転
曜日
『オンラインゲームのサイトが見つかりました』
そして、純が帰って三時間も経たない内にそんな連絡がきた。もちろん、賢治宛である。
「こんなに早く連絡がくるという事は、元々張っていた可能性がありますね」
「そうですね」
ただ、ネット上のオンラインゲームにしろ掲示板にしろ、その数は膨大だ。その中で該当の掲示板を探すのは容易ではないだろう。
「元々張っていたとしても、こんなに早いとは」
「それだけ警察としても早く解決したいのでしょう」
「はい。でも、サイトが見つかったからといって事件を阻止出来るワケじゃ……」
「ええ、まだ安心は出来ません」
そう言いながら賢治は、夢莉に画面を見せるように差し出す。
見ると、その画面にはサイトのアドレスが貼られている。多分、コレが
そして、コレを押せばそのサイトにアクセスする事が出来るという事らしい。
「一度、私たちの方でも見てみましょうか」
「え、いいんですか?」
「ええ、
「……なぜ?」
サイトまで教えたのであれば、その内容をもう少しくらい教えてくれてもよさそうなモノだ。
「なんでも情報漏洩をさせないための最低限の措置だそうです」
「そっ、そうですか」
ただ、この様に言われてしまうと、こちらも納得せざる負えない。
しかし、その言葉の裏には「自分たちで見ろ」と言っている様な気持ちにもなるが、警察という立場の純さんも色々と考えた末の妥協案だったのだろう。
「しかし」
「?」
「いえ、事件が起きている場所を推察するのは難しいのですが、なぜ犯人はここまで『曜日のみ』分かりやすくしているのかと思いまして」
「たっ、確かに」
説明されるまで何も分からなかった夢莉が言えた事ではないと思うが、こういった『事件』は『いつ』『どこで』起きるか分からないというのが普通だと思う。
しかし、今回の一連の事件が『全て繋がっていた』場合の事を考えると、なぜ犯人はここまで『いつ』が明確かつ分かりやすくなっているのだろうか。
「でも、その事に気が付いたのは賢治さんだけでしたし」
「あのタイミングではそうでしたね」
「だから、犯人もまさか分かるとは思っていなかったのではないでしょうか?」
「いえ、遅かれ早かれ気が付く人は出ていたでしょう」
「……………」
「そこで考えたのですが、一つ可能性として犯人の……つまり、グループの『上の人間』がその『曜日』を指定しているという事が考えられるのではないでしょうか」
賢治はそう言って『一つ』という意味で人差し指をたてた。
「でっ。でも、どうして『月曜日』と『木曜日』なのでしょうか?」
「え?」
「あっ、いえ。私はそういった『事件』にあまり関わった事がないのでお役に立てませんが、私が『犯人』で誰でもいいのであればと考えたら『平日』は避けるかなと思いまして」
あくまで素人考えだが、週初めの『月曜日』はともかく『木曜日』も含まれているのはというのはなかなか不自然に感じてならなかった。
「確かに、言われてみれば不自然と言いますか、そもそも一週間の間に『二回』行われている事自体不自然な話ではありますね」
「そうですよね」
「その事も含めて、このサイト内で何かしら有力な情報が見つかればいいのですが」
そればかりは賢治でも分からない。
「…………」
ただ何かしらの『情報』を求めて賢治と共に表示された画面をのぞき込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『どうやらサイトの存在に気が付いたようです』
――暗い路地の裏。
まだ日が昇ってそれほど経っていなければ、そこにたとえ人が立っていたとしても、よほど用心して見ていなければ気が付かないだろう。
そんな暗い場所で、さらに黒い服を着たその人は周辺を気にしながら『誰か』と連絡していた。
『そうか、ようやくか。他に報告はあるか?』
『いえ』
今回もたったそれだけのやり取りだった。だが実は、この人は『ワザと』この時に報告しなかったことがある。
それは「このサイトの存在に気が付いたのは、警察によってである」という事に関してである。
「まぁ、こんな事をわざわざ俺が言わなかったくらいで『何か』が劇的に変わるわけでもないだろうさ」
メールを削除した後、その人は吐き捨てるように小さくつぶやいた。
別にメールの送り主に対する嫌がらせで言わなかったという訳だけではない。ただ、ふと考えてみると「何がうれしくてこういう事をしているのだろうか」と思う事があるのだ。
未だに分からない事だらけなのにも関わらず、メールの送り主は何一つ教えてはくれない。
それでも、メールの送り主には何も知らないふりをして、ご機嫌を窺いつつ、実はこの人も独自に色々と調べていたのだ。
「……………」
そして、薄らぼんやりではあるが、大方このメールの送り主の『やりたい事』つまり『目的』が分かってきた。
「でも。この方法は、ただの朝日奈さんに対する八つ当たりだと思いますよ、俺は。どう考えても」
こんな事を直接送り主本人にそう言えたならどれだけ楽だろう……と思いつつ、そんな言えもしない愚痴を男性は空に向かって小さく呟いた。
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