第6話 旭は依頼を受ける

冒険者ギルドに入った俺たちは、すぐに周りの冒険者から注目の的となった。

1日ぶりの冒険者ギルドだが、まだ昨日の出来事は勢いを失っていなかったらしい。

奇異な目で俺たちをみるものが少ないのがせめてもの救いだろう。


「さて、レーナ。冒険者ギルドについたわけだが、どういう依頼をやりたい?」


「どんなのがあるんだろう?簡単なのが良いなぁ……」


「じゃあ、どんな依頼があるかだけ見に行こうか。えっと、依頼の掲示板は……こっちか」


レーナとともに掲示板に向かう。

俺とレーナはFランクの冒険者なので、簡単な依頼があると思うんだよね。


掲示板に着くと、近くにいた冒険者が一斉にこっちを見てきた。

……なんだ?何かあったのか?


「おい、もしかしてあれが旭か……?」


「登録初日に数多の男冒険者どもを一瞬で蹴散らしたという……!?」


「しかも能力もやばいらしいぞ……」


そんな噂が聞こえてくる。

昨日その場にいなかった男冒険者たちが噂しているようだ。

昨日いた冒険者なら噂話すらしないはずだからな。


まぁ、いちいち突っかかるのも面倒なので、無視することにする。

しかし、次の冒険者が言った言葉に違和感を覚えた。


「旭って……この指名依頼が入ってるやつ?登録して間もないのに、指名依頼ってどんなだよ……」


「ちょっと待て、その指名依頼ってのを詳しく」


なんで指名依頼なんて入っているんだ?

俺そこまでの実力なんかないぞ?

レーナも首をコテンと倒して、疑問に思っているようだ。

可愛い。俺の娘マジで可愛い。


「ひっ……!?旭……!?こ、この依頼に名指しで入っているんだよ……」


「ほうほう。ちょっと依頼を拝見……」


その依頼書にはこう書いてあった。


ーーーー指名依頼ーーーー

依頼者:奴隷商ダマスク

ランク:F相当

内容: ダスク近郊に出た魔物の討伐。魔物の種類は不明のため、索敵と同時に行い、可能であれば殲滅せよ。

特記事項:この依頼は冒険者、響谷旭とレーナを指名する。

報酬:金貨10枚

ーーーー


「魔物の索敵且つ討伐ってFランク相当なのか?初心者にはきつい内容じゃないか?」


「「「Fランク相当なわけがないだろ!!」」」


……だよなぁ。

こんなのが駆け出しの冒険者に務まるなら、冒険者稼業はとても儲かる職業になる。


「パパ、この依頼受けるの?」


「どうしようかなぁとは思ってる。依頼者が奴隷商というのも気になるし、なによりも難易度がFランク相当じゃないようだしなぁ。俺一人なら良いけど、レーナもいるから堅実な依頼をクリアして行こう」


「じゃあ、この薬草採取とかどう?これならエルフのわたしでも知識あるから簡単だと思う!」


「おぉ、さすがはハイエルフだな。じゃあ、その依頼を受けようか」


そう決めようとした時、ギルドマスターが慌てた様子でこちらにやってきた。


「ちょ……ちょっと待てぇぇぇ!!」


慌ててきたというか、血相を変えてきた。

おいおい、レーナが怯えてるだろ……。

ーーーー締めるか?

俺は即座にギルドマスターへ向けて殺気を放つ。


殺気を受けた途端、ギルドマスターは血相を変えた表情を恐怖に変えながらも、必死に弁明を開始する。


「ま、待ってくれ!今事情を説明するから、その殺気を抑えてくれ!!頼むから!!」


「……仕方ないな。レーナもそれでいいか?今回の依頼、何かありそうだ……」


「……うん、わかった。もう怖い人いない……よね?」


「あぁ、もう大丈夫だから……なぁ?」


レーナが涙目で眺めてくる。

俺はギルドマスターに横目で確認する。


「あ、あぁ……もちろんだとも……」


周りの冒険者からこんな声が聞こえてきた。


「「「「「ギルドマスター……あんたのことは忘れない……!」」」」」


「俺はまだ死んでねぇ!!」


うん、こんなに元気よくツッコミができるなら問題はないだろ。


「で、では、ギルドマスター室で詳しいことを話すから、ついてきてくれるか……?」


「わかった。レーナも行こう」


「ん〜、パパ、抱っこして?」


「はいはい。まったくレーナは甘えん坊だなぁ」


俺はレーナを抱っこして、ギルドマスター室に向かう。


「おい……なんか昨日見たより仲良くなってないか?」


「まさか、もう手を出したのか……?流石はロリコ……ガハッ!?」


……ロリコン呼ばわりしようとしたやつがいたので、容赦なく重力魔法をかけておく。

娘を可愛がって何が悪い。第一、俺は守備範囲が広いだけだっての。


ギルドマスターはポツンと呟く。


「あれ……?昨日は俺に対して敬語で話してなかったか……? ……もしかして、今の一連の流れで対応変えられた……?」


すまんな、レーナを怖がらせるような人物に対して敬語を使うつもりは毛頭もない。



そんなこともありつつ、俺たちはギルドマスター室についた。

ギルドマスターはこの数分でだいぶ老けたな。

偉い人ってのも大変なんだなぁ。


「なんか理不尽なことを思われた気がするが……まぁいい。とりあえず指名依頼のことについてだ」


「あぁ、なんか奴隷商ダマスクだかの指名依頼だったか?奴隷商人からの依頼も受けるなんて冒険者ギルドも大変だな」


「やはり敬語なくなっているのか……ま、まぁ、今回は悪い噂を聞いたから……というのもあるがな。ダマスクは悪徳奴隷商人としても噂が尽きなくてな。それに……」


ギルドマスターはそう言って、レーナの方を見る。

……レーナがどうかしたのか?俺とレーナはともに冒険者として登録したから、それで指名したんじゃないのか……?

ん?レーナも考えるような顔をしているな。


「だますく……ダマスク?……もしかして、あの時お父さんと話していたあの……?」


……もしかして、レーナを奴隷にしたやつがダマスクなのか?

ーーーーってか、マジで何かあったとはな……。


そんな俺の思案を他所に、ギルドマスターは話を続ける。


「それで、だ。この依頼を受けるついでにダマスクについて調査してもらいたい。そういう意味合いも込めて、ギルドは今回の依頼を請け負うことにした。もし何もなければ、そのまま魔物の索敵且つ討伐の依頼を完了してくれればいい。ただ、何もないということはないだろうけどな……」


「ギルドも情報が早いな。そこまで考えているとは……」


「まぁ、昨日の案件で思うところがあってね。ダマスクが依頼に来たのも、君たちが帰ってから1時間した後だった。ダマスクはダマスクで情報を得ていたのだろう。レーナちゃんが逃げたのはダスクに来てからみたいだし……な?」


「うっ……」


レーナはギルドマスターの言葉に言葉を詰まらせる。

ーーーーいや、レーナは悪くないんだよなぁ。

悪いのはレーナを売り飛ばした本当の父親と、それを買い取って悪徳商売をしようとしたダマスクだろう。

だから、レーナが思い悩む必要はない。

しかし、確認は必要だろう。


「レーナ、1つ聞きたいんだが……いいか?」


「パパ……なぁに……?」


「レーナは俺とこれからも一緒にいたいか?奴隷商人ダマスクに怯えることなく。俺と共に生きていきたいと思うか?」


「そんなの……決まってるじゃん!わたしはパパといつまでも一緒にいたい!」


「なら、決まりだ。そのダマスクの経営する組織を叩き潰して、後を追えないようにしよう。依頼は受けるが、メインはダマスクを黙らせることだ。ギルドマスター、それでいいか?」


「こちらとしては願ったり叶ったりだが……大丈夫か?ダマスクの経営はかなりの大規模だが……」


「何か問題でも?俺はさ……レーナを売り払った父親にも怒りを感じるが、それを悪徳商売しようとしたダマスクも許せないんだよ……。そんな人物は……叩き潰さないとなぁ……おい」


許せるわけがないんだよなぁ。人殺しはしたことないがそれも辞さない所存である。


「わ、わかった……。ではこの件は旭に任せるとしよう。レーナちゃんもそれでいいか……ん?」


ギルドマスターの言葉が途中で途切れる。

そういえば、レーナは黙ったままだったな。

俺もギルドマスターにつられて、レーナを見る。


「えへへ……パパがわたしのために怒ってくれてる……!しかもしかも、あのダマスクを黙らせてくれるって……!えへへへへ……」


……おおぅ、先ほどの俺を怖がるどころか幸せいっぱいな顔をしちゃってますな。

まぁ、レーナを思っての言動だからなおさら嬉しかったのだろう。

レーナは重いほどの愛がいいみたいだしな。

俺も重い愛の方が好きなので、なんら問題はない。

ギルドマスターは引き気味の顔をしているが、そんなことは知ったことではない。


「そ、そういえばレーナちゃんは【狂愛】というスキルを持っていたな……。なるほど、重いほどの感情を持つことで発現スキルか……。旭も大概だが、レーナちゃんも半端ないな……恐ろしい」


「レーナ、そろそろ戻ってこーい?依頼をこなすために、魔法の種類を確認しにいくぞ〜?」


「えへへ…………ハッ!パパ、すぐに準備するの?今すぐ依頼主に会いに行くの?」


「いや、今から行ったところでという感じはあるから、今日は準備に当てたいと思う。俺は魔法の種類とか全然知らないしな。ここいらで調べておいてもいいだろうさ」


俺の言葉にギルドマスターは心底驚いた顔をする。


「ちょっと待て……。旭、君は自分の使える魔法を知らないのか……!?」


「いや、転移して来てすぐに魔法の種類とかわかるわけないだろう?」


「じゃ、じゃあ今までどうやって使っていたんだ!?詠唱をしていない時点でおかしいんだが……」


あぁ、そういえばギルドマスターには伝えてなかったな。

伝えないといけない義務もなかったし、仕方ないか。


「そのことか。レーナにも詠唱云々は言われたが……、頭の中で念じるだけで魔法が出るんだよ。だから【絶望を呼ぶ旋風】?だっけ?あれもあの時初めて聞いた魔法だったし。あれは全力で恐怖魔法をかけてやろうと思っただけだし」


「思っただけで魔法が発動する……?しかもあの威力……?ははは……これは悪い夢だろうか……」


「ギルドマスターのおじさん、パパは規格外なんだよ?……ま、まぁ、そんなパパもかっこいいんだけど……!」


キャーキャーと頬に手を当てて、身をよじるレーナ。

うん、重いほどの愛が心地よい。


「とにかく、そういうわけだから使える魔法を知るためにも、図書館かどっかで調べたいんだが、そういう施設はあるか?」


「……そういうことなら、近くに図書館はある。魔法に関する書物も多いから、旭の役に立つ書物は多いだろう。冒険者証を見せれば問題ないはずだ」


「そういうことなら助かるな。……レーナ、いくぞー?早くこないと抱っこしてあげないぞー?」


「抱っこしてもらえない!?やーー!パパに抱っこされるのーー!」


俺はレーナを抱っこして、ギルドマスター室を後にする。

……いい魔法があればいいんだけどな。

全力で放つことで禁忌級になるなら、そういう魔法も調べた方がいいのかもしれない。

ラノベで得た魔法も思い出すようにして見るか……?

そんなことを思いながら、俺は図書館へ足を運ぶのであった。



ーーーー第三者視点ーーーー

旭とレーナがギルドマスター室から退室した後、ギルドマスターはソファに倒れこんだ。

結果的に依頼を受けさせることができたとはいえ、情報量が多すぎた。

後、旭の殺気に当てられたのも大きいだろう。


「これでFランクから昇進させることができるだろう。レーナちゃんに関わる案件なら、断ることはないだろうしな……」


こちらの世界に来てから1日しか経ってないとはいえ、旭のレーナに対する感情は度をすぎているものがある。

レーナも同じような感情を持っているため、なおさらギルドマスターとしては対応が難しい。


ギルドマスターは、ダマスクの依頼を完遂させることと、ダマスクの悪徳商売を表にだすことの2つをこなした際にはBランクへの昇格を考えていた。

ダマスクの依頼を完遂するだけでもCランクに昇格するつもりでいたが、ダマスクはレーナを奴隷としか見ていない。

何としても旭からレーナを奪い取ろうとするだろう。

それが自身の首を締めることにつながるとは知らずに……である。


「ダマスクのやつに、依頼は明日受けることを伝えておかないといけんな……」


ギルドマスターはため息をつく。

ダマスクに会うのもあまりいい気がしないのである。


一刻も早く解決してくれることを祈りつつ、疲れたように机に向かうギルドマスターなのであった。

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