第2話 旭は冒険者として歩き出す
俺とレーナが冒険者ギルドに入った途端、周囲の視線が一斉に集まるのがわかった。
それはそうだ。見るからに冒険者ではないスーツを着た男が幼女エルフを抱っこしながら入ってくれば、誰だって注目するだろう。
冒険者ギルドは建物の外観通り、広大な内装だった。イメージとしては市役所みたいな感じか。
俺は冒険者登録するために受付嬢のいるカウンターに行こうと足を踏み出した。
しかし、そんな俺たちに1人の男が立ちふさがる。
「おい、兄ちゃん。ここはお前みたいな会社人が来るべきところじゃねぇよ。命が惜しければその女置いてさっさと帰りな」
「そうそう!お給金の高いところに勤めてるお偉い様はさっさと帰りやがれ!その女は俺たちが有効活用してやるからよ!」
異世界モノのテンプレを少し感動して聞きながら、どう対応するか少し悩んだ。
俺の知ってるラノベでは、強すぎる殺気を与えるものなのだが、俺にそこまでの殺気を出すのは難しい。
せめて向こうから攻撃を仕掛けてきてくれれば、魔法(念じるだけで発動するみたいなので、どの魔法でも使えるのである)で捩じ伏せるんだけど……。
レーナはゴロツキ達に攫われたことを思い出したのかガクガクブルブルと震えて、俺のスーツを力強く握っている。
……ちょ、伸びる伸びる。
男達は俺が返事を返さないことに、業を煮やしたのか装備している武器に手をかけた。
「よーし、わかった。痛い目に合わないと話を理解できないみたいだな。お前ら、手をかせ!こいつにお灸を据えてやるぞ!」
瞬く間に俺は冒険者達に囲まれる。
レーナはさらにビクつき泣き始めてしまった。
「ぱ、パパ……ひっく……怖いよぅ……」
その言葉を聞いた途端、感情が冷え切っていくのが分かった。
近くにいた受付嬢に確認を取る。
「これは正当防衛に入りますよね?」
「ヒッ……!は、はい、正当防衛に当たると思いますです……。ギルドは冒険者達のいざこざには口を出さないので……」
それはそれでどうなんだ……?
……まぁ、いいか。
正当防衛であることを証明してもらえた。これで全力で叩き潰すことができる。
「おい……うちの子を泣かせてくれた愚か者ども。今なら【
「ハッ!テメェみたいなヒョロヒョロしてる奴が魔法なんか使えるかよ!行くぞ、お前ら!この幼女にパパと呼ばれて喜んでるロリコン野郎を叩きのめすぞ!」
男はそう叫ぶと武器を片手に襲いかかってきた。
そんなことより、こいつは今なんて言った?
ロリコン……ロリコン……だと……!?
ふざけるなよ……?俺は……俺は……!
「俺はロリコンじゃねぇぇぇ!守備範囲が小学生まで広いだけだ!!年上も好きなんだよ!訂正しろやぁぁ!!!」
ロリコンの言葉にプッツンときた俺は、建物内にいることも忘れて、全力の恐怖魔法を施行する。
それは【絶望を呼ぶ旋風】として効果を発揮した。
俺に敵意を向けていた男冒険者達に容赦なく死をイメージさせる絶望の闇が襲いかかる!
「「「ぐっ……がはっ……!?」」」
男冒険者達は一斉に床に倒れ臥す。
中には失禁してしまった者もいる。死のイメージが濃密に浮かんでしまったのだろう。
ちなみに、女冒険者達はそんな男達をゴキブリを見るかのような目で見ている。
まぁ、大声で女をどうこう言ってればそんな目にもなるか。
「くっ……、恐怖魔法でここまでの威力が出るとは……ナニモンだよお前は……」
「普通のフリーターですがなにか?」
「ふりーたーって……なんだよ……ガクッ」
そう言って男冒険者は倒れ込んだ。
「レーナ、もう大丈夫だから服握るのやめようか。シワになってきてるし」
「ぐすっ……パパ、ほんとう?もうこわい人いない……?」
レーナはそう言って周りを眺める。
周りは呻き声を上げながら倒れている男冒険者達となぜか微笑ましい物を見るような視線の女冒険者達である。
「……パパ、男の人がおもらししてるのなんで?」
意識があったなら男の冒険者達はこう思ったことだろう。
「「「「お前のパパが原因だよ!!!」」」」
――――と。
しかし、意識を失っているため、ツッコミが入ることはなかった。
俺も苦笑しながら、レーナの頭を撫でる。
「この騒ぎは一体なんなんだ!!?」
そんな中、奥から偉そうなオジさんが慌てて走ってきた。
恐らくここのギルドマスターだろう。
説明するのが面倒だなぁとか思いながら、ギルドマスターらしき人物が来るのを待ち構えていたのだが、その前に受付嬢がオジさんに説明していた。
「ギルドマスター!これは男の冒険者さん達が新人いびりをしようとした結果、恐怖魔法を受けて返り討ちにあったんですよ。多分あれは【絶望を呼ぶ旋風】ではないかと」
「【絶望を呼ぶ旋風】だと!?あれは禁忌の術じゃないのか!?」
なんか話がすごいことになってきてないか?
ってか、俺の使った魔法ってそんな名前なのか。
詠唱が必要ないからどんな魔法が出るのかいまいちよくわからないんだよね。
今度は意識して発動してみよう。
そんなことをのんびり考えてたら、ギルドマスターが俺の前まで近づいてきていた。
「君は冒険者なのかい?」
「いえ、冒険者になりにきたんですけど」
「なら、これからギルドマスター室にきてくれないかね?」
周りの空気がざわめいた。
ギルドマスターが冒険者でないものを呼び出したのだから当然なのだろうが、俺からしたらテンプレくるかなー程度しか感じない。
拒否する理由はないので大人しく付いていった。
ちなみにレーナは泣き疲れたのか今は寝ている。
▼
ギルドマスター室とやらについた。
印象としては校長室かな?
なにやらいろんなトロフィーらしきものが多く置かれている。
「ところで、君は冒険者になりたいとのことだったが、理由を聞いてもいいかね?」
「日本から転移してきたんだが、この日本円をこちらの通貨に変換できると聞いたので、冒険者になろうかと」
それを聞いたギルドマスターは呆気にとられた表情をした。
いや、転移してからこっちの通貨持ってないし、換金できるのが冒険者だけならそれが理由でいいと思うんだけどなぁ。
「異世界に来てもそんな理由で冒険者になろうとする人は君くらいだろうな……。さて、冒険者の登録だったね。君ほど強いならこちらとしては大歓迎だが……いいのかね?」
「換金してもらえるなら何でもいいです。この世界の情報何もないんで。」
あれ?そういえば異世界から来たこと話したっけか?
異世界から来た人間って結構驚きそうなものだけど。
「おや、私が異世界から来た君のことを驚かないのが不思議かな?ギルドマスターにもなると色んな情報が入ってくるから、日本のこともある程度は知ってるんだよ」
「なるほど、それが理由でしたか。では、当初の予定通り、冒険者になったのでこの日本円を換金してもらえませんか?」
そう言って無限収納から財布を取り出し、9万円を机の上に置く。
ちょうど給料日で支出用にATMからおろしていたのだ。
それを見たギルドマスターは顔を青くして絶句した。
「……ッ!大変貴重な1万円を9枚もだと!?おい、君!今すぐ鑑定士を連れてくるんだ!」
近くにいた受付嬢は大慌てでギルドマスター室を出て行く。
……これは少し早まったか?
数分して鑑定士が部屋にやってきた。
そのまま鑑定魔法を使って査定していく。
「鑑定士よ、結果はどうだ?」
「は、はい。この1万円札9枚で金貨450枚の価値はあるかと……」
「ということは、本物の1万円札か……」
金貨の枚数的に凄いことなんだろうけど、金貨1枚どの位なんだ?
ハイエルフのレーナは知っているかもしれない。
いまだスヤスヤ眠っているのを起こすのは、少し罪悪感を覚えるが、俺はレーナに聞くことにした。
「レーナ、レーナ。寝てるところ悪いんだけど、この世界の通貨が日本円でいくらか知ってる?」
「……んぅ?金貨が1万円、銀貨が千円、銅貨が百円だったと思うよぉ……銭貨はしらなぁい……グゥ……」
「そうだったのか。ありがとな、レーナ」
そう言ってレーナの頭を撫でると、くすぐったそうに体をクネクネさせるレーナ。
うん、可愛い。
「コホン。では、冒険者手続きを取るから下の受付まで一緒に来てもらえるかね?」
「わかりました。お願いします」
俺達は階下の受付まで戻っていった。
ギルドマスター室で登録すればいいのでは?と思ったが、先程のような争いを牽制する意味合いもあるそうだ。
まぁ、下手すれば冒険者達の命に関わるから仕方ないのかもしれない。
1階に戻ると、冒険者達がざわめいた。
男冒険者達も意識を取り戻したみたいだが、流石に色々言ってくる者はいない。
――――と言うか、顔面蒼白でこちらを戦々恐々と見ている。
そんな様子を気にすることなく、ギルドマスターは話を続ける。
「さて、まずは冒険者のランクについて説明しよう。この紙を見て欲しい」
俺はギルドマスターからランク分けについての用紙を眺める。
どれどれ……?
――――冒険者ランク
冒険者ランクはFから始まり、F→E→D→C→B→A→Sの順でランクが上がっていく。
現在の最高ランクはAまでである。
ランクを上げるためには、冒険者ギルドが指定する試験を突破する必要がある。
―――――
なるほど。今の最高ランクはAランクなのか。
まぁ、俺はそこまでランクに拘らないからゆっくり上げていけばいいかな?
「さて、君のステータスを確認させてもらうとしよう。このカードに触れてもらえるかな?」
そう言って、ギルドマスターは透明なカードを渡してきた。
「このカードを持って【ステータス】と唱えてくれたまえ」
「【ステータス】!」
ステータスが発動し、透明なカードに情報が追記されていく。
―――
響谷旭 Lv.3
称号【幼女エルフの父】
種族:人間(♂)
HP 2000 (1000up)
MP 99999
攻撃 850(250up)
防御 650(150up)
魔攻 7500(1000up)
魔防 6000(1000up)
敏捷 700(200up)
スキル
【無限収納インベントリ】
【成長促進(Lv.X)】
【言語理解】
【全魔法適正】
【詠唱省略】
【色魔】
【強運】
【親愛】
―――
お?レベルアップしてる。
ゴロツキとか倒したからか?
にしても、称号が幼女エルフの父って……。
いや、レーナ可愛いからいいんだけどさ。
そんなことを考えていたのだが、ギルドマスターは絶句してる。
何かおかしいところがあったか?
「こ、この能力値は一体……。これほどの能力ならBランクでもいいのではないか……!?」
ギルドマスターの一言にさらに周りのざわめきが強くなる。
そ、そんなに高い能力なのか?
確かにMPとか魔攻とか魔防はありえない数値だとは思うけど……。
【成長促進Lv.X】もあるから、それも原因なのかな。
「君……旭君だったか。君さえよければBランク冒険者として登録しないかい?」
「なるほど……。お断りします」
「なっ……!?」
即答で断った俺に対して、ギルドマスター含む周りの冒険者が息を呑む。
いや、俺1人ならいいけど、レーナもいるしなぁ。
レーナだけ低いランクは可哀想でしょうに。
レーナも少し戸惑った顔をしている。
「パパ……本当にいいの?」
「レーナ1人だけ低いランクだったら可哀想だろう?俺はレーナと一緒がいいからな」
「パパ……そこまで私のことを……嬉しい……!」
顔を真っ赤にしながら抱きついてくるレーナ。
俺もだらしない顔をしてしまう。
あぁもう、可愛いなぁおい!
「じゃ、じゃあ娘さんのカードも作ろう。それで判断しようじゃないか。その条件ならどうかね?」
「いえ、レーナも一緒というのは当たり前なのですが……とりあえずお願いします」
ギルドマスターは納得のいかない表情をしながら、レーナにもカードを手渡す。
レーナはそのカードを受け取って、言葉を紡いだ。
「……【ステータス】」
―――
レーナ Lv.1
称号【響谷旭の娘兼彼女】
種族:ハイエルフ(♀)
HP 750
MP 5000
攻撃 60
防御 80
魔攻 1000
魔防 800
敏捷 50
スキル
【精霊魔法】
【回復魔法】
【光魔法】
【狂愛】
【成長促進(LV.II)】
―――
レーナも俺と同じで魔法に特化した感じだな。
狂愛とか彼女とか気になるワードがあるが、俺自身ヤンデレ彼女が好きなので特に問題はない。
「旭君ほどではないが、それでも常人を上回ってるな……。いや、ハイエルフなら当然なのか……?」
ギルドマスターは唸っているが、特に問題はないのでレーナを甘やかすことに専念する。
「えへへ……パパの彼女……」
レーナはステータスよりも俺の彼女であることが嬉しいらしい。
そんなレーナを撫でていると、ギルドマスターが存在に気づいてくれと言わんばかりに、話題をふってきた。
「ゴホン!さて、旭くん。娘さんのステータスも高いということがわかったわけだが、高いのがダメならここはEランクからの冒険者として登録するのはどうだろうか?」
「いや、私だけ特別扱いは嫌なので、レーナ共々Fランクからでお願いします。」
「……どうしても、意見は変わらんか……。えぇい!わかった!Fランク冒険者として登録を行う!」
観念したギルドマスターはそう大声で告げた。
周りの冒険者から悲観の声が上がったのは気のせいだろう。
ランクの高そうな冒険者はホッとしてるしな。
しかし、ギルドマスターはこう付け加えた。
「ただし!昇格試験は随時受けられる物とする!昇格したくなったらいつでもきたまえ」
要するに昇格試験を受けるための必要条件を無視できるってことか?
……まぁ、それくらいなら許容範囲なので、頷いておくとする。
レーナも異論なさそうだし。
「分かりました。それでお願いします」
「これからも宜しく頼むぞ。期待の大新人」
ギルドマスターはそう言ってFランク冒険者である証とステータスカードを俺とレーナに渡してくれた。
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