【ラブコメ/高校生・桜花シリーズ】策士は桜花の集結
拡散する種といやあ、やっぱ噂だろうな。
火のない所に煙は立たぬ、ていうけど、本人にはどうしようもない理由から拡散した噂ってのは、おれも気の毒だなって思うわけ。
誰のことだよ、て、まあ、
東 桜花っていやあ、珍獣みたいなもんで、めちゃくちゃおっかねー顔をした男子がいるんだけど、そいつについての噂ってのは人権無視も等しいんだわ。
やれ、生き血を毎日飲むだの、やれ、好みの女は手あたり次第食いつくすだの、桜の木の下には奴が殺した死体が層をなして埋まっているだの。
ありえねーって思うんだけど、実際、桜花を目の前にすると、あながち全部が全部嘘じゃないだろうって気分になる。なんつーか、現実離れした容姿なんだ、あいつ。爬虫類の擬人化みたいな、怨念のかたまりみたいな、……まあ、会えばわかんだけど、見た目で損してるとかのレベルじゃなくヤバいわけ。
で。
そんな噂を面白おかしく聞いてる分には、悪いけどこっちは良心なんてちっとも活躍しなくてさ、次々とオリジナルの噂を追加しちゃったりなんかしてね。桜花っていうヤツは、周りがつつき回すには最適のキャラなんだ。
と、他人事だった時代はおれも楽しかったわけ。
まーさか、好きになった子の幼なじみが、あの「東 桜花」だなんて、誰が思いますか? おれは電撃くらったみたいな衝撃で部屋でひとり「はあああああっ!!」て叫んじゃったよ。
その情報をくれたのは、長い付き合いの弥生。
いちおう、女子。
保育園のときから、ずーーっと同じ組、同じクラスの超くされ縁の子。
おれってさ、周りの目を気にして、特定の女子と会話しないんだけど、え、なぜって、やっかみの対象になるとかわいそうじゃんか、おれ、「みんなのハルキくん」なんで、女の子は平等に愛さないとさぁ……
って、そんなのはどうでもいいんだけど。
男子に裏で「番長」とか言われてる弥生は、おれが唯一、気軽に話せる女子。
おれもさ、特別視してる子はいないよーって愛想振りまいてても、女子の間で流行ってる話題も知りたいし、普通に男子以外とも会話したいわけ。
そういう意味じゃ、弥生は女子だけど、昔からつるんでるから気にならないのか、しゃべってても誰もジェラシー感じないし、こいつを裏でいじめたろうって子も出てこないわけ。おれも弥生とは素で話せることもあって、重宝してる。
こいつ、口悪いんだけど、なんだかんだで押しに弱いっていうか、頼めばなんでもやってくれんの、昔は宿題とかやってもらってたし……というと、おれがひどいやつみたいだけど、緊急事態のときはよ、マジで。
ヤバかったときに、あいつ頭いーしさ、一緒に勉強すると、おれの成績も上がるし、あいつはプリンとかクッキーあげると喜ぶしさ、ウインウインだっけ、そんなやつよ。
で、なんの話だっけ。
ああ、そうそう。桜花の話だよ、桜花。別名「オーカ」とかいう珍獣。
なんだかんだあってさ。
実は、おれ、あいつと仲いいんだよね。
あいつ、いい奴よ?
顔は狂ってるけど、中身は真面目で温厚だし、常識人なんだよね。
最初はさ、こいつを、いかにして排除するか考えてたわけ。
つうのも、好きだった子が、こいつのこと「大好きなオウちゃん」とか呼んでるっていうからさ。オウちゃんて誰やねんと思ったら、あの東 桜花なんだもん、心中おさっししてほしいわ。
おれはね、中三のときクラスに転校してきた、南
ほら、もう十分わかってるだろうけど、おれってカッコイイじゃん。国宝……いや、世界遺産クラスの美貌なわけ。で、そうなるとさ、まあ、生きてるだけでモテちゃうわけだけど、恋人選びも難しくなるわけよ。
南さんはさ、超絶美少女で完ぺきだからさ。この子なら、おれと付き合っても誰も文句いわねーだろうなって。そりゃあ、やっかみはあるだろうけど、あのレベルの美少女だからね、表立っての批判は誰もしないでしょうよ。
そういう、おれの優しい配慮もあって、南さんを彼女にしようと思ったんだけど、根回しも必要だろうって、弥生を通じてアピール&情報収集をすることにしたわけ。運も味方してんだろうな、弥生と南さんは小学生のとき、同じピアノ教室に通ってたと言うじゃないか、このつながりを利用しない手はないでしょ。
弥生は最初は「やだ!」って文句言ってたけど、そこは弥生じゃん、おれの頼みはなんだかんだで聞いてくれんのよ。で、南さんと仲良くなったあいつから、いろいろと彼女の情報を横流ししてもらってたんだけどさあ。
あー…れれー……? と、おれは首を傾げることになって。
すっかり「南 咲希」の美少女オーラにあてられた弥生は盲目状態らしく、気づいてないようだけど、人間まるごと理想通りとはいかないってわけで、完ぺき美少女だと思った南さんの欠点に、おれは気づいちゃってさ。
あの子、趣味へん。びびったわ。
グロいのが好きっていうの?
ゲテモノ好きっていうか、へんちくりんな見た目が好きらしいのよ。
あの「見たら子供が泣く」ことで有名なドロドロ星人のファンだっていうしさ。ドロドロ星人って放送コードにひっかかるレベルのキモさのせいで、一昔前に騒動を巻き起こしたやばい怪獣よ?
そりゃあさ、好きな子は好きなタイプのゲテモノ具合なのは知ってるよ。あのドロドロ容姿に可愛さを見出す人もいるって、そういう神秘さも理解してるよ?
でもさあ、おれの理想の彼女にはふさわしくない趣味なんだよねぇ……
けど、それに気づいたときには、弥生はもう南さんの虜で、しかも、おれと南さんをくっつけようとやっきになっててさ。「あのオーカを近づかせちゃダメ。あんたが彼氏になんの。あたし、全力で応援すっから!」てことで、南さんの目をおれに向けようとがんばってくれてんだけど……
うーん、おれ、もう南さんは興味ないというか、彼女にはしたくないというか。
弥生にはもう協力してくんなくていいよって、そう話したんだけど、聞く耳もってくんなくて、「あきらめんなっ」と逆に熱く励ましてくるわけ。
まいったなー、て思ったんだけど、南さんてさ、幼なじみの桜花のこと、たぶん好きなんだよね。あの珍獣オーカ、魔獣、魔界の王、地獄から復活した男、腐りかけのオーカをさ。
だってよ。南さんの趣味はドロドロ星人でしょ、桜花はドロドロ星人レベルで破壊力ある顔面でしょ。もうあれくらいのレベルじゃないと、南さんのハートには響かないわけよ。もうお似合いじゃん、くっつけちゃおう。
というわけで、弥生は「オーカの弱点を見つけてくれるんだね!」と誤解してたけど、おれは桜花をけしかけようと、こいつに近づいて親しくなった。
ちまたじゃ、おれが桜花の生贄になったとか、「オーカはついに美少年にも手を出し始めた」とか、新しい噂が拡散してたようだけど、話せば桜花は普通にいい奴でさ。見た目で苦労したせいか性格がビビりになってるけど、南さんっていう美少女の彼女が出来たら、そいつも改善すんじゃねーのかなと。
けど、桜花に付きまとう噂はそうとう根深くて、桜花本人も煮え切らず、南さんは南さんで、弥生がそばについて邪魔してくるもんだから、この二人をくっつけるのは簡単にはいかなかった。
そもそも、おれが仕掛けたことでもあるんだけど、猛烈な南さんファンになった弥生はウザったくて仕方ない。「サキがね、サキがさ。サキのため、サキには、サキがいるから、サキサキサキ」って、うるさい。
おれより、南さん優先なんだもん、つまんねーよ。
しくじったわー。あいつが、美形好きなのはわかってたのになー。
桜花と南さんを巡る、おれと弥生の攻防が約一年も続いて。
やって来た、春休み。
弥生が新しい計画を思いついた。南さんが大好きなキャラ、ドロドロ星人がショーをする「さくらフェスティバル」に、デートに誘うって計画。
弥生は周りの協力も得て、南さんが誰ともフェスティバルに行けないようにしたらしい。そこでおれが「いっしょに行こう」と誘えば、彼女は食いついてくるはずだとか。最悪な計画じゃんか、おれ誘わねーよ、ドロドロ星人、見たくねーし。
まあ、弥生に面と向かって歯向かう気はないから、「わかったー、ありがと、がんばるわー」って答えたけど、どうっすかなー。
て。
おれはここ数日、悩んでたわけ。
そこへ、弥生から連絡があったんだよね。
「やばいよ、
長い付き合いで数回しか聞いたことないような動揺した声に、「なんだって!!」とおれも跳びあがって驚いてしまった。
「さっきさ、咲希から連絡があって、『オウちゃんをさくらフェスティバルに誘うつもり。弥生も応援してよね!』だってさ。ほら、前にも話したじゃん、あの桜の木に、オーカが待ち伏せしてるんだよ!!」
桜の木とは、桜花が住む団地の裏山にある、四年に一度必ず満開になる桜のこと。その桜の下で、四年後再会すると誓い合った小学生がいて、それが桜花と南さんなわけ。ははん、どうやら、今日がその再会の約束をした日のようだ。
その約束話を、弥生を通しても、桜花からも直接聞いていた。お互い、相手がもうその約束を忘れているだろうなんてシケたことを言ってたが、どうやら上手くいきそうだな。
おれは、やったな、桜花、と喜んでいたが、弥生はそうはいかないわけで、「今すぐ咲希を追うつもり。あんたも来なよ!」と怒鳴って電話はきれた。
まったく。この電話、おれだけにしてるよな?
あいつ、顔広いからさ、心配だよ。手あたりしだい仲間集めてないよなあ。
まーた「打倒オーカだ!」て暴走してないといいけど。
弥生が間違った噂の種を拡散しないうちに、こりゃ、おれも急いで行かないとなー。はぁ、ヤレヤレ。
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