【ホラー・高校/キミは絶対に騙される】俺が知ってるちょいと愉快な話 3

 俺たちの仲を邪魔する奴。

 そいつは、みどりと同じクラスの男子だ。


 大人びた見かけをしているが、中身はどうしようもないほどのあほガキ。

 勉強もスポーツも出来るからだろう、性格がゆがんでいて変質者の気がある。

 目上に対しては偉そうで、女はぜんぶ自分が好きだと思っているような奴だ。


 みどりの気持ちなんてまるで考えない身勝手な野郎で、俺は奴を見かけるたびにぶん殴ってやりたくなる。でも、俺は立場上、大きく出るわけにはいかないのだ。


 もし、教師が生徒を殴ったら体罰だと言われる。まして、みどりとの仲がバレるとさらにマズいことになるに違いない。だから、俺は彼女に気を付けるよう警告するだけで、なかなか行動に出てこなかった。


 そうしていたのが間違いだったんだと、いまは後悔している。

 こいつは俺が大人しいのをいいことに、どんどんみどりに近づいた。

 俺と彼女の秘密の関係にも気づいたらしい。

 生意気にも職員室までやって来て俺を呼び出した。


「先生、恥ずかしくないんですか。いいかげんにしないと警察に言いますよ」


 俺がロリコンだって言いたいらしい。ぶざけんな。俺の気持ちは遊びじゃない。

 それはみどりだって同じだ。いまは教師と生徒。でも数年すれば何の問題もなくなる。お互い、いまは我慢して冷静な付き合いをしているが、気持ちは心の奥深くで、ちゃんとつながっているんだ。


 邪魔者はお前だ。嫌われているのに気づかないなんて、ほんとに愚かなガキだ。

 でも、やっぱり俺は大人で教師、こいつは生徒なのだ。

 俺は愛想よく笑顔でとぼけてみせた。するとこいつは俺をにらみつけて、


「変態教師、ミーに何かしたらゆるさねーからな」


 そう、つばを飛ばしてきた。

 ミーというのは、彼女のことだ。まったく、変態なのはどっちだ。

 城山みどりという美しい名前があるんだから、ちゃんと呼べばいいのに。


「いいですか、僕は」


「うっせ。証拠だってあるんだからな。大ごとにしたくないって、ミーがいうから騒がねーことにしてるけど、マジでキモいかんな、おめー」


 はいはい。年頃の男子生徒は、なんでこうも口が悪いんだろう。

 自分を大きく見せたくてウズウズしてるんだろうか。


 でも、俺が彼くらいのときは、もっと大人で賢くて優秀だった。間違っても同じクラスの女子に声をかけて、休み時間も放課後もべったり付きまとうなんて迷惑行為、ぜったいにやらなかった。


 こいつは家に帰ってからも、みどりに付きまとっている。

 彼女がやっているSNSをかかさずチェックしているが、あいつは第三者の目をまるで意識してないコメントばかり送って、見ていてこっちが赤面する。


 彼女は優しいから、毎回まるで喜んでいるかのように返しているが、そんな態度をとるからバカが勘違いするんだと俺は思う。でも、そのことをうるさくいっても、年頃のみどりはイヤがるだけ。


 実際、前にちょっと注意したときは、涙目になって拒絶してきた。


「先生、なんでそんなこと」


 そういって、みどりは俺の手が届かないところに行こうとした。

 きびしく言い過ぎたらしい。俺はあやまったが、彼女はポロポロと泣き始めた。


 弱々しい姿に、つい抱きしめたくなったが、学校だ、誰の目があるかわかったもんじゃない。ぐっとこらえていたのだが、それからなんだ、みどりがアイツ――内田と休み時間のたびにべったりくっつき、頬寄せあうようにして長い時間話をするようになったのは。


 もちろん、俺はわかっている。城山みどりは俺にヤキモチを焼かせようとしたんだ。でも、あのバカであほでガキ丸出しの内田は勘違いして、すっかり彼氏面をしてやがる。俺とみどりの前世からの運命的なつながりが理解できないらしい。


 今日もデートだとわかっていたから、心配で休日返上でこうして駅前までやってきた。優しいみどりは強引な内田にイヤイヤ付き合っているのだろう。いまだって、急に怯えはじめ、大きく目を見開いている。


「やだ、いつから……」

「シッ、見んな。無視だ、無視」

「でも」


 城山みどりは、よろめくように内田の胸に手をやると、恥じるように俺の視線を避けた。内田は彼女の細い手を握ると、「行こ」といって戸惑うみどりを強引に引いていく。みどりは涙目で、何か言いたげな目を俺に向けた。その訴えるような眼差しに、いますぐにでも駆けよりたい気持ちになった。


 内田はそんな俺とみどりの間に流れる特別な空気に気づくと、当てつけのように彼女の肩をぐいと抱き寄せ、くさい口を彼女の可愛い耳に近づけた。何かをささやいる。彼女はきゅっと唇と引き結んでうなずき、潤んだ目で奴を見上げた。


 俺はベンチから腰を上げた。助けが必要なのかもしれない。

 普段は直接声をかけることは少ない。基本、俺たちはテレパシーで会話する。

 でも、いまは雑踏のせいで受信が悪い。


 俺はしつけのために、みどりを放っておくことも考えた。

 少しくらいなら危険な目にあるのもいい経験だ。

 調子にのるからこんなことになったんだと、わからせてやるのもいい。

 でも、もし内田が暴走したらと思うと、このままにしてはおけない。

 

 慎重な俺はつい迷ってしまい、その間に内田はみどりの手を引いて小走りで逃げていく。急いで一定の距離を保ってあとを追う。人混みに混ざり、姿を見失いそうだ。内田はみどりの肩を抱き、強引に人を押しのけていく。強引で無礼なガキ。奴は俺をまこうと必死なのだ。


 でも、いい。俺とみどりの仲は、そう簡単に引き裂くことはできない。

 俺はスマホを取り出すと、城山みどりの居場所を検索した。

 けど、いつもなら表示されるマークが見当たらない。

 何度も試す。やっぱりダメだ。


「あーあ」


 俺の大きな落胆に、横を通りすぎようとした若い女がびくりとする。

 それから、変質者でも見るような目を向けて、そそくさと逃げていく。

 まったく、世の中、勘違いする人が多くて困る。


 城山みどりも内田の悪い影響を受けて、俺のことを「ストーカー」と呼ぶ。

 なぜ、ストーカー? こんなに彼女を想っているのに。

 俺は彼女を尊重している。それが伝わりきってないらしい。


「でも、ま、いいか」


 切り替えが早いのが俺の長所だ。彼女とは、月曜になれば学校で会える。

 年上の俺には、くそ野郎の内田にはない大人の余裕があるんだ。

 みどりの好きなようにさせてやろう。

 内田とのデートも俺に対する、幼いかわいらしい反抗心からだ。

 なぜって、あえて俺とは真逆のタイプを選んでいる。わかりやすい子なんだ。


 俺は気分よく回れ右して家路に着こうとした。

 そこで。


「うわっ」


 何が起こったのか分からなかった。

 でも、次に目が覚めた時、目の前には――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る