【現代ドラマ/青春・ラブコメ】明日の黒板
※自主企画参加作です。https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054887207130
同タイトル・同プロットで書くという内容です。
◇
夏男って名前は好かないね。
そりゃあ、夏生まれで夏男ならいいさ。
でも俺、春生まれだし。
「いつ?」春子がノートから顔を上げた。
「春って、四月?」
「ああ」と俺。
「四月。四月の二十四日」
「ほんとに?」春子の元々大きな目が、さらに広がる。
「ほんとに二十四?」
「嘘、言ってどうすんの。俺の誕生日は四月二十四日で名前は夏男でーす」
ふざけて猿のモノマネをする俺。
春子は爆笑……ではなく、相変わらず目を丸くしているだけ。
「同じだ」
「え?」
俺は猿ポーズのままで訊き返す。
春子はノートに目を戻し、
「私も。二十四日生まれ」
「四月?」と俺。自分でもバカな返しだとは思ったけど。
「マジで。同じ? 俺といっしょなわけ?」
「うん」
にこりと笑う春子。その瞬間、頭の中で響き渡るファンファーレ。
運命。ぱんぱかぱーん。
テンション上がった俺は、「血液型は?」なんて口走っていた。
「AB型」
「うそだっ」
俺もAB型。これはもう、完璧に運命でしょ。
だって、誕生日占いでも血液型占いでも、結果は同じ。
そりゃあ、姓名判断なら違うだろうけど。
でも、でもさ。
「いっしょだね」
「だな!」
ふふって笑う春子に、俺のハートはドキュンと飛び跳ねて震えたのさ。
◇
――で、最初に告ったのは修学旅行のとき。
結果? んなもん、知りたがるなよ。
「ごめんなさい」
な? えぐるなや。
でも、これで諦める俺じゃない。
だって、運命の相手だからな、春子は。
二回目は廊下。そ、普通に廊下。
放課後に来てもらって告った。
今度はプレゼント付きで。
え、なに贈ったかって?
あれだよ、あれあれ。あのぉ……
「ごめんね?」
春子は引きつり笑いだ。
なぜって、たぶん俺が捧げている四角いケースが原因だろうな。
中身? 訊く? ゆ・び・わ。
だって、本気だから。もう、春子で決定なわけだから。
でも重かったな。うん、家帰って超反省した。
壁に手をついて、反省って。な?
んで、三回、四回と続くわけだ。
なにがって、告白だよ。
春子はさ、毎回頭を下げるわけ。
「ごめんなさい」
「ごめんね?」
「ごめん」
「無理」
「ないから」
「だから、ねぇって」
「うぜぇよ」
「ちっ」
……てな具合にな。
さすがの俺も、春子に彼氏ができた時は、告るのをやめた。
泣いたかって? な、泣くわけねぇし。
だって、運命なんだよ。
運命の相手なんだ、春子は。
待ってれば、最後は俺のところに来る。
束縛なんてしねぇよ。
好きに青春を謳歌すればいい。
俺は、待つ。
たださ。その春子の彼氏ってのが、超絶チャラ男でさ。
春子が嫌がってるのに、無理やり……ごにょごにょ……って奴で。
だから、ぶん殴ってやった。
え、なんで「ごにょごにょ」の現場にいたんだって?
そ、それは、あ、あれだよ。デ、デートって聞いて、そのぉ。
ま、見守ろうと思ってな。うん。
でも、見張っていてよかったぜ。春子、俺に「ありがとう」って。
嬉しかった。
まぁ、それだけなんだけど。
別に恩着せがましいことは思っちゃいない。
春子が無事でよかった。ただ、それだけさ。
――で、卒業だよね。
うん、語ることはもうない。
思いっきり泣いて、鼻水垂らして。
校歌斉唱は喉枯れるまで全力を尽くした。
お前、卒業できたんだなって、何人も言ってきたけど。
担任まで言いやがったけど。
卒業は俺にもやって来るわけ。
それで、春子に高校最後の告白をした。
昼下がりの教室。
俺たちだけがいる教室だ。春子はちゃんと来てくれた。
「ごめんなさい」
うん、分かってた。でも、いいんだ。
高校卒業したって、諦めねぇから。
でも、春子はさ。
「もう最後だよ」って。
なんか遠くに行くらしい。ずっと遠くに。
俺はもう春子に会えないってさ。
「海外? アメリカとか??」
でも、春子は首を振って、俺から目をそらした。
で。俺も気づいた。卒業、だもんな。
「今まで、ごめんな」
運命の相手だからさ。
粘ってれば、必ず振り向いてくれると思ったんだ。
ずっと、好きでいれば。
それを、ちゃんと証明し続ければ。
でも、運命ってハッピーだけじゃないのな?
「ごめんな。また、もし――」
俺に会いたいって思ったら。
そんときは、ハッピーな運命を楽しもう。
……って、ほら、俺はまた粘ってる。
俺は口を閉じた。頭下げて、「春子さん、好きでした」って。
最後の告白をした。
春子は、「うん」って答えて、笑ったよ。
――それで、俺は満足した。
◇
夜の学校て、怖いよな。
俺がそう言うと、お前は「じゃ、帰るか」って言ったよな。
付き合わせて、すまん。でも、一人より二人じゃん。
頼りにしてるよ、お前のこと。
俺たちは教室に忍び込んだ。
ひとつだけ、鍵の締まりが悪い窓があるのな。
ガタガタいわせりゃ、開くんだよ。
ちょうど桜の木がある場所でさ。満開だと、キレイだよな。
靴脱いで、窓をまたぐ。
理科室だ。春子と「誕生日いつ?」って話をした場所。
「おし、やるか」
俺は黒板に絵を描いた。
桜と春子。んで猿のモノマネをする俺。
春子は動物が好きだから、犬や猫も描いたんだ。
みんな仲良く、ニコニコしてる。最高の傑作。
「完成。記念写真撮ってくれ」
俺はいくつかポーズをためす。
「桜も一緒に撮るか?」
桜も写れば、春子が喜ぶと思ったんだけどな。
でも、お前は俺一人で十分だって。
だから、お前に向かってピース。
満面の笑みで元気な俺。
黒板にはこう書いた。
『春子から卒業します!』
お前、あの写真、ちゃんと春子に送った?
チャラ男。ほんと、チャラ男だわ、お前。
あの時、殴ってゴメンな。
でも、春子、嫌がってたし。勘違い?
嘘つけ。でも、あれで改心したらしいな。
よかったよ。マジで。殴ったかいあったわ。
俺はね、運命って信じてるよ。
占いも信じる派だしね。
だから、春子が幸せなら、俺も幸せだ。
「もし、別れたら」
俺は言ったよな。
お前に、言ったよな。
「もし、春子と別れたら」
――俺、許さねぇからって。
だから、お前から「忘れ物した」ってメールが来たとき、代わりにとりに行ってやったよな。春子とデートだっていうからさ、暇な俺が行ってやるって。
教室。黒板。絵はちゃんとあの後、消した。
でも、新しいメッセージが書いてあった。
何だと思う?
『明日も君が好き』
お前さ。
どういうつもり?
俺、言ったよね??
春子が好きだって。
で、春子はお前が好きだって。
それでなんで、お前は俺が好きなの???
殴られて目覚めた?
やめろ。勘違いだ。
チャラ男よ、思い出すんだ! チャラかった時代を思い出せ!!
――で、思うわけです。
あれから十年経って、お前らが無事、結婚という運びになったのは、すべて、わたくし、夏男の尽力によるものだと。
みなさん、夏男は春に生まれました。
では、なぜ夏男と名付けられたのか。
それは熱い魂と灼熱の太陽のような情熱を宿してほしいという両親の願いからです。よって、その両親の期待通りに育ったわたくしは、こうして親友と初恋の相手とが結ばれるために身を粉にして働きました。
わたくしの熱意と情熱。それが二人を強く結びつけたと思っております。
あの空に浮かぶ飛行機。
山を越えて行きます。海を越えて行きます。
お二人も、あの飛行機のように、どこまでも飛んで下さい。越えて下さい。
夏男はいつも、お二人の幸せを願っております。
どうか、どうか、末永くお幸せに。
桜くんと春子さんへ。 夏男より愛をこめて。
(おしまい)
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