エピローグ
今後
「おや? 織田さん、わざわざ待っていたのですか」
「ああ、それで……終わったのか?」
「ええ、つつがなく」
「そうか」
少年との面談を終え、部屋から出ると織田が車によりかかった状態で外に待っていた。
今回の事件にまつわる『軽犯罪』の数々やあの少年が関わった五年前の事件の情報収集など今が一番忙しいはずだが、自分で逮捕したからなのか、やはり気になっていたようだ。
「どうだった?」
「どう……と聞かれましてもと言いたいところですが、なんと言いましょうか。今回の『事件』は全て悪い方向に連鎖してしまったという印象を受けました」
そう、今回の『事件』で『主犯格』だった彼らも元を正せば『別の事件』での言わば『被害者』だった。
それが時間の経過とともに『憎悪』や『虚無感を満たすため』など様々な要因が重なり、今回に発展してしまった結果だった様だ。
「今回の事件は防ごうと思えばいくらでも防げた。これは俺たちの失態だ。悪かった」
そう言って織田は賢治に頭を下げた。
「いえ、私も最初の時点でちゃんと『事件』として捉えておくべきでした。結果として、夢莉さんにも怪我を負わせてしまい、ご迷惑もたくさんおかけしてしまいましたし……」
賢治にも今回の事件で謝らなくてはいけない事がたくさんある。
いつも、何かが事件や事故などが起きればその『責任の所在』を探してしまったり、あまつさえ『責任転嫁』までしてしまったりするのは、人間の悪いところなのかも知れない。
「はぁ、だってよ」
賢治の言い分も『一応』聞くつもりだったのだろう。ため息を小さくついた後、織田は車のドアを小さく小突いた。
「え?」
ドアの窓が開かれると、そこには夢莉の姿があった。
「賢治さん、私は迷惑なんてかけられた覚えはありませんよ?」
「…………」
「むしろ、お世話になりっぱなしで逆にお礼を言いたいくらいです」
「そんな事はありませんよ」
夢莉にも大変な思いをさせてしまった。怪我もさせてしまったし、最終的には賢治と関わってしまった事で『命』まで狙われたのだ。
そんな事をただ謝って済むなんて簡単な話ではない。ましてやお礼だなんて……。
「そんな事より」
「はい?」
話をしようと夢莉はゆっくりと車から降りた。
「父さんから今回の件について大まかに話は聞きました。あくまで『ゲーム』は彼らのコミュニケーションをとるための一つの手段だったという事も、彼らが元々は別の事件の『被害者』だったという事も」
「そうですか」
夢莉も今回の事件で様々な目に遭っている。
それに、夢莉がここに来た時点で『ひったくり』に遭っているのだから、もしかすると最初から夢莉の事は計画内に織り込まれていたのかも知れない。
「まぁ。なんだ、最近色々言われているけど、結局のところ『ゲーム』が悪いとか『パソコン』が悪いとか『道具』が悪いってそんな簡単な話じゃないって事だろ?」
「それは、そうだけど」
「ええ、あくまで『道具』として扱うのであれば、それらは『操作』している通りにしか動きませんからね。ただ使われている『道具』には何も罪はありませんよ」
問題があるとすれば、使っている『人間』の方にある。
結局のところ『知らない内に知り合いになっている』というだけあればいいが『自分のあずかり知らないところで勝手につながってしまうという事』もある。
悲しい事に、それが今の世の中なのだ。
「とても便利ですが、使い方を間違えればその間違いの通りにいつかは返ってきます。使い方は考えないといけませんね」
「まぁでも、その間違いに気が付いた時には大抵遅いんだけどな」
「ええ、それじゃあ本末転倒じゃん。ちゃんと考えて使えばいいでしょ」
夢莉はそう言っているが、頭で分かっていながらその通りに行動出来ない人は結構多い。
賢治に限らず、みんな感情的になってしまったり、知らない内に人を傷つけてしまったりしている事は少なからずある。
「それで、これからどうするんだ?」
「そうですね。とりあえず、まだ目の覚めない『彼』と一度話をしてみたいとは思います。拒否されてしまうかも知れませんが……」
「……」
彼は結局、自爆しようとする前に事件が起きた経緯の話を少しした程度でしかない。
彼にとってはあの時の会話で全て話したつもりかも知れないが、賢治はまだまだ会話が足りないと思っている。
「お店はどうされるのですか?」
「そうだよな、続けるのか?」
夢莉はやはり「このまま私が喫茶店を続けるのか」という事が気になるようだ。しかし、心配してもらって悪いがその『答え』はとっくに決まっている。
「当然、続けます。修繕には時間もお金もかかりますが、元々改装するつもりでしたので、その点は大丈夫だと思います」
「そうですか」
「それよりも、夢莉さんたちはどうされるのですか?」
「えと、とりあえず父さんの休みが取れ次第、母さんのもとに行こうと思います。そろそろ夏休みも終わりますし」
「あっ、会うんですね」
「ものっすごく……気まずいんだけどな」
「母さんもちゃんと分かった上で離婚したんだから、そこまで怒る事はないと思うけど」
夢莉はキョトンとした表情だったが、織田は「違う、そういう話じゃない」と頭を抱えていた。
でも、こんな会話が出来ているのだから、多分もう大丈夫だろう。
「あっ、これからもたまに頼んでいいか?」
「そんな『ものはついで』みたいに……」
「ええ、いいですよ。ですが、あくまで主は喫茶店ですので、そこは予めご了承くださいね」
そう言って賢治が笑うと、織田は「それはちゃんと分かっている」と少し不貞腐れていた。
「それにしても、久しぶりだなぁ。お母さんどんな顔するだろ」
「どうせ『おっさんになった』とか言ってくるんじゃないか?」
「織田さんはそんなに言うほどではないと思うのですが」
「違う、そうじゃない」
そう言って、織田が若干不貞腐れていたのは多分。賢治に対してではなく、夢莉の母親……つまり織田の元奥様に対してだろう。
「もう、腹括ってよ父さん」
「そうですよ、男に二言はないですよ?」
「はぁ、なんで二人そろってこういう時に限って息ピッタリなんだよ。他人事だと思って」
珍しくへこんでいる織田の表情に、賢治も夢莉も実は内心ちょっと面白がっていた。
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