痛みの意味

小林 一茶

傷跡

 「切った。」

 たった一言だったが、その一言で彼女が自分を傷つけたのだということが分かった。

まだ若く子供だった私にもその行為に至る動機が彼女の心と人生に深く関わることだけは理解していた。だから聞くことはしなかった。

その他のこと、身体の状態、心の状態、常習性、私が聞いたことを彼女は世間話をするように話した。

「焼いたから血は出てない。」

「切ったら少し落ち着いた。」

「いつもやってる。」

彼女はそう語った。

当時の私は、彼女の身体の痛みも心の痛みも想像することすら出来なかった。

ただ、今ならば少し、ほんの少し彼女の気持ちが分かるような気がする。


確かめたい。

自らを切り裂いてでも、血を流してでも、肌を焼いてでも、自らの存在を。自分はこの世界で生きているのだということを。

過去の私は憧れていた。

どんな方法であれ、自分というものを彼女は表現できるのだと。

現在の私は想っている。

自らを確かめる方法が欲しい、彼女の様に、と。

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痛みの意味 小林 一茶 @kobayashi_issa

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