第7話 旭は図書館へ足を運ぶ

俺はレーナを連れて冒険者ギルド近くにある図書館らしき場所にやって来た。

場所のイメージとしては、大学みたいな感じだろうか?

……まさか、大学並みの広さがあるこの建物全部が図書館じゃないだろうな。


「ふわぁぁ……おっっっきいねぇ……」


レーナは上を見上げながら感嘆の声を漏らす。

ちなみに抱っこは継続中である。

レーナみたいな可愛い子を抱っこし続けて、体が辛くなるだろうか?

いやない。


「パパー?どうしたの?早く中に入ろうよ〜」


ーーーーおっと、考え事をしていたらレーナから促された。

レーナもこの図書館が気になっているらしい。

あまり待たせるのもかわいそうだから、図書館の中にはいるとしよう。


図書館の中は前の世界に似たような感じだった。

広さだけがあり得ない規模なのだろう。

これほどの規模なら俺の使える魔法一覧も判明するかもしれない。


しかし、初めて来た場所であるということは変わらない。

俺とレーナはとりあえず受付カウンターに向かうことにした。

流石に図書館の中で抱っこするわけにもいかないので、今は手をつないでいる。

レーナは抱っこから下ろした時に、ブーブー文句を言っていたが、手をつないだら機嫌が直った。

恋人繋ぎに切り替えたからかもしれない(もちろんレーナ主体である)


「こんにちは。今日はどのような御用でしょうか?」


「魔法の一覧がわかる書物を探しておりまして。どこらへんにあるかわかりますかね」


受付の人は魔法の書物と聞いて一瞬悩んだような顔をしたが、続けてこう言った。


「魔法関連の書物ですか……。一般の方に見せるわけにはいかないものなので、ご両名とも魔法が使える身分証明になるものを見せていただいてよろしいでしょうか?」


……魔法が一般的ではないからなのか、身分証明が必要らしい。

冒険者証でも問題ないのだろうか?

というか、身分を証明できるものなんてそれしかないから、選択肢はあってないようなものだな。


「わかりました。冒険者証で大丈夫ですか?」


「はい、それで問題ないです。では、冒険者証をお願いします」


俺とレーナは冒険者証を受付の人に手渡す。


「どれどれ……って、えぇ!?」


ーーーーあ、この流れ昨日も見た気がする。


「ギルドマスターのお墨付きでFランク!?しかも全魔法適正……!?もう一人の方も精霊魔法と回復魔法の適正あるんですか!?」


うん、前半は予想していた通りの反応だった。

まぁ、今回はレーナの娘兼彼女よりも精霊魔法とかに興味が移ったようだが。


「そうですねぇ……。魔法関連の書物となると、特別室へのお通しになると思います。ちなみにどこまでの書物の閲覧を希望ですか?」


「そうですね……。初級魔法から。できれば禁忌級?のものがあればそれも閲覧したいですが、ありますか?」


「禁忌級……!?ま、まさか貴方は禁忌級の魔法を使えるのですか!?」


「え?あぁ、なんか【絶望を呼ぶ旋風】って魔法を使えるみたいです」


「【絶望を呼ぶ旋風】!?あの恐怖魔法伝説の……!?」


……どうやら俺が使用したらしい魔法は、伝説になる程使い手がいなかったらしい。

レーナも驚いている……いや、もう慣れたような視線で受付の人を眺めている。

ーーーーそれはいいけど、悟りを開いたような目をするのはやめて?パパの心傷ついちゃう。


「それほどの使い手であれば、閲覧禁止関連の書物の許可も降りるかも……?すみません!少し上のものに確認して来ます!」


「あ、はい……」


「パパってなにかしら偉い人にお通しされるね」


「言うなレーナよ……。なんかそう言う星の元に生まれたような気がしてくるから……」


ある意味では異世界モノのテンプレだが、自分で体験すると疲労感がハンパない。

……精神安定させる魔法も探そうかな。


受付の人は5分もしないうちに戻って来た。

一緒にいる人がこの図書館の偉い人か?

丸メガネに白衣の女性である。司書というより科学者みたいな人だな。


「部下から聞いた禁忌魔法が使える冒険者とは君のことかね?」


「あぁ、はい。響谷旭と言います。Fランクの冒険者です。隣にいるのは娘でハイエルフのレーナです」


「……色々とつっこみたいが、今は置いておこう。ここ[叡智の図書館]で司書をやっているフランだ。禁忌魔法が使えるほどの実力があるというのは本当かね?」


「みたいですね。転移してまだ2日目ですし、自分ではよくわかってないのですが。レーナは禁忌魔法使える?」


「いやいや……わたしは使えても上級までだからね?禁忌魔法がポンポン使えたら禁忌なんて呼ばれないよぉ」


「その娘さんの言う通りだな。まぁ、上級魔法が使えるだけでもおかしいんだが……」


「どうやったら信じてもらえますかね?」


これで使えるところを証明しろとか言われたら、ここにいる場の全員が恐怖魔法の対象になるかもしれない。

範囲を絞れるはずだから大丈夫だとは思うが、確証がないのであまり確かめたくはない。


と、そんなことを考えていたらレーナが1つアドバイスをした。


「それなら精霊魔法で試してみたらどうかなぁ?パパは全魔法適正あるから、精霊も答えてくれると思う」


「おぉ、それなら図書館にも影響はないかもしれないな。エルフのみが使える精霊魔法が使えるのならみてみたいし。よし、手間だろうが外に行こうではないか」


「わかりました。 ……もし、禁忌魔法が使えたなら閲覧禁止の書物も閲覧可能になりますかね?」


「閲覧禁止どころかこの図書館へのフリーパスを発行してやろう」


なんと太っ腹な司書様だろう。

これは何としても成功させなければなるまい。

ただ、精霊魔法の禁忌ってなんだ?

神様っぽいものをイメージすればいいのか?

レーナに尋ねてみるか……。


俺は小声でレーナに尋ねる。


「レーナ、精霊魔法の禁忌級ってどんなのが言い伝えられてるんだ?」


「んぅ?うーんとね。有名なのはゼウスかなぁ。呼び出せた人は今までで開祖様だけらしいよ?まぁ、パパなら問題ないと思うけどねっ!なんていったってわたしの愛する人だし!」


「まぁ、頑張ってみるさ」


こちらの予想以上の信頼を寄せてくれるレーナの頭を撫でる。

……娘レーナがこんなにも信じてくれているんだ。出せないなんて信頼を裏切るようなものだろう。


数分して俺たちは図書館の外にある広い庭についた。

庭というか校庭みたいな場所だが、人払いをしたのか周りには俺たちしかいない。


「では、旭君。遠慮なく精霊魔法を行使してくれたまえ!」


「わかりました」


俺は体のうちに流れる魔力を多めに出すイメージをする。

魔力の流れは昨日までわからなかったが、なんとなく流れというのが理解できるようになった。

魔法を行使した結果なのだろう。

詠唱はわからないので、強い思いを思って言葉を紡ぐ。


「顕現せよ……!【全知全能ゼウスの神】!!」


紡いだ途端に辺りが暗くなる。

魔力も半分ほど減ったのを理解した。

暗くなったと同時に光が俺の前に降り注ぐ。

その光は天を貫いて伸びていた。


『我を呼んだのは……お主か……?』


光の中から声がする。

その中から現れたのは、3メートルはあるだろう巨大な姿だった。

これが全知全能の神ゼウスらしい。大きすぎやしないか?

……あれ?そんなことよりも精霊ってコミュニケーション可能なの?

そういう意味合いも込めてレーナの方を見る。


「あ、あはは……。上級以上の精霊はお話しできること忘れてた……。あと、実力に見合わなかったら契約できないこともある……かな……?……てへっ」


「……マジか。これ大丈夫なのか?」


レーナのてへっ入りました。美少女がやると何をやっても許したくなる不思議。

とにかく、このゼウスに俺の実力を見せないといけないらしい。

フランさんは驚きすぎてフリーズしている。

役には立ちそうにない。


『我を呼んだのはエルフではないのか?顕現すること自体10000年ぶりだというのに、呼んだのは人間とはな。……おい、人間。我を従えるにふさわしいかテストしてやる。どの魔法でも良い、我に全力をぶつけてみよ』


マジで試練みたいなことやるのか。精霊魔法使いづらいな。

とりあえず、ゼウスは全力で魔法を撃って来いと言っていた。

恐怖魔法ではなんの効果もなさそうだ。

さて、どうするかな……。


「使う魔法はなんでもいいのか?」


『種類に関しては特に問わない。我にダメージを与えられるとは思えんからな。遠慮せずに放つが良い」


ーーーーたしかに全知全能の神にダメージを与えられる人間はいないだろうな。

ゼウスもこう言っているし、全力全開で行こう。


まずは、魔法の威力を向上させたいな。

一撃のダメージをあげるのは必須である。


ーーーー[取得条件を満たしました。スキル【魔法威力向上】を使用できます]


おぅ、都合のいいスキルが手に入った。

すぐに【魔法威力向上】を使用する。

魔法は……光魔法でいいか。

一撃の威力が高い魔法……なにかあるか?


ーーーー[【太陽光照射プロミネンス】の使用が可能です。使用しますか?]


お?頭に思い浮かんだ魔法も探してくれるのか。

このシステムは便利だな。あとで詳細を調べるとしよう。

使う魔法も決まった。

俺はゼウスに向かって話しかける。


「ゼウス、使う魔法が決まった。準備はいいか?」


「ようやくか。いつでも来るがいい」


ーーーー俺は残りの魔力を全部使う勢いで言葉を紡ぎ出す。


「いくぞ……【太陽光照射プロミネンス】!!!」


魔法を唱えた瞬間、ゼウスの上空から極光が降り注ぐ。

それは太陽から発射された極太の閃光。


『……グッ!うおぉぉぉぉ……!』


ゼウスの口からうめき声が上がる。

あまりにも強大な光なため、周りにも影響があるかと思われたが、魔法的なバリアがそれを防いでいるらしい。

俺たちにはゼウスを飲み込んでいる光の1柱しか見えていない。


太陽光は5分間照射し続けた。

照射が終わった時、ゼウスは膝をつき、息絶え絶えとなっていた。

……どうやら予想以上にダメージを与えていたらしい。


『に……人間……お前……いや、お主は一体何者だ……!?』


「普通の26歳アラサーです」


『普通の人間がこの我にここまでダメージを与えることができるわけがなかろう……』


……そんなこと言われてもなぁ。

俺自身のステータスだけで言えば、ここまでダメージを与えられるわけがないんだけど。

呼び出したばっかでゼウスも弱っていたのかもしれない。きっとそうだ。


「それで、俺はゼウスの試練を突破できたのか?」


『い……いや、試練は合格だ。我は其方を主と認める……いや、認めます。今後は我の精霊としての力を活用してください。主よ、よろしくお願いします』


ゼウスの口調が敬語になってしまった。

ダメージを受けたのがよほどショックだったのか……。少し悪いことをしてしまったのかもしれない。

……にしても、ゼウスがレーナの方を見て震えているのはなんでなんだ?

もしかして、レーナの【狂愛】のスキルが発動しているのかもしれない……。


「……な……な……」


ゼウスが正式に俺の精霊になったのだが、フランさんはまだ口を開けて絶句している。

大丈夫だろうか?なんか口から魂が出ているような表情である。


「えーっと、フランさん?大丈夫ですか?」


「ーーーーハッ!?私は何を!?た、確かゼウスが現れて、旭くんが試練に成功するなんて夢を見ていたのか……!?」


「いやいや、現実のことですけど。ここにゼウスもいますし」


「……本当に君は何者なんだい……。まさかゼウスを従えるなんて……」


「それで閲覧とかの件は合格でいいのですか?」


「むしろこの光景を見せられて、不合格にする人間の方がおかしいだろうよ。約束通り図書館へのフリーパスを発行しよう」


よかった、これで発行されないとか言われたら、どうしようかと思っていた。

先ほどの【太陽光照射】で魔力がゼロなので、次の魔法は使えないからな。


「とは言えども、閲覧しなくても問題ないように思えるけどな……。光魔法の禁忌【太陽光照射】を使用したくらいだし」


【太陽光照射】って禁忌魔法だったのか。

俺自身はそんな魔法は知らないから、頭の中に響いたあの声が知っていたということになる。

後でステータス確認しておかないとな。


「それでも、フリーパスというのはあるだけで違いますから。すぐに発行されるのですか?」


「今から発行してくるから、1時間ほど必要になる。その間にも図書館の中は入っていいから待っていてくれ」


そういって、フランさんは図書館に戻っていった。

1時間か……探し物をするよりステータス確認に時間を費やした方がよさそうだ。


『主……我はどうしたらいいでしょうか……』


隣を見るとゼウスが所在なさげに立ち尽くしていた。

しかし、意識はレーナに向けているようで、チラチラ見ながら時折ビクついている。

……全知全能の神が幼女エルフに怯えている件について。


「あー、俺の用事は済んだからもう帰還しても問題ないんだが……。なんでレーナを見てビクついているんだ?」


『こ、これは!そこな娘が怖いというわけではn「パパに対して失礼なことを言ったら許さないよ……?」ーーーーすみません!』


あー、完全にレーナのヤンデレに当てられてるわ。

レーナは最初の俺に対する発言が気に入らなかったらしい。


「レーナ、俺自身はなんともないからゼウスを責めるのはもう許してやってくれ」


「むぅ……パパがそういうならいいけど ……。でも……ゼウスさん。次はないからね?」


『イエスマム!主の大切な存在であるレーナ嬢の呼びかけに対しても全力で答える所存であります!』


……もうゼウスがただの軍人になっているんだが。

レーナのヤンデレは予想以上だな。正直好みです。


「というわけで、今後ともよろしく頼むよ。魔力消費が大きいからあまり呼ばないかもだけど」


『主よ、2回目からは消費魔力が大幅に激減するようにしておきますので、心配は無用です。必要な時はいつでも呼んでください。我はいつでもその力を振るいます故』


「うん、ありがとう。じゃあお疲れ様」


その言葉を皮切りにゼウスは光の粒子となって帰還した。

改めて思うと精霊魔法っていうより召喚魔法だな。

まぁ、戦力が増えたからよしとしよう。


「それにしても、パパはすごいね。禁忌級の魔法全部使えるんじゃない?」


「頭の中に声が響いてその声に従っただけなんだがなぁ。全部使えるというのは本当かもしれないけど」


「頭の中に声が響く……?パパ、ステータス確認してみて?もしかしたらだけど、固有スキルが手に入ったのかも」


固有スキルって後天的に手に入るものなのか?

しかし、自分でも気になっていたのでステータスを確認することにする。

冒険者証に反映させる目的もあるので、冒険者証に向かって言葉を紡いだ。


「【ステータス】」

―――

響谷旭 Lv.5

称号【幼女エルフの旦那】

種族:人間(♂)


HP 4000 (3000up)

MP 105000(5001up)

攻撃 1250(400up)

防御 800(150up)

魔攻 9000(1500up)

魔防 7000(1000up)

敏捷 900(200up)


スキル

無限収納インベントリ

【成長促進(Lv.X)】

【言語理解】

【全魔法適正】

【詠唱省略】

【鑑定眼】

【魔法威力向上】

【色魔】

【強運】

【親愛】


固有スキル

【並列思考】

【叡智のサポート】

―――


更新したステータスカードをレーナに見せる。

称号が旦那になっているけど、それは別にいいや。

なんか【叡智のサポート】とか【並列思考】とか手に入ってるな。


「【叡智のサポート】……。パパ、これだよ!このスキルは名前の通り、使用者の分からないところを支援してくれる最強のスキルだよ!これさえあれば他に何もいらないくらい!」


レーナが興奮したように話しかけてくる。

ただな?興奮しすぎて俺の大事な部分をダイレクトアタックしているんだ。

少し落ち着いてほしい。

俺はレーナを落ち着かせるために抱っこして話を聞くことにする。

……決してダイレクトアタックを心地よく思っていたわけではない。

抱っこされたレーナはぎゅーと抱きついてくる。


「やっぱりパパは本物の英雄だったんだよ!!大好き!」


幼女エルフからの大好きいただきました。

この笑顔を守るためにも明日は全力で依頼をこなさないとな……。


ステータス確認を少しだけしてレーナとイチャついていた俺たちに、フランさんの声がかかる。


「あー、お取り込み中のところ悪いが、フリーパスの発行できたから受け取ってもらえんかな……」


どうやらイチャイチャしていたら1時間すぎていたらしい。

フランさんは砂糖を飲み込んだかのような表情をしている。

刺激が強すぎたのかもしれない。


「ありがとうございます。情報の閲覧が必要になった時の助けになります」


「そうなる時が来たら世界が滅びる時かもしれないな。まぁ、今後ともよろしく頼むよ」


そう言って、フランさんは図書館へ戻っていった。

……なんか疲れたような足取りだな。

フリーパスももらったし、回復魔法をかけておこう。

えっと、こういう時はどんな魔法がいいんだ?


ーーーー[疑問を確認。この場合は【完全回復パーフェクトヒール】で良いかと思われます]


……叡智のサポートマジ便利。

そういうことならその魔法を使用しよう。

幸い魔力は完全回復しているしな。


「【完全回復】」


俺はボソリと呟いてから図書館を後にする。

レーナは抱っこしたままだ。


「…………ッ!?」


フランさんの体がビクッとなった気がしたが、俺は気づかないふりをしてその場を立ち去った。


さて、明日はダマスクと会った後に依頼開始だ。

何事もないことを祈って、今日はゆっくり休むとしよう。

俺とレーナは穏やかに雑談しながら、温泉宿に向かった。

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