『検診』

 スーツ姿の男が、ウィンレッジ精神科医院の診察室から足取りも軽く出てきた。後ろで結ぶ程に伸ばした金髪が目を引く吊目男は、親しげに別れを告げた後、出入り口の所で警備員の肩を馴れ馴れしく叩いた。

「おし、ようやくコイツが外せる。毎度のことだけどさ、鬱陶しいったらないね」

 そう言いながら、海色に光る腕輪を警備員に差し出す。これは魔術の暴走を防ぐリミッターで、両腕に付けて過剰な魔力が放出されると腕輪が吸収してしまうのだ。やや厚みがあり、付け心地の評判は悪いが、見た目にしては軽い。

 確かに預かった、という旨の返事だけすると、また警備の仕事へ戻りますとばかりに姿勢を正した。

「おいおい、今度の警備員は随分愛想がない奴だな。オレが人事担当ならクビを飛ばしてるぞ」

「ご安心を、スラン捜査官。この現場は今回の面談期間だけで、私はすぐに転属です」

「ころころ人を変える方が、危険じゃないのか?」

「あなたのような優秀な捜査官が仕事に戻れないことの方が、よほどこの国にとって危険だと思いますが」

 心にもないことを、と皮肉を受け流したスラン捜査官は、ポケットに手を突っ込みながら診療所を後にした。

 その入れ違いにやってきたのは、初々しい雰囲気の男性だった。捨てられた子犬のような童顔をした眼鏡男で、口元は見事な波線を描いている。

 少し意地の悪い笑みを浮かべたスランは、その縮こまる背中をひっぱたいた。

「背筋はちゃんと伸ばせ。国家公務員様ともあろうものが背中丸めて歩くなんて、そこの警備員に笑われるぞ」

「は、はい! 努力します、ヴァーハドル捜査官」

「お前、精神科に就職面接でもしに行くつもりか? 不審者として捕まる前に我に返っとけよ」

 そんな忠告を残して去る先輩を見送ると、咳払いが聞こえた。振り返ると男性を警備員が訝しげに睨んでいたので、童顔の男性は慌てて両腕を差し出す。

 普段はここまですることはないのだが、検診期間など十人十色の人間が押し寄せる場合などは、スタッフの負担軽減も兼ねて用意されるのだ。

「あ、メイツェン捜査官だぁ! いらっしゃいませー!」

 診療所らしくない底抜けに明るい声が、新人捜査官フィレル・メイツェンを出迎えた。



     *



 ここ一週間、ウィンレッジ魔術精神科医院は珍しく人の出入りが多くなっていた。捜査官に義務付けられた定期面談の期間は、いつもこうなる。

 これは簡単に言えば精神の健康診断である。捜査関係の仕事とは、日頃から緊張感に苛まれ、自然と精神衛生が崩れがちになってしまうものだ。

 そこで定期的に精神科医が面談や対話の機会を設け、個々人の問題を探り、それぞれ適切に対処していく。こうした支えもあり、国家の安全という重責を担う彼等は、なんとか踏み止まりながら職務に励んでいる。

 中でも魔術師はその頻度が他の課よりも多く設定されている。魔術を行使する際に消耗するのは、漠然とした言い方をすれば精神力だ。精神的な負担が特に大きい彼等へのサポートは、以前から他分野の捜査官より重視されてきた。

 これらの手厚いサポートは、国家が任命した魔術師達の起こす問題を非常に恐れていることの裏返しでもある。暴走すれば一件や二件の火事程度の規模ではまず済まないのが彼等であり、任命責任も計り知れないからだ。

 人の心を制御するのはまず不可能だし、かといって簡単に魔が差してもらっては困る。人権と安全を両立させるため、過剰とも言える頻度で検診を受けることを義務付けたのだ。

 この医院のように、捜査局の施設と併設されている場合は、捜査官の負担となりにくく、今ではかなり重宝されるようになった。



      *



 フィレル・メイツェンは、本部に入局して半年も経たない新人だ。初めての心理査定とあってか、待合室で意味もなく周囲を見渡すなど、緊張した様子が表出していた。

「ん? どこか汚いところでも見つけちゃった? ちゃんと掃除したはずなんだけどなぁ。意外とフィルさんお姑さんタイプ?」

 白衣の少女が、赤く太い縁の眼鏡をいじりながら問いかける。

「とんでもないです、ティモアーナさん。初めてだから落ち着かなくて、つい挙動不審みたいに」

「もう、もっと気軽にモアって呼んでくださいよー。あ、じゃあ私もフィルって呼ぶから、それなら良いですよね!」

「え? あ、まあ、学生時代はそう呼ばれてましたから。って、問題はそこじゃなくて」

「私だってこのお仕事初めてそこそこ長いんですから、よーくわかってるんですよ。フィルみたいな変に緊張した人は何人も見てきました。だからこそ言わせていただくと」

 CG合成で鼻を伸ばしたらさぞ面白い絵になるだろう、という具合に胸を張るモアに、フィレルは乾いた笑いを返す。

「頭捻って悩んだって時間の無駄。なるようになーれ、って頭の中で何度も唱えていれば、自然と大丈夫の魔法がかかっちゃうんですから」

 幼稚園児扱いされた、と新人捜査官の気持ちは少し沈んだが、落ち込んでいるうちに診察室から呼び声がかかった。助かったような、もう少し心の準備をしたいような、やや噛み合わない気持ちを抱えつつも彼は答えながら席を立つ。

「あ、もし嫌じゃなかったら私も一緒に居ていいですか? いろいろとお手伝いがしたいんですけど、すぐ対応したいから」

「え? あ、ああ、うん」

 普通、精神科の診断は一対一が原則ではないのか。そんな疑問に首を傾げつつ、それでも心細さは紛れそうだと、フィレルは同席を許可した。

 まるで三者面談で母の同伴を喜ぶかのようで、妙な感覚はあったが。



 中では、白衣の男性が机上の書類と睨めっこしていた。まずは挨拶をとフィレルが身を乗り出す前に、隣のモアが堂々と診療室の主を指差した。

「頼もー!」

「ドージョー破りしたいなら、二区画ツーブロック先にカラテ教室があるから、そこを尋ねなさい」

「えーっとそれじゃあ……金を出しやがれーい!」

「君とて、診察室の机の下に緊急通報ボタンがあるのは知っているね? あと、昨日僕に高いコース料理を奢らせておきながら、まだ僕から搾り取る気なのかな?」

 突拍子のないモアの発言を見もせず退けた主は、微笑みながらフィレルを迎え入れた。

「やあ、こんにちは。よく時間を作ってくれたね」

「とんでもないです、ドクターパッチ。我々捜査官の義務ですから」

「おっしゃる通りだが、中には理由を付けて来ない人もいるんだよ。しっかり約束通り来訪してくれた君は、とても優良な来客だ」

 穏やかに応対する白衣の男性は、その雰囲気に見合わぬ黒い眼帯をしていた。

 かつてこの医師と対面した時も、フィレルはその容貌に驚愕した。右目を頬まで覆うほどのそれでも、隠しきれない火傷の痕が痛々しく、どうしても視線が向いてしまう。

 恐らくパッチ医師はそれに気づいているだろうが、嫌な顔一つせず緩やかな空気のまま診察が始まった。



 一通りのことを聞き終えたのか、パッチは一息つこうと、モアに何か飲み物がないか尋ねた。するとせっかくだから三人分用意しようと、彼女は足取りも軽く診療所内にあるというクーラーボックスへ行ってしまった。

「本当に何も話したいことはないのかな?」

「確かに僕はまだ新人で、ロクな仕事を振られない下っ端ではありますが、腐っても捜査官です。吐きたくなるような弱音なんてありませんよ」

 話したいことが何かあるか、というのはこの間にも聞かれたことだ。フィレルはあくまでないと答えたが、どうにもパッチはその返事にしっくり来ていないようだった。

 彼は深くため息をついて、眼帯越しに右頬を指で突付いた後、決心したように左目でフィレルをじっと眺め始めた。

「定期的な検査がどうしてあるか、フィルは知っているかい?」

 唐突に愛称で呼ばれて少し面食らいながらも、フィレルは頷いた。魔術師の暴走を防ぐため、定期的な検査を求められることを知らない捜査官はいない。

 パッチはその答えに一応頷いたが、満足した顔はしていなかった。回答者たるフィレルが妙な間の連続に困惑していると、問いかけた当人はようやく話し始めた。

「国の思惑はさておき、僕の目線ではうちの敷居を跨ぐハードルを下げる機会作りだ。木を隠すなら森の中、と言うと言葉が悪いかもしれないが」

 パッチは、身振り手振りを交えながらも熱心に語りかけていく。

「もし査定に関わると考えているなら考えを改めて欲しい。溜め込んだ結果起こる問題の方が、君の人生に暗い影を落とす。今のうちに吐き出したいものがあるなら、悩みの規模など気にせず遠慮はしないでくれ。ここはガス抜きの場なのだから」

 パッチの放つ一つ一つの言葉を、フィレルはじっくりと噛み締める。

 フィレルは今日、捜査官として弱音を見せないように、という気持ちでここを訪れた。診断次第ではバッジを一時的に剥奪されるし、最悪復帰できない可能性だってある。

 個人の人生を左右しかねない重責を担う魔術精神科は、最も魔術師に嫌われる医師と言われている。メンタルには自信のないフィレルも、職業上相容れないとパッチにはマイナスイメージしかなかった。

 しかし今、フィレルはこの人であれば、自分のくだらない胸の内を明かしてもいい気がしてきた。

 流されやすい性格だからこそ、

「……先日、現場で足を引っ張ってしまって」

 それからしばらく、フィレルは堰を切ったようにいろんなことを打ち明けた。

 仕事での不安、失敗、厳しい上司、自分よりもずっと仕事ができる先輩達。

 そして、教育係に当てられているスラン捜査官に対する恐れ。

 不甲斐ない自分をどうにかしたいと焦る気持ちと、空回りする現実。

 そして、それらの態度は自分への期待からくるものだとわかっているのに、応えられない不甲斐なさ。

 少しだけ弱音を吐いてスッキリしよう、そう思っていたはずが、気づけば数十分も経過していた。

「あ、すいません、つい」

「僕が要求したことなんだから、フィルが後ろめたく思う必要はない。しかしなんだね、自分のことを思い出したよ」

「え、どういうことですか?」

 フィレルに問いかけられ、パッチは少し哀しげな笑顔を向けた。

「今の僕は業界的にはヒヨッコもいい所だ。二〇代なんて、駆け出しレベルだからね。ここで仕事をし始めた時は特に周りが気になってね」

「そういうもんなんですね……って、二〇代?」

 言ってなかったかな、と聞き返されて、フィレルはいつぞや食堂で談笑した時、年齢の話をしていたことを思い出した。あの時はさして疑問はなかったが、今となっては年齢の鯖読みを疑ってしまう。

「まあ、二六歳という年齢はあくまで推定でしかないが。どこで生まれたかもわからない僕が一応の信頼を得られたのは、全て父のコネだよ」

「父……それって確か、アルテム・ウィンレッジ教授?」

 魔術師ならその名を知らない者はまずいない。機械技術と魔法技術の融合、水と油なはずの二つの協調を大きく深めた偉大な研究者、それがアルテム教授の遺した功績だ。

「素性不明な僕を拾ってくれた養父だ。我が父ながら、説明しようとすると褒め言葉しか浮かばない。まあ、その末路は一転して軽蔑されるべきものだが」

 一方で、それに見合わぬ最期は、魔術師なら恐らく誰もが知っている。心を病み魔術の制御が不可能になったアルテムは、自らをシェルターに封じ、間もなく魔力暴走によって消し炭になったという。

「父親自慢はさておき、コネのおかげで年齢に見合わぬ大抜擢となった僕は、意地の悪い同業者には大層妬まれた。患者からは若すぎると訝しがられるし、毎日自分の経験不足を嘆いては、一日でも早く信頼の置ける大人になろうと必死だったよ。

「今のドクターからは、まったく想像がつかないんですけれど」

「買い被ってくれてありがとう。でも、君にそう見られるくらい図々しい人間になれたのは、健在だった頃の父が見かねて手紙をくれたからなんだ」

 両手の指で正方形を描くパッチのジェスチャーを見て、フィレルは思わず表情が緩んだ。

「手紙かぁ、良いお父さんですね」

 アルテムが逝去したのは五年以上前だ。既に紙媒体をなるだけデータに置き換える風潮が出来ていた時分に、電子メールではなく手紙というのは珍しい。

「父は自分で自分を責め続ける僕の心を案じてくれたんだ。今思うと、その道の権威とは思えない親馬鹿な手紙だったな。はははは」

 と、和やかな笑い声をあげた後、パッチは急に椅子を前に引いてフィレルの元へと近づいた。

「自ら己の人生に見切りをつけた愚者の言葉を用いるのもなんだけれど、自傷行為で安息を得るなという言葉は、僕の人生のモットーになっているよ」

「いや、そんなリストカットみたいな真似まで……まさか、ドクターが?」

「自虐で己の価値を見失うな、ということだよ。今の君は、自分を常に説教台のような所に置いてはいないかい? さっきの話しぶりを聞いていると、僕にはそう聞こえてしまったんだが」

 フィレルの背中が丸まり、萎れた花のような体勢になっていった。そんな時、扉をノックする音が聞こえてパッチが応じると、飲み物を探していたモアがペットボトルと紙コップを引っさげてやってきた。

「丁度良かった、フィルに美味しい飲み物をあげておくれ」

「了解であります先生。フィルさん、聞こえますかフィルさん」

「患者で遊びたいなら、僕が代わりに相手になるよ」

 笑顔で右手から放電してみせるパッチに、モアは姿勢を正して素直に飲み物を入れ始めた。

「自分で自分を認めるのは難しい。他人から図々しい、自惚れだと言われても、己の尊厳を見失わない強さが必要だからだ」

「……尊厳、ですか」

「言い換えれば、個人の聖域のようなもの、というべきか」

 説明しながら、パッチは飲み物を入れ終えて直立不動になったモアの白衣を掴み、自分の隣に引き寄せる。

「モアは、普段こそ僕の助手という立場に甘んじつつ、上司を玩具にする素っ頓狂な娘だ。しかし、本業はトラップ魔術の専門の分析官なんだ。分野がやや専門的だから君達のチームに要請される機会はやや少ないが」

「やだもう、先生ったら大胆……」

「こんな娘だから、信用しづらいだろうけれど、本職の時のモアは自信と責任を持って取り組んでいる。悔しいことに新人の頃の僕より堂々としながらね」

 顔を赤くして身を捩る助手に飲み物を与えて手懐けてから、パッチは改めてフィレルと向き合う。

「モアの図々しさは、ある意味悩んでいる人には必要な考え方だ。突き詰めれば精神的な問題とは、概ねの場合において“気にしなくなること”がゴールだからね」

「でも、自分でもわかることを人から言われるのは、やはりダメージが大きいというか」

「それは自虐癖がついた人の、メジャーな動機の一つと言えるだろう。痛みに慣れればつかの間の安心は得られる。だが、それは君を大切に思っている人には悲しみを与える。まるで麻薬の常用だよ」

「大切に、思っている人、ですか」

 フィレルがまず思い浮かんだのは両親の顔、次に自分を可愛がってくれた祖母の顔だった。でも近況報告では弱音を吐いたことはないし、友人とネット経由で連絡を取り合う時も、冗談を交えつつも取り繕って話している。

 少なくとも自分は、近しい大切な人を悲しませるようなことは謹んでいるはずだと頭で再確認する。しかし、それを察したためか、パッチは自分達を指差しながら言った。

「まず目の前の僕達は、フィルを大切な友人だと考えているよ」

「え、お二人が?」

「たかが稀に昼食を共にする程度の仲で、友人面をするのは迷惑だったかな」

「い、いいえ、とんでもないです。光栄です」

「そう君が言ってくれるなら、友達として改めて、今の僕の気持ちを理解して欲しい。きっとそれは、君の同僚も程度は違えど同じ思いのはずだよ」

 と、パッチが自分の胸を指して言った。気づけば隣にいるモアも、寂しそうな顔をしながら、何か言いたげにしている。

 そういえばモアは、診察が始まる前も元気づけてくれていたなとフィレルは思い出す。確かに行動を共にした時間が長いとは言えないが、そこまで考えてくれたことは嬉しかった。

 いつ辞めさせられるともわからないから、自分のダメな所を少しでも改善しよう。そう考えていたフィレルは、まったく周りが見えていなかった。一番暗いのは蝋燭の下である、とはよく言ったものだ。

 今まで自分のことだけに必死で気づけなかった思いがどれだけあったか。一番怖いと思っていたスランのからかい文句も、本当は新人を解きほぐすための彼なりの行動だったのかもしれない。

「君が健全な姿を見せてくれるだけでも友にとっては一番の安心となる。自虐の快楽から逃れるのは難しいが、いつかは卒業して欲しい。医者としてよりも前に、友の一人を自称する者としての願いだよ」

 パッチの穏やかな笑顔と親身な言葉に、フィレルの強張った心身が少しずつ和らいでいく。自分で自分を非難する声はまだ頭の中で反響し続けているが、それも少しずつ消えていくかのようだった。

「……はい、本当にありがとうございます。少しだけ、すっとした気がします」

 少しずつ、心の中の雲が晴れていくのを感じながらフィレルが一礼する。とそこに、今までウズウズとしていたモアが飛び込んできて、彼の右手を両手で包み込みながら言った。

「フィル、大丈夫の魔法です! こんな簡単な魔法、みんな使えるんだから、遠慮なく試してみてくださいよね! というか、困ったらいつでもウェルカムですからね!」

 目を潤ませるヘンテコ助手の目を見ながら、フィレルは今出来る限りの笑顔で頷いた。




 診療所を出て、フィレルは大きく伸びをする。ほんの少しだけ、自分の腹の中に溜まっていたモヤが晴れたような気がした。

 晴れている日すら曇って見えた空の風景、今日は本当に曇り空だ。しかし、どこか清々しい気持ちで眺めることができた。

 と、フィレルが空を満喫していると、視界上に何かが飛んできた。

 自分に向かって投げ込まれたものだと気づき、思わずそれを掴むと、自販機で売っているスティック菓子だった。

「退院祝いだ、ありがたく受け取りな」

 と不敵な笑みを浮かべていたのは、スラン捜査官だった。ずっと待っていてくれたのだろうか。しかもこの雨が降るかも知れない空の下で。

「お前、俺のこと暇人だと思っただろ? 今は普通に休憩時間中だ」

「いや、わざわざ僕のことを待っていてくれたのかと、少し嬉しくて」

「何自惚れてんだ。間違えて食いたくもない菓子を買っちまったから、腹いせに押し付けただけだ。本当のことを言うとお前は毒味だ。美味かったら俺に返せ」

 開けてみると、中にはチョコバーが一つずつ梱包されていた。それをさらに開けて一口食べてから、フィレルは素直に感想を述べる。

「これは、先輩が甘い物が好きか嫌いかによるのではないかと」

「よくわかった、一本だけよこせ」

 と、すれ違い様にチョコバーを一本ひったくりながら、スランは捜査局へと入っていった。

 毒見役扱いされたフィレルの顔は、どういうわけかまた笑顔になっていた。

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