関連


「??」


 しかし、目を閉じていつまで経っても『何かが』突き刺さるような痛みがない。それどころか何かが触れる気配すらない。

 さすがにおかしいと思った夢莉はおそるおそる目を開くと――。


「えっ? けっ、賢治さん?」


 目の前にはフードを被り刃物を持っていたはずの人が、賢治の手によって押さえつけられていた。


「ぐっ。くっ、くそ……」


 押し倒された衝撃でフードから金髪いや、根元は茶髪でサラッとした短めの髪型が見える。

 しかも、まだ抵抗を止めないのか賢治の押さえつけている膝をどうにかしてどかそうと必死に体を動かしている。


「……めなさい。私は、折りたくはありません」

「……! ッチ!」


 夢莉からは賢治の「折りたくない」という声しか聞こえなかった。

 でも、犯人は賢治の言葉を聞くと、すぐに何かに怯えたような表情になり、舌打ちと共に観念したように全身の力を抜いた。

 そして夢莉はふと地面の方に視線を移すと、そこには血のついた『バタフライナイフ』と呼ばれる刃物が落ちている。


「夢莉さん、申し訳ありません」


 夢莉は賢治の謝罪と差し出されたハンカチをありがたく受け取りつつ、傷ついた腕に巻きつけながら「いえ、大丈夫です」とつぶやいた。


「どっ、どうかされましたか!?」


 突然の逮捕劇に野次馬が集まり、その騒ぎを聞きつけ店員がやってきた。


「すみませんが、救急車と警察をお願いします」

「わっ、分かりました」


 そして、賢治はその後も店員に的確な指示を出し、夢莉は怪我の治療のために病院に行く事になった……けれど、夢理はなぜか救急車に乗せられた。


「……」

 夢莉としては「いや、別に腕の切り傷ならここまでしなくても」と思った。

 でも、断るわけにもいかず、そのまま大人しくその救急車に乗り、治療を受け、今に至っている。


「ちょっとしたかすり傷で救急車まで呼ばなくてもよかったのですけど……」

「もしものためですよ」


 賢治の言っている「もしも」とは、一体何を指しているのかいささか疑問だったけれど、すぐに治療出来たのはよかった。


 ――かなり目立ったけど。


「やはり、ここ最近多発している事件は、何か関連があるのでしょうか」

「それは、分かりません。ただ今までここまで事件が多発するのは珍しいのは確かです。しかも今回は『盗み』は起きていないところも含めて考えると……」

「ゲリラ的。つまり、私が狙われたのは偶然で、本当は誰でもよかったという事ですか?」

「それこそ『なぜあんな場所で』という話になってしまいますが」


 夢莉もこの土地に来て日が浅い。でも、夢莉よりも確実に長く住んでいる賢治が言うのであれば間違いないのだろう。


「それに、果たしてこれらの事件ををただの『偶然』と取っていいのかは判断するのは早計そうけい。故に、まだ判断出来かねます」

「つまり、今までの事件はこの間捕まえた『ひったくり犯』のいた『犯罪グループ』が関係していると?」


 今回捕まった通り魔や夢莉のカバンを奪い未だに捕まっていないひったくり犯だけでなく、夢莉と賢治が出会うきっかけになったひったくりも果たして本当に『偶然』起きたモノだろうか。


「ただの愉快犯の集まりにしては、計画的な部分も感じます」

「……」


 ――正直、謎だ。


 でも、何かしらの理由があるのなら、なぜこういった『事件』を起こしているのだろうか。

 それこそあまり考えたくないけど、もっと『違った事件』が多発していてもおかしくない。


「もしや……」

「賢治さん? どうかされましたか?」


 夢莉が声をかけ、賢治はすぐにハッと我に返った。


「いえ、これ以上は警察の方にお任せしましょう」

「……? はい」


 一体。この時、賢治は何を言おうとしたのだろうか……分からない。でも、言う事を止めた賢治の右手は固く握りしめられていた。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「やはり、彼らが起こす程度ではあの方は揺らぎすらしないようです」

「そうか。彼女を狙えば何かしら動きを見せると思ったんだが、なかなか頑固で強情ごうじょうなようだな」

「どうされますか? さらに仕掛けますか?」

「いや、放っておけ」

「よろしいのですか?」

「ああ。私たちが動かずとも、向こうが勝手に動いてくれるだろうからな」


 それだけ言うと『電話の主』は、いつもの様に一方的に電話を切った。


「……」


 この態度をされるたびに今すぐ電話を叩きつけたいところだけど、それをしたところで最終的に困るのは自分だ。

 それが分かりきっているからこそ、この怒りをぶつける相手も鎮める方法が分からない。


「はぁ、何しているんだろうな。俺……」


 それが分かっているからなのか、その人は力なく、小さくため息をついてただただ空を見上げていたのだった。


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