説明
「うっ、こっ、ここは……?」
「病院ですよ。賢治さん」
目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
「純さん。いっ!」
「まだ寝ていてください。手術は無事成功しましたが、麻酔が切れて日が浅いらしいですから」
「あれから、どれくらい経っていますか?」
「……大体、五日ぐらいですね」
「大体……とは? 随分大まかですね」
「今がちょうど日付が変わりそうなのでと言っておきますよ」
「え」
「……はい」
賢治のいる場所からではカーテンが締まっており窓の景色は見えないが、純の向けた視線の先にある時計は確かにもうすぐで日付が変わりそうだ。
「今日も夢莉さんと織田さんは仕事の空き時間などタイミングを見計らって何度かお見舞いに来ていたようです」
「あの、夢莉さんは」
「ご心配なく、ケガもなく無事です」
「それは、よかった。本当に……」
こちらにも「犯人逮捕」の報告は受けていたが「それでも、もしかしたら」という懸念もあった。
しかし、怪我もなく元気ならそれでいい。
「現在は一時的に織田さんの隣の部屋を借りているようです」
「そうですか」
「現状が現状ですので、仕方なくそういった措置を取らざる負えなかったようです」
「そうですね……。それで私は一体、どうしてこうなっているのでしょう?」
「そっ、それはですね」
「……??」
純の話によると、犯人の彼は賢治との事件に関する会話を一通り話を終えて、投降の姿勢を見せた。
しかし、それはフェイクで自身や私だけでなく逮捕のために入ってくる警察官もろとも巻き込んで自爆しようとしたらしい。
「なるほど、これで彼がなぜ『あれ』を持っていたのか納得が出来ました」
そう、あの時。彼が持っていたショルダーバッグがなぜか膨らんでいる様に見えたのは、中に爆弾が入っていたからだった。
しかし、いつもの彼であれば絶対に持たないであろう『ショルダーバッグ』に対し、賢治は確かに不自然さを覚えてはいた。
だが、その時に「他人の嗜好に対して私がどうこう言えたものじゃない」とその存在を無視したのがいけなかった。
「それで、彼は……」
「一命はとりとめたようです。まだ意識は戻っていませんが」
「そうですか」
「はい」
純曰く、賢治の「待て!」という言葉を聞いて一中に入るのを止めた。
そのため警察官の二、三名がガラスの破片でかすり傷を負った程度で済んだらしい。
「賢治さんが止めてくださらなければ、こちらにもっと被害が出たでしょう」
「そんな。私の方こそもっと爆弾の存在に早くに気が付けば、誰も怪我をせずに済んだのですが……」
彼が持ってきた『爆弾』はどうやら火薬の量が少なかったらしく、賢治と彼自身を吹き飛ばし、カウンターを破壊した。
しかし、爆風で外とドアのガラスが割れたりヒビが入った程度で済んだらしい。
そして、負傷した警察官は偶然運悪くその割れたガラスの近くにいた人たちだったようだ。
「しかし、犯人の所持していた『爆弾』を見た限りでは我々を巻き込むつもりはなかったとも取れる規模でした」
「彼の狙いは、あくまで『私』でしたからね。元々の計画の中に『警察』の文字はなかったのでしょう」
正直「計画が全て上手くいく」なんて事があるのは、ほとんどないだろう。それこそ失敗した時のために何パターンもシュミレーションするのが『普通』だと思う。
しかし、彼はなぜそれをせずにすぐに強硬したのだろうか……。
いや、もしかしたら色々とシュミレーションした上で、この『結果』が生まれたのかも知れない。
もしそうだとしたら、この結果こそが『彼らが望んだ事』なのだろうか……。
「……」
「……」
ただ、どちらにせよ『彼らは捕まった』その事実は揺らぐことはない。
「よぉー、入るぞ」
「あっ、織田さん」
「お疲れ様です」
賢治と純がそろってしばらく沈黙していると、夕食なのかコンビニ袋を手にかけた織田が現れた。
「……つーか」
辺りをキョロキョロと見渡し、織田はなぜか不思議そうに首を傾げている。
「何を二人でのんきに話してんだ?」
「え?」
「え?」
「目が覚めたんだろ? 呼ばなくていいのか? 医者」
「あっ」
「あっ」
織田に指摘されてようやく、話をする事に必死で肝心な事を忘れていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それにしても、起きるまで結構長かったな」
「すみません」
「仕方ありませんよ。爆発に巻き込まれてしまったのでしたから」
「いや、別に怒っているわけじゃなくてだな。むしろ、この睡眠はどちらかというと今までの疲れがそのまま出たって感じだろうからな。寝れるときに寝といて正解だろ」
「…………」
改まって言われてみると、確かに純が賢治の店を訪れて以降まともに眠れていなかった様に思う。
事件の法則性とか、犯人の動機などなど探るのに寝る暇なんてなかったのが正直なところだ。
「寝だめは出来ないと聞きましたが?」
「そうじゃなくても……ってヤツだろ、
「そうなんですか?」
「えっと、そう……ですかねぇ?」
それを指摘されると、上手く答えられない。いや、頭では「寝ないと」と思ってはいた。
決してそれに間違いはない。
しかし、いつも寝る事が出来ず、ふと気が付くといつもあっという間に時間が経って日が昇っているのだ。
「賢治さん……」
「誤魔化し方が下手すぎるぞ。もうちょっと上手くやれよ。だから夢莉に感づかれちまうんだろ」
「……すみません」
こればかりは謝るしかない。
それこそ今は何を言っても『言い訳』に聞こえてしまう。だったら何も言わず謝ってしまうのが一番いい。
「はぁ、とりあえず退院は検査結果次第ってことでいいんだよな? さっき医者が言っていた事を踏まえると」
「そうですね」
「……はい」
「そうか」
「? それがどうかされたのですか?」
織田の考え込むような表情ももちろんだが、現状ではなく、この後の予定。つまり「退院の時期に」ついて聞いてくるのは、正直意外だ。
賢治から見て『織田倫太郎』という人は目の前の事に必死になるあまり「後の事はどうにかなるだろう」くらい楽観的になってしまう……という考えの持ち主だと思っていた。
「いや」
「どうかされたのですか?」
「実は、俺が逮捕した少年が面談を希望していてよ」
「え……?」
「私に、ですか?」
これには一瞬、面食らったが言われてみるとその『少年』も今回の事件に大きく関わった人間の一人である。
「でも、なぜ賢治さんを?」
「俺が知るかよ。どうしてもって言って聞かないし、最初は協力的だと思っていたら、突然こう言いだしてな」
少年は「応じてくれないと詳しい事は話さない」とまで言っているらしい。
下手に『黙秘』しないのは、若さゆえか。ただの駄々っ子なだけなのか、それは分からないが、どうやら賢治が応じなければ話は進まない様だ。
「…………」
しかし、自爆しようとした『男性』が『事件の主犯』なので、もしかしたらずっと近くで指示を受けていたこの『少年』が賢治に興味を持っていてもおかしい話ではないと感じた。
「拒否も出来るが、どうする?」
「賢治さん、無理に話す必要はありませんよ?」
「……いえ、彼と……話をさせてください」
これによって「どうして少年がこの事件にかかわったのか、この事件の全貌が見えてくるのでは?」と感じていた。
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