【ホラー・高校/キミは絶対に騙される】俺が知ってるちょいと愉快な話 2

 今日はデートだ。待ち合わせ場所は、O駅の西口前。

 約束の時間まで、まだ十五分以上あるけど、彼女はいつも早めに来る。

 そろそろ姿が見えるかもしれないな。

 俺はベンチに座ると、のんびり待つことにした。


 俺と彼女は同じ高校に通っている。だから、休日くらいお互い離れて過ごせよって、思うかもしれない。でも、普段はあまり顔を合わせないようにしてるから、こうして近くで会える休日はとっても貴重なんだ。


 たとえば、彼女と廊下ですれ違っても、立ち止まって話すことはなく、ちょっと目を合わせるだけ。偶然を装って顔を見に行くことはあるけど、細心の注意を払ってさり気なく、俺はにこりともしないようにしている。


 俺たちの仲は周りには秘密なんだ。


 彼女は俺より年下で一年生だ。春に入学して来た彼女をひと目見て、俺は気に入ってしまった。こういうことはあまりない。いくら彼女がアイドルみたいに可愛くて、俺好みの清楚で真面目そうな雰囲気だとしても、いつもの俺は中身を重視するタイプ、見かけに惑わされたりしないからね。


 そんなわけで、ちょっと目が合っただけで、ドキッと心臓が跳ねあがったときも、しばらくは勘違いじゃないかなって思った。もしかして病気かもって、現実を認めたくなかったんだ。


 でも、気づけば彼女の姿を探して目で追っていたし、名前が城山みどりだってことも調べていた。ついでに誕生日が八月三十日で、血液型はA型、二つ下に妹がいるってことまでわかったけど、我ながらストーカーぽい情報収集力だと笑ってしまう。そんな俺を彼女は恥じらいをもって愛してくれている。


 それから、あっという間に時が過ぎて、いまは夏。


 そろそろ二人の関係をもっと進めたい気持ちがあるけど、年上の余裕をみせようと思って、彼女のぺースを守っている。今日のデートも、彼女の邪魔はせず、やりたいようにさせてやるつもりだ。


「あ、内田くん」


 ほら来た。駅から出ると、彼女が笑顔でこちらへ駆けてくる。五分袖のパフスリーブワンピースは薄手のブルーデニムで夏らしく爽やかだ。もしかして学校ではしていないメイクをやっているのかも。目元が少しだけ色づいて、唇もツヤツヤしていた。


「ごめん、待った?」

「いいや」


 素っ気ない態度に、彼女がちょっとだけすねたような顔をする。

 けど、腕を軽く出すとすぐに飛びつくように腕をからめ、小さな胸にぎゅっと引き寄せた。こらこら。大胆な子だ、勘違いする危険があるじゃないか。


「さ、映画行こ。楽しみだね」

「まあ」


 と、歩き出して、すぐにぴたりと止まる。

 なんだと訝ると、笑顔だった彼女の顔が険しくなっていた。


「内田くんが観たいって言った映画でしょ。私は違うやつがよかったのに」


 怒っている彼女も魅力的だ。でも、そんなことに見惚れている場合じゃない。

 まったく、俺はこうなるだろうと予想していた。

 みどりが観たがっていたのは、昔のアニメを実写化したもの。

 それが、予定ではラブコメ映画を観ることになっていたから。


「あの映画、もうストーリーわかってんだもん、つまんねーよ」

「なんでよ、流行ってるのに」

「そうだけどさ」


 いやな間があく。さっそく喧嘩か。


「内田くん、私といても楽しくないんでしょ」

「ちがうって」

「でも、怖い顔してる」

「それは」


 何か言いかけて、黙る。

 彼女は何か察したような顔をして。


「内田くん、ほんとは別れたいんでしょ。デートもイヤイヤなんだ」

「なんでそうなるんだよ」


「だって、私は……」とうつむく。

「もっと普通の子がいいんでしょ」


 あきれた。俺は苦笑する。


「それは関係ないって」

「でも、内田くんにまで迷惑かけて」


 沈んだ様子のみどりに、


「黙ってようと思ったけど」


 と、顔を近づけて。


「来てるんだよ、あいつが」

「え」


 さっとみどりはふり返る。それから首を左右に振って、あちこち確かめていた。

 俺はため息をつく。最近、俺たちの間を邪魔する奴がいるんだ。 

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