収束
「えっ? えっ?」
現状が理解出来ない夢莉は、思わず犯人とその男性を交互に見比べた。
「うー」
しかも犯人はよほど痛かったらしく、足をおさえながら痛さを堪えているのか、地面に伏せている。
「すっ、すみません! あの、警察ですが」
「あ……」
「あの。これは一体どういう状況でしょうか?」
「あー、えっと」
ここでようやく警察の人が現れた。
「痛ぇよぉ」
「…………」
犯人はそう言って最終的には涙を流し、暖簾を持った男性はその様子を無言のまま見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後すぐに状況説明が行われ、最初に夢莉が被害者の女性に会った状況を説明した。
「――それで、あなたはその自転車を追いかけた」
「はい」
「そして追いかけてこの角を曲がった瞬間に犯人の叫び声が聞こえた」
「はい。途中で体力が尽きてしまって……」
「なるほど」
警察官はそこで話を一旦区切り、男性の方へと視線を向ける。
「それであなたは?」
「わっ、私も先ほどこちらの女性からその話を聞きまして……」
男性もどうやら私の後に女性から事情を聞き、その際にひったくりをした自転車を追いかけていったのが『女性』だったという事を知った。
「さすがに危ないと感じまして……」
そして、男性は先回りをし、ここで待ち伏せをした上で、曲がり角を曲がってきた犯人の弁慶の泣き所を思いっきり叩いた……という事だったらしい。
「はぁ、なるほど。分かりました。ちなみにお名前は?」
「私は『
男性はそう警察官と話をしている。
「……」
そんな中、警察官から受け取ったカバンの中を確認していた女性は、申し訳なさそうに夢莉に頭を下げた。
「すっ、すみませんでした。あの、カバン。ありがとうございます」
「いえ、中身も……少しグチャッとなってしまいましたが大丈夫だと思います」
「はい、カバンの中身も無事です」
「それはよかった」
「本当に、ありがとうございました!」
「いえいえ……」
「あの、少しよろしいでしょうか」
一通り話が終わったのか、様子を窺う様な感じで警察官は夢莉と女性に話しかけた。
「はい」
その人曰く「本来ならもっと詳しく事情聴取をする」らしいのだけど、今日は時間が遅いこともあり、明日になると言われた。
「そうですか」
その言葉に、夢莉はホッと胸をなで下ろした。さすがに一日に二回も警察には行きたくない。
女性は「ありがとうございました」としきりにお礼を言ってそのまま帰り、警察官も帰っていった。
しかし、金なし宿なしの現状は何一つ変わっていない。
だけど「ひったくりからカバンを取り返すことが出来た」というだけでも嬉しい……。
「はぁ……あっ」
「ん?」
ちょっとした安心感で気が抜けてしまい、男性が近くにいるにも関わらずお腹が鳴ってしまった。
「……お腹が空いているのですか?」
「あっ、えっと」
思わず赤面していると、先ほど『朝日奈賢治』と名乗った男性はフッ……と小さく笑うと「もしよろしければ、私のお店に来ますか?」と言って夢莉を優しく誘った。
「え、でも……」
「私、こう見えても喫茶店のマスターですので」
そう言って賢治は穏やかな笑顔を見せたのだった。
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