【現代ドラマ/ラブコメ】火花を刹那散らせ

 ドーン、ドーン。打ち上げ花火。

 この大きな音、耳にぎゅわーんときて苦手なんだけど、お空にキラキラって火花が散るのは好きかも。


 ミウミウ、今日は彼ぴっぴと夏祭りデートなの。

 超楽しいな。るんるん。

 ミウミウの彼ぴっぴは、超・超・チョー、イケメンなのでーす。


「ケンちゃん、花火、きれいだね」

「ミウミウのほうが、きれいだよ」


 にゃーん。きいた、きいた?

 超やさしいじゃん。

 ミウミウ、超、幸せ。


「何か食べる?」

「えっとぉ」


 あんまりお腹空いてないんだけど、何か食べたほうがいいかな。

 ちら。

 にゃーん、やっぱイケメン。あんま、こっち見ないでほしいにゃん。


「ミウミウ、食べるより、花火をゆっくりみたいな」

「そっか。じゃあ、神社に行こうかな?」

「おっけー」


 ケンちゃんは、ミウミウが人混みに潰されないように、自分の体を盾にしてでも守って歩いてくれる。超、紳士なの。ケンちゃんとなら、ずっと遠くまで遊びに行けるぞ。


 って、あれ?

 金魚すくいの陰にいるのは……


「おい、お前。ミウミウから離れろ!」


 ガーン。なんで、たっくんがいるの!

 ミウミウ、ピンチ。


「お前、誰だ!」

「あ? お前こそ、誰だ」


 にゃーん、やばいよ。実はミウミウ、たっくんとも仲良しなの。

 でも、でも、でも。


「あんたなんか、知らなーい。ケンちゃん、行こっ」

「な、な、な」


 たっくん、ごめーん。

 でも、ショックでぷるぷるしても、ダメだよーん。

 ミウミウ、ケンちゃんのほうがいいもん。


「ミウミウっ」


 うるさいな。あんたなんか知らないって、いってるでしょ。


「ミウミウ、本当にあいつ知らないの?」


 え、えっ。もしかして、疑われてる?

 やっばーい。


「し、知らないにゃん」


 ミウミウ、お目目クリクリの上目づかいを発動。

 効果あり。ケンちゃんは、コロッと騙されたもん。


「そうか、知らないやつなのか」

 うん、はじめて見たの。

「ミウミーウっ」


 はぁ、ほんと、たっくんってば、しつこい。

 これには、ケンちゃんもプッツンしちゃった。


「お前、これ以上、ミウミウにしつこくすると、パンチするぞ」

「なにぃ。俺だって、連続パンチだ」

「爪で引っ掻いてやる」

「俺だって引っ掻いてやる」


 たいへん。火花ぱちぱち。

 ミウミウのために争わないで。


「かみついてやる」

「耳を食いちぎってやるぞ」

「目玉をつぶしてやる」

「血まみれにしてやろうかっ」


 にゃーん。やめて、やめて。


「ケンちゃん、喧嘩はよして」

 イケメンが台無しになっちゃうよ。

「ミウミウ、離れて見ててよ。やっつけてやる」


 ダメだってば。誰か、ケンちゃんとたっくんを止めて。


「覚悟しなっ」

「上等だっ」


 どうしよ、どうしよ。喧嘩が始まっちゃった。

 ケンちゃんは、爪でたっくんの顔を狙う。たっくんは、パンチを出すふりをしてケンちゃんに抱きつくと、足で連打連打のキック。


「ぎゃうわー」

「ふしぇぇ。おろろろぉ」


 どっちの威嚇の声も怖いよ。まるで、バケモンじゃん。


「やめてよ。みんなで花火見ようよ」


 ドーン、ドーン。

 花火の音に、騒ぎの声はかき消される。

 どっちもミウミウのことなんて、忘れたみたいに喧嘩をしてる。


「ケンちゃーん、たっくーん」


 ぎゃうわー、おろろろろぉ。


「もうっ。ミウミウ、おうち帰るからねっ」


 ぎゃうぎゃうぎゃう。


 なによっ、無視するなんてひどいじゃない。

 ほんとに知らないっ。おうち帰って、ママに抱っこしてもらおっと。


 ミウミウがピョンって、そばにあった塀に跳び乗ったとき、タコ焼きを売っていたおじさんが、バシャッで、ケンちゃんとたっくんに水をぶちまけた。


「こらっ。騒ぐな、野良猫ども」


 二匹は、ぴゅーって走ってっちゃった。

 へーんだ。ミウミウのこと、ほっとくなんて、どっちも嫌いだにゃんっ。

 さっ、早くおうち帰って、ゴロゴロしよっと。



(おしまい)

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