第1話 旭は幼女エルフのパパになる
「……ぐすっ。ひっく……」
……俺の前には先ほど助けた金髪の幼いエルフがまだしくしくと泣き続けていた。
実はこの子、助けた際に俺のことを「パパ」と呼んだのだ。
こんなに小さな子に抱きつかれながら泣かれた経験なんてない為、俺はただただ戸惑っていた。
……とはいえ、いつまでもそのままでいるわけにもいかない為、声をかける。
「ね、ねぇ、大丈夫かい?もう怖くないよ?」
「ぐすっ……。パパ……、本当……?」
そう言って、幼女エルフは上目遣いで俺のことを見つめてくる。
あぁぁぁ!!庇護欲が掻き立てられる!!
元の世界でも歳下が好きだった俺にはこのままは辛いって!!
「だ、大丈夫大丈夫。だからもう泣かないで?」
「……わかったぁ」
ふぅ、ようやく落ち着いてくれた。
とりあえずなんでこんなところにいたのか聞かないとね。
「じゃあ、改めて自己紹介するね。俺の名前は響谷旭。君の名前は?」
「……レーナ。ハイエルフのレーナって名前なの」
エルフなのは耳を見て分かっていたが、ハイエルフか……。
確か元の世界では高位のエルフとして描写されていることが多かったが……。
そんなことよりも先に確認することがあるだろう。
「えっと、レーナちゃ「レーナって呼んでくれなきゃや」……レーナはなんで俺のことをパパって呼ぶんだい?」
いきなり呼び捨ては失礼だと思ってちゃん付けしようとしたら食い気味に拒否されたでござる……。
レーナちゃん……、いや、レーナは少し考えた後にこう答えた。
「うーん……。助けてくれた姿が昔のパパに似てたから」
どうやら俺はレーナの父親に似ている部分があったらしい。
だが、それだけでパパ呼ばわりは何か違うような……。
「それに男の人はわたしみたいな女の子にパパって呼ばれると、飛び上がるほど嬉しいって言ってた」
「誰がそんなこと言ったの!!?」
「さっきの怖いおいちゃん達と一緒にいた馬車のお兄ちゃん」
まさかゴロツキ達の連れがレーナにそんなことを吹き込んでいるとは……。
いや、確かにこんな小さくて可愛い女の子にパパって呼ばれたら嬉しいよ?
でもさ、俺がいた世界ではそれも犯罪なんだよなぁ……。
そんなことを気にせず、レーナはさらにボソボソと呟く。
「それに……助けてくれた時のパパ、すごくカッコよかったし……好きになっちゃったんだもん……」
……どうやら助けた時に惚れてしまったのも原因らしい。
「れ、レーナ?男の人に好きになったとか言っちゃダメだよ?それ、俺の世界では犯罪で捕まってしまうからね?」
こんな小さな美少女に好きと言われて嬉しくなるが、それは破滅への第一歩だ。
第一、俺は彼女に裏切られて児童売買の疑いをかけられて書類送検されている。
ここは慎重にいかなければなるまい。
け、決してロリコンではないから!大きいのも好きだから!!って誰に説明してるんだ……俺は……。
「好きなのは本当なのに……。んんぅ?俺の世界?パパ、どういうこと?」
あ、そういえばパパ呼びと突然の事態で説明してなかった。
「あ、ごめんね。俺はついさっき、こことは違う世界から飛ばされてきたんだよ。日本って言ってここと同じような場所かな」
レーナは違う世界と聞いて少し戸惑っていたが、ふと何かを思い出したように顔を輝かせた。
「すごい!パパはあのえいゆうさんだったんだ!」
「あの英雄?」
「そうなの!エルフの里では日本からきた人はみんなすごい力を持っていて、えいゆうってよばれてるんだ!」
俺以外にも日本からきてる人いたのか……。
でも、話を聞いてる限りだと、滅多に転移されてくることはなさそうだな。
少し話してみたかったから、ちょっと残念かも。
そんなことを考えてると、レーナは顔を真っ赤に染めて俯いてなにやら呟いていた。耳を澄ませると……。
「ま、まさかお兄ちゃんがえいゆうさんだったなんて……これは何としてもパパになってもらわなくちゃ……っ!!」
パパ呼びからお兄ちゃん呼びになっている。
……もしかして振り向かせるためにパパ呼びにしていたのか?女心はいつになってもよくわからん……。
「と、とにかくそういう訳で、いい大人?である俺に好きとかパパとか呼ばない方がいいと思「やーーー!!」……」
……この子すごく強情だな。そこまでして俺に固執する理由はなんだろ?聞いてみるか?
「あー……。ちなみに嫌な理由は?」
「パパを好きになったから!!!」
……なんか何言っても無駄な気がしてきた。
あ、家族の元に送り届ければ問題ないか。と、再度説得しようとしたが……
「それにわたしの本当のパパはもういないから……」
「それって……」
本当の父親と死別してるってことだよな……?
まだ幼いのに父親と別れを告げてるとは……それならパパと呼んでもらうのも
「お母さんや私達を裏切って他の女と浮気したあんな男はパパじゃないし!!!」
「死別した訳ではないのかよ!!しかも怒ってる時だけ流暢に喋るな!?」
「ふぇぇ?パパ、死別ってなぁに?」
レーナはこてんと可愛らしい首を倒して質問してくる。
なんだよ……本気で心配して損した気分だ……。
「とりあえずお母さんのところまで一緒に行こうか。この世界の地理はわからないけど、聞いていけばわかるだろう。」
「パパ、エルフの里はエルフ以外ははいれ
ないよ?」
「マジか……」
「だから……わたしといっしょにいて……?」
うっ……涙目+上目遣いのコンボはずるいだろう……。
むぅ、仕方ないか……。
「わかった。そういうことなら一緒にいる。」
「やた!」
「ただ呼び方だけは変えないか……?例えば旭さんとか……」
流石にパパ呼びは周囲の目もあるので、違う呼び方をしてもらおうとレーナに提案するが……
「や!パパはパパだもん!」
即答で拒否された。
「じゃ、じゃあお兄ちゃんとか……」
「いーーやーーなーーのーー!!!」
「はぁ……。わかったわかった、パパでいいから泣かないでくれ……」
レーナの涙には弱い俺なのであった。
こうしてレーナと行動を共にすることにしたのである。
▼
「ふんふ〜んふふ〜ん♪」
レーナは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、俺の手を繋いで隣を歩いている。
パパ呼びを許可したのがそんなに嬉しかったのだろうか?
「パパ、そういえばこれからどこにいくの?」
隣を歩くレーナがそんなことを聞いてくる。
……幼女と手を繋いで一緒に歩くということにドキドキしていて、そこら辺考えてなかった。
それを知られるのは恥ずかしいから、俺は慌ててレーナに言葉を返す。
「そ、そろそろお腹すいてきたし、何か食べないか?この世界にきてから、まだなにも食べてないし。レーナはお腹すいてない?」
この世界に来てから、イベントが立て続けに発生した為、お腹が空いてしまったのだ。
パート帰りだったこともあるしな。
一応バッグの中に小さなグミは入っているのだが、異世界のバッグは目立つと思い、【無限収納】にしまっている。
「私もおなかすいたー!」
クゥーと可愛いらしいお腹の音を鳴らしながら、照れたような表情でレーナは答えた。
「じゃあ、何か食べに行こうか」
「うん!!!」
俺たちは露店エリアに入ったのだが、俺はあることを思い出した。
「そういえば日本円しか持ってないや。レーナ、このお金って価値があるか知ってる?」
そう言って財布から10000円をレーナに見せる。
日本のことを知っているハイエルフのレーナなら、エルフの里で日本円のことも聞いてると考えたからだ。
「パパ……こ、これって伝説の10000円!?これがあれば、むだづかいしない限り1年はよゆうでくらしていけるよ!?」
「そんなに価値があるの!?なら、先にお金に換金した方がいいのかもしれないな」
少しは価値があるだろうとは思っていたが、伝説と呼ばれる程とは……。
昔来たという日本人はそこまで日本円を持っていなかったのか?
しかし、それほどの価値があるなら換金した方がお得だろう。
「換金できる場所ってあるのかねぇ」
ボソッと呟いた俺の声が聞こえたのか、露店のお姉さんが声をかけてきた。
「換金場所探してるの?なら、冒険者ギルドに行ってみてはいかがかしら。冒険者になれば素材や宝物の買い取りもしていたはずよ?」
「ふぁ!?……あぁ、すみません。情報ありがとうございます。冒険者ギルドってどこにありますかね?」
「ここから北に行けば大きい建物があるから、そこが冒険者ギルドよ。お礼は気にしないで?換金したら私の商品買ってちょうだいな」
お姉さんはそう笑いながらお店に戻っていった。
なんかゲームの序盤で出てくる案内人みたいな人だったなとは言えないので、心の中で思うことにする。
「冒険者ギルドか……。よし、レーナ一緒に行こうか」
「うん!私はパパについていくよ!」
そうして俺たちは、冒険者ギルドに向けて歩き始めたのだが……。
「流石に人混みが激しくなってきたな……。レーナ、ちょっとごめんね」
そう言って俺はレーナを抱き上げる。
うわっ、幼い子ってこんなに体柔らかいのか。しかもいい匂いがする……って、ヤバイヤバイ。これでは俺が変態みたいではないか。
抱き上げられたレーナはというと
「きゃっ!ぱ、パパに抱っこされちゃった……!えへへ……パパぁ……」
蕩け顔で俺の胸に顔を埋めていた。何故かスンスン匂いを嗅いだり、ぎゅっと抱きしめてきたりしている。
抱きしめられると体が締まるので少し痛いが、これくらいは我慢しよう。
「レーナ、匂いを嗅ぐのは流石に恥ずかしいから、少し遠慮してくれ……」
「むーりーでーす。えへへ……」
……まぁ、幸せそうならそれでもいいか。
なんか本当に娘みたいに思えてくるから不思議だ。
子供ができたらこんな感じなのだろうか?
「……っと、ここが冒険者ギルドか?」
そんなことを話しながら歩いていると、大きい建物が見えてきた。
イメージとしてはお金持ちの豪邸と言ったところだろうか?
土地の広さだけでも、かなりの規模であることが伺える。
小市民の俺としては入るのに遠慮してしまうが、いろんな冒険者がその豪邸に入って行くので、俺たちもそれに倣った。
……他の冒険者達は俺と抱っこされているレーナを訝しげにみていたが。
これはテンプレくるかなーと思いながら、冒険者ギルドの扉を開けて、中に入っていった。
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