルドなんてすぐに瓦解すると思うし。


「クソゥ……俺のことを唯一認めてくれるのは、あのAランク冒険者の笹原丹奈だけだよ……」


ん?今ギルドマスターはなんて言った?

笹原……丹……奈……?いやいや、まさかそんなはずは……。


「ルミア……そのAランク冒険者について詳しく教えてくれないか?」


「わかりました、旭さん。僭越ながら説明させていただきます。現在最高ランクのAランク冒険者である笹原丹奈さんは旭さんが転移される5ヶ月前に来られました。旭さんと同じでありえないほどの高い能力を持ち、現在のランクまで上り詰めました。容姿は……黒髪のボブで身長はリーアさんと同じくらいでしょうか?冒険者の間でかなり慕われているようです。パーティは男性がメインですね。旭さんとは真逆になるでしょうか。冒険者や町の人からはニナのあだ名で呼ばれているみたいです」


俺の質問に対してルミアは事細かに教えてくれる。

それにしてもニナ……ね。

まさかこの世界にあいつも来ているとは……。

俺の他に転移者はいないと思ったが、あいつが来ているなら、ギルドマスターが最初に驚かなかったのも理解できる。


俺が考え事をしていたのをみて、ギルドマスターが食ってかかってくる。


「旭!何を考えている!?まさか……!お前は丹奈まで手にかけようと思っているんじゃないだろうな!?」


「いや、それはないわ。多分、俺の元カノと思われる存在と同じだろうし。むしろ会いたくないんだが」


「旭の元カノ!?おい、それはどういうことだ!?」


聞かれるだろうと思ったけど、こんな飲み会の席で話すことじゃないだろう。

……というか、もう夜だから宿に帰らないとレーナとリーアが心配する。

話を切り上げるとしよう。


「そのことについては、話す必要を感じないな。時間も遅いし、レーナとリーアが待っているから俺はそろそろ帰るぞ?」


「そんな意味深なこと言われて、はいそうですかと帰せるか!詳しく話すまでは帰さないぞ?!」


「ギルドマスター、旭さんに無理強いをしてはいけません。迷惑でしょう?」


「そうはいうが、ルミアは気にならないのか!?あの丹奈と付き合っていたかもしれないんだぞ!?」


「まぁ……気にならないといえば嘘になりますが……」


ルミアまで気になるのか。

そこまで面白い話じゃないんだがなぁ。

でも、流石にギルドマスターがしつこすぎる。

……よし、こうしようか。


「わかった。だが、そんなに騒いでいたら営業妨害になる。お会計をして外で話すとしよう。……店員さん、うるさくしてすみません、お会計をお願いします」


俺は2人の分もまとめてお会計をして、外に向かって歩き出す。

料金は3人で金貨5枚だった。結構良心的な値段だと思う。


外に出た途端、ギルドマスターは俺の胸ぐらを掴みながら、勢いよく聞いてきた。


「おいっ、旭!洗いざらい吐いてもらおうか!お前は本当に丹奈と付き合っていたのか!?」


「俺の知っている人物とその笹原丹奈っていう冒険者が同じ存在だったらな。まぁ、名前が一致しているのと転移者であることを踏まえても、同じ人物だとは思うが」


「お前のようなやつと!冒険者ギルドのアイドルが付き合っていたなんて信じられるか!バカなこと言ってんじゃないぞ!」


「……あーもう、うざい。今日は帰ってその茹だった頭を冷やして来やがれ。冷静になったら詳しく話してやるから。本人を連れて来たらその命はないと思えよ?」


さて……、[叡智のサポート]さんや。このうるさいギルドマスターを黙らせる魔法はあるか?


ーーーー[疑問を確認。精神魔法の【サイレンス】と恐怖魔法の【悲観を誘う冷たいコールドレイン】が最適かと]


2つの魔法を掛け合わせるのか。

さすが叡智さんだ。


「何をいっていやがる!今ここではなs……!?」


「……いいから黙れよ。【サイレンス】、【悲観を誘う冷たい雨】」


「……ッ!?…………ッ!……ッ!」


俺の魔法がギルドマスターにかかり、ギルドマスターは静かになる。

それを見たルミアが俺に質問をして来た。


「旭さん、うるさいギルドマスターを黙らせてくれたのには感謝しますが……これいつまでこの状態なのです?」


「ん?一応冷静になるまでという制限をかけておいたから、理性的になれば解除されるよ。……さて。【眷属召喚:デススネーク】。デススネーク、保護色を使ってからギルドマスターをギルドマスター室まで連行してくれ。あぁ、間違っても殺すなよ?抵抗したら麻痺にはしてもいいけど」


「かしこまりました、主。では、行ってまいります」


デススネークに拘束されたギルドマスターは、何か言いたげにしていたがそのまま姿が見えなくなった。

デススネークは保護色を使っているから、傍目にはギルドマスターが変な体勢で移動しているように見えるが、からみ酒の分と考えてもらおう。


「旭さん、この後はどうしますか?飲み直しますか?」


ルミアがやけに熱っぽい視線で問いかけてくる。


「いや、レーナとリーアが待っているだろうからそろそろ帰るよ。【眷属召喚:ハイエンジェル】。ハイエンジェルに送らせるから、ルミアも今日は帰ったほうがいい。明日の仕事に影響するぞ。じゃあ俺は行くから、ハイエンジェル、後は頼んだよ」


「わかりました。任務を遂行します」


俺はハイエンジェルをルミアの護衛につけて、温泉宿に向かって歩き出す。


「……私は旭さんに送って行ってもらいたかったのですが……」


後ろからそんな声が聞こえたような気がした。

さて、帰ったら色々と考えないとな。

俺より先にこの世界に転移して来た笹原丹奈について……。

今後の動きをレーナとリーアと相談しないと……。


俺はそんなことを考えながら、温泉宿に戻るのであった。

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