事件


『今日。部活で遅くなる』


 ――その日の昼の時点で確かに妹からそう連絡は受けていた。


 しかし、そういう連絡を受けていたとしても「日付が変わるまで帰って来ないのはおかしい」とその時になって思った。


「遅い……」


 妹くらいの年頃の子であれば友人の家に泊まる事もたまにあるが、それならそれでいつも早い段階で連絡がある。

 ――それなのに、今日はその連絡もない。

 こちらから電話するべきだろうかとも思ったが、あまりにもしつこ過ぎると嫌われてしまうかもしれない。


「…………」


 母さんが先に亡くなり、父さんも後を追うように亡くなって以降、何とかお互い色々と協力しながらを生きてきた。


 中学時代はそれなりに『反抗期』というモノがあり、一時は兄妹の仲が悪くなった事もあった。

 でも、今はそんな事があったのが嘘だったかのように「高校を卒業したら私の仕事の手伝いをする」とまで言ってくれる健気な少女に育った。


 しかし、気持ちは嬉しいが賢治としては「もっと自分の好きな事をやってくれてもいいのに」という気持ちもあり、内心は結構複雑だ。


 そして、健気な少女も後二年も経たずに成人する。


 そんな健気妹に対し、兄である賢治がとやかく言っていいものなのだろうか。

 ――しかし「連絡がない」のはやはり心配だ。

 なんて自分の中で押し問答しながらオロオロと迷いながら「なんて情けない兄だろう」と思いつつ、深夜ニュースを見ていると『またも発生! 連続通り魔』という文字が見えた。


「まさか……いや、それはないはず」


 しかし、ここ最近の世間は何かと物騒になっている。


 それを思うと「やはり心配だ」と思った賢治は連絡しようと携帯を持った瞬間。その携帯が突然鳴り響いた。


「ん?」


 ――画面は警察からだった。


「なんで、こんな時に?」


 ふと「何か事件がらみだろうか」とも思ったのだが、いつもであればこんな時間に連絡はしてこない。

 不審に思いつつ電話を取ると……相手は『刑事』だった。


 最初の頃こそ『探偵』の仕事が上手くいかなかったが、今ではこうして警察から仕事の依頼が入る事もある。

 ただ、それは本当にまれなケースだ。

 それに、電話がかかってきている相手も何度か一緒に仕事をした事がある『刑事』からだった。


「……はい」

「妹さんが、意識不明の重体らしい。今から言う病院に向かってくれ」


 いつもと同じように電話に出た……つもりだった。


 そして、その相手の刑事さんも賢治に気を遣ってくれたのか、いつもと同じような口調だった。


「え」


 だが、告げられた言葉に賢治は耳を疑い、その場で固まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る