第9話 旭はダマスクの依頼を確認する


残酷な描写があります。

ーーーー

依頼当日の朝。

俺とレーナは準備の最終確認をしていた。

レーナの肌はツヤツヤしていたが、おそらく昨日の出来事が原因だろう。

……俺は人生で初めて逆レイプを味わった。

それを記述するのは流石に恥ずかしいので、皆様のご想像にお任せするとしよう。


「さて、レーナ。今回の依頼では十中八九ダマスクからの横槍が入る可能性が高い。何が起きてもいいように探知魔法を確認しておこうと思うんだが、何かいい魔法を知っているか?」


「うーん、そうだなぁ……。有名なところだと【探知結界】とか?あ、風の噂で聞いた程度だけど、眷属を召喚して意識共有で索敵をする人もいるって!」


「眷属召喚となると魔力消費とか多そうだな……」


「んにゃ?探知結界よりも魔力消費は少ないみたい。探知結界は常に魔力を消費するけど、眷属召喚は一回呼び出したら個々で活動するからかも」


ふむ……。そうなると眷属召喚を使えるようにしておいたほうがいいな。

索敵用で尚且つ戦闘力もある眷属……。

そんな生物いるのか?


ーーーー[疑問を確認。索敵に適しているの眷属は3種。さらに戦闘能力が高い眷属は2種まで絞れますが、表示しますか?]


おぉ、【叡智のサポート】が入った。

痒いところに手が届くサポート最強説。

戦闘能力が高く、索敵能力もある魔物の表示を頼む。


ーーーー[回答を確認。1種はデススネーク。今回の依頼は森であるため木々を使用した索敵には向いています。戦闘能力も各種毒、締め付け、保護色を使用できます。召喚にはナーガとの契約が必要です。]


デススネークは今回の依頼にはうってつけってことか。

ナーガと契約というのが、ある意味でネックか……?

もう1種はどんな眷属なんだ?


ーーーー[もう1種はハイエンジェル。透明化を使用できるので、隠密性はダントツに高いかと思われます。攻撃は光魔法が主ですが、上級まで使えるので威力に問題はないかと。こちらはすでにゼウスを従えているので、いつでも呼び出すことが可能です]


あれ、ゼウスって精霊魔法じゃなかったのか?

レーナに聞いてみるか。


「レーナ、なんかゼウスを従えているからハイエンジェルが召喚できるらしいけど、精霊魔法って眷属召喚とも繋がっているの?」


「……えぇ!?そんな話聞いたことがないよ!?多分誰も知らないんじゃないかなぁ……」


「ってことは、これを使えるのは俺のみってことになるのか……便利だな」


ーーーー[どちらの眷属を使用されますか? ]


陸と空の両方を索敵できるなら2つとも召喚したほうがいいのかもしれない。

……そこ、優柔不断とか言わない。自分でもわかってるんだから。


ーーーー[選択を確認。ナーガとの契約を実行してください。契約後、眷属召喚は召喚魔法として統合されます]


眷属召喚は召喚魔法の1種だったのか。便利そうだから今後とも使っていこう。


「パパ、お話終わった?眷属は何にするの?」


「あぁ、今終わった。デススネークとハイエンジェルの2つを使用したいと思う。その前にナーガと契約しないとな」


「あ、ナーガとは契約しないといけないんだね……」


「外に出る時間も惜しいし、部屋の中で契約しちゃうか。防音設備もあるしダマスクに情報が漏れることもないだろう」


「わかった!わたしはパパの足に抱きついてるね!」


いや、そこは離れている場面じゃないか?

まぁ、レーナに抱きつかれること自体は嫌ではないので、特に否定はしないでおく。

精霊魔法を使用する感覚で、召喚魔法を行使する。


「……顕現せよ!【ナーガ】!」


部屋中に光が満ちる。

ゼウスの時よりは規模の小さい光だが、それでも神秘的に思えた。


『私を呼んだのはお前かい……?』


女性の声が聞こえ、光の中からナーガが現れる。

全長はおそらく3メートルに匹敵するだろう。

しかし、下半身の尾はとぐろを巻いており、部屋の中では150cm程で収まっている。

胸は……かなり大きいな。いわゆる爆乳と言えるだろう。

……気のせいだろうか。レーナの視線が痛い。


「お前がナーガか。単刀直入にいう、俺と契約してもらいたい。デススネークを偵察目的で使いたいんだ。どうだろうか?」


『お前……私を見ても気持ち悪いとか言わないのかい……?』


ナーガがこちらの質問を無視してなんか言い始めた。

ナーガってつくくらいだから下半身が蛇なのは周知の事実じゃないのか?


「いや、別に?ナーガって名前からして気持ち悪いとか何もないと思うんだけど」


俺は何気なくそう伝えたが、ナーガにとっては大きな意味を持ったようだ。

感動しすぎて目尻には涙が浮かんでいる。


『私を見て気持ち悪いって言わなかった人間は……お前が初めてだ……!……よし、わかった。このナーガ、今この瞬間から貴殿に仕えることをここに誓おう。必要であれば下の世話も喜んで行うからな」


「いや、それは間に合っているのでいいです」


男としては爆乳に下のお世話をしてもらうことは、めちゃくちゃ嬉しいことなんだろうけど……。もう経験済みだからそこまで魅力的には思わないんだよなぁ。

……というよりも、足に抱きついているレーナのオーラがドス黒いことになっているし。

抱きつく力が強すぎてかなり痛い。多分今のレーナなら軽くダマスクとか返り討ちにできるんじゃないか……そう思えるほどの殺意である。

娘の愛が重すぎて最高に嬉しい。


とは言えども、ゼウスの時みたいになられても困る。

俺はレーナを抱き上げ、その唇を塞ぐ。


「……んむっ!?……えへへ」


唇をくっつけるだけのチープなキスだったが、レーナは俺からキスした事実が嬉しかったのか……それはもうデレデレとした表情をしている。

よかった、ナーガに向けられていた殺意は収まったようだ。


『ご主人様よ……私の存在を無視しないでくれるかい?私のためとはいえども、目の前でいちゃつかれるのは流石にくるものがある……』


ナーガはイチャイチャし始めた俺たちに遠慮気味に声をかける。


「ごめんごめん。とりあえず、これからデススネークを使用すると思うからその時はよろしくね」


『わかった。どうか遠慮なくこき使っておくれ。また必要になったら呼んでくれ。その時は全力でご主人様の力になるとここに誓おう』


そういって、ナーガは帰還していった。

……さて、そろそろ依頼の待ち合わせ時間だ。


「レーナ、行こうか。レーナを狙うダマスクを叩き潰すためにも」


「うん!わたしはパパについていくよ。パパがいるなら何も怖くないもの!」


俺たちは依頼の待ち合わせ場所である冒険者ギルドに向かうために温泉宿を後にした。



冒険者ギルドにやってきた俺たちは、ギルドの応接室に通された。

指名依頼の際は、ここでギルド立ち会いのもと依頼者と内容の確認を行うらしい。

応接室に行く前にギルド側から「敬語はやめておけ」と忠告を受けた。

敬語で話していると見下されるようだ。

ダマスクに対しては敬語を使う必要はなかったのだが、アドバイスはありがたく頂戴するとする。


しばらくして、ダマスクと思われる男性がやってきた。

その姿格好は中年太りで頭はハゲている。

彼の奴隷だろうか?銀髪の女の子が傍らに立っている。

身長はレーナより少し高い程度。150cmくらいじゃないだろうか。

おそらく……ダークエルフかな?

その姿はあまりにも痛々しい。

常日頃からどんな扱いを受けているか一目瞭然だ。


ダマスクはレーナを見つけると、途端に卑しい視線をレーナに向ける。

身体全体を舐め回すような視線だ。

正直俺が見ても虫酸が走る。


「……ひっ!」


おいおい……レーナが怖がっているだろうが。

俺はレーナを背中に隠しつつ、自己紹介をする。


「あんたが依頼者のダマスクか?俺はFランク冒険者の響谷旭だ。今回の依頼を後ろのレーナと引き受ける。レーナのことは……あんたの方が詳しいだろうから紹介は省略するぞ」


「ふん、さすがは冒険者だな。上のものに対する態度がなっていない。……まぁいい。俺が今回依頼を頼んだダマスクだ。奴隷商人としてこの街を拠点に活動している。横にいるのはレーナの代わりにもならなかった奴隷のリーアだ」


「…………」


「……ちっ。おい!お前も自己紹介しろや!何ぼーっと突っ立っていやがる!」


ダマスクはそう言うと、隣にいる女の子を殴りつけたーーーーって、自分の奴隷になんてことをするんだこいつは。

奴隷だからって殴りつけるなんてどうかしてる。

女の子は倒れないように踏み止まったが、その口からは血が出ている。


「 ……ダマスク……様の愛玩奴隷のリーア……です」


(((……愛玩奴隷の意味とは一体)))


リーアの言葉にその場にいる全員のツッコミが被る。

ダマスクはリーアの言葉に満足そうに頷いている。

……おそらくダマスクがそう言うように仕向けたのだろう。


レーナは自分がダマスクに捕まったらあの女の子と同じようになるかもしれないとイメージしてしまったのか、俺の体に抱きついて震えている。

正直それだけでも万死に値するんだが……依頼者と冒険者の関係だ。

罰を与えるのは俺に対して敵対してきたときでも遅くはない。


ギルドマスターは渋い顔をしている。

ダマスクの行動に思うところがあるのだろうが、ダマスクの所持している奴隷だから何も言えないのだろう。

俺は話を戻すべく、ダマスクに話を振る。

正直、すぐにでも出発したい。


「それよりも依頼の内容を確認したいんだが」


「おぉ、そうだったな。依頼の内容は依頼書の通りだ。ダスク近郊の北の森にて魔物の動きが活発になってきていると言う。貴様にはその魔物の索敵、できることなら討伐を依頼したい。魔物の種類は情報が上がってきていないため詳しいことはわからん。冒険者になったばかりらしいからな。期限は2日間としよう。報酬はギルドに渡してある。依頼完遂したら受け取るがいい」


「……というわけだ。旭とレーナちゃんは問題ないか?」


ギルドマスターが依頼内容の確認をしてくる。


「あぁ、問題ない。成り立ての冒険者風情にどこまでやれるかはわからないが、全力を尽くそう」


「では、互いの同意も得られたため、今この瞬間より依頼を開始とする。健闘を祈る」


そう言ってギルドマスターは退室する。


「ふむ……では俺も帰るとするか。響谷旭とやら、精々頑張ってくれたまえ」


ダマスクも偉そうに吐き捨ててから退室しようと準備する。

少し遅れてリーアも続く。

リーアが完全に退出する前に、俺はリーアに対して【鑑定眼】を使用する。

【叡智のサポート】が鑑定眼でステータスを確認することもできることを教えてくれたからだ。

あんな扱いを受けていて大丈夫なのか心配になったからと言うのもある。


ーーーー

リーア Lv.3

称号【ダマスクの奴隷】

種族:ダークエルフ(♀)


HP 100/2000

MP 9000/1000 (封印)

攻撃 180

防御 800

魔攻 100

魔防 800

敏捷 200


スキル

【闇魔法】

【挑発】

【嫉妬】

ーーーー


どうやら前衛でタンクを務めるのが適しているみたいだな。

なんでダマスクに捕まったんだ?


それよりも魔力が溢れているのが気になる。

魔法を封じられているから、その反動か……?


そんな感じでリーアを見ていたら、リーアがボソリと俺とレーナにだけ聞こえるように呟いた。


「お願い……します……。私を……助けてください……響谷……旭様……」


そんな熱のこもった目で見られたらどうにかしてあげたくなるじゃないか。

ダマスクの組織を潰したら、俺が引き取るとしよう。

だから、レーナ?

リーアに対して威嚇するような声を上げないの。

猫じゃないんだから。


ダマスクとリーアが退室した後、レーナがポツリと呟く。


「……パパ、あの子どうにかできないかな……?パパのことをあんなに熱い目で見ているのは気にくわないけど……。ダークエルフとは言え、同じエルフの仲間……だし、あの子を助けて上げたい」


「それには俺も同感だ。この依頼の中で必ずあの子を助けよう」


俺とレーナは決意を新たにする。

ダークエルフの少女を助けるためにも、ダマスクの組織を壊滅させると。


そのためにはダマスクがレーナを奪い取りにきてもらわないといけない。

俺はレーナを守り抜く自信がある。

不謹慎かもしれないが、敵対してくれないかなと思いつつ、俺達も応接室を後にする。


さぁ、依頼開始だ。

全力でダマスクの企みを潰しに行くとしよう。

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