難しい共同作業
重く濡れた体、でもなくただうつぶせに寝かされていたオレは、うーんとうなり声をあげて上体を起こした。絵本にでも出てきそうなつる植物のアーチが頭上にある。そのまま体を起こして立ち上がり、服についた砂埃を払った。
服も髪も濡れていない。
ほえー、病院の外ならこんなこともあるのかー。……いやあり得ない。もしかして服や髪の水気が飛んでしまうほど誰かに引き上げられてから時間がたってしまったのだろうか。
驚くべきは目の前の光景だった。
目の前にはため池、あるいは泉と呼ぶべきところから水が不自然なほどに絶え間なく噴き出しており、1人で何やらボタンを押している人がいた。オレに気付いたその人は、操作の手を止めてオレの方に歩いてきた。
「おめえ、どうやって来たんだ?」
オッサンは肩を揺さぶった。
「いや、川に落ちて、そこから吸い込まれて……」
「川? 赤い橋のところか?」
「いや、特にとんなものはなく――」
落ちた時の状況をオッサンに説明した。
「何でそんなところの川から……一体ここはどうなってんだ?」
今度はオッサン側の話を聞くことになった。たまたま見つけたいい感じのこの庭らしき場所に何か作ろうと考えたオッサンたちは、後輩と一緒に必要なものを運び込んだのだが、数が合わない。怒り心頭になったオッサンは、自分が出ていって後輩たちを叱りつけ、自分1人でやると必要なものすべて自分で運ぼうと考えた。ところが2回目に来た時にはすべてその材料がなくなっている。後輩たちを疑って探させると今度は持ち込んだものがすべて出てくる。いよいよ分からなくなったオッサンは仲間のことを無視してすべて自分で作業を行う、と言ってここに潜り込んだ。なんと再び持ち込んだものは消え、1回目に運んだものと2回目に運んだものが同時に現れたという。
「それ、1人でできるんですか?」
「もう何時間も作業しているはずだがまだまだ動けるからな。時計もあんぽんたんになったが」
オッサンはちらりと腕時計を見せた。確かに秒針も動いていない。ここにきてから時計も壊れてしまったらしい。
「もしかしてご飯も食べてないんすか」
「ああ」
ずっと働いていても疲れないしおなかも減らない。確かにこの世界はどうなっているんだ。
「それよりお前、手伝え」
「大丈夫なんですか? 免許なんか持ってないっすよ」
「お前しかいないんだから仕方ないだろう。それに、素人にもできることを教えてやるよ」
見回してみても、オッサンの後輩という人たちどころか人っ子一人いない。
「……わかりました。どうせオレも暇っす」
戻ったところで助けてくれる人がいるかはわからない。無駄死にするくらいなら、誰かの役に立てたほうがいいに決まっている。無意識のうちに腰のあたりをさすっていた。
噴水を作るといっても池をそのまま生かす形にする。水を噴き上げる装置も取り付けるだけのものを用意したという。噴水装置は取り付けてあり、とりあえず小規模に上がっているのがそれだという。なぜか噴水が止まらないらしい。その問題はもう放置して、池を取り囲む岩の設置をすることにした。オレたちがやるべきは池の周りに大きな岩を並べることだけ。岩は少し埋まっているような格好にしたいらしい。オッサンの注文は細かかった。練習段階で合図に戸惑っていると、すぐにキレだす。文句を言いつつも、運んできた岩たちの設置にかかった。これもきれいにいかず、オッサンは1人イライラしていた。
「ヤメヤメ!」
オッサンは匙を投げてどこかへ行ってしまった。なし崩し的に休憩になった。いくら疲れを知らないと言えども、こんな長い時間働かせるならやはりワンマンな人なのだろう。
とりあえずオレは小ぢんまりした噴水から目を背けることにした。
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