第10話 旭はのんびり依頼を遂行する

俺とレーナは依頼場所である北の森に到着した。

今いる場所はテントを張るのに十分な広さがある。

この場所を拠点にして、索敵を行う予定だ。

奇襲されにくい場所というのも俺にとっては好都合だ。

さて、周りにはみたところ誰もいないが、念のため【探知】を行うとしよう。

……ダマスクの手下が見張っているとも限らないからな。


「レーナ、今から【探知】を使ってみるから、周りの様子を観察していてくれないか?」


「はーい!わたしに任せて!」


レーナは元気よく返事をしてくれる。

今日もレーナは可愛い。荒んだ心も癒されるね。


「ーーーー【探知】!」


探知が発動し、半径3kmに敵がいないか索敵される。

……どうやら3km圏内には人間はいないようだ。

魔物の数もそれほど多くない。


ダマスクの話では魔物が活発だと言うことだったが、探知した限りだとそんな感じはしない。

これはダマスクが何かやらかしてくる可能性が高くなってきたな。


「レーナ、周りには人はいないようだ。テントの準備はどう?」


「パパ……探知の結果出るの早すぎるよぅ……。まだテントの道具を出したところだよ……」


レーナの方を見ると、レーナの言う通りまだテント道具を出し終わったところだった。

個人的な体感では結構時間がかかったような気がしたが、実際は数分も経っていなかったらしい。


「じゃあ、一緒に準備しようか」


「わかった!」


俺とレーナは協力してテントづくりを行う。

テント自体は簡易な作りだったので、準備はさほど時間もかからずして終わった。


「さて、ダマスク対策に眷属を召喚しておくか。レーナ、眷属召喚ってどのくらい召喚されるんだ?」


「んぅ?えっとねぇ……その人のMP消費に応じて変わってくるみたい。感覚共有はできるみたいだからどれだけ召喚しても問題ないって言われてるよ。普通の人は多くても10体みたいだけど……パパは多分もっと出せると思う!」


魔力消費に応じて、召喚数が変わるのか……。

俺のMPは10万を超えているので、2万MPを消費するイメージでやってみよう。

20体もでれば御の字だろう。


「ーーーー【眷属召喚:デススネーク】、【眷属召喚:ハイエンジェル】!」


眷属召喚の言葉を紡いだ途端、俺の目の前に魔法陣が展開する。

そこから全長3mはあるだろう巨大な蛇と、170cm程度の天使が現れた。

蛇……デススネークは体の色が迷彩色となっており、その牙からは毒が滴っている。

この毒に触れたら人間の体など、溶け出してしまうだろう。

現に毒が垂れた地面はジュージュー音を立てて溶解している。


天使の方……ハイエンジェルはアニメ等で出てくるような容姿だった。

金髪ロングに、頭の方には天使の輪が浮かんでいる。

男の天使が出てくるかも?と思っていたが、現れたのは女性の天使。

しかも、ナーガよりも大きいときた。

……レーナの視線が若干痛いが、男なら目が胸にいってしまうのは許してほしい。

大きく広げた翼はまさしく天使と言えるくらいに壮大且つ綺麗だ。


「「主、御呼びでしょうか?」」


デススネークとハイエンジェルが問いかけてくる。

しかし、その数は予想を上回っていた。


「うわー……。パパなら多く召喚できるかもとは言ったけど……まさか数え切れないほど召喚するなんて……」


レーナの言う通り、俺達の周りにはかなりの数のデススネークとハイエンジェルが囲んでいる。

陸はデススネーク、空中はハイエンジェルの布陣だ。

これが味方でよかったと心底思うところである。

……しかし、これは何体召喚されたんだ?


ーーーー[疑問を確認。デススネーク200体、ハイエンジェル200体。合計400体の召喚結果となりました]


……まじか。そんなにいたら数えきれないのも理解できる。


「レーナ、どうやら合計で400体いるらしい」


「400……!?パパ、少しは手加減というものを覚えたほうがいいんじゃないかなと、私は思うよ……」


「いや、MP2万しか使ってないんだけど……」


「眷属召喚にそんなに消費すること自体がおかしいのー!」


プリプリという擬音が聞こえてきそうな感じでポカポカと俺の体を叩いてくるレーナ。

ごめん、全然怖くない。それをいうとセクハラに方向転換しそうなので、黙っておくが。


「「ところで主……呼ばれた私たちはどうすればよろしいでしょうか?」」


……ごめん、放置してた。

いや、レーナが可愛すぎるのがいけないと思うんです。

とりあえず、指示を出すとしよう。


「すまなかった。デススネークのみんなには保護色を使って地上の索敵をお願いしたい。魔物を見つけたら俺に教えてほしい。できることなら倒してくれ。あとでギルドで売れるかもしれないからな」


「承知しました、我が主。魔物を見つけたら精神感応テレパシーを使って、報告します」


デススネークはそう言って森の中に散って行った。保護色を使うと見ただけではどこにいるかがわからない。

なんか光学迷彩みたいな感じだな。あんなに大きい蛇が見えないって敵からしたらとてつもない恐怖だよな。


「主、ハイエンジェル隊はいかがなさいますか?」


「ハイエンジェル達は透明化を使用して空中の偵察をお願いしたい。数体は俺たちの周りを警護してくれるとありがたいかな?ダマスクからの強襲に向けて、魔力はなるべく温存しておきたいんだ」


「かしこまりました。索敵をしつつ、主の警護を行います。主のお側には100体ほど配置すればよろしいでしょうか?」


「い、いや……100は多いからせめて50かな」


「パパ……普通なら50でも多いと思うんだけど……」


レーナから苦言が入るが…… せっかく数が多いなら死角を減らしたほうがいいのかなって思うんだよ……。


「承知しました。では、これから透明化を使用し、索敵と警護を行います。私たちも精神感応使えるので、何かあったらおしらせしますね」


そう言ってハイエンジェル達も空中に飛び立って行った。

俺たちの近くに残るハイエンジェルは透明化を使用して空中を待機している。


……そういえば、眷属ってご飯とか休憩とか取らなくてもいいのだろうか?


ーーーー[ 疑問を確認。召喚された眷属は主人の魔力が尽きない限りは、半永久的に活動が可能です]


俺の魔力はかなりあるから……実質2日程度なら全然問題ないってことか。

今回の依頼……ダマスクの件抜きにしたらかなりイージーモードになったな。


「レーナ、眷属達のおかげで今回の表向きの依頼は簡単に終わりそうだよ」


「何と無く想像していたけど……やっぱりパパは凄いね!でも、わたしたちだけ楽していていいのかなぁ?」


「俺たちはダマスクが来た時に全力で対応する必要がある。レーナを奪われないようにするためにも、今は体力や魔力を温存しておこう」


「パパがわたしのために真剣になってる……!えへへ……パパ、大好きだよ!」


最近のレーナは愛情表現がかなり積極的になって来たな。

もっと重く愛してくれてもいいのよ?

まぁ、現状でも十分なほどなんだけどさ。


「ダマスクに拐われるのはもう嫌だけど……パパと一緒にいるなら全然怖くないよ!」


……嬉しいことを言ってくれるじゃないの。

これは何としてもダマスクからレーナを守らないと。


「ーーーーでも、パパを傷つけようとするなら……その時はその命をもって償ってもらわないとね……?」


(主……主の娘さんが恐ろしいことを呟いているのですが……。ゼウス様が恐れたのも納得できます……)


ハイエンジェルの一体からテレパシーがはいる。

早速レーナのヤンデレに当てられたらしい。


(いやいや、この重い愛情がいいんだよ。俺に敵対しなければ大丈夫だから)


(……ならいいのですが……。では、任務に戻ります)


そう言ってテレパシーは終了された。

うん、恐怖に打ち勝って任務に励んでほしいと思う。


「パパ、これからどうする?暇になっちゃったけど……」


「そうだなぁ。デススネークから魔物発見のテレパシーが入るまではのんびり過ごそうか。何がしたい?」


「んー……じゃあ、パパのスマホ貸して?まだ画像フォルダ全部チェックしてないから」


……どんだけ俺の画像フォルダが見たいんだ。

俺のスマホに入っているのは全部R18指定のやつなんだが……。


「大丈夫、どんなにえっちぃ画像でも……パパが好きなのはわたしだけだって知ってるから……」


目のハイライトを消してそう呟くレーナ。

まぁ、そこまで言われたら見せるしかない……のかなぁ?

元カノの画像も残っていたりするから、あまり見せたくないんだけど……。


「パパ、元カノって……?前の彼女の写真まだ残ってるの……?」


「いや、レーナさん。俺の心の中を読むのはやめてくれないか……?」


「大丈夫、パパの魅力がわからなかった女に対して何も思うことはないから。……まぁ、見たあと消すけど」


「いや、まぁ消すのは別に構わないんだが……」


そう言って、俺は【無限収納】からスマホを取り出しレーナに手渡す。

レーナは受け取った瞬間に画像フォルダをあさり始める。

まぁ、楽しそうで何より。

目だけ見るとかなり恐ろしいことになっているが、俺からしたらそんなレーナも最高に愛おしい。


そんな感じでレーナを眺めていたら、デススネークの一体からテレパシーが入った。


(主、魔物を数体発見しました。主のいる場所からそう遠くはないですが……いかがなさいますか?)


どうやら近い場所で魔物を見つけたらしい。

個人的にはデススネークの能力を見てみたい。


(デススネークの力を見てみたいから、俺たちのいる場所まで拘束して連れて来てくれるか?)


(承知しました。今すぐに)


そう言ってデススネークは魔物を拘束しに向かった。


「レーナ、そろそろデススネークが魔物を連れてくるから、一旦スマホを置いておこうな」


「もう見つけて来たの!?まだ30分も経ってないよ!?さすがパパの眷属召喚……」


「いや、俺の眷属ではなくてナーガの眷属な?」


そんなことを言っていたら、デススネークが魔物を連れて来た。

魔物は狼のようなものだった。

【鑑定眼】を使用したところ、レッサーウルフという名前らしい。

デススネークは保護色を使っているため、傍目から見たらレッサーウルフがへんな動きで近づいてくるようにしか見えない。


レーナは俺の背中に隠れてその姿を見ている。

少し怖かったみたいだ。

そんなレーナの頭を撫でてあげることにする。そうすればレーナは安心することを俺は知っているからな。

デススネークは俺たちの近くに来ると保護色を解除した。


「主、ただいま戻りました。どのように仕留めますか?」


レッサーウルフは締め付けられているからか、唸り声をあげて俺たちの方を睨んでいる。

デススネークの締め付けが思った以上に強いらしい。


「毒攻撃の威力を確認したいから、ボロボロに溶けない程度の毒攻撃で仕留めてもらってもいいか?」


「承知しました。では、【筋肉毒】で仕留めることにします」


デススネークはそういうと、自身の牙をレッサーウルフに突き立てた。

レッサーウルフは短い悲鳴を上げたあと、出血をすることもなく絶命する。


「ね、ねぇパパ……あの魔物に何が起こったの……?牙が刺さった途端に死んじゃったみたいだけど……」


レーナの疑問にデススネークが答える。


「お嬢、わたしが今使ったのは【筋肉毒】と呼ばれる毒の一種です。この毒は多臓器不全を起こして体の内部から絶命させます」


「えっと……つまりどういうこと……?」


レーナはこてんと首を倒して聞き返す。

俺はレーナに簡単な説明を行う。


「つまり、デススネークの筋肉毒が入ると、傷をつけずに命を奪うことができるってことだよ」


「……えぇ!?なにそれ……怖い……。味方でよかったよぉ」


筋肉毒の恐ろしさを理解したレーナは、俺に抱きついてくる。

視線をデススネークから逸らしているのは……自分に毒がこないようにするためなのかもしれない。


「お嬢……流石に主の大切な御仁にそんな酷いことはしませんよ……」


レーナに距離を置かれたデススネークは少し悲しげだ。

御愁傷様と言いたくなる。


「ま、まぁ、デススネークの能力の高さも確認できたからよしとしよう。じゃあ、引き続き任務に戻ってくれ。次からは見つけた魔物は倒してしまって構わない。倒した後の遺体はこっちで回収するから、それだけ持って来てくれ。ダマスクの手下と思われる人間は……とりあえず放置で」


「畏まりました。他の個体にも情報を共有しておきます」


「ん、よろしく頼むね」


そう言ってデススネークは再び保護色を使用して、森の中に戻っていった。


「さて、レーナ。今のところは脅威もないみたいだし、俺たちはのんびり過ごすとしようか」


「わかったー。わたしはスマホ見ているから膝の上貸してね」


「娘に俺の画像フォルダを目の前で見られるとか、人によっては罰ゲームだな……」


「パパはわたしの前で画像見られるのは嫌……?」


レーナはそう言って上目遣いを俺に向ける。

その視線はずるいと思います。


「いや?レーナを膝に座らせられるだけでもご褒美だよ」


「パパならそういうと思ってた!」


見透かされてるような気がしたが、レーナが満足そうなので問題はない。

そうして、俺たちはダマスクが強襲するまでの間、テントでのんびり過ごすことにした。

ハイエンジェルから人間が近づいているという報告を受けたが、デススネークの姿とかは見られていないので、泳がせておく。

ハイエンジェルとデススネークによる監視体制に不備はない。

これで襲ってくれるならそれに越したことはないからな。

そう考えながら、レーナの画像フォルダ漁りを目の前で眺めることにする俺だった。



ーーーーその頃ダマスクは……[第三者視点]

ダマスクの屋敷に1人の男から連絡が入る。


『お頭、旭達の姿を確認しました。森の中でのんきにテントを張り、休息をしているようです』


「依頼を受けたというのに、索敵する素振りも見せていないのか?」


『いえ、どうやら探知系の魔法を使用しているようで……。まだ魔物の召喚は行なっていないため、動きがないものだと思われます』


「探知魔法も使えるのか……意外と厄介だな」


ダマスクは憎々しげにそう呟く。

実際に使用しているのは【眷属召喚】で探知魔法は今は使っていないのだが……眷属達が隠密性に優れているので、それがダマスクに伝わることはない。


「まぁ、いい。奴らが寝た頃合いを図って魔物を召喚し、奴らに襲わせろ。寝起きで対応できるわけがないからな」


『かしこまりやした。召喚魔法師どもにもそのように伝えておきます。呼ぶ魔物はどうしますか?』


「あー……?オーガとかゴブリンキングとかでいいだろ。レーナだけは襲わせないようにしておけよ?あいつの処女を奪うのは俺なんだからな」


『かしこまりやした。では、また連絡します』


そういって、手下からの連絡が途絶える。

ダマスクはニヤニヤと卑しい笑顔をうかべる。


「ふふふ……今はのんびり過ごしているがいい。寝たら最後、次に目覚めることはないだろうからな……。そして、俺はレーナに自身の欲望をぶつけるのだ……!今から楽しみでならん!」


興奮してダマスクの一部分が膨張を始める。

近くにいたリーアは一瞬嫌そうな顔を浮かべるが、すぐに表情を消す。

前髪で顔が隠れているため、ダマスクにその表情の変化を悟られることはなかったが、ダマスクはリーアに無理難題を言いつける。


「おい、リーア。レーナのことを考えていたら、興奮が収まらなくなってきた。周りにロリ奴隷もいないからお前の口で我慢してやる。さっさと処理をするがいい。光栄だろ?ん?」


「…………」


その言葉を聞いたリーアは嫌そうな顔に戻る。

今度は前髪を上げられていたため、ダマスクにその表情を見られてしまう。


「あ……?なんだその顔はよ……。オメェは俺の奴隷なんだろうがよ!初潮を迎えてるのに口で奉仕させてやろうっていうんだ!素直に処理しやがれ!」


そう言ってダマスクはリーアを殴りつける。


「……グッ!」


リーアは倒れなかったが、ダマスクに無理やりその汚らしい物を口に含まされる。


「……ウブッ!オエッ……!」


リーアは苦しそうに呻くが、ダマスクは支配欲に溺れているため、リーアのことは気にもかけない。

息ができない苦しさに耐えつつも、リーアは願う。


(早くこの男が旭様に駆逐されますように……そして私を早く救い出してください……)


リーアは、旭とレーナが自分を救おうとしていることに薄々であるが勘づいていた。

だからこそこの死にたくなる状況でもなんとか意識を保てている。


早く救われたい一心で目の前の男に強制奉仕される。

リーアの願いはそろそろ叶うだろうと、リーアは確信していた。

ダマスクはリーアを散々嬲った後、自身の部屋に戻って、旭の死亡とレーナの確保を待とうと部屋を退出する。

リーアは口の中を必死に洗いながらも、旭達の検討を祈りはじめた。



……そして、ダマスクが旭に強襲する時間がやってきたのであった。

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