【ファンタジー/ほのぼの】クルポッポ星人とスッゲーナ博士 …3

 はっはっは。

 ヤッベーナ将軍は大得意です。


 将軍は不思議な生き物・クルポッポ星人たちを嫌っていました。不気味で気色悪いというのです。ヤッベーナ将軍は自分が一番優れていると思っていました。そして、自分はとても寛容で慈悲深いとも思っているのです。


 将軍は、クルポッポ星人たちをべつの優れた生き物へと改造することにしました。抹殺するほうが簡単です。それを全部無料で改造してあげるのです。彼はクルポッポ星人たちは泣いて喜ぶと思い、自分の寛大さに大満足しました。


 まず、ヤッベーナ将軍は、クルポッポ星人たちを男と女に分けました。

 そうして、パートナーはひとり、それも男女でなければならないと言いました。

 それが一番秩序のある、正しくて最新の仕組みだからだそうです。


 さらに、ベビィたまごも廃止されました。ベビィは女のクルポッポ星人しか産めなくなり、男のクルポッポ星人になってしまった星人は、産みたいと思うだけでもダメだと教えられました。残念がるのは、気味が悪いことだというのです。


 無事生き残っていたティティとププは男女に分けられ、夫婦と認められました。

 それでも、ティティが男に、ププが女になってしまったのは不思議です。

 二人のベビィ、ティププはティティのお腹にいたのですから。


 他のクルポッポ星人たちの中には、せっかく仲良しのパートナーがいたのに、男同士、女同士になってしまった星人もいました。彼らは別れるように言われ、泣く泣くペアやチームを解消しました。

 

 他にもたくさんのルールが出来ました。あれもダメ、これもダメ。

 正しいことは、ひとつだけ。ヤッベーナ将軍がすべてを決めるのです。

 

 あるクルポッポは仕事をするように命じられました。

 あるクルポッポはたくさんベビィを産むように命じられました。


 仕事も色々ありましたが、どの仕事をするかは自由には選べません。ベビィもただ産むだけではいけないのです。望まれた理想のクルポッポを産まないと怒られるのです。それはとても難しく、不可能なことですが、そんなことは、新しい世界では関係ないことなのでした。


 自由に暮らしていたクルポッポ星人たちは、新しい仕組みに混乱しました。

 息苦しくなって、体がとろろーんと溶けてしまう星人までいたほどです。


 そんな中、スッゲーナ博士はというと。

 こんなのはひどすぎる。クルポッポは自由であるべきだ。

 怒りが爆発、ぷんぷんしていました。


 彼はまず改造されたクルポッポ星人たちの性別を、好きに変更できるようにしました。これだけでも多くのクルポッポ星人が喜び、心に決めたパートナーと暮らせるようになりました。


 けれど、すぐにヤッベーナ将軍にバレてしまったのです。スッゲーナ博士は、なるべく多くのクルポッポ星人たちを救おうとしただけですが、ヤッベーナ将軍は、博士を牢屋に入れると宣言しました。そして博士に、社会のために働くよう命じました。そうすれば命だけは助けるというのです。


 けれど、スッゲーナ博士はそんな生活をおくる気はありませんでした。

 スッゲーナ博士は、ヤッベーナ将軍が作った社会が嫌いだったからです。

 彼は昔のクルポッポ星人たちの暮らしが大好きでした。


 スッゲーナ博士は穏やかなクルポッポ星人たちのため、今までこの星に残って戦っていました。でも、もうこれ以上の戦いは無理のようです。スッゲーナ博士は天才です。ですから、脱出方法だって見つけていたのです。脱出方法とは、この星から出ていくことを意味しました。


 スッゲーナ博士は涙を流しました。

 悲しくて寂しくて、とても残念で悔しかったのです。


 それでも頑張って、最後の発明をしました。

 最後の最後まで、彼はクルポッポ星人のために働きました。


 どん、どん、どーん。


 打ち上げ花火です。花火が消えると、空からはキラキラとした銀色の粉が舞い落ちてきました。この粉が、博士の最後の発明です。銀の粉を浴びたクルポッポ星人たちは、自分がクルポッポ星人だったことを忘れてしまうのです。


 これは、記憶を消す粉。博士からのクルポッポ星人への、最後のプレゼントです。新しい暮らしのためには、過去の記憶は消してしまったほうがいいと、スッゲーナ博士は思ったのです。


 すでにヤッベーナ将軍により、すべてのクルポッポの歴史や資料は燃やされていました。記憶が消えたとき、かつてのいた本当のクルポッポ星人たちは、完全に消滅してしまうのです。


 どん。どーん。どどどーん。

 夜空に花が咲いています。


 花粉のようなキラキラとした銀色の粉が、クルポッポ星人たちに降り注いでいきます。誰もが博士の発明だと気づきました。けれど、どんな発明で、どんな効果があるかは知りませんでした。それでも美しい光景を見せてくれた博士に、すべてのクルポッポ星人たちが感謝して喜びました。


 こうして、すべてのクルポッポ星人たちが消滅するのを見届けると、スッゲーナ博士はひとり静かに、この星から旅立ったのでした。


 記憶が消えたクルポッポ星人は、新たにチッキュージンと名乗るようになりました。チッキュージンはヤッベーナ将軍のお気に入りです。言うことを素直に聞きますし、同じことばかり繰り返すのが好きなので、とても扱いやすいのです。


 そうして、長い月日が経ち、ヤッベーナ将軍がいなくなったあとも、チッキュージンたちの住む星には、将軍と似たような人物が現れ、そして、次々と消えていきました。もうずっとずっと、昔のお話です。


 そして、いま。


 多くのチッキュージンの中には、自分がクルポッポ星人だったことを思い出したり、気づいたりする者たちが登場し始めました。


 雲を見たとき、虹を見つけたとき。

 風が吹き、花の香りがしたときに。

 心がポッとぬくもったときにも。


 すべてを思い出すわけではありません。

 けれど、ふと、心に芽生えるのです。

 この世界は、間違っている。もっと素晴らしいはずなんだ。

 そんな風に思うのです。


 クルポッポ星人だった私たちは、無意識のうちに、スッゲーナ博士に会いたいと思います。彼の心を懐かしみ、つぅと涙が流れます。


 私たちの願いは、遠からず叶う日が来ることでしょう。

 なぜなら、スッゲーナ博士はクルポッポ星人が大好きなのですから。

 空がきらりと光るとき、スッゲーナ博士の乗る宇宙船が見えるかもしれません。


 ハローハロー。こんにちは、博士。

 こちらは、クルポッポ星人です。

 あなたに会いたくて、いつも空を見上げています。



(おしまい)

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