十年先の庭で待ってる

あともう少し早ければ

 私たちが作った薬は、かつては死を待つしかないといわれていた病からこれまで何人もの命、特に子どもたちの命を救ってきた。そのたびに何度も何度も頭を下げられ、お礼状なんてものが届いた日もあった。でも、どんな日にも思うことがある。

 薬を渡してあげられなかったこと、それでもいいと彼は心から思っただろうか。

 私の背中を押してくれた人は、私をここまで連れてきた人は、もう救えない。

 あともう少し早ければ、薬を届けることができたかもしれないのに。

 私は休む間もなく次の新薬の開発に取り掛かっている。1日でも早く薬を届けるために。

 私たちは未来の患者しか救えないのだから。

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