核心


「入れ」


 ここの雰囲気は重く、そして何より暗い。


「…………」


 賢治が亡くなった妹と対面した『霊安室』も似たような印象があったが、あの時は『暗い』というよりも、どちらかというと『冷たい』という印象の方が強かった。


「…………」


 少年は捕まって、今までまともに眠れていない様だ。目の下にくっきりと刻まれた『クマ』の多さがそれをものがたっている。

 織田曰く「賢治さんと対峙した犯人が自爆して死のうとしていたって事をこいつは、何も知らなかったらしい」と言っていた。


 多分、少年は『その事実』が受け入れられないのだろう。


岡崎おかざきしょうくんですね? 初めまして、私は……」

「朝日奈賢治さん、ですよね?」

「おや、わざわざ自己紹介をする必要はないようですね」

「多少の事は、事前情報として教えてもらえましたから」


 なるほど、さすがにターゲットの話はしてあった様だ。しかし、その他については何も言っていなかったという事になる。


「そうですか、では今。あなたがそこまで悩んでいるのは『彼』が昔、自分の作った爆弾とほぼ同じ製法で作られた爆弾で自爆しようとしたという事ですか?」

「え。なぜ、それをあなたが? もしかして、あの時の警察の人が」

「いえ。私の方でも少し、あなたについて調べさせていただきました。五年前に起きた『爆弾事件』について」

「…………」


 ――五年前。


 この少年がまだ高校に通っていたころに『とある場所』で爆弾が爆発するという事件があった。

 当時、その場には授業中だったにも関わらず不良生徒が何名かおり、爆弾近くにいた三名は重傷を負い、少し離れていた二名は軽傷、不良生徒に注意しようと近づいてきていた何人かはギリギリのところで爆発には巻き込まれなかった。


「警察に通報したのは、偶然その爆発に巻き込まれなかった少年たちの内の一人と近所の住民だったと聞いています」

「…………」

「コレは、あなたが作った……いえ、あなたは『発火方法』を発見しただけでしたから、本来は作ってすらいませんね。でも、大きく関わっていたのは確かですか?」

「……はい。でも、まさか本当に『あれ』を使うなんて。しかも、それで爆弾を作ってあんな人が多いところに設置して、ましてや爆発させるなんて……思いもしなかった」


 いい発明、悪い発明の基準なんて発明した本人には分からない。


 本人にはそんな悪い使い方をしたつもりはなくても、どんな人がどう使うかによって、それがたとえ素晴らしいモノだとしても、残念ながらその結果は大きく変わってしまうモノなのだ。

 そして、この少年もその例に漏れる事はなく、その『方法』を悪い大人の一人によって悪用されてしまったのだろう。


「最初は、俺が関わっているなんて夢にも思わなかった。でも……」

「犯人。つまり、設置した人間が捕まったことであの発火方法を発明したのが君だと分かった」


 あの爆弾を作り、設置したのは少年が当時入部していた「部活の顧問」つまり、犯人は『教師』だった。


 犯行動機は『不良生徒たちの一掃』だった様だ。


「確かにあなたはただ『物質の発火方法』を立証した。しかし、その立証をしただけで爆弾の製造も、ましてや設置もしていなければ爆発のスイッチも押していない。それにあなたは今も未成年です」

「ああ。だから、俺は罪に問われることはなかった! でも、俺があんなモノを作ったせいで……!」


 少年は今にも卒倒しそうなくらい取り乱している。

 しかし、部活動で使っていたモノを使って『新たにその方法を見つけた』という点を見ると、少年は素晴らしい『才能』を持っている様だ。


「…………」


 ただ、どうしても話の元を正してしまうと、どうしても「この少年がそもそもこの方法を見つけなければ……」という結論に行きついてしまう。

 そんな、ただでさえ暗い過去を抱えているところに、今回の事件で頼りにしていた『大人』がまたも裏切りにも等しい事を起こした。


 ――今の少年の胸の内はさぞ複雑だろう。


「結局、あの一件はそれで幕引きになったけど、俺はその日以降、学校にも行かなくなった。いつ、誰がこの事に気が付くのか怖くなって」

「…………」


 確かに、少年の言っている事は分かる。


 ただでさえ、今は完全にプライバシーが守られているとは言い難い世の中だ。

 いくら用心していても、いつ漏れ出るか分かったモノじゃない。そんな中では人間不信になっても不思議ではない話だ。


「それで、引きこもりになった俺は、ある日暇つぶしで始めた『オンラインゲーム』の中で『あの人』と出会ったんです」

「…………」


 この言葉を聞いて賢治はようやく今回の事件の『核心』が見えてきた様に感じた――。


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