【現代ドラマ/男子・コメディ】愁いを知らぬ鳥のうた

「愁いってどういう意味?」

「は?」

「愁い、だよ、愁い。う、れ、い。秋の心のほうね、憂いじゃなくて」


「辞書引け、辞書」

「あー、はいはい。えーとね」


 ページをめくる音。


「愁い。もの悲しいさま。また、もの悲しい思い」

「あ、そ」

「もの悲しいってどういう意味?」

「辞書!」

「はいはい。もの悲しい、もの悲しい……あった。なんとなく悲しい」


 …………?


「なんとなく悲しいって?」

「知らんわ。なんだよ、急に」


「愁いを知らぬ鳥とはなんでしょう」

「は?」

「いや、愁いを知らぬ」

「じゃなくて。急になんだよっての」


「小説のさ、タイトルなんだ。考えてんだけど、浮かばなくて。まずは愁いについて調べようかなーって」


「小説?」

「うん。あれ、言ってなかった? カクヨムやってんの、俺」

「は?」

「カクヨムやってんの、俺」

「いや、繰り返されても。なに、何なの?」


「何かといわれても。ま、いいじゃん」

「いいよ、わかった。もう、なんでもいいから話しかけるな」

「え、なんでよ」


「いま授業中!」


 キンコンカーンコーン……

 二人は先生に叱られた。


 休み時間。


「愁いを知らぬ鳥って」

「またその話か!」


「まあまあ。たとえば、どんな鳥だと思う?」

「はい?」


「だから、愁いを知らぬ鳥とはどんな鳥でしょう」

「知らん」

「考えてよ、友達だろ?」


「お前の友達だと『愁いを知らぬ鳥』について考えないといけないというのなら、俺はお前の友達ではなくていいので、話しかけないでください」


「冷たいな。保育園からの仲なのに」

「(無言)」

「おーい、シカトやめてー、おーい、おいおい」


 しばらく経過……


「な、愁いを知らぬ鳥って、カラスじゃないかな?」

「カラスは頭いいから愁いを知ってるはずだ(げっそり顔)」

「え、頭良いと愁いを知ってんの!」


「知らん(逃げようとする)」

「待て待て(確保)」


「カラスではないと思うよ、たぶんですけど(諦め顔)」

「そうかな。じゃ、ウグイスは?」


 ホーコケキョ


「じゃ、それで」

「え?」

「ウグイスでいいんじゃないですか」

「どうして」


 …………(じっと見つめ合う)…………


「じゃ、ウグイスでいいんだね。奴は愁いを知らないんだね?」

「た、たぶん」

「ほんとに、ほんとに、いいんだね?」

「いいよ(どうでも)」


「そうか」

「うん」

「ホーコケキョは愁いを知らない歌ってこと?」

「えっ」


「だって、愁いを知らぬ鳥はウグイスで、愁いを知らぬ鳥の歌ってことは、愁いを知らない鳥のウグイスが歌を歌っていたはずで、だから、愁いを知らぬ」


「やめやめやめやめ。愁い愁い、うるさいわ!」

「えー…、協力してよ、愁いを知らぬ」

「うるせー、家に帰らしてーー、おかーさーーーん」


 カアカア……アホー……カラスが一羽、飛んで行く。


 翌日。玄関前にて。


「愁いを知らぬ鳥って」

「殺す気か!」


「え?」

「え、じゃねーわ。昨日から愁い愁い、うるせーんだよ。気が狂うわ」

「えー、じゃ、俺カクヨムに投稿できないじゃん」


「しなきゃいいじゃん」

「したいんだもーん、協力してよ」

「やだ」

「やだはやだ」


「やだはやだけど、やだはやだ」

「え?」

「ほら、頭狂ったろ? 昨日からお前は」

「あーはいはい。で、愁いを知らぬ」

「もー、ヤダ!」


「落ち着いて。とりあえず、これ読んで」

「あ?」


 スマホ画面を見る。


「……え?」

「え?」


 見つめ合う二人。片方は唖然、片方は笑顔。


「お前、これ……?」

「面白い? いやー、傑作でしょ」

「こ、これ……(を小説と呼ぶつもりか?)」


「そんなに感動したかい。あはは、天才だからね」

「お、おう」


「でも、もっと上手くなりたくて、感想が聞きたかったんだ」

「そ、そうか(感想だと?)」


「うん。常に向上心を持ちたいんだ、俺は」

「へぇ(引き気味)」


「やっぱりね、信頼している奴に感想もらうのは良いことだと思うんだ。上達するはずだしさ。だから、お前も厳しいことを言ってくれていいんだけど、そうか、面白かったか!」


「あー…うん(関わるのやめたい)」

「具体的にはどこが良かった?」

「え!」


「具体的にはどこが良かった?」

「ど、どこ……ごめん、もう一度読んでいい?」

「もちろん(笑顔)」


 数分後。


「うん。個性的だった」

「そうか、才能が隠しきれてないんだな」

「ああ、才能がありすぎて凡人の俺では感想を言葉にできない」


「あはは、そうかそうか」

「うん、まいったね(幸せな奴だな)」

「そんな褒めるなよ。やー、お前が友達でよかった」

「え」

「これからもよろしくな!」


 ふんふんふーん♪

 鼻歌の少年、背後には秋の空に遠い目を向ける少年ひとり。

 愁いを知る鳥、知らぬ鳥……ふんふんふーん♪  

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