原因


「最初に言っておきますが」

「分かっています。確証はない……ですね?」


 いつの間にここまで察しのいい人になったのだろうか。

 それだけ純も色々な経験を積んだのだろう。それこそ、賢治が自分の事だけに必死になって逃げている間に……。


「とりあえず今までの事件が関連しているとして、次に起きるとしたら木曜日。コレに間違いはないはずです」

「はい」

「そして、火曜日の時点で例の掲示板に事件をほのめかす様な記載はされていない」

「はい。ただ、今回の事を受けて、もしかすると犯人に感づかれた可能性があるのでは……という話も現状出ています」

「なるほど」


 確かに、今回は警察が張っていた中で起きた事件だ。その事を考えると、犯人に感づかれてもおかしい話ではない。


「その可能性は否定できませんね」

「ただ、張っていたにも関わらず一名の負傷者が出てしまったのは、完全にこちら側のミスです」


 そういう見方も出来るだろう。いや、大概の人はそう見てしまうかも知れない。


「いえ、あの負傷された方はただ業務をまっとうしていたに過ぎません。相手も警察官と分かっていて攻撃してきたようですし」


 あの時、負傷した警察官は路地裏にいた人に対して話を聞こうとしただけだ。

 むしろ「なぜこんな夜遅くに未成年の少年がそんなところにいるのか?」と疑問に思って話を聞こうとするのは、何も不思議な話ではない。


「犯人の少年は以前、深夜に出歩いていてちょうど巡回していた警察官に補導された経験がありました。それにより、親からの風当たりが強くなってしまったという事も供述しています」

「そうですか」


 この時、賢治は「なぜ一般人ではなく、わざわざリスクの高い警察官を狙ったのか」と疑問に思っていた。

 警察官が張っているという事は、ちょっと周辺を見渡せばすぐに気が付いたはずだ。

 それに確か、掲示板には『警察官』という指定など特には書かれていない。


 しかし、今の純の言葉でようやく理解が出来た。


 要するに、今回の事件は『警察官への逆恨み』が原因だったのだ。


「今回刺されたのがその補導をした警察官ではありませんでしたが、少年曰く『警察官であれば誰でもよかった』とも供述しているそうです」

「そうですか」

「それにしても、最初は『ひったくり』だったのはずの事件が、今では随分と大事おおごとに発展していっています」

「ええ、案の定エスカレートしているようですね。夢莉さんが襲われた一件も『傷害事件』でしたし」


 刺された警察官は無事ではあったものの、刺された部分や犯人の殺意や動機などを考えると、最終的に少年にどういった判決が出るか分かったものではない。

 しかし、ここ最近起きている二件の事件は、以前の事件から考えると明らかにエスカレートしている様に思う。


「それで、気になる事とはなんでしょう?」

「実は、ここに来る前に今までの事件の起こった住所を見直していたのですが」

「はい」

「どんどん、犯行の起きている現場が近づいて来ているんです」

「近づいて来ているとは?」

「……私の経営している『喫茶店』に」


 そう、今まで起きた事件の住所を地図に当てはめていくと、どんどん賢治が営業している『喫茶店』に近づいているのだ。


「そうですか」

「ええ」

「実は、こちらでも色々な視点で今回の事件を見たのですが、賢治さん」

「はい」

「今回の『主犯』の目的は……どうやらあなたに対する『復讐』の様なのです」

「……」


 突然告げられた『復讐』の二文字に、思わず純の顔を凝視してしまった。


「……さすがにそこまでは予測できませんでしたか」

「いえ、犯行現場の見直しでその可能性は考えていました。つまり夢莉さんは」

「はい。賢治さんの言うとおり『狙われた』という可能性があります」

「……そうですか」

「つまり、我々は夢莉さんの安全を確保しつつ、犯人逮捕しなければならない」

「しかし、私がいる喫茶店の場所に近づているという事は、つまり」

「はい。狙いが賢治さんという事は、あの喫茶店が確実に安全な場所とは言えないという事になります」


 そこで賢治は迷った。


 なぜなら、このまま何もしなければ、賢治はまた『過ち』を繰り返してしまう事になってしまうからだ。


「実は、私の方も犯人の目星はついています。ですので、早いところでケリをつけ様と思っています」

「そうですか。でしたらなおの事」

「ええ、分かっていますよ」

「…………」

「ケリを付けようと思うのなら、彼女は私の近くにはいない方がいいという事くらいは」


 賢治は小さくそう呟くと、そのままその場から離れた――。

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